続・姫待ち。魔王を倒したチート魔術師は、放っておかれたい

在江

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13 路地裏の戦い

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 「お前が、この道を通ることは、予測済みだあ。もう、逃げられないぞ」

 ウェズリーは、最初から抜き身の剣を構えていた。握り具合からして、ジョアナの証言通り、左右で十指揃っているようだった。

 「新しい手が使えるようになって、良かったな。遠慮なく叩きのめせる」

 アデラが剣を抜く。と同時に動いた。

 ガキン! ぶつかった剣から火花が散る。

 パッと同時に離れた二人が、またぶつかる。

 ガキッ、ガガッ!

 「意外と、やるな。褒めてやろう」

 「へっ。現役でこの程度か。王都騎士団のレベルが知れるわ」

 アデラは挑発に乗らず、口を引き結んで剣を振るう。

 現役と言っても彼女は団長で、あの仕事量である。平団員よりも、鍛錬に割ける時間は少ない。
 これで、団全体のレベルを測られては不本意だ、と言い返すのもしゃくである。

 ウェズリーが騎士団長だったのは、もう十年以上前のことだ。その後の用心棒生活で、剣技を磨く機会が、そうそうあったとも思えない。

 アデラの感想は、俺のそれと同じであった。ウェズリーは、意外と強い。
 彼は姿を消していた間、命をやり取りするような、厳しい世界に身を置いていたのではないか。
 戦う姿を見ると、そんな風に思えたりもした。

 路地裏に人通りはなく、数少ない窓から顔を出す者も、大通りから野次馬に駆けつける者もいない。
 剣のぶつかり合う音、二人の呼吸、足運びが聞こえるだけである。

 俺は、彼らの戦いを見守る形で、その場にいた。

 騎士道をわかっていない、とアデラは評したが、ウェズリーも一度は騎士だった。
 今のところ、二人の戦いは騎士対騎士のそれである。
 手出しは無用の様相だ。

 うっかり殺しても、まずい。今回の件で、ウェズリーは貴重な証人でもあるのだ。
 それに、一見同等に戦っているようでいて、やはりアデラの方が一枚上手であった。

 少しずつ、ウェズリーが押されていくのが見えていた。
 当人が気付く頃には、もう挽回ばんかいできないほど、追い詰められていた。

 「くっそう。女と思って手加減してやれば、調子に乗りやがって」

 負け惜しみとしか思えない、強気な言葉を吐き捨てると、ウェズリーは剣から利き手を離し、片手持ちに切り替えた。

 「何だ?」

 騎士のセオリーから外れた動きに、覚えずアデラの動きが止まる。
 俺の頭に浮かんだのは、ゴールト元辺境騎士団長は、魔法を使っていただろうか、という疑問だった。

 「行けえーっ!」

 剣を離した手から、複数のロープが飛び出したかと思うと、生き物のようにアデラへ絡みついた。

 「うあっ」

 アデラが剣を取り落とす。締め付けられたおっぱいが、絞り出されたみたいに盛り上がり、いつも以上に大きく見えた。こんな時だが、妙にエロい。
 というのも、飛び出したのはロープではなく、蛇だった。

 「へびっ?」

 呆気に取られる俺の前で、鱗のテラテラに縛られたアデラが、しゅるるっとウェズリーに引き寄せられる。
 その起点は確かに手だったと思うが、暗がりとはいえ、そんな大物を隠していたようには、見えない。
 大体、蛇の頭が多すぎる。

 「アデラ~。強い女は、好きだぞ。俺の下につくなら、許してやろう」

 「くっ。誰が」

 もがくほどに、おっぱいがますます前へ突き出る。つい凝視してしまう俺の頭には、忘れていた知識が湧き出していた。

 ヒュドラ、闇魔法。

 ウェズリーの剣が、微かな光を俺の目に届け、我に返らせた。言葉と裏腹に、彼はアデラへ剣を突き立てようとしていた。
 もう、躊躇ためらう理由はなかった。

 「? ぐわああっ!」

 握りしめた剣が、ひじから先の、腕ごと落ちた。もちろん、俺が魔法で切断したのだ。
 巻き付いていた蛇が、一斉に緩んでアデラを解放した。反動でよろけた彼女は、その勢いを借りて剣に飛びつき、握り直した。

 「お、お前か? まさか、前の時も‥‥」

 蛇を人の手に戻し、落ちた腕を拾ってくっつけようとするウェズリーは、俺を見覚えていた。
 辺境騎士団長時代に会った時のイメージが、強過ぎたのだろうか。あの時は、俺はあくまで平凡な一般人として振る舞っていた。

 もしや、その後王宮で会った時も、英雄ザカリーではなく、一般人のザックと思い込んでいたのか。ザックもアデラの友人にはなっているのだが。
 パーティへ潜り込むため、彼が式典や行進を見なかったことは、考えられた。

 それにしたって、随分ずいぶんと舐められたものである。

 俺は黙って、反対側の手首を切り落とした。落ちた腕を握る指が、たちまち蛇に変じるのを、炎で包む。

 「あっ、馬鹿っ。そんなことをしたら、再生できない」

 抗議する間に、蛇の黒焼となった。しまった。証拠が残らないかも。
 両手を失い、へなへなと座り込むウェズリーの風圧で、蛇の手は、ぼろっと崩れた。

 「大人しくするなら、止血をしよう」

 大人しくしないなら、気絶させて手当をするつもりだった。
 ウェズリーは、こくこく、と頭を上下した。その前には、剣を突きつけたアデラがいた。もう、おっぱいは目立たない。
 彼女は、着痩せするタイプなのだ。


 ウェズリーの手当をして、一応縄でも縛り、燃えかすとなった多頭蛇と落ちた腕を持って、俺たちは騎士団本部へ戻ることになった。

 「団長?」

 予期せぬトップの視察に、夜勤の団員たちが、軽く浮き足立つ。
 しかも、連行したのが、元貴族で元辺境騎士団長である。十年以上前の話でも、ウェズリー=元ゴールトの名は、騎士の間で知られていた。それも、好意的な方向で。

 ハーレムも密輸も、無関係の若人わこうどからは、過ぎ去りし良き時代の思い出として伝わっているようだった。
 人には色々な見方があるものである。


 俺とアデラは調書を取られ、ウェズリーには医者が呼ばれた。
 事情聴取を終えて部屋を出ると、アデラがいた。

 「面倒事に巻き込んで、悪かった」

 「構わない。もともと、調べていた件だったし」

 それに、アデラは俺をおとりにする、と宣言したではないか。指摘すると、彼女は思い出したような顔になった。

 「ウェズリーが釣れるとは、思わなかった。別件なんだ。でも、まあ、繋がっているんだろうな。ザカリーは、帰るだろう? 馬車を呼んだから、乗ってくれ」

 「アデラは?」

 「ここに泊まる。ウェズリーは明日改めて診察して、入院の可否を決める。例の件の聴取がまだ出来ていないんだが、医師からストップがかかってしまって。お前も、立ち会いたいだろう?」

 「そうだな」

 俺も泊まり込めれば良いのだが、団員ではない。それに、ゾーイも気に掛かる。ついでに『別件』も。

 「ここへ来れば、立ち会えるように話をつけておく。ほら、馬車だ。行き先は自分で言え」

 「ありがとう」

 仕事で残るアデラに若干の後ろめたさを感じつつ、ありがたく馬車に乗り込んだ。
 一応警戒して、借りた部屋の前にはつけず、手前の広場を指定して降りた。

 もう、夜明けに近い時刻であった。
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