41 / 68
第四章 セリアンスロップ共和国
2 鎧職人のガイン
しおりを挟む
朝の光で自然と目覚めた。昨夜は気にならなかった川の音が、今はうるさい。
目の前には、クレアの濃い碧の双眸があった。
「おはようござ」
「おはよう」
無防備な様子に、寝起きからどぎまぎさせられる。
しかし、マイアやエサムが起きてきたこともあり、それ以上何も起こらない。
「グリリは、どこにいるの?」
朝食中、マイアの言葉で、一同、彼の不在に気づく。
無言で俺に説明を求められるが、俺だって知らない。
食後に探そうということになって、とりあえず食べ終えると、本人が来た。鎧を着ていない。
「鎧、どうした?」
真っ先にエサムが訊く。
「鎧職人の家があって、洗浄してくれるって言うから、預けてきた」
「こんな山の中に?」
とマイア。俺も同感だった。
「エサムも直すところあったら、頼むといい」
グリリには屈託がない。顔も髪もゾンビ肉から解放されて、こざっぱりしている。
シャワーでも借りたのかもしれない。だとすると、悪い人ではないのだろう。
ゾンビナイトを潜り抜けた後の野宿で、風呂の誘惑に判断力が鈍っている気もするが、怪しげなグリリに風呂を振舞ってくれる人が、悪い人の筈はない。
「行ってみる?」
軽く聞いたつもりだったが、つい言葉に力が入った。
「どうせ、グリリの鎧取りに行くんだろ。行くさ」
エサムが応じ、皆で訪れることになった。
彼は鎧職人と聞いた時から、気を引かれていた。昨夜のスケルトンとの戦いで、何箇所か鎧が凹んでいた。
案内された先は、大きな木の陰に建つ山小屋だった。倉庫や窯も備えている。上から見てもすぐに見分けられないよう、計算して配置されていた。
五歳くらいの男の子が、一人で遊んでいた。俺たちの姿を認めるや否や、両手を上げて走り寄ってくる。飛びついた先は、俺だった。反射的に、抱き上げて高く持ち上げる。
「きゃははっ」
「シャオピー!」
女性の声に、身をよじる男の子。顔をそちらへ向けてやるついでに、俺も声の主を見た。
ドワーフかと思った。かなりがっしりとした体格で、背も高い。明るい茶色の髪を引っ詰め、両手を腰に当てて仁王立ちする姿は、威圧感があった。
その眼が爬虫類と同じなら尚更だ。しかし、服装は村の女性が着るような、布製のものである。
「メイシァンさん、彼らはわたくしの仲間です。みんな、彼女が鎧職人の奥さんのメイシァンさん」
「あらやだ、奥さんなんて、照れるわ」
ぽっと頬を染め、両手を当てる彼女。さっきまでの威圧感が嘘のように、可愛らしくなる。人間でいうと二十二、三歳ぐらいだろうか。
シャオピーと呼ばれた男の子は、彼女の息子であった。
満面の笑みで気付かなかったが、瞳から顔立ちから彼女にそっくりである。すなわち、爬虫類の瞳。
俺が地面に降ろしてやると、彼女の元へまっしぐらに駆けていった。
「奥さん、この鎧の修理もお願いできるかね。もちろん修理代は払う」
エサムが近付いて、スケルトンに凹まされた傷を見せつけた。
ドワーフ戦士と並んで見ると、メイシァンの方が細く柔らかみがあるとわかる。
「うふ。大丈夫だと思う。あの人のところへ案内するね」
彼女は嬉しそうに笑い、シャオピーを抱き上げ先に立った。
着いた先は作業場で、またもやドワーフっぽい体格の髭面男が、グリリの鎧を拭き上げていた。
それでも、エサムと比べると線が細い。気配に応じてこちらを見た瞳は、人間と同じ形だった。
メイシァンより大分年上である。俺より十も上だろうか。
「ガイン、こっちの鎧も直して欲しいんだって」
「見せてみろ」
「パパ。ぼく、パパよりおおきくなったよ」
母親に抱き上げられたシャオピーが、嬉しげに報告する。
「うん。大きくなったな」
父親は頷きながらも、視線はエサムの鎧に当てている。手は、拭き上げ作業を止めない。
エサムの方も、直してもらえることになった。
当然、脱げ、と言われたので、俺とグリリで脱がせた。
その間にグリリの鎧はきれいさっぱり元通りに仕上がり、彼は自腹でメイシァンに支払いをした。クレアは財布を出し損ねた。
修理に丸一日かかるという。作業の邪魔になるので、ぞろぞろと作業場を出た。
一足先に出ていたメイシァン親子は、洗濯物を干していた。
「手伝いましょうか」
グリリが申し出たので、彼女が驚く。中身が女と知らないからか。
俺も手伝えるが、きっと、シャオピーの遊び相手をした方が、喜ばれる。
残り三人は、どちらもできないだろうから。
案の定、エサムは体を鍛え始めるし、マイアはその辺の枝を拾って魚釣り、クレアはお祈りを始めた。
「わーい、おじちゃんあそぼ!」
「シャオピー、お兄ちゃんでしょ」
「おじちゃんで、大丈夫です」
母親の許しをもらった息子は、大喜びで飛び跳ねた。
前の世界に残した娘を思い出して、胸の奥がきゅっと痛む。あの頃は、仕事が忙しくて娘たちともろくに遊んであげられなかった。
たまに遊んだ時のことは鮮明に覚えている。やっぱり顔中で笑って、きらきらしていた。元の世界に残った俺の本体が、遊んでくれていればいいが。
作業場からはトンテンカン、と金属を叩く音がする。
小屋の周囲は河原のようになっていて、草も刈ってあり、子供が走り回っても川に落ちさえしなければ安全だ。谷川の流れも緩やかで、メイシァンの声がよく通る。
「そうなの。先祖はマドゥヤから来て、代々この山で木を切ったり、土を焼いたりして暮らしてきたの」
「ふふ。ガインはドワーフの里にいたけど、人間よ」
頭の中で何かがチカチカする。
「つっかまえた!」
シャオピーが突進してきて、押し倒された。
「うわあ、やられた~」
「じゃあ、もういっかい」
子どもの気力と体力は、どこの世界も一緒のようだ。
「すっごーい! おさかなだ」
すぐ気が変わるのも、共通である。徐々に遠くへ去っていたマイアが、土ゴーレムに大量の魚を運ばせて戻ってきたのだ。
ゴーレムはマイアの半分ぐらいの大きさで、ちょこちょこと動きが可愛い。
「いいなあ。これ、ぼくもほしい」
側に寄り、しげしげと見つめるシャオピーを自然に無視し、マイアはメイシァンの方へ行った。
洗濯物を干し終えた彼女は、振り向いて目を丸くする。
「ゴーレム使えるなんて、凄い。わたし、鉱物探知しか出来なくて」
「それは立派な才能よ。これ、よかったら食べてくださる? 獲り過ぎてしまったわ」
「じゃあ、お昼一緒に食べましょうよ。食べきれない分は干物にするわ」
「支度手伝います」
これはグリリである。そして彼は、俺を手招きした。
「トリス、魚捌けるでしょう。干物にするのを手伝ってもらえますか」
「グリリは?」
「わたくし、料理不得手です。多分、三枚に下ろしたことないと思います」
子持ちで料理できないとは、どういう生活だったのか。働いていて、料理する暇がなかったとか。
「お、魚捌くのか。やるぞ」
筋トレに励んでいたエサムがやってきた。短剣を手にして、やる気十分である。クレアは手伝いたくとも、どうしていいかわからない体である。呼ぶと近寄ってきた。
「じゃあ、そこの殿方二人は魚開いて。グリリさんはシャオピーと開いた魚を洗う。マイアさんとクレアさんは、わたしと一緒に来て。干し場と塩水を用意するから」
テキパキと指示するメイシァン。役目を与えられたシャオピーも、張り切っている。
魚を持ったままだと、マイアの土ゴーレムが、別の仕事にかかれない。
俺が氷の台みたいな物を作って、魚を置くことにした。
学院にいる間に、水の上位魔法である雪と氷を扱えるようになったのだ。川があるから、材料には事欠かない。メイシァンたちだけでなく、エサムやクレアも驚いている。
そうだった。普通の人間は、光か闇魔法しか使えないのだった。
「すげえな、おい」
屋外のことで、まな板もない。とりあえず全部開きにすることにして、氷の台をまな板がわりに、早速捌き始めた。
マスに似た魚、鯉に似た魚、イワナに似た魚、と種類が色々である。鮎に似た魚だけは、捌くのを止めた。内臓が旨いのに、勿体無い。
「つめたーい」
俺たちが捌いた魚を、グリリとシャオピーが川で内臓を洗い落とす。
氷の上に載っていた魚は、凍りかけである。内臓を落とした魚は、次の工程に移るまでの間、再び氷の台に戻ってくるのであった。
そのうち、塩水を満たしたタライが来て、開きの魚が沈められた。鮎もどきはそこには入らず、後で塩まみれになる予定である。
干し場も組み立て、並行して昼食の用意も始まる。
バーベキューである。石を組んで火を起こした上に、鉄板が載る。
芋や葉っぱの野菜は、メイシァンとグリリが、小屋の方で切ってくれた。獣脂のかけらを鉄板に塗りつけ、芋類を焼く。
味付けは、秘伝のタレとかいう、茶色い液体である。
醤油に近い匂いがする。猛烈に食欲が刺激される。鮎もどきは塩をまぶして鉄板の下で串焼きにする。
芋を焼く合間に、エサムと俺とシャオピーが、塩水から開きを引き上げ、干し場に並べた。
木々の間から覗く空は、青い。干物日和である。
小さめの魚は、焼けた芋を寄せて、鉄板の端に並べた。野菜も投入する。クレアが籠から器を取り出し、メイシァンが焼き上がった分から盛り付ける。
野菜と鮎を食べている間に、開いた魚の焼ける匂いが立ち上り始めた。匂いに釣られたように、ガインが出てきた。
「俺の鎧、修理順調ですか」
「ああ」
ガインは瞬く間に鮎と野菜を平らげ、開きの方に目をやった。
「さっきの鎧といい、あんたの鎧といい、貴族が使うような特上物だ。お前らただの冒険者じゃないな。レクルキスから何しに来た?」
場が凍った。俺たちの視線は、グリリに集中する。彼はフォークを握ったまま、手を振った。
目の前には、クレアの濃い碧の双眸があった。
「おはようござ」
「おはよう」
無防備な様子に、寝起きからどぎまぎさせられる。
しかし、マイアやエサムが起きてきたこともあり、それ以上何も起こらない。
「グリリは、どこにいるの?」
朝食中、マイアの言葉で、一同、彼の不在に気づく。
無言で俺に説明を求められるが、俺だって知らない。
食後に探そうということになって、とりあえず食べ終えると、本人が来た。鎧を着ていない。
「鎧、どうした?」
真っ先にエサムが訊く。
「鎧職人の家があって、洗浄してくれるって言うから、預けてきた」
「こんな山の中に?」
とマイア。俺も同感だった。
「エサムも直すところあったら、頼むといい」
グリリには屈託がない。顔も髪もゾンビ肉から解放されて、こざっぱりしている。
シャワーでも借りたのかもしれない。だとすると、悪い人ではないのだろう。
ゾンビナイトを潜り抜けた後の野宿で、風呂の誘惑に判断力が鈍っている気もするが、怪しげなグリリに風呂を振舞ってくれる人が、悪い人の筈はない。
「行ってみる?」
軽く聞いたつもりだったが、つい言葉に力が入った。
「どうせ、グリリの鎧取りに行くんだろ。行くさ」
エサムが応じ、皆で訪れることになった。
彼は鎧職人と聞いた時から、気を引かれていた。昨夜のスケルトンとの戦いで、何箇所か鎧が凹んでいた。
案内された先は、大きな木の陰に建つ山小屋だった。倉庫や窯も備えている。上から見てもすぐに見分けられないよう、計算して配置されていた。
五歳くらいの男の子が、一人で遊んでいた。俺たちの姿を認めるや否や、両手を上げて走り寄ってくる。飛びついた先は、俺だった。反射的に、抱き上げて高く持ち上げる。
「きゃははっ」
「シャオピー!」
女性の声に、身をよじる男の子。顔をそちらへ向けてやるついでに、俺も声の主を見た。
ドワーフかと思った。かなりがっしりとした体格で、背も高い。明るい茶色の髪を引っ詰め、両手を腰に当てて仁王立ちする姿は、威圧感があった。
その眼が爬虫類と同じなら尚更だ。しかし、服装は村の女性が着るような、布製のものである。
「メイシァンさん、彼らはわたくしの仲間です。みんな、彼女が鎧職人の奥さんのメイシァンさん」
「あらやだ、奥さんなんて、照れるわ」
ぽっと頬を染め、両手を当てる彼女。さっきまでの威圧感が嘘のように、可愛らしくなる。人間でいうと二十二、三歳ぐらいだろうか。
シャオピーと呼ばれた男の子は、彼女の息子であった。
満面の笑みで気付かなかったが、瞳から顔立ちから彼女にそっくりである。すなわち、爬虫類の瞳。
俺が地面に降ろしてやると、彼女の元へまっしぐらに駆けていった。
「奥さん、この鎧の修理もお願いできるかね。もちろん修理代は払う」
エサムが近付いて、スケルトンに凹まされた傷を見せつけた。
ドワーフ戦士と並んで見ると、メイシァンの方が細く柔らかみがあるとわかる。
「うふ。大丈夫だと思う。あの人のところへ案内するね」
彼女は嬉しそうに笑い、シャオピーを抱き上げ先に立った。
着いた先は作業場で、またもやドワーフっぽい体格の髭面男が、グリリの鎧を拭き上げていた。
それでも、エサムと比べると線が細い。気配に応じてこちらを見た瞳は、人間と同じ形だった。
メイシァンより大分年上である。俺より十も上だろうか。
「ガイン、こっちの鎧も直して欲しいんだって」
「見せてみろ」
「パパ。ぼく、パパよりおおきくなったよ」
母親に抱き上げられたシャオピーが、嬉しげに報告する。
「うん。大きくなったな」
父親は頷きながらも、視線はエサムの鎧に当てている。手は、拭き上げ作業を止めない。
エサムの方も、直してもらえることになった。
当然、脱げ、と言われたので、俺とグリリで脱がせた。
その間にグリリの鎧はきれいさっぱり元通りに仕上がり、彼は自腹でメイシァンに支払いをした。クレアは財布を出し損ねた。
修理に丸一日かかるという。作業の邪魔になるので、ぞろぞろと作業場を出た。
一足先に出ていたメイシァン親子は、洗濯物を干していた。
「手伝いましょうか」
グリリが申し出たので、彼女が驚く。中身が女と知らないからか。
俺も手伝えるが、きっと、シャオピーの遊び相手をした方が、喜ばれる。
残り三人は、どちらもできないだろうから。
案の定、エサムは体を鍛え始めるし、マイアはその辺の枝を拾って魚釣り、クレアはお祈りを始めた。
「わーい、おじちゃんあそぼ!」
「シャオピー、お兄ちゃんでしょ」
「おじちゃんで、大丈夫です」
母親の許しをもらった息子は、大喜びで飛び跳ねた。
前の世界に残した娘を思い出して、胸の奥がきゅっと痛む。あの頃は、仕事が忙しくて娘たちともろくに遊んであげられなかった。
たまに遊んだ時のことは鮮明に覚えている。やっぱり顔中で笑って、きらきらしていた。元の世界に残った俺の本体が、遊んでくれていればいいが。
作業場からはトンテンカン、と金属を叩く音がする。
小屋の周囲は河原のようになっていて、草も刈ってあり、子供が走り回っても川に落ちさえしなければ安全だ。谷川の流れも緩やかで、メイシァンの声がよく通る。
「そうなの。先祖はマドゥヤから来て、代々この山で木を切ったり、土を焼いたりして暮らしてきたの」
「ふふ。ガインはドワーフの里にいたけど、人間よ」
頭の中で何かがチカチカする。
「つっかまえた!」
シャオピーが突進してきて、押し倒された。
「うわあ、やられた~」
「じゃあ、もういっかい」
子どもの気力と体力は、どこの世界も一緒のようだ。
「すっごーい! おさかなだ」
すぐ気が変わるのも、共通である。徐々に遠くへ去っていたマイアが、土ゴーレムに大量の魚を運ばせて戻ってきたのだ。
ゴーレムはマイアの半分ぐらいの大きさで、ちょこちょこと動きが可愛い。
「いいなあ。これ、ぼくもほしい」
側に寄り、しげしげと見つめるシャオピーを自然に無視し、マイアはメイシァンの方へ行った。
洗濯物を干し終えた彼女は、振り向いて目を丸くする。
「ゴーレム使えるなんて、凄い。わたし、鉱物探知しか出来なくて」
「それは立派な才能よ。これ、よかったら食べてくださる? 獲り過ぎてしまったわ」
「じゃあ、お昼一緒に食べましょうよ。食べきれない分は干物にするわ」
「支度手伝います」
これはグリリである。そして彼は、俺を手招きした。
「トリス、魚捌けるでしょう。干物にするのを手伝ってもらえますか」
「グリリは?」
「わたくし、料理不得手です。多分、三枚に下ろしたことないと思います」
子持ちで料理できないとは、どういう生活だったのか。働いていて、料理する暇がなかったとか。
「お、魚捌くのか。やるぞ」
筋トレに励んでいたエサムがやってきた。短剣を手にして、やる気十分である。クレアは手伝いたくとも、どうしていいかわからない体である。呼ぶと近寄ってきた。
「じゃあ、そこの殿方二人は魚開いて。グリリさんはシャオピーと開いた魚を洗う。マイアさんとクレアさんは、わたしと一緒に来て。干し場と塩水を用意するから」
テキパキと指示するメイシァン。役目を与えられたシャオピーも、張り切っている。
魚を持ったままだと、マイアの土ゴーレムが、別の仕事にかかれない。
俺が氷の台みたいな物を作って、魚を置くことにした。
学院にいる間に、水の上位魔法である雪と氷を扱えるようになったのだ。川があるから、材料には事欠かない。メイシァンたちだけでなく、エサムやクレアも驚いている。
そうだった。普通の人間は、光か闇魔法しか使えないのだった。
「すげえな、おい」
屋外のことで、まな板もない。とりあえず全部開きにすることにして、氷の台をまな板がわりに、早速捌き始めた。
マスに似た魚、鯉に似た魚、イワナに似た魚、と種類が色々である。鮎に似た魚だけは、捌くのを止めた。内臓が旨いのに、勿体無い。
「つめたーい」
俺たちが捌いた魚を、グリリとシャオピーが川で内臓を洗い落とす。
氷の上に載っていた魚は、凍りかけである。内臓を落とした魚は、次の工程に移るまでの間、再び氷の台に戻ってくるのであった。
そのうち、塩水を満たしたタライが来て、開きの魚が沈められた。鮎もどきはそこには入らず、後で塩まみれになる予定である。
干し場も組み立て、並行して昼食の用意も始まる。
バーベキューである。石を組んで火を起こした上に、鉄板が載る。
芋や葉っぱの野菜は、メイシァンとグリリが、小屋の方で切ってくれた。獣脂のかけらを鉄板に塗りつけ、芋類を焼く。
味付けは、秘伝のタレとかいう、茶色い液体である。
醤油に近い匂いがする。猛烈に食欲が刺激される。鮎もどきは塩をまぶして鉄板の下で串焼きにする。
芋を焼く合間に、エサムと俺とシャオピーが、塩水から開きを引き上げ、干し場に並べた。
木々の間から覗く空は、青い。干物日和である。
小さめの魚は、焼けた芋を寄せて、鉄板の端に並べた。野菜も投入する。クレアが籠から器を取り出し、メイシァンが焼き上がった分から盛り付ける。
野菜と鮎を食べている間に、開いた魚の焼ける匂いが立ち上り始めた。匂いに釣られたように、ガインが出てきた。
「俺の鎧、修理順調ですか」
「ああ」
ガインは瞬く間に鮎と野菜を平らげ、開きの方に目をやった。
「さっきの鎧といい、あんたの鎧といい、貴族が使うような特上物だ。お前らただの冒険者じゃないな。レクルキスから何しに来た?」
場が凍った。俺たちの視線は、グリリに集中する。彼はフォークを握ったまま、手を振った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
19
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる