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25 牽制される *BL描写あり

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 運び込まれた先は、ファツィオの寝室の向かい側である。万が一、感染症だった場合を警戒し、家人が主の隣室を避けたらしい。どのみち入り浸るのだから、名目上の問題だ。

 早速、お抱えの医者が呼ばれて診察した。どう見ても平民が、貴族の館の主寝室に近い部屋へ丁重に寝かされていても、顔色ひとつ変えずに仕事をこなしていく。内密の診療に慣れた印象だった。

 「過労による消耗。それと、若干栄養不足ですな」

 俺の鑑定と違わない。違うのは、薬を処方してもらえる部分だ。こういう全体的な摩耗は、魔法で回復すると基礎体力を削ってしまう場合がある。自力で治した方がいい。

 楽な服に着替えさせてもらい、薬も流し込まれ、エイリークは安らかな顔で眠っている。死んではいない。悔しいが、俺の家よりふかふかで肌触りの良い寝具なのだ。快適な眠りを得られるだろう。

 「今のうちに夕食を取っておこう。お前の分もある」

 「それは、お気遣いありがとう」

 成り行きで、子爵家の広い食堂に、二人きりの会食とあいなった。もちろん、給仕がいる。なので、互いに黙々と咀嚼そしゃくした。ここで正式に食事をするのは初めてだ。

 忍んで逢引きに来た俺の姿を見知った使用人もいるだろうが、大半は初見の筈だ。
 貴族と遜色ないマナーで食事を進める謎の平民女に、好奇の視線がズブズブ刺さるのを、後頭部に感じた。

 「風呂も入っておけ。着替えは有り合わせだが、用意させた。どうせ看病するのだろう? 清潔にしてもらわないと」

 デザートまで、がっつりフルコースを終えたファツィオが、ようやく喋った。

 「承知しました。ありがとうございます」

 貴族の食生活は充実している。保存も効かず合成物もない分、前世より美味な気がする。騎士団で体を動かしていなければ、すぐ樽のように太りそうだ。

 転生者の家らしく、浴室は独立した空間として設計されている。広い浴槽やシャワーも完備だ。俺は、ついエイリークを忘れて、広々とした風呂を堪能してしまった。

 風呂から上がると、確かに着替えが用意されていた。シンプルだが、貴族の夜着一式である。侍女まで待機している。

 「自分でできるので、退室してもらって結構です」

 音もなく近寄ってくる彼女らからバスタオルだけふんだくって、下がらせた。俺の着てきた服の行方について、尋ねるのは諦める。

 廊下で待ち伏せる召使に先導され、元の部屋まで戻ってきた。ファツィオはベッド脇に張り付いていた。夜着である。自室で風呂を使ったようだ。

 「着替えありがとう。サイズぴったりだった」

 「お前用に用意したものだからな」

 「それは‥‥」

 「エイリーク様が僕と結婚したら、お前ももれなくついてくるだろ」

 「ああ、そうね」

 そういう提案をされたことがあった。俺は、後継を産む要員という名目である。肝心のエイリークがうんと言わなかったので、話はそのままになった。彼は諦めていない訳だ。

 俺は、スツールを探してファツィオの隣に並べ、腰を下ろす。エイリークは発熱していて、額に濡れタオルを載せているのに、寝苦しそうだ。ファツィオがタオルをまめに浸す洗面器には、氷の塊が浮いている。

 「ルンデンのトップは、昔からあんな感じなのか」

 「いや。前世では、ヘリヤは華族で素封家のお嬢様らしく超然としていたし、ニルスは彼女に忠実に仕える有能な執事って感じだった。あんな関係になっているとは、びっくりだわ」

 エイリークもあんな風に、ではなくてもいいが、俺を求めてくれたら、今頃俺たちも、と想像すると、羨ましい。

 「あいつ、エイリーク様が女のままだったら、手をつけるようなことを言っていた。前世で何があった?」

 気付けばファツィオが俺を見ている。顔立ちが綺麗なだけに、真剣味が入ると怖い。

 「えー、それは」

 推測でしかないことを、言っていいものか。しかし、確かにファツィオが指摘した通り、ニルスの言により、俺の確信は裏付けられている。

 「実際に何かあったということはなくて、俺の勘なんだけど」

 エイリークがニルスにほのかな恋心を抱いていたこと、ニルスもそれに気付いて悪くは思っていなかったであろうことを打ち明けた。
 ファツィオが頭を抱える。

 「エイリーク様が男に転生して、本当に良かった。あいつ、危ないよな?」

 「うん。そこは激しく同意する」

 そのニルスに、同類認定されていたことは指摘しないでおく。

 どの点をもって同好の士と認識したのだろう。
 セックスを人に見られたいタイプではなさそうだし、エイリークを虐めたい訳でもないと思う、のだが。主を支配したい、とか?

 ファツィオは前世でエイリークの部下だった。その辺りか。それとも、やたら薬を盛りたがる方だろうか。

 「うん」

 話し声のせいか、エイリークが薄目を開けた。意識がはっきりしないらしく、そのままぼーっとしている。

 「水を飲みますか」

 すかさずファツィオが話しかけた。声にならない声が肯定らしき音を出す。熱で水分が足りないのだ。ファツィオは水差しからコップに水を注ぎ、自分で呷った。

 「あ」

 止める隙もなく、エイリークに口移しで飲ませ始めた。少しずつ流し込んでいる。
 やたら長い。舌も使っているように見える。
 しかも、エイリークからもファツィオの唇を求めているように見えた。額のタオルがずり落ちて、まつ毛で止まっている。
 ほぼ視界が塞がれている。妙にエロい。

 俺は、二人を引き離したい衝動を、必死に抑えた。

 ようやく終わると、エイリークは再び目を閉じた。水飲みが長過ぎて、疲れたのではなかろうか。

 「長過ぎ」

 「呼気を冷却して、口内も冷やした」

 ファツィオは悪びれない。悔しい。俺も何か、何かしたい。
 遠慮がちに扉が叩かれ、執事が入ってきた。

 「明日のお仕事に差し障りますので、そろそろお休みになられては如何ですか」

 親のような年齢の男である。実家からついてきた口だろう。ファツィオも、強く出られないようで、渋々立ち上がる。

 「わかっているよな」

 言い差して、その美しい顔をくっつきそうなくらい近付けてきた。

 「手を出すなよ」

 耳元で囁く。

 「わかっているわよ」

 小声で返す。何をどう勘違いしたのか、執事がにこやかに頷く。

 ファツィオが、執事と共に部屋を去った途端に、双手を上げて伸びをした。

 早速、タオルを冷水につけて絞る。改めてエイリークを眺める。よく眠っている。
 既視感を覚えた。

 前世でも同じようなことがあったような。
 彼女は頑丈で、体調を崩すなど、まずあり得なかった。長い付き合いの間でも、せいぜい一度あったかどうか。

 一度毒を盛られたことがあったな。正確に言うと、盛られたのではなく、成り行きで自ら呷ったのだが。
 あの時は、死ぬかと思った。こんな風に倒れるのは、それ以来かもしれない。

 「愛している」

 寝顔に言ってみた。反応はない。眠っている。良かった。
 見込みがない、とはっきりさせられるくらいなら、曖昧なままでいい。
 セックスする度に好きだと口走っているが、取り立てて反応はない。

 多分、前世の知識で、男が性行為中に甘い言葉を吐くのは、快感を高めるための小道具で、中身がない、という説を信じているのだ。
 今世では、俺、女だけれど。前世で女を食いまくった時期があったせいで、信用されていない節がある。

 ふと、頭ばかり冷やしているが、体の方はどうなっているのか気になった。
 やましい気持ちではない。汗をかいたまま放置するのは、気持ちが悪いし体調にも悪い。

 立ち上がってチェストの引き出しを開けると、タオルと共に、替えの服が入っていた。さすが貴族の館、用意がいい。

 戻って、そろそろと掛布をめくる。筋肉で均整の取れた体が現れる。薄い夜着では隠しきれない逞しさである。
 意外にも、汗ばんではいない。手に触れてみると、むしろ冷たい。熱が、上の方に集中しているようだった。

 急いで、しかし丁寧に、掛布を掛け直した。布団に手を潜り込ませ、冷えた手と足を順番に握って温めた。俺の体温が移るにつれ、エイリークの表情がゆるむように思われた。

 一緒に横になりたいが、ダブルキングサイズの広いベッドでも、病人の隣に潜り込むのは躊躇ちゅうちょした。感染するのは構わないけど、もし起こしてしまった時に、気を遣わせたくない。

 かと言って、長椅子で寝るのは遠過ぎる。考えた末、足元の方へスツールを移動し、ベッドへ突っ伏して寝ることにした。
 これなら、気配を感じ、必要とあればすぐに世話ができる。

 ベッドへ体を預けると、寝具を通して、エイリークの体温が伝わるように感じた。

 「これでは、私が本当のメイドみたいね」

 そういえば、転生したばかりの頃に、メイドプレイもした。裸エプロンが思いの外不評だったので、服の上からエプロンを着けることにしたのだ。


 「おはようございます、ご主人様」

 朝立ちフェラで起こされたエイリークの顔は‥‥戸惑っていた。

 「おはよう、ございます。ユリア、様?」

 「エプロンを着ける時には、服を着るように言ったでしょ? 今日は、エイリークがご主人様だからね」

 「メイド喫茶?」

 それを言うなら、メイドヘルスだ、エイリーク。イメクラでも良いが。
 喫茶では、フェラサービスのメニューがない。

 「朝食の用意が整いました。食卓へ、どうぞ」

 朝食のテーブルには、ケチャップでハートを描いたオムレツを用意した。いつもは二人で食べるが、今日はエイリーク一人だ。俺は、傍で給仕する。戸惑いながらも、エイリークは、ご主人様役を受け入れていた。

 「萌え萌え、キュン。とか、しないの‥‥?」

 メイド喫茶が頭から離れないようだ。エイリークの反応が面白いから、我流でしてやった。

 「食後に、ミルク性器セーキはいかがですか、ご主人様?」

 「はい。お願‥‥持ってきてくれ」

 空皿を下げる時、わざとつまずく演技をする。

 「あっ。ハチがこぼれちゃった。拭かなくちゃ」

 そして、エイリークに背を向け、立ったまま、床に濡れ雑巾を当てる。後ろで、ミルクセーキを噴く音がした。

 「ぶ、げほっ」

 「大丈夫ですか、ご主人様?」

 雑巾を放り出して駆け寄り、布巾ふきんでエイリークの前を拭く。胸から、下へ。脚の間は特に入念に。

 「ユリア。下着っ。コホッ」

 「下着がどうかしましたか? まさか、ご主人様は、仕事中のメイドのスカートの中を覗いたりしませんよね?」

 もちろん、見せるために不自然な格好で掃除したのだ。
 メイド服の下は、ガーターストッキングしか身につけていない。

 「見えてしまいました」

 早くも、ご主人様役の仮面が剥がれかけている。せっかく、ここまで盛り上げたのに。

 「まあ。ご主人様は、ミルク臭くなってしまいましたわ。綺麗にして差し上げないといけませんわね。食事も終えたことですし、口の中から始めましょう」

 と、口を塞いで、舌で中を綺麗にしてやった。下着については、ご主人様に穴を塞いでもらった。

 俺のメイド勤務は、朝だけで終わった。どうも、メイドには向いていないようだ。
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