記憶を封じられたエルフ猶予の旅

在江

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霹靂

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 「君の両親の死は、私に責任がある。これまで黙っていて、申し訳なかった」

 エル=シャラーラが十五歳の誕生日を迎えた日、師匠は言った。

 師匠、と呼んではいるものの、シャラーラにとっては親同然であった。
 彼が言った通り、彼女に両親はなく、物心ついた時から一緒に暮らしてきたのは、師匠なのである。彼女に両親の記憶はない。

 師匠は身支度の仕方から剣技まで、シャラーラが一人で生活するための知識と技能を、根気よく教えてくれた。彼がいなかったら、彼女はとっくに死んでいた。

 「どういうことでしょうか?」

 成人記念のプレゼントとしては、最悪である。きっと彼女は険しい顔つきをしたに違いない。
 完璧に整った美しい顔が、一層の憂いを帯びた。見慣れた彼女は何とも思わないが、師匠は美し過ぎて男女問わず言い寄られるのをいとい、世俗から離れ暮らしていた。

 「君の両親が亡くなったのは、私のせいだ。一人残された君を放置すれば、君をも殺すことになる。私は、君が一人で生きていけるよう、そして私を裁けるように、これまで育ててきたのだ」

 「卑怯、ですよね」

 シャラーラは、躊躇ためらいつつも、その言葉を口にした。
 師匠の教育は真っ当だった。彼の代わりに村へ買い物に出かけるようになって、彼女は多少世間と関わりを持ったが、そこでそつなく振る舞えたのも、師匠のお陰である。

 養育の恩義を感じさせるように育てたのも、師匠である。確かに彼は恩着せがましい態度は取らなかったが、親とはそういう存在である、と彼女は理解していた。
 復讐して欲しいのなら、そのように育てるべきであった。

 「そうだな。申し訳ない」

 師匠は彼女の言葉を受け、再び謝った。許して欲しいと思っていないことは、明らかだった。
 多分、この場で切り捨てられても、抵抗せず死んでいくのだろう。
 だがシャラーラは、そのような教育は受けていない。

 今になって、どうしろと言うのだ。
 師匠は、沈黙したままである。
 シャラーラは、苛立った。

 ばさばさ、と鳥の羽音が沈黙を突き破った。

 「一体、どのような事情で、私の両親が死んだのか、詳しく聞かせてもらえますか?」

 シャラーラは漸く、聞くべき事を思いついた。師匠の瞳が、彼女の顔に焦点を結ぶ。

 「それを明かすには、もう一人必要だ。彼は君のご両親の死に衝撃を受けて、命を失いかけた。私は彼の記憶を封印した。私が彼を連れ帰るまで、説明を待ってもらえないだろうか」

 「私が彼を連れ帰ります」

 即座に彼女は宣言した。師匠が、その存在も定かでない証人を口実に、逃げるとは思えなかった。説明を求めるまで彼の存在を明かさなかったのは、自分が責任を取って死ぬことで、シャラーラの気が済むならば、彼に負担をかけるには及ばない、と考えたに違いない。
 師匠が記憶を封じるほどに、彼にとって辛い出来事だったのだ。

 だが、命を失いかけるとは? 両親の死に巻き添えを食って、ではなく、衝撃を受けて、と師匠は表現した。もしかしたら、彼にも両親の死の責任があるのかもしれない。
 シャラーラは、師匠と二人で暮らした家で、彼の帰りをただじっと待つことに、耐えられなかった。

 「わかった。では、私が待とう」

 師匠は承知した。
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