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第一章 レクルキス王国
12 サマスパミホマレは初出走
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「それでは、出走馬と騎手の紹介をいたします。一コースから、ギャップコンパクト」
上から声が響いてきて、驚いた。俺だけでなく、ケーオたちも驚いている。
『風魔法の遠隔通話を応用しているのでしょう。観客席限定とか』
隣に座っていた、グリエルが教えてくれた。確かに他の観客たちは慣れているらしく、なんの動揺も見せない。ものすごい僻地から来た人、みたいな反応をしてしまった。ある意味、その通りである。
「すごいな魔法」
「あっこの声、魔法なんだ。すごい」
思わず呟くと、シーニャも頷いた。
今回のレースは未勝利馬限定で、全部で六頭が走る。パミの馬は唯一の初出走であった。
つまり、他の馬は、一度はレースに出たことがある、ということになる。
サマスパミホマレは一番外側、観客席に近い位置についている。赤い旗を持った人が、コースの脇に据えられた高い台に乗った。
ゆっくりと旗を振り上げる。間をおいて、さっと旗を振り下ろした。
「さあ、スタートです。全馬一斉に走り出しました」
上から声が降ってくる。もう、誰も驚かない。
「まず先頭に飛び出したのは、ヘイセイオパラ、続いてギャップコンパクト、三番手に並んでフジテイオー、パクリキャップ、一馬身差でイタミブライアン、半馬身サマスパミホマレが最後尾です」
「最下位か!」
ワイラが怒鳴った。ケーオがびっくりしてワイラを見るが、彼女の目は馬に釘付けである。
「第二コーナー。一番手はヘイセイオパラ、一馬身差ギャップコンパクト、半馬身フジテイオー、続いてパクリキャップ、半馬身並んでイタミブライアン、サマスパミホマレ。ヘイセイオパラ速い。このままトップを維持できるか」
「うおお、行け行け!」
周囲の観客も盛り上がっている。
「さて第三コーナー。ヘイセイオパラ、続いて並走ギャップコンパクト、パクリキャップ、半馬身フジテイオー、追走内側からイタミブライアン、サマスパミホマレ。熾烈な順位争いのまま、第四コーナーへ差し掛かります」
「第四コーナー順位そのまま、最後の直線コースに入りました。おおっと、サマスパミホマレ、外側から追い上げていきます」
「おおっ。パミ頑張れ!」
ケーオが身を乗り出す。ワイラも今は一緒に応援している。
「ギャップコンパクト、下がっていく。二位はパクリキャップ、追走イタミブライアン、サマスパミホマレ、半馬身フジテイオー、並走ギャップコンパクト。ヘイセイオパラ独走か。サマスパミホマレ、イタミブライアン、パクリキャップ差した! ヘイセイオパラ半馬身に迫る、ヘイセイオパラ逃げ切るか。ヘイセイオパラ、サマスパミホマレ、ゴール! お次は、パクリキャップ、イタミブライアン、ギャップコンパクト、フジテイオー。一位は、審判団の判定待ちとなります」
「うわああ」
「何てこった!」
「てやんでえ」
宙に木片が舞った。日本だと紙吹雪だが、小さくとも木だから、当たると地味に痛い。パミの馬が一位でも二位でも、いわゆる大穴という奴らしく、賭けに負けたと思った観客が、不要になった馬券を投げ捨てているのだ。
ケーオも萎れている。木片を片手に、ワイラと額を寄せる。
「なあ、これ、パミ入っているんだからさ、半分くらいもらえるんじゃないか」
「ケーヤンは、パミ一位でパクリキャップ二位の馬券を買った。全部当てたら五十倍。その代わり、一つでも外したら終わり」
「マジか。宿代~」
彼は、宿代を賭けで稼ぐつもりだったらしい。一緒にいたら楽しい男だが、娘を持つ身としては、婿にしたくない男でもある。
「ケーオ、牙とか換金しに行こうよ。ワイラも、売れる物を持っているでしょ」
シーニャが声をかけた。俺もシーニャも馬券を買っていないから、損失はない。
「次のレースは三歳一勝クラスです。出走馬は、ただいまパドックにてご覧になれます。バターチュ、ティチン、シロノジェネシス、ぺブー、ロンノ、カメ‥‥」
日本の競走馬みたいな名前ばかりと思っていたら、ちゃんと地元風の名前の馬もいた。悔しがっていた観客が、外へ流れ始める。今見えるコースに馬はいないから、パドックとやらは別の場所にあるのだろう。
「先ほど行われた未勝利馬のレース、ただいま順位が確定しました。一位サマスパミホマレ、二位ヘイセイオパラ、三位パクリキャップ、四位イタミブライアン、五位ギャップコンパクト、六位フジテイオーの順番です」
「あたし換金してくる。出口で待っていて欲しい。売る時に、一緒に行く」
十倍当てたのか。すごいなワイラ。これぞビギナーズラック。ケーオは外したが。
「出口って、どこのことを言っているのかな」
ワイラを見送った後になって、シーニャが言う。確かに、観客席の出口か、換金所の出口か、競馬場の出口か、広すぎてわからない。
「とりあえず出ようか。換金所がわかれば、そっちへ行って会えるだろう」
「俺、もう一レースだけ買おうかな。確実なやつ」
ケーオが言う。目線は、馬券回収箱に積まれた、山盛りのハズレ馬券の辺りを彷徨っている。
「売り場に予想屋っていう人たちがいたから、その人たちに聞けば、きっと」
「やめとけ」
「止めようよ」
俺とシーニャは同時に止めた。シーニャは男漁りと冒険に対する執着以外は、まともな判断力を持っているようだ。
ワイラとは無事合流し、全員で獲物の換金に回った。ワイラの馬券は最終的に十五倍近くになったとかで、大した金額を賭けていた訳ではないが、儲けとしては十分だったろう。
予想を外したケーオも、道中集めた毛皮などを売ると、どうにか滞在費用を賄えそうであった。
揃って宿に入り、夕食もそこで取ることにした。外壁に近い場所柄、安く食べられると踏んだからだ。
例によって、店員に最安メニューを聞いて注文する。大体どこも同じような料理になるのだが、徐々に支払う値段は上がってきていた。首都への距離と関連しているのか。
「ワイラ、今日は鍛冶屋ギルド行けなかっただろう。ケーオも鍛冶職人に用があるし、明日、皆で行こうか」
俺は聞いてみた。ワイラの用が済めば、首都へ向けて出発できる。物価がこの先も値上がりするのなら、一つの街に滞在する期間は、短い方がいい。
「皆がいいなら、一緒に行く」
「いいよ」
シーニャが即答して、翌日の予定が決まった。
「あ、ケーオさんいた!」
聞き覚えのある声に振り向くと、パミがいた。ケーオが手を上げる。
「パミ、優勝おめでとう。馬どうした?」
「伯爵の厩舎で預かってもらっています」
「伯爵? ところで、夕食一緒にどう?」
「家でお姉ちゃんと食べるから大丈夫です。お姉ちゃん、こちらがケーオさんよ」
パミが後ろを向く。背の高い人物が、フードをとった。
空気が変わった。周囲の視線が集まるのを肌で感じる。
「姉のサンナです。この度は、妹が大変お世話になりました‥‥」
何か色々話し続けていたが、俺と、あと多分ケーオも聞いていなかった。
淡く光る金髪を綺麗に結い上げて、尖った両耳を剥き出しにした彼女は、エルフだった。深い青色の瞳に見つめられると、吸い込まれたくなった。
顔立ちが恐ろしく整っている上に、ローブの胸元が恐ろしく盛り上がっていた。俺の持つエルフのイメージとは、いい意味で、合わない。
胸の大きいエルフがいたって、いいじゃないか。
「あたしは、お父さんを探しに鍛冶屋ギルドへ行きたいから、止めておく」
ワイラの声で我に返った。何の話だ。
「そんなにお礼をされるほど、大したことはしていないもの。ケーオもギルドに行かないといけないし、そうそう、トリリンも早く首都へ行って魔法学院に入りたいんだよね、トリリン」
「アルクルーキスの魔法学院へ入学希望ですか。ええと、トリリンさん?」
サンナがぐい、と前へ出てきたので、俺は不本意にもドギマギした。妻と子がいるのに。別世界だけど。それに、あっちには本物の俺がついているんだった。今の俺は独身だ。シーニャには内緒だが。
「トリスと呼んでください。はい、希望はしています」
確か、そういう設定だったよな、グリエル、と目の前の美形エルフから無理やり視線を引き剥がしたのに、姿が見えない。テーブルの下にいた筈だが。
「毛玉なら、パミィが来た時に、どこかへ行ったぞ」
とワイラ。そこはかとなく不機嫌な気がする。
「あら、あの生き物、お仲間ですか」
「猫ちゃんは、トリリンのペットよ」
シーニャが突っかかるように言う。何故かこちらも少々機嫌が悪そうだ。
「ペット」
サンナが出口の方を見やる。それから、俺に視線を戻した。形の良い唇に、艶やかな笑みを浮かべて。
「私、魔法学院にコネがありますのよ。パミの支度や牧場の引き継ぎに一週間ほどいただければ、ご一緒して、すぐに入学できるようにお取りなしできますわ」
「それはありがたいお話ですけれども、そこまでしていただくような事はしておりません。それに、お恥ずかしいことに、持ち合わせがなく、なるべく早く出立したいのです」
「そんな」
サンナが胸元に手をやると、ローブの合わせ目が開いて、むっちりした二つの盛り上がりが顔を覗かせた。
地味色のローブの下は、思いがけなく明るい色合いの、上等なドレスだった。
ケーオの目が吸い寄せられていく。かろうじて椅子に腰掛けているものの、届かない分は目だけ飛び出しそうな雰囲気だ。
一方、俺たちの視線など気づかぬように、艶やかなエルフは笑みを崩さない。
「先ほどお話しした通り、パミが騎手養成所に入るための、大事なレースだったのです。おかげさまで伯爵のお眼鏡にかない、牧場も引き受けていただけることになりました。私も元々、パミの将来が定まったら、首都へ戻るつもりだったのです。私一人で旅をするのは心細いですし、ご一緒出来たら、こちらの方こそありがたいですわ」
「出立までは、私たちの牧場にお泊まりになってください。大したもてなしもできませんが、新鮮なミルクやヨーグルト、バターやチーズならたくさんあります。そうそう、パミの祖父は冒険者でしたから、皆様には珍しい物をお見せできるかもしれませんわ。荷物の整理をお手伝いいただければ、何か興味のある品が見つかることもあるでしょう。お気に召したら、記念に差し上げます。いかがです? ワイラさん、シーニャさんも是非」
上から声が響いてきて、驚いた。俺だけでなく、ケーオたちも驚いている。
『風魔法の遠隔通話を応用しているのでしょう。観客席限定とか』
隣に座っていた、グリエルが教えてくれた。確かに他の観客たちは慣れているらしく、なんの動揺も見せない。ものすごい僻地から来た人、みたいな反応をしてしまった。ある意味、その通りである。
「すごいな魔法」
「あっこの声、魔法なんだ。すごい」
思わず呟くと、シーニャも頷いた。
今回のレースは未勝利馬限定で、全部で六頭が走る。パミの馬は唯一の初出走であった。
つまり、他の馬は、一度はレースに出たことがある、ということになる。
サマスパミホマレは一番外側、観客席に近い位置についている。赤い旗を持った人が、コースの脇に据えられた高い台に乗った。
ゆっくりと旗を振り上げる。間をおいて、さっと旗を振り下ろした。
「さあ、スタートです。全馬一斉に走り出しました」
上から声が降ってくる。もう、誰も驚かない。
「まず先頭に飛び出したのは、ヘイセイオパラ、続いてギャップコンパクト、三番手に並んでフジテイオー、パクリキャップ、一馬身差でイタミブライアン、半馬身サマスパミホマレが最後尾です」
「最下位か!」
ワイラが怒鳴った。ケーオがびっくりしてワイラを見るが、彼女の目は馬に釘付けである。
「第二コーナー。一番手はヘイセイオパラ、一馬身差ギャップコンパクト、半馬身フジテイオー、続いてパクリキャップ、半馬身並んでイタミブライアン、サマスパミホマレ。ヘイセイオパラ速い。このままトップを維持できるか」
「うおお、行け行け!」
周囲の観客も盛り上がっている。
「さて第三コーナー。ヘイセイオパラ、続いて並走ギャップコンパクト、パクリキャップ、半馬身フジテイオー、追走内側からイタミブライアン、サマスパミホマレ。熾烈な順位争いのまま、第四コーナーへ差し掛かります」
「第四コーナー順位そのまま、最後の直線コースに入りました。おおっと、サマスパミホマレ、外側から追い上げていきます」
「おおっ。パミ頑張れ!」
ケーオが身を乗り出す。ワイラも今は一緒に応援している。
「ギャップコンパクト、下がっていく。二位はパクリキャップ、追走イタミブライアン、サマスパミホマレ、半馬身フジテイオー、並走ギャップコンパクト。ヘイセイオパラ独走か。サマスパミホマレ、イタミブライアン、パクリキャップ差した! ヘイセイオパラ半馬身に迫る、ヘイセイオパラ逃げ切るか。ヘイセイオパラ、サマスパミホマレ、ゴール! お次は、パクリキャップ、イタミブライアン、ギャップコンパクト、フジテイオー。一位は、審判団の判定待ちとなります」
「うわああ」
「何てこった!」
「てやんでえ」
宙に木片が舞った。日本だと紙吹雪だが、小さくとも木だから、当たると地味に痛い。パミの馬が一位でも二位でも、いわゆる大穴という奴らしく、賭けに負けたと思った観客が、不要になった馬券を投げ捨てているのだ。
ケーオも萎れている。木片を片手に、ワイラと額を寄せる。
「なあ、これ、パミ入っているんだからさ、半分くらいもらえるんじゃないか」
「ケーヤンは、パミ一位でパクリキャップ二位の馬券を買った。全部当てたら五十倍。その代わり、一つでも外したら終わり」
「マジか。宿代~」
彼は、宿代を賭けで稼ぐつもりだったらしい。一緒にいたら楽しい男だが、娘を持つ身としては、婿にしたくない男でもある。
「ケーオ、牙とか換金しに行こうよ。ワイラも、売れる物を持っているでしょ」
シーニャが声をかけた。俺もシーニャも馬券を買っていないから、損失はない。
「次のレースは三歳一勝クラスです。出走馬は、ただいまパドックにてご覧になれます。バターチュ、ティチン、シロノジェネシス、ぺブー、ロンノ、カメ‥‥」
日本の競走馬みたいな名前ばかりと思っていたら、ちゃんと地元風の名前の馬もいた。悔しがっていた観客が、外へ流れ始める。今見えるコースに馬はいないから、パドックとやらは別の場所にあるのだろう。
「先ほど行われた未勝利馬のレース、ただいま順位が確定しました。一位サマスパミホマレ、二位ヘイセイオパラ、三位パクリキャップ、四位イタミブライアン、五位ギャップコンパクト、六位フジテイオーの順番です」
「あたし換金してくる。出口で待っていて欲しい。売る時に、一緒に行く」
十倍当てたのか。すごいなワイラ。これぞビギナーズラック。ケーオは外したが。
「出口って、どこのことを言っているのかな」
ワイラを見送った後になって、シーニャが言う。確かに、観客席の出口か、換金所の出口か、競馬場の出口か、広すぎてわからない。
「とりあえず出ようか。換金所がわかれば、そっちへ行って会えるだろう」
「俺、もう一レースだけ買おうかな。確実なやつ」
ケーオが言う。目線は、馬券回収箱に積まれた、山盛りのハズレ馬券の辺りを彷徨っている。
「売り場に予想屋っていう人たちがいたから、その人たちに聞けば、きっと」
「やめとけ」
「止めようよ」
俺とシーニャは同時に止めた。シーニャは男漁りと冒険に対する執着以外は、まともな判断力を持っているようだ。
ワイラとは無事合流し、全員で獲物の換金に回った。ワイラの馬券は最終的に十五倍近くになったとかで、大した金額を賭けていた訳ではないが、儲けとしては十分だったろう。
予想を外したケーオも、道中集めた毛皮などを売ると、どうにか滞在費用を賄えそうであった。
揃って宿に入り、夕食もそこで取ることにした。外壁に近い場所柄、安く食べられると踏んだからだ。
例によって、店員に最安メニューを聞いて注文する。大体どこも同じような料理になるのだが、徐々に支払う値段は上がってきていた。首都への距離と関連しているのか。
「ワイラ、今日は鍛冶屋ギルド行けなかっただろう。ケーオも鍛冶職人に用があるし、明日、皆で行こうか」
俺は聞いてみた。ワイラの用が済めば、首都へ向けて出発できる。物価がこの先も値上がりするのなら、一つの街に滞在する期間は、短い方がいい。
「皆がいいなら、一緒に行く」
「いいよ」
シーニャが即答して、翌日の予定が決まった。
「あ、ケーオさんいた!」
聞き覚えのある声に振り向くと、パミがいた。ケーオが手を上げる。
「パミ、優勝おめでとう。馬どうした?」
「伯爵の厩舎で預かってもらっています」
「伯爵? ところで、夕食一緒にどう?」
「家でお姉ちゃんと食べるから大丈夫です。お姉ちゃん、こちらがケーオさんよ」
パミが後ろを向く。背の高い人物が、フードをとった。
空気が変わった。周囲の視線が集まるのを肌で感じる。
「姉のサンナです。この度は、妹が大変お世話になりました‥‥」
何か色々話し続けていたが、俺と、あと多分ケーオも聞いていなかった。
淡く光る金髪を綺麗に結い上げて、尖った両耳を剥き出しにした彼女は、エルフだった。深い青色の瞳に見つめられると、吸い込まれたくなった。
顔立ちが恐ろしく整っている上に、ローブの胸元が恐ろしく盛り上がっていた。俺の持つエルフのイメージとは、いい意味で、合わない。
胸の大きいエルフがいたって、いいじゃないか。
「あたしは、お父さんを探しに鍛冶屋ギルドへ行きたいから、止めておく」
ワイラの声で我に返った。何の話だ。
「そんなにお礼をされるほど、大したことはしていないもの。ケーオもギルドに行かないといけないし、そうそう、トリリンも早く首都へ行って魔法学院に入りたいんだよね、トリリン」
「アルクルーキスの魔法学院へ入学希望ですか。ええと、トリリンさん?」
サンナがぐい、と前へ出てきたので、俺は不本意にもドギマギした。妻と子がいるのに。別世界だけど。それに、あっちには本物の俺がついているんだった。今の俺は独身だ。シーニャには内緒だが。
「トリスと呼んでください。はい、希望はしています」
確か、そういう設定だったよな、グリエル、と目の前の美形エルフから無理やり視線を引き剥がしたのに、姿が見えない。テーブルの下にいた筈だが。
「毛玉なら、パミィが来た時に、どこかへ行ったぞ」
とワイラ。そこはかとなく不機嫌な気がする。
「あら、あの生き物、お仲間ですか」
「猫ちゃんは、トリリンのペットよ」
シーニャが突っかかるように言う。何故かこちらも少々機嫌が悪そうだ。
「ペット」
サンナが出口の方を見やる。それから、俺に視線を戻した。形の良い唇に、艶やかな笑みを浮かべて。
「私、魔法学院にコネがありますのよ。パミの支度や牧場の引き継ぎに一週間ほどいただければ、ご一緒して、すぐに入学できるようにお取りなしできますわ」
「それはありがたいお話ですけれども、そこまでしていただくような事はしておりません。それに、お恥ずかしいことに、持ち合わせがなく、なるべく早く出立したいのです」
「そんな」
サンナが胸元に手をやると、ローブの合わせ目が開いて、むっちりした二つの盛り上がりが顔を覗かせた。
地味色のローブの下は、思いがけなく明るい色合いの、上等なドレスだった。
ケーオの目が吸い寄せられていく。かろうじて椅子に腰掛けているものの、届かない分は目だけ飛び出しそうな雰囲気だ。
一方、俺たちの視線など気づかぬように、艶やかなエルフは笑みを崩さない。
「先ほどお話しした通り、パミが騎手養成所に入るための、大事なレースだったのです。おかげさまで伯爵のお眼鏡にかない、牧場も引き受けていただけることになりました。私も元々、パミの将来が定まったら、首都へ戻るつもりだったのです。私一人で旅をするのは心細いですし、ご一緒出来たら、こちらの方こそありがたいですわ」
「出立までは、私たちの牧場にお泊まりになってください。大したもてなしもできませんが、新鮮なミルクやヨーグルト、バターやチーズならたくさんあります。そうそう、パミの祖父は冒険者でしたから、皆様には珍しい物をお見せできるかもしれませんわ。荷物の整理をお手伝いいただければ、何か興味のある品が見つかることもあるでしょう。お気に召したら、記念に差し上げます。いかがです? ワイラさん、シーニャさんも是非」
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