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6 元恋人と現夫
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夕食に、アデラは王都騎士団長の制服で現れた。王宮の晩餐に呼ばれたのだ。
堂々とした佇まいで、思わず見惚れてしまった。
魔王を倒した仲間のうち、彼女とだけは年に一度の割合で会っていた。
休暇中、勝手に押しかけてくるのだ。その際は、目立たない私服姿である。ヤルことはいつも同じ。
ゾーイも慣れる訳である。
服の下の、引き締まった裸体をつい思い出してしまい、目を逸らした。
うっかり姫と目が合ってしまい、急いで視線を外す。こちらは熟した女の体である。どちらも魅力的だが、女王を抱くなど、考えるだに不敬である。
食卓には、姫、アキ、アデラ、俺の四人だけが着いた。王子と王女の姿はなく、大人だけ、ごく内輪の会である。
と言っても、そこは王家。それぞれには給仕がついた。
「魔術棟はどうであった?」
姫の話し方も、女王のままだ。給仕の耳を気にしている。
「個室が確保されているのは、素晴らしいと思います。案内してくださったマクスウェル=シルヴァン様の優秀さにも驚きました。ヘンレッティ卿は、人を見る目がおありなのですね」
俺も、他人行儀な答えを返す。
「辺境には変わりないか。アデラ団長は、時折そちらへ出かけているようだが」
アキが、誰にともなく尋ねる。どきりとする。彼はどこまで知っているのか。そして、姫は?
「ノードリー団長は、上手くやっている。あそこには、優秀な副団長がいて、住民との協力関係も緊密だ。懐かしいこともあるが、身分を盾にせずとも安心して過ごせるから、休暇で出かけるのだ」
アデラもまた、団長らしい言い回しで答えた。俺とのことは、堂々と言えない仲なのだな、と思うと、穏やかでない気持ちになる。
姫の前で暴露されるのを恐れていたのに、勝手な心だ。王宮の方では、とうに、調べはついているかもしれないが。
「そう言えば、ザカリー殿。調べ物の件は承知した。見つけたら、知らせる」
アデラが急に話を振ってきた。ピンと来た。ゾーイの見守りを引き受けた、という意味だろう。
「ありがたい。そちらも多忙の身でしょう。ご都合のつく範囲で結構です。私の方からも、帰りにそちらへ立ち寄ってみます」
「何の話だ?」
姫に突っ込まれた。
「旅の途中で、変わった物を拾いました。今回王都へ来るに当たり、団長に調査と保護をお願いしたのです」
嘘は言っていない。
「ヘンレッティ卿に、調べて貰えば良いじゃないか」
アキは、魔術に関係する鉱石か何かと思ったらしい。
「いいえ。得体の知れない物を、王宮へ持ち込む訳にはいきません。例えば今いる場所のように、行動や居場所を私の意思で決められない環境では、女王陛下と王配殿下の安全を保証致しかねます」
冷たい言い方になってしまった。さすがのアキも鼻白む。姫は無言で食事を再開した。
せっかくのご馳走も、味がよくわからなくなった。
アデラと目が合う。
馬鹿だなあ、と呆れた顔だった。
彼女はゾーイを性奴隷と信じている。
姫に遠慮せず、連れ込めば良い、とでも思っているのだろう。
性奴隷なら、わざわざアデラに見守りを頼まない。何と言われようと、元魔王を王宮に入れる気はない。しかも、敷地内にコンクエスト卿がいて、俺は彼の居場所すら知らない。
つくづく、厄介なものを拾ってしまった。
アデラが食卓で危険を冒してまで、俺にゾーイの話をしたのは、食後すぐに退出するからだった。
立ち話をする余裕もなかった。王都の騎士団長ともなると、本当に忙しいようだ。
俺の方は、最初の部屋へと真っ直ぐ案内された。バスタブに湯が張ってあり、湯浴み係が待機していた。
「自分でする。手伝いは不要だ」
「左様でございますか。それでは、終わりましたらお呼びください。タオルなどを引き取ります。また、衣類の洗濯も、ご一緒にお引き受けします。ザカリー様のご要望に応じ、最短で明朝食前には仕上げます」
「わかった。洗濯については、入浴後に指示する」
何でもない顔で応じたが、内心では王宮のサービスに感心しきりだった。
前回宿泊した時には、洗濯サービスはなかった気がする。来客数の違いだろうか。
感心はしたものの、俺は自力で服を洗える。タオルだけ片付けて貰えば、後は寛ぐだけだ。
ベッドへ仰向けに転がる。寝心地の良さは、俺の家と良い勝負だ。王宮との違いは、見た目の豪華さである。
布の色艶や刺繍などの飾りは、こちらの方が断然上だ。それらは、眠ってしまえば、なくても一緒である。
気がついたら、うとうとしていた。遠慮がちなノックが、いつから始まったか、はっきりとはわからない。
扉の向こうには、酒瓶を持ったアキがいた。
「だろうと思った」
新築の魔術棟を見せびらかすために呼ばれた、とは思っていなかった。姫の姿がないのは、意外だったが、それにも理由があるのだろう。
「一人で来て、済まん」
アキが、俺の心を読んだような詫びを入れる。俺たちの過去の関係を知っているからだが、現在の王配は彼である。遠慮する理由はないのだ。
「構わない。入るか?」
「ああ」
部屋に備え付けの栓抜きとグラスを出して、テーブルに置く。慣れた手つきで開封するアキの前から、俺のグラスを遠ざけた。
「おっと。こぼすところだった。飲まないのか? 出来の良い物を持ってきたんだぞ」
「話が先だ。それより、ここは大丈夫なのか?」
盗聴や覗きの危険を確認すると、勇者が笑う。
「そこは、ザカリー殿に任せるつもりだった」
呑気な男である。こういう鷹揚な部分は、女王として気を張る姫の救いになるかもしれない。俺の胸が少し痛む。
「仕掛けがないことは確認済みだが、防御はしていないぞ。下手に魔法を使うと、王宮の警備に引っ掛かるかもしれないからな」
「そこまで緊密な警備は敷けないよ。ザックじゃあるまいし」
アキは残ったグラスに酒を注ぎ、一気に半分ばかり飲み干した。ふっ、と肩の力が抜けたように見えた。
「美味い。じゃあ、話そうか」
何かと思えば、美容術の話だった。
「ザックは初めて会った時から、全然変わらないよな。どうやって、若さを保っているの?」
「どうやって、と言われても‥‥大したことはしていない。体質かも。エルフに育てられたし。アキだって、あんな大きい子の父親には見えない」
技術や体力が衰えないように、日頃から工夫はしているが、若見え目的ではない。アキの質問は、見栄えの維持を指すように思われた。
「うーん。僕の場合は、元の世界と時間の流れ方が違うせいかな、と仮説を立てているのだけれど、証明はできないんだな」
異世界から召喚された勇者は、困ったように笑い、グラスを干した。
「アデラも現役で体を使うから、年齢の割には若く見えるだろ? マデリーン、姫だけ順当に歳を重ねているように見えるのを、本人が気にしていて。十分魅力的だと思うのだけれど。ザックもそう思うだろう?」
「えっ、いや、うん、まあ」
もちろん、姫は綺麗である。しかし、女王の肉体的魅力を、それも夫に向かって語ることは躊躇われた。
王配のアキが、姫を普段は名前で呼んでいるらしいことも、俺の心に澱みを作る。夫婦仲が良いことは喜ぶべきなのに。
「ところで、近頃王都で密かに話題の美容術があって」
効果は抜群で、劇的に若返る。但し紹介制で、場所などの秘密を守ることが条件、と聞いて、俺の記憶が刺激された。
辺境にある娼館のマダムが、同じような話をしていた。彼女、の顔は、確かに若返っていた。
「陛下が興味を示されたなら、試してもいいんじゃないか。紹介者なら、何とかなるだろうに」
「姫でいいよ。そう言う話ではない」
問題は、施術方法が脱法的なのではないか、ということ。加えて、
「裏で糸を引く者が、敵対勢力かもしれないことだ」
アキは二杯目を飲み干し、すぐにグラスを満たす。
「キューネルン王国?」
国境を接する強国である。前国王夫妻の王女が、第二王子妃として嫁いでいる。
王は健在で、第一王子の後継も揺るがない。第二王子が、妻の正統性を頼みにして、アリストファム王国を乗っ取ろうと工作することは、考えられなくもない。
「とも限らない。混乱を引き起こすにしては動きが緩慢で、単なる犯罪者集団か、せいぜい新たな資金稼ぎの可能性もある。となると、ミラベル元妃に贔屓された貴族や、コンクエスト卿の弟子の方を調べた方が早い。そっちの方は、アデラに調べてもらっている」
なるほどアデラも忙しい。そんな時にゾーイの相手を頼んでしまって、申し訳ない。だが、こんな時だからこそ、彼女の安全も疎かにできないのだ。
「それなら、俺を呼んだ理由は?」
「さっき、美容術が脱法的だと言ったろう? 体験者を見るに、現在知られる範囲の医術、薬学、魔術を以てしても、到達し得ない効果を出している。違法とまでは言えないが、人に知られてはまずい方法を使っているのではないか、その辺りを確かめたい」
俺の問いに対するアキの説明は、曖昧である。何か仮説、あるいは情報を持っているが、口に出したくないようだ。
「違法でないなら、どうしようもないだろう。して欲しくなければ、新たに法律を作って縛るしかない」
やっぱり、姫に施術を受けさせたいのではないか。アキが望まなくても、姫が受けたがれば、動かざるを得ない。政治的にも医療的にも安全だ、という確信が欲しいところである。
「まあ、アキの頼みだ。できるだけ調べては、みる」
「ありがとう。非常に助かる」
アキは残りの酒を飲み干した。結局持参した酒を、一人でひと瓶空けてしまった。俺が飲む気配を見せないから致し方なく、ということにしておく。
「まず、その術の体験者と、コンクエスト卿に会わせてくれ」
「コンクエスト卿に?」
一旦緩んだアキの顔が、曇った。
「ザックは無理だと思うよ。彼の入った牢は、魔力の出入りが出来ない仕組みとなっている」
堂々とした佇まいで、思わず見惚れてしまった。
魔王を倒した仲間のうち、彼女とだけは年に一度の割合で会っていた。
休暇中、勝手に押しかけてくるのだ。その際は、目立たない私服姿である。ヤルことはいつも同じ。
ゾーイも慣れる訳である。
服の下の、引き締まった裸体をつい思い出してしまい、目を逸らした。
うっかり姫と目が合ってしまい、急いで視線を外す。こちらは熟した女の体である。どちらも魅力的だが、女王を抱くなど、考えるだに不敬である。
食卓には、姫、アキ、アデラ、俺の四人だけが着いた。王子と王女の姿はなく、大人だけ、ごく内輪の会である。
と言っても、そこは王家。それぞれには給仕がついた。
「魔術棟はどうであった?」
姫の話し方も、女王のままだ。給仕の耳を気にしている。
「個室が確保されているのは、素晴らしいと思います。案内してくださったマクスウェル=シルヴァン様の優秀さにも驚きました。ヘンレッティ卿は、人を見る目がおありなのですね」
俺も、他人行儀な答えを返す。
「辺境には変わりないか。アデラ団長は、時折そちらへ出かけているようだが」
アキが、誰にともなく尋ねる。どきりとする。彼はどこまで知っているのか。そして、姫は?
「ノードリー団長は、上手くやっている。あそこには、優秀な副団長がいて、住民との協力関係も緊密だ。懐かしいこともあるが、身分を盾にせずとも安心して過ごせるから、休暇で出かけるのだ」
アデラもまた、団長らしい言い回しで答えた。俺とのことは、堂々と言えない仲なのだな、と思うと、穏やかでない気持ちになる。
姫の前で暴露されるのを恐れていたのに、勝手な心だ。王宮の方では、とうに、調べはついているかもしれないが。
「そう言えば、ザカリー殿。調べ物の件は承知した。見つけたら、知らせる」
アデラが急に話を振ってきた。ピンと来た。ゾーイの見守りを引き受けた、という意味だろう。
「ありがたい。そちらも多忙の身でしょう。ご都合のつく範囲で結構です。私の方からも、帰りにそちらへ立ち寄ってみます」
「何の話だ?」
姫に突っ込まれた。
「旅の途中で、変わった物を拾いました。今回王都へ来るに当たり、団長に調査と保護をお願いしたのです」
嘘は言っていない。
「ヘンレッティ卿に、調べて貰えば良いじゃないか」
アキは、魔術に関係する鉱石か何かと思ったらしい。
「いいえ。得体の知れない物を、王宮へ持ち込む訳にはいきません。例えば今いる場所のように、行動や居場所を私の意思で決められない環境では、女王陛下と王配殿下の安全を保証致しかねます」
冷たい言い方になってしまった。さすがのアキも鼻白む。姫は無言で食事を再開した。
せっかくのご馳走も、味がよくわからなくなった。
アデラと目が合う。
馬鹿だなあ、と呆れた顔だった。
彼女はゾーイを性奴隷と信じている。
姫に遠慮せず、連れ込めば良い、とでも思っているのだろう。
性奴隷なら、わざわざアデラに見守りを頼まない。何と言われようと、元魔王を王宮に入れる気はない。しかも、敷地内にコンクエスト卿がいて、俺は彼の居場所すら知らない。
つくづく、厄介なものを拾ってしまった。
アデラが食卓で危険を冒してまで、俺にゾーイの話をしたのは、食後すぐに退出するからだった。
立ち話をする余裕もなかった。王都の騎士団長ともなると、本当に忙しいようだ。
俺の方は、最初の部屋へと真っ直ぐ案内された。バスタブに湯が張ってあり、湯浴み係が待機していた。
「自分でする。手伝いは不要だ」
「左様でございますか。それでは、終わりましたらお呼びください。タオルなどを引き取ります。また、衣類の洗濯も、ご一緒にお引き受けします。ザカリー様のご要望に応じ、最短で明朝食前には仕上げます」
「わかった。洗濯については、入浴後に指示する」
何でもない顔で応じたが、内心では王宮のサービスに感心しきりだった。
前回宿泊した時には、洗濯サービスはなかった気がする。来客数の違いだろうか。
感心はしたものの、俺は自力で服を洗える。タオルだけ片付けて貰えば、後は寛ぐだけだ。
ベッドへ仰向けに転がる。寝心地の良さは、俺の家と良い勝負だ。王宮との違いは、見た目の豪華さである。
布の色艶や刺繍などの飾りは、こちらの方が断然上だ。それらは、眠ってしまえば、なくても一緒である。
気がついたら、うとうとしていた。遠慮がちなノックが、いつから始まったか、はっきりとはわからない。
扉の向こうには、酒瓶を持ったアキがいた。
「だろうと思った」
新築の魔術棟を見せびらかすために呼ばれた、とは思っていなかった。姫の姿がないのは、意外だったが、それにも理由があるのだろう。
「一人で来て、済まん」
アキが、俺の心を読んだような詫びを入れる。俺たちの過去の関係を知っているからだが、現在の王配は彼である。遠慮する理由はないのだ。
「構わない。入るか?」
「ああ」
部屋に備え付けの栓抜きとグラスを出して、テーブルに置く。慣れた手つきで開封するアキの前から、俺のグラスを遠ざけた。
「おっと。こぼすところだった。飲まないのか? 出来の良い物を持ってきたんだぞ」
「話が先だ。それより、ここは大丈夫なのか?」
盗聴や覗きの危険を確認すると、勇者が笑う。
「そこは、ザカリー殿に任せるつもりだった」
呑気な男である。こういう鷹揚な部分は、女王として気を張る姫の救いになるかもしれない。俺の胸が少し痛む。
「仕掛けがないことは確認済みだが、防御はしていないぞ。下手に魔法を使うと、王宮の警備に引っ掛かるかもしれないからな」
「そこまで緊密な警備は敷けないよ。ザックじゃあるまいし」
アキは残ったグラスに酒を注ぎ、一気に半分ばかり飲み干した。ふっ、と肩の力が抜けたように見えた。
「美味い。じゃあ、話そうか」
何かと思えば、美容術の話だった。
「ザックは初めて会った時から、全然変わらないよな。どうやって、若さを保っているの?」
「どうやって、と言われても‥‥大したことはしていない。体質かも。エルフに育てられたし。アキだって、あんな大きい子の父親には見えない」
技術や体力が衰えないように、日頃から工夫はしているが、若見え目的ではない。アキの質問は、見栄えの維持を指すように思われた。
「うーん。僕の場合は、元の世界と時間の流れ方が違うせいかな、と仮説を立てているのだけれど、証明はできないんだな」
異世界から召喚された勇者は、困ったように笑い、グラスを干した。
「アデラも現役で体を使うから、年齢の割には若く見えるだろ? マデリーン、姫だけ順当に歳を重ねているように見えるのを、本人が気にしていて。十分魅力的だと思うのだけれど。ザックもそう思うだろう?」
「えっ、いや、うん、まあ」
もちろん、姫は綺麗である。しかし、女王の肉体的魅力を、それも夫に向かって語ることは躊躇われた。
王配のアキが、姫を普段は名前で呼んでいるらしいことも、俺の心に澱みを作る。夫婦仲が良いことは喜ぶべきなのに。
「ところで、近頃王都で密かに話題の美容術があって」
効果は抜群で、劇的に若返る。但し紹介制で、場所などの秘密を守ることが条件、と聞いて、俺の記憶が刺激された。
辺境にある娼館のマダムが、同じような話をしていた。彼女、の顔は、確かに若返っていた。
「陛下が興味を示されたなら、試してもいいんじゃないか。紹介者なら、何とかなるだろうに」
「姫でいいよ。そう言う話ではない」
問題は、施術方法が脱法的なのではないか、ということ。加えて、
「裏で糸を引く者が、敵対勢力かもしれないことだ」
アキは二杯目を飲み干し、すぐにグラスを満たす。
「キューネルン王国?」
国境を接する強国である。前国王夫妻の王女が、第二王子妃として嫁いでいる。
王は健在で、第一王子の後継も揺るがない。第二王子が、妻の正統性を頼みにして、アリストファム王国を乗っ取ろうと工作することは、考えられなくもない。
「とも限らない。混乱を引き起こすにしては動きが緩慢で、単なる犯罪者集団か、せいぜい新たな資金稼ぎの可能性もある。となると、ミラベル元妃に贔屓された貴族や、コンクエスト卿の弟子の方を調べた方が早い。そっちの方は、アデラに調べてもらっている」
なるほどアデラも忙しい。そんな時にゾーイの相手を頼んでしまって、申し訳ない。だが、こんな時だからこそ、彼女の安全も疎かにできないのだ。
「それなら、俺を呼んだ理由は?」
「さっき、美容術が脱法的だと言ったろう? 体験者を見るに、現在知られる範囲の医術、薬学、魔術を以てしても、到達し得ない効果を出している。違法とまでは言えないが、人に知られてはまずい方法を使っているのではないか、その辺りを確かめたい」
俺の問いに対するアキの説明は、曖昧である。何か仮説、あるいは情報を持っているが、口に出したくないようだ。
「違法でないなら、どうしようもないだろう。して欲しくなければ、新たに法律を作って縛るしかない」
やっぱり、姫に施術を受けさせたいのではないか。アキが望まなくても、姫が受けたがれば、動かざるを得ない。政治的にも医療的にも安全だ、という確信が欲しいところである。
「まあ、アキの頼みだ。できるだけ調べては、みる」
「ありがとう。非常に助かる」
アキは残りの酒を飲み干した。結局持参した酒を、一人でひと瓶空けてしまった。俺が飲む気配を見せないから致し方なく、ということにしておく。
「まず、その術の体験者と、コンクエスト卿に会わせてくれ」
「コンクエスト卿に?」
一旦緩んだアキの顔が、曇った。
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