前世ストーカー(自称俺推し)が俺を好きすぎて女を放棄したので、真面目に生きがいを探します

在江

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第二章 魔法学院

1 一応の責任は果たした

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 いわゆる首都圏に入った訳だが、街に着くまではまだまだ距離があった。
 エルフの実験場ではない、普通の森もあった。

  これまで通った森と違って、大きな獣にはわなかった。兎や狐がせいぜいだった。人の入る機会が多いのだろう。
 俺たちは習慣的に狩りをし、毛皮をいで肉を食った。

 エルフの森を出てから、グリエルは俺たちと寝食を共にするようになった。寝る時はワイラの側に行く。ワイラが寝入ったのを見計らって、俺がいびき防止バリアを張る。

 サンナは最初、目を開けて俺のする事を見ていたものの、すぐに理由を察した。次からは起きもしなかった。

 道が増えて、右から合流したり、左へ分かれて行ったりする。
 旅装でない人が、道を歩く姿も増えた。村とまではいかなくとも、集落があちこちにあって、宿屋はなくとも泊めてくれる家はあった。民宿のような感じである。

 ベッドが足りなくて、雑魚寝ざこね部屋に通された事もある。そんな時でも、サンナはフードを取ってマントを脱げば、一人部屋を貸してもらえた。エルフは得だ。


 遂に、城壁の前まで来た。
 以前、山の方に城らしい建物を見たが、壁はそこまで繋がってはいない。壁には立派な門があって、行き交う人も多いのに、いちいち通行人の身分を確認していた。

 この内部にも城があるに違いない。門も広いが、門衛の数も多い。

 俺は結局ホナナの冒険者登録証しか持っていないし、グリエルはグリリ名義の身分証しか持っていない。

 ペットの猫は入れてもらえるのだろうか。緊張しながら順番待ちの列に並ぶ。列はできているものの、確認係の数も多く、さくさくと前へ進んだ。

 途中で列が二手に分けられる。どうも、人間とそれ以外らしい。俺たちの並ぶ列は、の方だ。サンナとワイラとグリエルのせいか。
 列の先頭に着くと、エルフの係官とドワーフの兵士がいた。

 「代表者の名前と目的、同行人数を述べよ」

 サンナが幅広の腕輪から、何やら紙のようなものを取り出して、見せた。羊皮紙だろうか。途端に係官と兵士の背筋が伸びた。

 「失礼しました。お通りください」

 そろって敬礼する。この世界でも敬礼あるんだな、とぼんやりしている間に、サンナは紙をしまってさっさと歩き始める。
 俺たちも、止められないうちに、急いで後ろに付く。

 「サンナすげえな」

 ケーオが誰にともなく言う。首都の壁は厚く、外側の門と内側の門の間に家が建てられそうだ。そこを通り抜けると、石畳の地面が広がる大都会だった。


 視界に入る建物がどれも立派で、壁から中心に向かって高さが増すように作られている。尖塔せんとうがあるのも、中央に近い方だ。

 入ったところが広場として整備されているのも、目新しかった。
 隅には屋台があって、椅子を並べたところはさながらカフェスペースのようだった。おまけにコーヒーみたいないい匂いがただよっている。コーヒーあるのか!

 サンナは、通行人の邪魔にならないよう、カフェではない方の端へ、俺たちを先導した。俺は後ろ髪を引かれながら彼女に従った。

 「さて」

 サンナは杖を持っていない方の手を、腰に当てた。

 「トリスはこれから私と一緒に魔法学院へ行って、入学手続きをします。ケーオとワイラは鍛治職人ギルド、シーニャは冒険者ギルドへ行って登録するのよね。ここでお別れよ」

 皆キョトンとした。最初に我に返ったのは、ケーオである。

 「ギルドの場所知らねえし、住むところはどうするんだよ」

 「鍛治職人ギルドに登録するなら、住む場所も斡旋あっせんしてくれるわ。最初は住み込みの方が安くて便利よ。冒険者は普通定住しないけど、長期滞在型の安い宿を教えてくれる筈」

 サンナはそれぞれのギルドの場所を教えた。

 「トリスは、どこに住むの。住む場所が決まったら教えて欲しいな。一緒に住んだら、安くなるし」

 シーニャは、俺と住む気満々である。冒険者の基本は野宿だろうが。

 「トリスは魔法学院内の寮に住むの。全寮制だから。その、猫も一緒に入れるように掛け合うわ」

 サンナがグリエルの存在に触れたので、少し驚いた。取り調べの後は、いないように振る舞っていたからだ。

 「お気遣いありがとう」

 一応礼を言う。個人的には魔法学院に入れれば、グリエルがいなくても構わないのだが、一応俺の召喚者という扱いで、離れられないらしい。

 サンナもグリエルを胡散臭うさんくさく思っているのは確実なので、意外だった。不審ふしん生物の居場所を把握しておきたいのかもしれない。

 グリエルは自分が猫だと言い張ったので、以来グリリにも黒雪だるまにも変化していない。
 サンナは魔力感知の持ち主である。変身しても魔力の強さが変わらなければ、同一の存在だとバレる可能性があった。

 変身は闇独自の魔法なのだろう。闇魔法の使い手と知れると困るようなことを、以前言っていた。

 「サンナ。シーニャは剣術で身を立てたい、と言っていた。首都に剣術学校はないのか」

 思いついて聞いてみる。いきなりフリーの冒険者になるよりは、親も安心に違いない。サンナは考え込んだ。記憶を辿たどっている様子。パミを育てる間、ほぼサマスにいたようだから無理もない。

 あれ。そんな古い情報に頼る俺たちは、大丈夫なんだろうか? いやいや。ティリエのところで、最新の情報を仕入れたに違いない。そう思うことにしよう。

 「うーん、どうだったかな。剣術系は個人経営から色々あるからなあ。王立だと兵士の養成所になってしまうのよね。そうするとお金はかからないけど、冒険者みたいな真似はできないし、剣術だけでなく他の仕事もしないといけなくなるから、やっぱり冒険者ギルドに登録して、パーティに入れてもらった方がいいんじゃない? すぐにお金稼げるし」

 「わかった。そうする!」

 シーニャは即答した。ケーオは心配そうだ。

 「俺、住むところ決まったら連絡するから、ギルドで居場所わかるようにしておけよ。お前も、何かあったらこっちのギルドに来い。分かるようにしておくから」

 「うん、ありがとう。ワイラもトリスも猫ちゃんも。あ、サンナも、また会おうね」

 シーニャは手を振ると、飛び立つように行ってしまった。親に頼まれた俺の立場は? 首都には無事着いたから、もういいのか。
 置き去りにされたような顔で、見送るケーオ。一応、婚約者だったな。ワイラが、その腕をつついた。

 「こっちもギルドに行こうか」
 「あ、うん。サンナもトリスも世話になったな。楽しかったぜ」

 「こちらこそ。ワイラは、お父さん見つかるといいね」
 「ありがと」

 そしてケーオとワイラも去った。もう会えないかもしれないのに、随分とあっさり別れてしまって、俺こそ取り残された気分だった。

 「では、行きましょ」

 サンナが歩き始めた。

 「待って。あのいい匂いのする飲み物味わってから、というのはダメ?」
 「ダメ。飲みたければ、学院で飲めるわよ」

 サンナは振り向きもしなかった。コーヒーが飲めるのなら、ここに止まる理由もなかった。俺も後を追った。その後ろをグリエルがついてきた。


 ところで、魔法学院は、城壁の外側にあった。俺たちは街中を突っ切って、別の門から出て、学院の門に至った。城壁沿いに歩くより早いからか、あるいはケーオたちのために、遠回りしたかもしれない。

 城門と違って、学院の門は開放的で、門番は素朴な小屋に老人が一人。サンナは再び腕輪から書類を見せた。老人の目が大きく開く。

 「ああ、サンナ=リリウム教官ですな。およそ、六十年ぶりぐらいですかな」

 あんたら幾つなんだ、と内心で二人に突っ込む。

 「そんなものかしら。あなた、その頃いた?」
 「いませんねえ。私はこの職に就いて四十年目ですから」

 言いながら、よっこらしょ、と腰を伸ばして門を開けてくれた。魔法で。
 俺たちが中へ入ると、自動で門が閉まった。正面にある建物から、誰か走ってくるのが見える。

 「すぐ迎えの者が来ます。少々お待ちください」

 走って来たのは、サンナと同じぐらいの年恰好に見えるエルフだった。
 しかし、耳が尖っていなければ、人間と区別がつかない感じだった。彼はサンナの前で急ブレーキをかけると、息を切らしながら話し始めた。

 「はあ、はあ、サンナ=リリウム教官とお連れ様を、迎えに、参りました。はあ、事務局の、ネイサンと申します。これから、あなた方を、学院長室まで、ご案内します。ふう」

 迎えがすぐ来るというのは、本当だった。これも、魔法のおかげなのだろうか。
 ネイサンは、着いたばかりで息を整える間もなく、もと来た道へ引き返した。エルフも以外と体力あるんだな。
 俺たちは後に従った。

 門から建物まで、結構な距離だった。本来は、馬車や馬で通る道なのだろう。道幅も、だだっ広く感じるほどに大きく取られていた。
 ゆるやかにカーブした道の外側には並木があり、自然なのか手が入っているのか、程よい感じに低木や草花が茂っていた。

 建物は、石造りの重厚な、むしろとりでと呼びたいような外観だった。
 城壁の外にあることといい、戦時には先陣を切って戦うことにでも決まっているようだった。
 所々焦げたように黒ずんでいたり、石の色合いが微妙につぎはぎになっている辺り、経過した年月を感じさせる。

 中へ入ると、外から想像したよりも、広々として見えた。階段の他に、スロープがぐるりと壁面に取り付けられているせいかもしれない。
 壁のあちこちに武器や絵画がかかっているところには、ヨーロッパの城と同じ雰囲気を感じた。

 俺たちはスロープも階段も使わずに、そのまま一階の部屋へ案内された。

 「やあ、いらっしゃい」

 深みのある声に迎えられた。棒立ちになった俺を残して、ネイサンは去った。

 「久しぶり。ほら、あなたも座って」

 勧められもしないのに勝手に座るサンナ。
 布張りのシンプルな色柄のソファセットである。木枠や肘掛ひじかけの彫刻がっている。脚の形も優美だ。

 前には部屋の主。彼が立っているのに、座って良いものか。

 「ああ、私はこのままが楽だから。どうぞ、遠慮なさらず」

 壮年そうねんの紳士は、服で隠し切れないたくましい体つきから、均整の取れた腕をすうっと伸ばして、ソファを勧めた。
 俺は、二人掛けの方に腰掛けた。グリエルは俺の足元に、猫らしく座った。
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