続・姫待ち。魔王を倒したチート魔術師は、放っておかれたい

在江

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3 娼館と辺境騎士 *

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 それから王都へ旅立つための買い物が加わり、気がつけば夕方である。夜通し歩くか、街で泊まるか。

 俺は後者を選択し、宿を探す。ゾーイを連れていると、案外難しいものである。

 高級過ぎると目立つし、安宿だと危険だ。
 それに俺は、普段街に泊まる際、宿じゃなくて別の場所を使うのだ。従って、宿屋に不案内だった。

 どこからともなく、煙草の良い香りが漂ってきた。嗅ぎ慣れた匂いだ。
 気付いたら娼館の前にいた。しまった。

 「あら、ザックさん。その子、うちの店に紹介してくれるの?」

 門からマダムが出て来た。キセルをふかしている。香りの出元はここである。
 ゾーイは反発するどころか、マダムや建物をまじまじと見つめる。

 ちなみに、マダムは男性の体を持っているが、服装などは女性物を纏っている。そして、結構な筋肉量を誇るかと思うとなまめかしくもあり、一種の魔物めいた印象も受ける。

 「いや、そのつもりはない。女連れで泊まれる宿を探している‥‥マダムのところは、ダメだよな?」

 マダムは、ゾーイの視線をものともせず、ぷはーっと煙を吐き出した。

 「そうね。またのお越しをお待ちするわ」

 いつもは、ここで女を買って一晩過ごすのだ。習慣で無意識のうちに足が向いてしまった。
 ゾーイは、娼館が何をする場所か知らないようだ。俺が常連と知ったら、どんな反応をするか、少々怖い気もする。
 それにしても、弱った。普通の宿屋がわからない。

 「マダム、若返った?」

 宿屋を教えてもらいたいのだが、商売仇を紹介させるのに気が引けて、別の話題を振ってしまう。
 実際、マダムは前回会ったよりも若く見えた。

 「そうなのよ~。気付いた? ザックさんも十年以上変わらないけど、同じ施術を受けたのかしら?」

 思いがけず、話に乗ってきたマダムに、俺は却って引いてしまう。俺が若く見えるのは、また別の問題である。

 「施術?」

 「ええ。王都で近頃流行りの美容術があるって、仲間から聞いて、頑張って紹介してもらったのよ~。ほんと、びっくりしちゃったわ。一回でこんなに効果があるなんて」

 マダムは嬉々として喋った。会員制の医療施設みたいな感じで、紹介必須なのだとか。
 何故なら、場所も施術者も方法も秘密だから。当然、料金は高額だ。

 随分と怪しげな商売である。だが、確かに効果はある訳だ。

 一瞬、エルフのヒサエルディスが、師匠と組んで商売を始めたかと思った。彼女は賢者で、以前にも快楽グッズで儲けたことがある。

 だが、彼女が手掛けるなら、勇者を召喚し、魔王を倒したという看板を、最大限に利用する筈である。

 「世の中、色々便利になりますね」

 俺は早々に退散した。俺について突っ込まれるのは、避けたかった。
 マダムは普段、節度を持った態度で接してくるが、美容に関しては、執念が節度を上回りそうな気がした。

 宿探しは振り出しに戻った。夕食も取りたいが、部屋が決まらなければ、落ち着かない。

 「あの、そこの魔法使い? の人、止まってください。娼婦を外へ連れ出すのは、違法ですよ」

 俺に話しかけられているとは、思わなかった。ただ、聞き覚えのある声に、振り向いただけである。

 「ザックさんじゃありませんか!」

 女騎士が、部下を引き連れて、戸惑った顔を向けていた。

 「マーゴ隊長。もしかして、私に呼びかけたのですか?」

 辺りを見回すが、娼婦連れの魔術師は見当たらなかった。では、俺が間違われたのだ。
 ゾーイの格好を見ても、どこをどう解釈したら娼婦なのか、理解できない。

 マーゴは、辺境騎士団の騎士である。隊長となっても、相変わらず抜けた部分があるようだ。

 「ザックさんでも、見逃せませんよ。さっき、娼館から出てきたじゃないですか」

 マーゴは、精一杯怖い顔をして見せる。その後ろで、部下が動揺している。雰囲気で、違うと察したのだろう。

 「出てきていませんよ。マダム・ヤンと立ち話をしていただけです」

 俺は釈明した。部下の一人が、走り去った。娼館へ照会をかけに行ったに違いない。

 登録されていないものを証明するのは、難しいと思うのだが。
 絵姿の出来が良いことを祈るしかない。偶々たまたまゾーイに似た猫人が登録されていたら、面倒なことになる。

 「彼女は私の同居人です。娼婦ではありません。何なら、一緒に娼館へ戻って確認しましょうか」

 ゾーイの尻尾がゆらゆらと揺れる。娼婦とか娼館の単語が気になってきたらしい。

 「そうしてもらいます」

 マーゴは重々しく宣告した。一緒に戻る途中で、部下が戻ってきた。

 「隊長。その女性は、娼婦登録されていません。マダム・ヤンにも聞きましたが、そちらの方は、女性連れで宿泊できるか尋ねただけだ、という話でした」

 「えっ、そうなの? そんなに可愛いのに? これは、失礼しました」

 変なプライドを守ったりせず、素直に謝るところは、かつてのマーゴと変わらない印象だった。

 「それより、あまり値段の張らない、安全な宿を紹介してもらえると、ありがたいのですが」

 俺はついでに尋ねてみた。これくらいの要求は、しても良いだろう。
 マーゴの顔が、パッと明るくなった。

 「でしたら、近くに心当たりがあります。案内しましょう」

 「勤務中に、お手をわずらわせては申し訳ない。場所と名前を教えて貰えれば、大丈夫です」

 「いいえ。道案内も仕事のうちです」

 辺境騎士をゾロゾロ引き連れて、というよりも、彼らに連行される感じで、宿まで案内された。宿の主人も何事か、と驚いていた。
 おかげでマーゴ隊長の紹介には間違いなく、ゾーイと二人分のベッドを確保できた。

 「ありがとうございました」

 「いえいえ。メイナードにも伝えておきますね」

 何を?

 聞くのも変だし、伝えなくて良い、と頼むのは、もっと変だ。

 メイナードは、水牛人の辺境騎士副団長で、恐ろしいほど有能だ。
 アデラが王都へ戻る際、団長への昇進を打診したのに断ったというから、望んで今の地位に留まっているのだ。
 家庭を大事にするためらしい。

 彼は、不正をしていた上司が放逐ほうちくされるよう、手を回した。それでいて、自分の身は、きっちり守り切った。俺は成り行きで、手を貸した形になったのだ。
 メイナードが望めば、俺は否応なく巻き込まれる自信があった。

 「よろしくお伝えください」

 俺は当たり障りのない挨拶をするしかなかった。現在の辺境騎士団に、問題が起きていないことを祈ろう。


 マーゴに紹介された宿は、快適だった。一旦夕食に外へ出て、戻った後に案内された部屋には、ベッドがちゃんと二台あった。

 「このベッド、くっついたら、ちょうどいい大きさになるのに」

 ゾーイが不満そうなのは、俺と一緒に寝るのを期待していたからである。明朝、俺の息子でオナるのを止めさせなければならない。

 朝からうるさくして、騎士団の顔を潰す訳にはいかない。というか、引き換えに面倒な仕事を押し付けられては堪らない。俺は、王都へ行かねばならないのだ。

 「あのなあ、ゾーイ。明日の朝は、俺の息子を使わないで欲しい。お前の声で、他の客に迷惑がかかると、俺に都合が悪いんだ」

 「えっ。では、どうやって起こせばいいのですか?」

 あくまでも、俺を起こすための儀式にしたいらしい。

 「自分で起きる」

 「本当に、大丈夫ですか?」

 真剣に訊いてくる猫人もどきからは、言葉通りの心配しか読み取れない。まさか、俺が一回抜かないと起床しない、と本気で信じているのだろうか。

 「心配ない。明日は早起きして、急いで家に帰る。早く寝よう」

 「それなら、今から余裕を持って出しておけば、朝の心配はありませんね」

 何を言っているのだろうか。何発出したって、朝になれば、俺の息子は勃つ。
 しかし、そんな説明をするのも変である。呆気に取られる俺の前で、ゾーイはするすると服を脱いで、俺のズボンをずり下ろした。

 「ま、待て。何をする」

 「ザック様の準備をお手伝いします」

 ゾーイがパクッと俺の陰茎を咥え込んだ。ぬるりと舌が絡みつく感触に、湧き上がる快感。俺は思わず、息を漏らす。

 「はうっ」

 彼女の口中に、涎が溢れた。その豊潤な液に包まれ、しごかれる俺の淫棒。
 快楽に流されそうな意識を、懸命に引き寄せる。ここは家ではない。彼女に言っておかねばならないことがある。

 「ゾ、ゾーイ。ここでベッドをキシキシ言わせたり、声を出したりするのはまずいんだ」

 「ばあいわいあ」

 じゅぶじゅぶと口元を泡立てつつ、ゾーイが答えた。舌先で丁寧に筋をなぞられ、背筋もぞくぞくする。震える手を彼女にかけようとしたところで、じゅぽっと頭が外された。

 「では、こちらからお願いします。声、我慢しますから、思い切り突いてくださいね」

 全裸のゾーイが、壁に手を突き、こちらへ尻を向けて見せた。断れない。
 俺は、後ろから一気に突き入れた。彼女の中は、準備万端だった。
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