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31 発散してみる

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 隣国は島国で、王の居城も港から見える高台にあった。

 俺たちは、まずは冒険者ギルドを目指す。港町は、どこもかしこも潮の香りがする。そして時折、生臭い。

 「どうして契約しなかったの?」

 「拘束力が」

 エイリークの目が、『いもフライ』と書かれた看板に釘付けとなっている。食べたいのだろうか。

 「食事しながら話す?」

 「そうしましょう」


 庶民的な定食屋で、日替わり一択メニューを前に、向かい合う。前世を思い出すのは、目の前の料理が何となく和風のせいだ。

 串カツみたいなジャガイモのフライはともかく、皿に盛られた麦入りご飯、焼き魚、海藻の具入りスープがトレイに収まっている。スープは貝出汁塩味だが。

 「契約条件が、少しずつ拘束力の強い方へ変えられていました。検討する時間もあまり与えられなかったので、危険と感じ、止めました」

 「なるほど。でも、ご先祖様に会える機会を逃すのは、辛かったんじゃない?」

 エイリークは、いもフライを串から口で抜き取り咀嚼した。

 「うーん。生前会ったことのない先祖を、それと判別できるかどうかが不確定ですよね。逆に子孫に対しても、同じことが言えます」

 「確かに。フルネームと顔が一致した時に、センサーが働く感じだよね」

 「高貴な方のフルネームを庶民が知る機会は、まずないと思うのです。そうなると、情報が真実でも、会う必要を感じません。乗船前に気付くべきでしたね」

 「出航直前で急かされたから、そこは仕方ないよ。違う国を見るのも冒険だし、いいんじゃない?」

 エイリークの言うことはよくわかった。遠い先祖と子孫が対面しても、互いにそれと気付かなければ、ただの謁見である。拘束力の強い契約を結んでまで押しかける意義はない。

 「そう言ってもらえると、ありがたいです。大伯父だったら、会ってみたいですが。あっ、ユリア様は先代に会いたいですよね。きっと単独でも契約してくれますよ。付き添いましょうか?」

 「いや、いい」

 秒で断った俺を、一瞬見つめたエイリークは、すぐに食事へ戻った。


 母に会ったら嬉しい。それは間違いないが、会いたいかというと、微妙だ。俺、女体化しているし。
 エイリークと一緒にいることも、母の気に入らないに違いない。

 母は父の部下でありながら、父と結婚した。だから、前世のエイリークを凄く警戒していた。母が前世の彼女を許したのは、俺たちがそういう仲にならなかったからだ。
 今は一応付き合っていないとはいえ、この状況を見せるのはまずい。


 冒険者ギルドで身分確認をしてもらい、ついでに宿を紹介してもらった。
 募集を眺めてみると、港町だけあって、漁業系の仕事が目に付く。

 「私ができそうな仕事は、あまりなさそうです」

 エイリークがまた落ち込み始めた。鬱屈も精液も溜まりすぎだ。

 「今日はもう、宿へ行って休もうよ」

 俺は思っていることを顔に出さないよう、慎重に言った。


 「また勃ってしまいました」

 「凄い。嬉しい」

 俺たちは、宿の一室で、抱き合っていた。エイリークは、もう何回も射精している。
 どれだけ溜まっていたのか。俺もだ。

 疲れたから一緒に寝ようと誘って、軽く眠った後、キスしているうちにエイリークに火がついた。一旦盛り上がると、絶倫の彼は精力尽き果てるまで止まらない。

 今は俺がうつ伏せになって尻を持ち上げた格好で、彼が後ろから突いている。
 こんなに何発もしているのに、俺の愛液は枯れることを知らず、エイリークの汁も尽きない。
 これも転生チートなのだろうか。あの舌打ち神に何を頼んだか、細かいことは忘れてしまった。

 「ああ、ユリア」

 「エイリーク、好き」

 射精して息を整える彼を、起き上がって抱きしめる。ついでに乳首も舐める。キスを段々上の方へ進めて、唇に到達する。舌を入れると、お迎えが来る。下半身に早くも硬い棒を感じ、そっと掴んで俺の穴に挿し込む。

 「んうっ」

 エイリークが体を震わせる。俺は膣をキュッと締める。彼の腕がキツくなる。

 ぐっちょぐっちょぐっちょ。

 上下に動くたびに、粘着質な音が立つ。そして快感も増す。

 乳房を揉まれる。乳首を摘まれる。首を舐められる。激しくキスされる。全部気持ちいい。
 エイリークにされること、俺がしてあげること、全てが快感に繋がっていく。


 起きたらチェックアウトの時間で、宿の主人が扉を叩いていた。
 半裸で這うように出て、扉の隙間から延泊の金を支払った。迷惑料で少し色をつけたので、呆れた目線ながらも追い出されずに済んだ。本当は、掃除の関係で、一旦出る決まりがあるのだ。

 「応対させてしまってすみません」

 とエイリーク。俺に、最後の一滴まで搾り取られたのだ。俺は屈託のない笑顔を作る。

 「心配しないで。これでゆっくり休めるわ」


 久々にエイリークを堪能して、満足な夜だった。

 反動で、その後に来た賢者タイムが酷かった。

 「申し訳ありません。不満を性交で解消するなど、犯罪への第一歩です」

 まあ、そういう面はあるけれど、俺が誘ったんだし。

 「私もヤリたかったし、気持ちよかったから、謝ることないよ」

 「付き合ってもいないのに」

 グサッ。真面目に痛いところを突いてくる。負けるな、俺。

 「じゃあ、付き合おうよ」

 「でもファツィオの気持ちを無碍むげにできません」

 出た。ファツィオは、エイリークの前世での部下である。前世からエイリークを欲しがっていて、転生までしてきた。今世じゃ貴族の騎士だ。

 「エイリークは‥‥」

 どっちが好きなの、と聞こうとして、止めた。
 答えは、どっちもそこまで好きじゃない、からだ。気持ちが定まっていれば、お互い苦労はない。

 ファツィオは、形だけでも構わない、と俺も込みで結婚を提案していた。
 エイリークの謙遜がなければ、もう試合終了の好条件である。俺が対抗できるとしたら、平民であることを逆手に取るしかない。すなわち、自由だ。

 「ねえ。謁見は無理でも、どんな王様か噂を聞きに行ってみない? 体が回復したらでいいんだけど。この国の様子も見てみたいし」

 「ああ、それは良い考えです」

 エイリークはようやく笑みを浮かべた。


 噂と言えば、酒場である。

 冒険者ギルド近くには酒を飲める店が集まっている。国は違っても、酒飲みの行動は変わらない。昼間から客が飲んだくれていた。
 なるべく品の良さそうな店に入る。

 食事も注文して、酒を入れる前に腹へ詰め込んだ。昨日の昼食からセックスしまくって、何も食べていない。持ち帰り用につまみまで頼んでしまった。

 「ねえねえ。ここの王様って、どんな感じ?」

 食器を下げに来た給仕に話しかける。若い男は、俺の笑顔にポッと顔を赤らめた。意外と純朴だな。

 「あ、去年即位なさったカイサ女王ですね。前王がお隠れになった後、貴族の間で何年も揉めていたのを、一人で取りまとめなさったとか。お陰で世の中が安定して、皆喜んでいますよ」

 「そうなんだ」

 給仕が去った後、エイリークに尋ねる。

 「何かピンと来た?」

 「いいえ。顔もわからないですし」

 「じゃあ、一旦市場へ行って肖像画を探そう」


 市場に出回る絵には、もちろんカイサ女王の肖像画もあったのだが、それ以上に男性貴族の肖像画が多かった。
 前世で例えれば、トレーディングカードとか、アクリルスタンドみたいな扱いだろうか。壁に飾るよりは、手持ちで愛でる手頃な大きさの作品が多い。
 店先に、ずらりと並んだ肖像画の前で、若い女性が寄り集まって、キャピキャピ騒いでいた。

 「やっぱりヴァーノン様よね。また新しい画が出ているわ」

 「私はオルヴァー様推しだけど、あなたは?」

 「私の推しは、テレンス様よ」

 俺は、思わずエイリークを振り返った。

 「外見上は、ユリア様もあの中に入って違和感ないと思います」

 「ちょっと、私は、遠慮したいな」
 
エイリークは、無理にとは言わず、俺はほっとした。中身は爺である。ロリコンでもない。
 肖像画の店は他にもあって、暇そうな店で話を聞いた。


 「ああ。ヴァーノン様やテレンス様ね。あの方たち皆、女王のハーレム」

 「はあれむ?」

  店主の話によると、カイサ女王は独身で、内紛を再発させないためと称し、国内貴族の主だった子息だけでなく、平民階級や、近隣諸国からも、後継者の父、あるいは次代の重臣候補として見目麗みめうるわしい男性を集め、教育を施しているという。庶民は身も蓋もなくハーレムと呼んでいる。

 「あんたのお連れさんも結構いい男だから、召し上げられないよう気をつけな。最近じゃ、人攫ひとさらいからも買い上げているとか、噂があるからねえ」

 物騒な情報と引き換えに、女王とそのハーレム要員の肖像画をいくつか買い求めた。
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