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6 酒盛り毒盛りてんこ盛り * BL描写あり

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  「羨ましい。くそっ、僕だって女を選んでいれば‥‥じゃあお前、エイリーク様の処女、いや童貞か、とにかく初めてを奪ったのか」

 「奪ったなんて人聞きの悪い。私も処女を捧げたし」

 一応同意は得たものの、転生直後のエイリークの混乱につけ込んで、既成事実を作ったようなものである。そこは伏せておく。

 前世で気に食わなかった男が悔しがるのを見るのは、胸がすく思いだった。ただ美形ゆえに、そんな表情でも麗しく見えてしまうのが残念だ。

 「ううっ、何が処女だ。前世で散々遊んでおいて。エイリーク様と僕が、後始末にどれだけ苦労したか」

 前世の愚痴が果てしなく始まりそうなところで、ノックの音がした。

 「失礼します。エイリーク様のお支度が整いました。ご案内いたしますか」

 ファツィオは我に返り、威厳を取り戻した。

 「今行く」

 「私を連れて行った方がいいわよ。どうせ、聞かれるでしょうから」

 碧眼が、冷えた視線を俺の体に向けた。さっきまで俺の上で喘いでいた癖に。

 「その格好で部屋の外へ出るのか?」

 見下ろすまでもなく、あのエロいスケスケ布しか身に纏っていない。おまけに脚の間はファツィオと俺の情交跡でぐちょぐちょだ。

 「ちょっとだけ、待って」

 部屋を見回すと、さすが貴族の寝室。お清め用具一式揃っている。後ろを向いて手早く拭き、ラックに掛かっていたガウンを着込んだ。

 意外にも、ファツィオは大人しく待っている。

 「ありがとう。行きましょう」

 「本当に、女なんだな」

 俺たちは、連れ立って寝室を出た。迎えに来た使用人が、何だか嬉しそうに俺たちを交互に見たのが気に入らない。
 しかし、今思ったことを口に出せば、面倒なことになるのは、わかりきっている。だから、黙って案内に従った。


 エイリークは、ナイトガウンの前をきっちり閉めて、部屋の中央に立っていた。俺と同じく頭のてっぺんからつま先まで磨きをかけられ、貴族と見紛う姿となっていた。格好いい。

 そして、入ってきた俺たちの姿を見るなり、その場へひざまずいた。使用人を下がらせ振り向いたファツィオが、慌てて駆け寄る。

 「ああ、エイリーク様。どうか、お顔をあげてください」

 「お初のお目通りにも関わらず、このような格好でお迎えすることをお許しください。ベタウン子爵様に、冒険者エイリークがご挨拶申し上げます。この度は、過分なおもてなしをいただき、心よりお礼申し上げます」

 確かに、兵士が子爵の命令で俺たちを連行する、と言っていた。ラヤバッタ伯爵は、三男坊にまで子爵位を持たせているのか。どれだけ爵位が余っているんだ。よほど、羽振りの良い家柄と見える。

 「エイリーク様、僕です。ファツィオ、ああ、前世の名前が言えない」

 前世、の言葉にエイリークが反応した。顔を上げて、ファツィオを見た。黒い瞳が大きく見開かれる。彼が誰だか気付いたのだ。俺の鼓動が早くなる。

 「ご無沙汰しております。ファツィオ様」

 俺までガックリくるような、冷淡な挨拶だった。むしろ、前世の印象そのままなことを思えば、彼なりの配慮の表れとも考えられる。

 ただし、前世から上司に懸想していた元部下の期待には、反している。
 ファツィオの落胆ぶりは酷い。顔色が青ざめている。

 「エイリーク様。僕は貴族と言っても末端です。それに、ここは三人だけです。堅苦しい礼儀作法は、抜きにしましょう。どうか、お立ちください」

 エイリークに駆け寄り、抱え込むようにする。彼の方は、元部下のどさくさに紛れた抱擁を、身のこなしでするりとかわし、立ち上がった。
 そこへ、使用人が、ボトルとグラスを三客運んできた。途端に、ファツィオが威厳を取り戻す。自動的に切り替わるのだろうが、側から見ていると、コントみたいで面白くもある。

 「ご苦労。もう、全員下がって良い」

 ファツィオ手ずから盆を受け取り、使用人を扉の外まで押し出すようにして下がらせ、鍵を閉めた。
 ここには、俺の寝室にあったようなコネクティングルームが、ない。つまり、職務で聞き耳を立てる奴はいない。

 「さあ、これで本当に、僕らだけです」

 部屋の隅にあるローテーブルに盆を置き、ソファへ腰を下ろす。
 コルク栓を抜いて、手際よく三つのグラスに中身を注いだ。琥珀色の液体である。さっき俺が飲んだ、グラスの中身と同じだろうか。

 「再会を祝して、一杯やりませんか?」

 俺が好奇心からソファへ近付くのを見て、エイリークも寄ってきた。ファツィオの向かいに、並んで座る。
 美しい眉毛が、ぴくりと動いた。

 「前世なら、僕と並んで座ってくれたのに。お付き合いなさっているというのは、本当なんですね。僕のことは、ファツィオと呼んでください。敬語も不要です」

 エイリークが赤面した。座った拍子に、はだけた夜着の胸元まで、赤い。こんな時だが色気を感じる。

 「了解した。まあ、そういうことだ。ファツィオも様付けは止めてくれ。敬語も要らぬ」

 「ああ、男になっても素敵です、エイリーク。敬語は‥‥なかなか抜けませんね。努力します。では、再会を祝して、乾杯」

 グラス同士を軽く合わせ、一気に飲み干す。俺に用意された物より、大分濃い。奴め、エイリーク相手に奮発したな。
 グラス自体も、流麗な紋様が刻み込まれた高級品だ。

 「騎士として王都で活躍していると聞いた。幾つになった?」

 「十八です」

 「年上だわ。前世じゃ年下だったのに。私たち十六よ」

 「それは、何となく嬉しいですね」

 前世では酒をほとんどたしなまなかったエイリークも、今世では水代わりに供されるせいか、常に何かしらアルコールを摂取している。グラスを見ると、半分ほど残していた。

 「お口に合いませんでしたか。他の品を用意しましょう」

 自分のグラスを空にしたファツィオが、立ち上がって壁の方へ行く。作り付けの扉付き棚に、酒瓶が飾ってあった。彼は片端から蓋を開けては匂いを嗅ぎ、やがて新しいグラスに注いだものを持ってきた。同じく琥珀色だが、立ち上る香りが先ほどよりマイルドだ。

 「こちらの方が飲みやすいかも。どうぞ」

 にこやかに勧める。俺も味見したい。エイリークと目が合った。

 「ユリアも試してみますか?」

 ファツィオの長い指が、グラスを押さえた。

 「だめ。エイリークのために選んだんだ。せめて、僕の前ではいちゃつかないで」

 碧眼をうるうるさせて見つめる。悔しいが、美形の上に愛嬌があって、破壊力絶大だ。

 視界の外にいる俺でさえ、先ほど突っ込まれた膣穴がジュワッと濡れるのを感じた程だ。
 エイリークも前世で、こいつのあざとさに弱かった。今も、仕方ないなあといった表情で、グラスに手を伸ばす。

 「すみません、お先にいただきます」

 俺に詫びると、量が少ないこともあって、今度は全部流し込んだ。そんなに美味いなら、俺も飲みたい。

 「良い酒をありがとう。ユリアにも少し飲ませていいか。それから、他の酒も見たい」

 「いいでしょう。グラスを新しくしましょうね」

 「いや、これでいいだろう。どの瓶だったか、な」

 立ち上がったエイリークの足がもつれた。慌てて駆け寄るファツィオ。俺も負けずにソファから‥ずり落ちた。
 しまった。同じ瓶から注いでいたから、油断した。奴は、解毒剤でも飲んでいたのか。

 「ああ、申し訳ありません。部下たちが勘違いしたせいで、牢で酷い扱いをしたのですね」

 「違う。ファツィオ、貴様何を盛った?」

 床に膝をついたエイリークが、苦しげな呼吸で、元部下を見上げる。
 金髪美形は、こんな時でも、美しく微笑んだ。

 「やはり、エイリーク様には、バレてしまいましたね。前世の毒耐性が引き継がれている可能性を考慮しましたが、まだ盛り足りなかった。ご心配なく。命に別状はありません。ただ、痛みを抑えて気持ちよくなるだけです」

 「媚薬、か」

 俺の声に、薬で動きが鈍っている筈のエイリークが、驚くほどの勢いで振り返った。

 俺は、ソファからずり落ちたまま、寄りかかっていた。情けなくも、腰が立たない。そして、やたらとファツィオの美しさとエイリークの色気が際立って見え、体が疼く。

 「ユリア様にまで‥‥既に、汚したのか」

 妬いているのかしらん、と思うと嬉しい。そんな場合じゃないのだが。
 エイリークの言葉に、ふと自分の体を見下ろす。ずり落ちた拍子に、ガウンがはだけてしまっていた。

 肌に点々と浮かぶ赤い痕。キスマークだ。
 エイリークすら目立つ場所には決してつけないのに、ファツィオは遠慮なくあちこち吸っていた。

 改めて見ると、恥ずかしい。よく今までエイリークにバレなかったな。服と髪の毛で上手く隠れていたのか。

 「あれは、ちょっとした手違いです。エイリーク様に妬いてもらえるなんて、光栄です。それにしても、まだ起きているなんて、ユリアは一回飲むと耐性がつくのかな。すごいチート能力だ。僕も転生する時、もっと色々つけて貰えばよかった」

 違う。エイリークは、お前に妬いているんじゃない、と突っ込みたいが、喋るのが億劫おっくうだ。
 思い出した。魔法。俺は、奴を攻撃した。

 「残念。この城全体に、魔法防御を施してある。全然使えないと不便だから、部分的にはいじってあるけど、とにかくお前の魔法は、効かないよ」

 「ユリア、様」

 立ち上がろうとして、また崩れるエイリークを、ファツィオが優しく抱きかかえた。今度は、エイリークも避けられなかった。
 前世より背も高くなり、騎士らしくたくましい体つきの上に、愛らしさもある美しい微笑みを浮かべた顔が載っている。

 「心配ありません、エイリーク様。僕はもう、あなたしか抱きませんから」

 もう一度、エイリークが頭を上げた。ぎょっとしたような横顔。

 「ファツィ‥‥私は、男、だぞ?」

 「問題ありません。その呼び名も、いいですね」

 俺は、先刻ファツィオに夢うつつで抱かれた時のことを、思い出した。
 悔しいが、気持ちは、良かった。考えただけで、陰部が濡れる。これもそれも、媚薬の効果だな。

 「んむっ」

 エイリークが、金髪美形とキスをしている。その相手は、俺じゃない。ファツィオはがっつり口を覆い、最初から舌を入れ込んでいた。

 にちゃっ。

 「ああ。エイリーク様、愛しています」

 恍惚とした表情でファツィオが呟き、エイリークが何か言いかけた口を塞ぐ。元々、薬で力が入らなかったエイリークの体から、更に力が抜けた。

 もう、限界だった。
 ファツィオが、キスしたままエイリークを抱き上げるのを見ながら、俺は暗い淵に落ちていった。
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