10 / 74
第一章 新入生
10 来襲のヒロイン
しおりを挟む
案内されたのは、マカロンの店だった。
確か、砂糖とアーモンドの粉とメレンゲで焼いて膨らませた、ミニカルメ焼きのような菓子。
実は前世でも気になっていながら、食べたことがなかった。
昔読んだ、主婦の自立みたいな戯曲に出てきたのだ。マカロンが気になって、肝心のあらすじを覚えていない。
そしてマカロンという単語だけが記憶に残った。
意外なことに、マカロンの店は昼食を取った店より庶民的で、持ち帰り専門だった。
屋台に毛が生えたような店構えである。
シャルル王子が、そういう店を知っていることが、まず驚きだった。
王子も私も一応、街中へ出るので軽く変装というか、貴族らしくない格好をしてきたのだが、十分金持ちには見える。お供も連れているし。
店員が、そんな私達を見ても他の客と同様、普通に応対したのが、また驚きだった。
それも、市場の露天商というより、一軒店を構えたような、丁寧な接客である。
元々、富裕な客が多いのだろう。そう言えば、値段も高めだった。
店を出て、離れた場所に止めた馬車まで歩く道すがら、王子が袋に手を突っ込み、中身を私の口に押し付けた。
仰天して、思わず口へ入れてしまった。もう咀嚼するしかない。
人生初マカロン。カルメ焼きよりは、口当たりが柔らかい感じ。前世で見た物と違い、こちらにはクリームが挟まっていなかった。
紅茶と食べたら、美味しいだろうな。
そのまま、文庫本十巻分くらいの情報量でも湧いてこないか、と期待したが、紅茶がないせいか、何も浮かばなかった。
これが紅茶の水分を吸いやすいマドレーヌだったら、何か思い浮かんだかもしれない。
「どうだ?」
「んぐっ。初めて食べました。美味しいです」
感想を聞かれた。味わいを犠牲にして、急いで飲み込む。王子はご満悦である。
「美味しいだろう」
「シャルル王子!」
街中で、いきなり身分と名前を大声で呼ばれ、一同ギョッとした。
聞き覚えのある声である。見ると、ローズブロンドが視界に入った。
そうだよね。お出かけイベントと言えば、ヒロインが相手役だ。悪役令嬢はお呼びじゃない。
逃げる訳にもいかず、逃げる間もなく、アメリ=デュモンドが走り寄ってきた。
後ろから、慌てて追ってくるのは何と、リュシアンとフロランスだった。
二人とも、私達と同様、富裕な商家の子息みたいな格好をしていた。知らぬ者が見かければ、彼らをアメリの召使と思うだろう。
そう。アメリだけが、ヒロインらしく、貴族令嬢の衣装だった。重いドレスを着たまま、貴族令嬢らしからぬスピードで、街中を駆けたのだ。
庶民の間に、高速ピンク令嬢とか、妙な都市伝説が生まれなければよいが。
「お」
怒涛の勢いで追いついたリュシアンが、王子を連呼しようとしたアメリの口を、手で塞いだ。
場合が場合だから仕方ないとはいえ、ほとんど抱き寄せるような格好になってしまった。
「アメリ嬢。皆、お忍び中ですから、街中で身分を叫ばないでください。危険です」
アメリは頬を赤くして、こくこく頷いた。何か勘違いしていそう。
そんな彼女を、フロランスが冷然とした目で見ている。私には見せたことがない表情だ。
リュシアンは婚約者の方を見るまでもなく、さっとアメリを解放した。互いに身分を隠す体なので、交わす挨拶は軽めだ。
「三人で外出とは、珍しい取り合わせだな」
シャルル王子が、ズバリ指摘する。婚約者同士に加えてお付きでも親戚でもない、多分男の方に言い寄っている格下の令嬢の組み合わせである。
乙女ゲームのイベントでなかったら、こんな組み合わせはあり得ない。
リュシアンとシャルル王子という、二人の恐らくは攻略対象が揃ったところから推すに、本来はヒロインを巡って彼らが衝突したりするのだろうか。
二人共、婚約者連れなのに。
今のところ、男達は全く争いそうもない。
「リュスと出かける予定だったのです」
フロランスが厳かに告白する。お忍び中のお約束で、作法やら呼び名やら、いろいろ省略している。もちろん王子も咎めない。
「ごめんなさい。私、お邪魔かと思ったんですけれど、どうしても新しいお菓子を食べてみたくて、お願いしてしまいました。そうしたら、お優しくもリュシアン様が」
「んんーっ」
リュシアンが咳払いした。お前が断れよ、という、アメリ以外の周囲の視線が刺さったみたいだ。
それに、どうせ連れてくるなら、彼は服装について注意すべきだった。
「新しい菓子とは、これか?」
王子が袋の中身を見せた。話題が逸れて、ホッとしたリュシアンの顔が、明るくなる。
「そうです。フローに食べさせたくて」
なのに、余計な女を連れてきたんだね。イベント強制でも働いたかな。それとも、ヒロインが強引に手を回したか。
「やる。少し食べてしまったが、一人で食べるには十分だろう」
王子が、持っていた袋を、アメリに押し付けた。ヒロインは、潤んだピンクの瞳を王子に向ける。嫌な予感がした。
「これって、間接キ‥‥ありがとうございます!」
違うと思うものの、関わりたくない気持ちが勝る。
少し下がったところから、バスチアンがリュシアンとフロランスに、行け行け、と合図していた。少し躊躇うリュシアンを、フロランスがつついた。
「では、我々の分を買いに行くので、これで失礼します。アメリ嬢も、お気をつけてお帰りください」
恐る恐る別れの挨拶をしかけるリュシアンに、笑顔を浮かべるアメリ。
「はい。ここまでありがとうございました、リュシアン様」
アメリは王子に釘付けのまま、上の空だった。家格の違い以前に、人として大分失礼である。
王子の方は、極上の笑みを浮かべてヒロインを離さない。
逃げるように退散しようとするリュシアンの後ろで、フロランスが、私を気遣うように見た。
私は、安心させるような笑顔を作り、バスチアンと同じ合図を送った。彼女は感謝の身振りをして、去っていった。彼らの危機は、ひとまず回避した。
さて、私達のターンである。正確には私の順番。
「では、帰ろうかサンディ」
「え? はい。では失礼しますね、アメリさん」
呼び捨てから進んで、愛称呼びになっている。
リュシアンとフロランスを見て真似したな。
それより、まだ来週の昼食を買っていない。馬車に乗ってから指示すればいいか。
この場を離れるために、馬車へ向かう。少し歩いて違和感に気付く。背後に迫る気配が、変だ。
歩きながら振り返った。シャルル王子、バスチアン、ジュリーと次々振り向いた先に、息を弾ませたアメリの姿があった。
「シャルル王子、貴重なお菓子を、ごちそうさまです」
よく通る声で、アメリが礼を言った。少し離れた通行人が、驚いて振り向く。辺りの空気が、ざわりと動いた。
馬車は目の前だ。
「とりあえず、お乗りになって」
咄嗟に口から出た。ジュリーとバスチアンがあからさまに、目を剥く。
私もしまったと思ったが、時既に遅し。
「ご親切に、ありがとうございますぅ」
ヒロインはマカロンの袋を抱え、真っ先に乗り込んで行った。
一応、彼女は男爵令嬢である。今更、引き摺り出せない。彼女のことはとりあえず置いといて、身分の順番で行くと、次こそは王子を乗せねばならない。
「狭くなりまして、ご不便おかけします」
「心配はいらぬ」
急ぎ王子に続いて入ると、案の定、アメリが車内で立ち上がっていた。王子がヒロインの向かいに腰を据えたので、自ら移動するところだったらしい。
「あら、馬車をお降りになりますの?」
「いいえ。他の皆様が座りやすいように、移るところでしたの」
と王子の横に腰を下ろす。同時に王子が立ち上がり、素早く馬車から降りた。馬車が揺れる。
まるでコントだ。笑いたくなるけど、笑っている場合ではない。
「サンディ。そなたの家の馬車だ。そなたが先に乗れ」
「お気遣い感謝いたします。ではお言葉に甘えて」
私はアメリの向かいに腰掛けた。すると王子が隣に来た。再度立ち上がるアメリの進路を塞ぐように、バスチアンが乗り込み、王子の隣に無理矢理尻をねじ込んだ。
二人共、男性としては細身である。我がヴェルマンドワ家の馬車も、お忍び用の割に余裕のある造りなのだが、予定人数を超過すれば、狭くなる。
「狭くて苦しいならば、私の上に乗っても良いぞ」
ぴったり体を寄せた王子が、耳元で声を出す。
腕が私の頸に回されていて、既に胴体が四分の一ほど重なっていた。吐息はかかるし、体温まで感じるほどの密着度で、王子の若く鍛えられた肉体の弾力性まで分かる上に、意外と男臭い。それも、嫌な匂いではないのだ。
よく聞く話で、中年のおっさんが若い女の肉体に溺れる、という感覚が、理解できた。
今世のサンドリーヌの肉体も十分若いが、自分の体を自分で触るのと他人の体に触れるのは、別物である。
他へ注意を向けないと、意識が持っていかれそうだった。前世で私は、子持ち人妻だった。余裕な筈なのに。十五歳相手に、クラクラしていたら、犯罪だ。
「そ、そこまでには至りません」
不覚にも声が震える。思わず腕に力を入れると、抱えたマカロンが、みしり、と音を立てて我に返った。脇汗が出る心地がする。汗の臭いを王子に嗅がれるんじゃないか、と思うと、余計にあちこちから汗が出る。
恥ずかしい。
でもアメリの方を見ることができないのは、恥ずかしさではなく、恐ろしいから。
またも、ヒロインのイベントを邪魔してしまった。
攻略対象の前で、ヒロインが悪役令嬢を睨みはしないだろうけれど、笑顔でいても、それはそれで怖い。
私のせいじゃない。王子が、私の買い物についてきただけ。
二人で勝手に、出かけてくれればよかったのに!
最後にジュリーが乗り込んだ。アメリの隣に座る。
馬車は出発した。もう、買い物どころではなかった。
確か、砂糖とアーモンドの粉とメレンゲで焼いて膨らませた、ミニカルメ焼きのような菓子。
実は前世でも気になっていながら、食べたことがなかった。
昔読んだ、主婦の自立みたいな戯曲に出てきたのだ。マカロンが気になって、肝心のあらすじを覚えていない。
そしてマカロンという単語だけが記憶に残った。
意外なことに、マカロンの店は昼食を取った店より庶民的で、持ち帰り専門だった。
屋台に毛が生えたような店構えである。
シャルル王子が、そういう店を知っていることが、まず驚きだった。
王子も私も一応、街中へ出るので軽く変装というか、貴族らしくない格好をしてきたのだが、十分金持ちには見える。お供も連れているし。
店員が、そんな私達を見ても他の客と同様、普通に応対したのが、また驚きだった。
それも、市場の露天商というより、一軒店を構えたような、丁寧な接客である。
元々、富裕な客が多いのだろう。そう言えば、値段も高めだった。
店を出て、離れた場所に止めた馬車まで歩く道すがら、王子が袋に手を突っ込み、中身を私の口に押し付けた。
仰天して、思わず口へ入れてしまった。もう咀嚼するしかない。
人生初マカロン。カルメ焼きよりは、口当たりが柔らかい感じ。前世で見た物と違い、こちらにはクリームが挟まっていなかった。
紅茶と食べたら、美味しいだろうな。
そのまま、文庫本十巻分くらいの情報量でも湧いてこないか、と期待したが、紅茶がないせいか、何も浮かばなかった。
これが紅茶の水分を吸いやすいマドレーヌだったら、何か思い浮かんだかもしれない。
「どうだ?」
「んぐっ。初めて食べました。美味しいです」
感想を聞かれた。味わいを犠牲にして、急いで飲み込む。王子はご満悦である。
「美味しいだろう」
「シャルル王子!」
街中で、いきなり身分と名前を大声で呼ばれ、一同ギョッとした。
聞き覚えのある声である。見ると、ローズブロンドが視界に入った。
そうだよね。お出かけイベントと言えば、ヒロインが相手役だ。悪役令嬢はお呼びじゃない。
逃げる訳にもいかず、逃げる間もなく、アメリ=デュモンドが走り寄ってきた。
後ろから、慌てて追ってくるのは何と、リュシアンとフロランスだった。
二人とも、私達と同様、富裕な商家の子息みたいな格好をしていた。知らぬ者が見かければ、彼らをアメリの召使と思うだろう。
そう。アメリだけが、ヒロインらしく、貴族令嬢の衣装だった。重いドレスを着たまま、貴族令嬢らしからぬスピードで、街中を駆けたのだ。
庶民の間に、高速ピンク令嬢とか、妙な都市伝説が生まれなければよいが。
「お」
怒涛の勢いで追いついたリュシアンが、王子を連呼しようとしたアメリの口を、手で塞いだ。
場合が場合だから仕方ないとはいえ、ほとんど抱き寄せるような格好になってしまった。
「アメリ嬢。皆、お忍び中ですから、街中で身分を叫ばないでください。危険です」
アメリは頬を赤くして、こくこく頷いた。何か勘違いしていそう。
そんな彼女を、フロランスが冷然とした目で見ている。私には見せたことがない表情だ。
リュシアンは婚約者の方を見るまでもなく、さっとアメリを解放した。互いに身分を隠す体なので、交わす挨拶は軽めだ。
「三人で外出とは、珍しい取り合わせだな」
シャルル王子が、ズバリ指摘する。婚約者同士に加えてお付きでも親戚でもない、多分男の方に言い寄っている格下の令嬢の組み合わせである。
乙女ゲームのイベントでなかったら、こんな組み合わせはあり得ない。
リュシアンとシャルル王子という、二人の恐らくは攻略対象が揃ったところから推すに、本来はヒロインを巡って彼らが衝突したりするのだろうか。
二人共、婚約者連れなのに。
今のところ、男達は全く争いそうもない。
「リュスと出かける予定だったのです」
フロランスが厳かに告白する。お忍び中のお約束で、作法やら呼び名やら、いろいろ省略している。もちろん王子も咎めない。
「ごめんなさい。私、お邪魔かと思ったんですけれど、どうしても新しいお菓子を食べてみたくて、お願いしてしまいました。そうしたら、お優しくもリュシアン様が」
「んんーっ」
リュシアンが咳払いした。お前が断れよ、という、アメリ以外の周囲の視線が刺さったみたいだ。
それに、どうせ連れてくるなら、彼は服装について注意すべきだった。
「新しい菓子とは、これか?」
王子が袋の中身を見せた。話題が逸れて、ホッとしたリュシアンの顔が、明るくなる。
「そうです。フローに食べさせたくて」
なのに、余計な女を連れてきたんだね。イベント強制でも働いたかな。それとも、ヒロインが強引に手を回したか。
「やる。少し食べてしまったが、一人で食べるには十分だろう」
王子が、持っていた袋を、アメリに押し付けた。ヒロインは、潤んだピンクの瞳を王子に向ける。嫌な予感がした。
「これって、間接キ‥‥ありがとうございます!」
違うと思うものの、関わりたくない気持ちが勝る。
少し下がったところから、バスチアンがリュシアンとフロランスに、行け行け、と合図していた。少し躊躇うリュシアンを、フロランスがつついた。
「では、我々の分を買いに行くので、これで失礼します。アメリ嬢も、お気をつけてお帰りください」
恐る恐る別れの挨拶をしかけるリュシアンに、笑顔を浮かべるアメリ。
「はい。ここまでありがとうございました、リュシアン様」
アメリは王子に釘付けのまま、上の空だった。家格の違い以前に、人として大分失礼である。
王子の方は、極上の笑みを浮かべてヒロインを離さない。
逃げるように退散しようとするリュシアンの後ろで、フロランスが、私を気遣うように見た。
私は、安心させるような笑顔を作り、バスチアンと同じ合図を送った。彼女は感謝の身振りをして、去っていった。彼らの危機は、ひとまず回避した。
さて、私達のターンである。正確には私の順番。
「では、帰ろうかサンディ」
「え? はい。では失礼しますね、アメリさん」
呼び捨てから進んで、愛称呼びになっている。
リュシアンとフロランスを見て真似したな。
それより、まだ来週の昼食を買っていない。馬車に乗ってから指示すればいいか。
この場を離れるために、馬車へ向かう。少し歩いて違和感に気付く。背後に迫る気配が、変だ。
歩きながら振り返った。シャルル王子、バスチアン、ジュリーと次々振り向いた先に、息を弾ませたアメリの姿があった。
「シャルル王子、貴重なお菓子を、ごちそうさまです」
よく通る声で、アメリが礼を言った。少し離れた通行人が、驚いて振り向く。辺りの空気が、ざわりと動いた。
馬車は目の前だ。
「とりあえず、お乗りになって」
咄嗟に口から出た。ジュリーとバスチアンがあからさまに、目を剥く。
私もしまったと思ったが、時既に遅し。
「ご親切に、ありがとうございますぅ」
ヒロインはマカロンの袋を抱え、真っ先に乗り込んで行った。
一応、彼女は男爵令嬢である。今更、引き摺り出せない。彼女のことはとりあえず置いといて、身分の順番で行くと、次こそは王子を乗せねばならない。
「狭くなりまして、ご不便おかけします」
「心配はいらぬ」
急ぎ王子に続いて入ると、案の定、アメリが車内で立ち上がっていた。王子がヒロインの向かいに腰を据えたので、自ら移動するところだったらしい。
「あら、馬車をお降りになりますの?」
「いいえ。他の皆様が座りやすいように、移るところでしたの」
と王子の横に腰を下ろす。同時に王子が立ち上がり、素早く馬車から降りた。馬車が揺れる。
まるでコントだ。笑いたくなるけど、笑っている場合ではない。
「サンディ。そなたの家の馬車だ。そなたが先に乗れ」
「お気遣い感謝いたします。ではお言葉に甘えて」
私はアメリの向かいに腰掛けた。すると王子が隣に来た。再度立ち上がるアメリの進路を塞ぐように、バスチアンが乗り込み、王子の隣に無理矢理尻をねじ込んだ。
二人共、男性としては細身である。我がヴェルマンドワ家の馬車も、お忍び用の割に余裕のある造りなのだが、予定人数を超過すれば、狭くなる。
「狭くて苦しいならば、私の上に乗っても良いぞ」
ぴったり体を寄せた王子が、耳元で声を出す。
腕が私の頸に回されていて、既に胴体が四分の一ほど重なっていた。吐息はかかるし、体温まで感じるほどの密着度で、王子の若く鍛えられた肉体の弾力性まで分かる上に、意外と男臭い。それも、嫌な匂いではないのだ。
よく聞く話で、中年のおっさんが若い女の肉体に溺れる、という感覚が、理解できた。
今世のサンドリーヌの肉体も十分若いが、自分の体を自分で触るのと他人の体に触れるのは、別物である。
他へ注意を向けないと、意識が持っていかれそうだった。前世で私は、子持ち人妻だった。余裕な筈なのに。十五歳相手に、クラクラしていたら、犯罪だ。
「そ、そこまでには至りません」
不覚にも声が震える。思わず腕に力を入れると、抱えたマカロンが、みしり、と音を立てて我に返った。脇汗が出る心地がする。汗の臭いを王子に嗅がれるんじゃないか、と思うと、余計にあちこちから汗が出る。
恥ずかしい。
でもアメリの方を見ることができないのは、恥ずかしさではなく、恐ろしいから。
またも、ヒロインのイベントを邪魔してしまった。
攻略対象の前で、ヒロインが悪役令嬢を睨みはしないだろうけれど、笑顔でいても、それはそれで怖い。
私のせいじゃない。王子が、私の買い物についてきただけ。
二人で勝手に、出かけてくれればよかったのに!
最後にジュリーが乗り込んだ。アメリの隣に座る。
馬車は出発した。もう、買い物どころではなかった。
15
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
【R18】義弟ディルドで処女喪失したらブチギレた義弟に襲われました
春瀬湖子
恋愛
伯爵令嬢でありながら魔法研究室の研究員として日々魔道具を作っていたフラヴィの集大成。
大きく反り返り、凶悪なサイズと浮き出る血管。全てが想像以上だったその魔道具、名付けて『大好き義弟パトリスの魔道ディルド』を作り上げたフラヴィは、早速その魔道具でうきうきと処女を散らした。
――ことがディルドの大元、義弟のパトリスにバレちゃった!?
「その男のどこがいいんですか」
「どこって……おちんちん、かしら」
(だって貴方のモノだもの)
そんな会話をした晩、フラヴィの寝室へパトリスが夜這いにやってきて――!?
拗らせ義弟と魔道具で義弟のディルドを作って楽しんでいた義姉の両片想いラブコメです。
※他サイト様でも公開しております。
初めての相手が陛下で良かった
ウサギテイマーTK
恋愛
第二王子から婚約破棄された侯爵令嬢アリミアは、王子の新しい婚約者付の女官として出仕することを命令される。新しい婚約者はアリミアの義妹。それどころか、第二王子と義妹の初夜を見届けるお役をも仰せつかる。それはアリミアをはめる罠でもあった。媚薬を盛られたアリミアは、熱くなった体を持て余す。そんなアリミアを助けたのは、彼女の初恋の相手、現国王であった。アリミアは陛下に懇願する。自分を抱いて欲しいと。
※ダラダラエッチシーンが続きます。苦手な方は無理なさらずに。
ゲームの序盤に殺されるモブに転生してしまった
白雲八鈴
恋愛
「お前の様な奴が俺に近づくな!身の程を知れ!」
な····なんて、推しが尊いのでしょう。ぐふっ。わが人生に悔いなし!
ここは乙女ゲームの世界。学園の七不思議を興味をもった主人公が7人の男子生徒と共に学園の七不思議を調べていたところに学園内で次々と事件が起こっていくのです。
ある女生徒が何者かに襲われることで、本格的に話が始まるゲーム【ラビリンスは人の夢を喰らう】の世界なのです。
その事件の開始の合図かのように襲われる一番目の犠牲者というのが、なんとこの私なのです。
内容的にはホラーゲームなのですが、それよりも私の推しがいる世界で推しを陰ながら愛でることを堪能したいと思います!
*ホラーゲームとありますが、全くホラー要素はありません。
*モブ主人のよくあるお話です。さらりと読んでいただけたらと思っております。
*作者の目は節穴のため、誤字脱字は存在します。
*小説家になろう様にも投稿しております。
伯爵令嬢のユリアは時間停止の魔法で凌辱される。【完結】
ちゃむにい
恋愛
その時ユリアは、ただ教室で座っていただけのはずだった。
「……っ!!?」
気がついた時には制服の着衣は乱れ、股から白い粘液がこぼれ落ち、体の奥に鈍く感じる違和感があった。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています。
悪役令嬢なのに王子の慰み者になってしまい、断罪が行われません
青の雀
恋愛
公爵令嬢エリーゼは、王立学園の3年生、あるとき不注意からか階段から転落してしまい、前世やりこんでいた乙女ゲームの中に転生してしまったことに気づく
でも、実際はヒロインから突き落とされてしまったのだ。その現場をたまたま見ていた婚約者の王子から溺愛されるようになり、ついにはカラダの関係にまで発展してしまう
この乙女ゲームは、悪役令嬢はバッドエンドの道しかなく、最後は必ずギロチンで絶命するのだが、王子様の慰み者になってから、どんどんストーリーが変わっていくのは、いいことなはずなのに、エリーゼは、いつか処刑される運命だと諦めて……、その表情が王子の心を煽り、王子はますますエリーゼに執着して、溺愛していく
そしてなぜかヒロインも姿を消していく
ほとんどエッチシーンばかりになるかも?
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる