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第二章 留学生

15 決選投票で勝ったのは

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 それで副会長はというと、決選投票になったの。

 得票数はアメリちゃんが一番だったんだけれど、規則で過半数取らないと承認にならないんだって。
 ソランジュとマリエルに、結構な票が入ったからね。ちなみにわたしも、マリエルに投票したわ。

 二番手がソランジュだったから、アメリちゃんと改めて対決に。今度は演説なしで、投票だけ。
 この時はわたし、アメリちゃんに入れてしまった。

 シナリオ的には、アメリちゃん落選した方が、破滅フラグ回避になるんだけれど、真面目に副会長を選ぶなら、アメリちゃんだよね。

 ソランジュはまだ役員になれる機会あるし、実績からみてアメリちゃんの方が、副会長にふさわしい。
 でも、破滅はまずい。やっぱりクラスメートに入れるべきかな、と考えているうちに、投票してしまったのよ。

 ほら、記名式じゃないから。コインを入れるだけ。うっかり箱を間違えることって、今までもあったんじゃないかしら。


 結果、ソランジュが当選。

 えええええええええっ?


 票数の違いは、ほんの少しだったの。

 わたしはアメリちゃんに入れたけれど、マリエルに票を入れた生徒が、丸ごとソランジュに味方した感じだった。

 アメリちゃん、そんなに嫌われていたのかしら?
 男爵家より伯爵家、という判断もあったと思う。まさか、マリエルを推薦した現生徒会役員が、ソランジュに投票するよう働きかけた、なんてことは、ないよね?

 とにかく副会長はソランジュ=ラルミナに決まったの。うちのクラスは、お祭り騒ぎだったわ。

 「おめでとう、ソランジュ」
 「ありがとう」

 「新入生から副会長なんて、学園の歴史に残るわね」
 「恥ずかしくない業績を残すよう努力するわ」

 「私の一票が役立ったみたいで、よかったわ」
 「投票してくれてありがとう」

 クラスメートばかりでなく、休み時間には他のクラスからもお祝いに駆けつける生徒がいて、ソランジュの周りはこれまで以上に人が集まった。

 皮肉なことに、ソランジュが忙しくなった分、イーゴリやマリエルが一緒に過ごせるようになった。

 今でも、ソランジュはイーゴリには近付こうとするけど、自分の取り巻きの厚さが壁になっている。

 マリエルとイーゴリが愛をはぐくむのは素敵なことだけれど、マリエルが平民出身だから結婚できない、というイーゴリの問題は解決していないのよね。

 そして、落選したアメリちゃん。

 相当なショックを受けたのは、間違いないわ。
 普通でも落ち込む状況だけど、乙女ゲームのヒロインなのに、シナリオと正反対の結果だもの。

 それに、一回目の投票では一位だった。納得いかないよね。

 噂では、食堂でシャルル王子やディディエくん相手にわめき散らしたとか。
 ヒロインらしからぬことを、やっちゃったらしい。焦るのはわかるけど、好感度下がっちゃうよ。

 サンドリーヌの部屋にも乗り込んできたとか。これは、乗りこまれた本人から聞いた話だから、事実ね。

 「私はラルミナ嬢の推薦人に名前を貸しただけで、何もしていないのに」

 本だらけの部屋を目の当たりにして、アメリちゃんもドン引きしたらしい。
 確かに、サンドリーヌの部屋は、ちょっと汚部屋っぽい。侍女が頑張って掃除してくれているみたいだけど。何しろ本が多過ぎるのよ。

 いよいよ攻略が危なくなってきたのか、ヒロインの行動がバグっているわ。

 悪役令嬢のところへ文句をつけに乗り込むなんて、乙女ゲーでヒロインが絶対しない選択でしょ。


 さておき、当選したメンバーは引き継ぎで忙しい。ソランジュが得意げに、

 「今日も、シャルル王子やディディエ様とご一緒に引き継ぎしておりましたの」

 と声高に取り巻きに話すから、ディディエくんと会えなくても、何となく会っているような気になってしまった。
 噂を聞くだけで嬉しいって感じ。

 わたしはわたしで、忙しくなったこともある。余計なところに気を回す余裕がないの。

 もうすぐ学園を去らなければならない。

 その前に、これから『ラブきゅん! ノブリージュ学園』で起こる筈のイベントを、全部思い出して、サンドリーヌにフラグを折るための手段を教えるのよ。

 全部のハッピーエンド、バッドエンド、その場合のヒロインと悪役令嬢の結果も漏らさず教える。

 これまでも必要と思ったことは教えてきたけれど、アメリちゃんが敵に回ったこと、落選してシナリオが変わったことから、何がヒントになるかわからないと、思いつく限りのゲーム知識を伝えることにしたの。

 サンドリーヌもやっと本気を出したのか、専用のノートを作ってメモしてくれるようになった。わたしの運命にも多かれ少なかれ関わるのだもの、悪役令嬢には頑張って欲しい。

 これまで書き留めなかったのは、アメリちゃんにノートを奪われたりして、こちらの手の内を明かしたくなかったと言っていた。
 最近のアメリちゃんを見ていると、その心配は正しく思える。

 でも、わたしの伝える知識量が多すぎて、とても覚え切れないから、諦めたそうだ。

 そうそう、わたしとサンドリーヌが転生者と疑われた話もした。本気になったのは、その話を聞いたせいかもしれない。

 ちなみに、わたしの話を書き留めたノートは、恋愛小説にカモフラージュされていて、『乙女の学園恋物語』なる題名がついていた。
 サンドリーヌはあんなに本を持っているけれど、恋愛小説が全然置いてないのよね。かえって目立つんじゃないかしら。


 生徒会選挙も終わったことだし、年度末までに残るイベントは、卒業パーティだ。

 まだ二年目だから、シナリオ通り進んでいたとしても、サンドリーヌの断罪はない。今のわたしは悪役令嬢サイドだから、断罪イベントを見ずに済んで、ほっとしている。

 ええっと。この時の卒業パーティだと、ルートを順調に進んでいれば、攻略対象者からお揃いのドレスを贈られるんだよね。
 逆ハールートの場合はどうだったかな。

 キャラごとに、靴とかネックレスとか、一点ずつもらった気がする。そして、普通よりちょこっと多めに踊るの。
 完全にパートナーとして踊るのは、最後のパーティまでお楽しみ。

 サンドリーヌに聞いたところでは、去年の時点でアメリちゃんはシャルル王子からドレスを贈られたんだよね。他の攻略者から何か貰ったかどうかまでは、わからないと言っていた。

 一年目は、一見しただけでは攻略キャラとのつながりが感じられない贈り物だから、わたしみたいにゲームやりこんでいなければ、わからないのが普通よね。

 「卒業パーティに着るドレスや小物は、僕が用意するからね」

 ディディエくんに言われた時、前回のパーティの悲劇を思い出したわ。

 「あの、前回ご用意いただいたドレスを着ますので、新たな品は不要です」

 くしゃみと鼻水でパーティ欠席したんだった。着なかったドレスはそのまま持っている。今度は、体調管理に気をつけないと。

 「卒業パーティに、あのドレスを着てはいけないよ。ロザモンドはロタリンギアから来たから、細かいルールを知らないだろう? だから、僕の方でそろえるよ」

 ルール? ゲームのスチルを思い浮かべてみる。パーティ何回もあったから、どれがどれだか。

 結局、婚約者の好意に甘えることになっちゃった。貴族では普通の感覚らしいのだけれど、根が小市民だから、落ち着かないわ。

 ともかく、わたしに衣装一式用意してくれるってことは、ディディエくん、まだアメリちゃんに攻略されていないってことよね。
 もしかしたら、宝石なんかの小物をヒロインにプレゼントしている可能性はあるにしても。

 「ああ、そうね。紫色のレースを使った髪飾りだったかしら? 何か贈っていたわ」

 早速サンドリーヌに確かめてみた。やっぱり渡していたのよ~。

 紫ってディディエくんの瞳の色じゃないか。そうよね。この時点で、全然攻略していないってことは、あり得ないものね。
 アメリちゃんは、転生者だもの。

 「あと、シャルル様がエメラルドをあしらった首飾りで、リュシアンが靴底に赤いラインを入れたヒールだったかしら。クレマン先生の方は、お話しする機会がなくて聞いていないけれど、ドレスは去年と同じでも構わないし、先生がドレスを一生徒に贈るのはないと思う。それとも、ゲームでは、そういうことも起きるの?」

 サンドリーヌが言うのはこの世界の常識だ。わたしは記憶を探る。攻略キャラ一押しのクレマン先生を攻略した時、二年目の卒業パーティで何を貰ったっけ?

 「えーと、手袋じゃないし、宝飾品か靴か‥‥確かに、ドレスではなかったと思います」

 「なるほど。では、現時点で攻略が進んでいるのは、リュシアンとシャルル様かしらね。となると、やはり可能な限り、全員攻略を目指しているのでしょう」

 勉強熱心なサンドリーヌは、わたしが教えた知識を瞬く間に吸収していた。話す内容も、ゲーマーっぽくなってきている。
 ゲーム世界のキャラクターをこんな風にしてしまうと、世界観を損ねているみたいで気がとがめてしまうわ。
 でも、この世界に生きているからこそ、人生がかかっている訳で、助かるためには手段を選んでいられない。

 「さすがに最終学年では、同じクラスにいた方が動けるかしらねえ」

 「え、これまでわざと別のクラスになるようにしていたんですか?」

 驚いて聞き返した。何で?

 「わざとじゃないわよ。実力通りにしてもらっただけ」

 サンドリーヌは涼しい顔で答える。将来王子と結婚して恥ずかしくないよう勉強しているのだから、自分の実力を知っておくべきだ、と考えたとか。

 「でも今のおっしゃりようでは、本当は上のクラスに入れるみたいな‥‥」

 そういえば、前回張り出された成績表で、サンドリーヌは悪役令嬢にしてはまあまあ上の方に名前が出ていたわ。
 ゲームじゃどうせ底上げされているけど、ここでは実力なのだものね。

 「今、成績が微妙な位置にあるのよね。何もしなくてもクラスが変わってしまうかもしれない。貴女の話を聞いて、ヒロイン? を避けるようにしてきたのだけれど、避けていても事件が私に降り掛かってくるなら、むしろ近くにいた方が防ぐ手も見つかると思ったの。事前にこっそり聞いてみて、今のクラスに留まるようなら、手を回してもらっても、あの成績なら気付かれない」

 やっぱり彼女は悪役令嬢だわ。
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