異世界二周目に入ったので、前々世はロンダリングされました。今度は自重しません。

在江

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15 人妻王妃

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 「勿論もちろん、構いません。では、軽く調度品のご説明を致しましょう。ああ、実技の先生方は、お先に始めて、おくつろぎください」

 と侍女にテーブルの世話を任せた。俺とダークエルフは紅茶を飲む。
 ダークエルフは綺麗に盛り付けられた菓子に視線をただよわせ、俺は人魚助教授と王妃の背中を、何心なく眺める。

 「こちらの寝台は、本来天蓋てんがい付きですが、今回どの角度からも観察できるよう、敢えて取り外しておりますの」

 「この花瓶にある生花は、王宮の庭で育てられておりますのよ」

 助教授は、段々スケッチに夢中になって、王妃の説明が右耳から左耳へ抜けている様子であった。
 俺は、彼女がこれ以上礼を失して罰せられないか、心配になってきた。

 「よろしければ、ご一緒にご覧になられてはいかがですか?」

 側で茶菓子を取り分けていた、侍女が俺に声をかけた。ダークエルフは、菓子を一種類ずつ、一心に味わっている。

 俺は、席を立った。

 人魚助教授は、王妃の説明に一応の生返事をしながら、手を動かしている。これはもう、条件反射のようなもので、彼女は漫画の資料を写しとることしか頭にない状態である。

 王妃は、助教授の邪魔をしないよう、離れた位置に立ち、一通りの説明を終えた後は、話しかけるのも最小限に抑えていた。つまり、ばれている。侍女、あるいは俺たちの手前、体裁を取り繕うのに協力しているのだ。寛大な心の持ち主である。

 俺の恋慕が炎を上げ始めた。媚薬の影響が、まだ残っていたのかもしれない。
 人魚助教授の様子を窺う体で、二人に近づく。一歩一歩、足を進める毎に、緊張が高まる。
 遂に、助教授から離れて立つ王妃の側まで、たどり着いた。

 俺は、高貴の人の傍らを通り過ぎる失礼を、詫びるふりをした。やや腰をかがめ、声をかける。

 「王妃様」

 振り向いた瞬間、俺は闇魔法を放った。


 俺が使った魔法は、異空間を作り出すものだ。
 前回、俺の召喚者が、これをアイテムボックス代わりにしていた。

 空間内部に存在する物は、外の時間の影響を受けない。つまりは、時間が止まった状態になるのではないか、との推測を基に、実験を重ねてきた。

 人間を二人丸ごと収納できるほどの空間を作り出すのは、色々大変だった。
 全ては、この瞬間のため、研究し、実験し、準備を整えた。付け加えるならば、人間二人とベッド一台だ。

 「これは‥‥?」

 「私にお話があるように拝察はいさつ致しました故、用意した部屋にございます。音もお気になさらず、過ごせます」

 俺は、王妃の故国語で話した。
 本番の今日は、予行演習の時よりも僅かに髪の色を濃く変え、服装にもその国を連想させる要素を取り入れ、他の者から怪しまれない程度に、王妃の初恋の人に外見を似せていた。

 王妃は、俺をひたと見つめた。
 戸惑いと切なさの混じったような、複雑な表情だった。

 「貴方の魔法で、私の心を読んだのですか」

 「いいえ。ただ、お力になれれば、と思いました」

 王妃も故国語で返した。それだけで、身にまとった王族のベールが剥がれ落ちていく。王妃は、力が抜けたように、ベッドへ腰掛けた。他に、座る場所がなかった。

 「私は、幸せな身です」
 
 俺を見ずに言う。俺は、王妃の視界に入らない程度に、歩を進めた。

 「異国から嫁いだ身で、国民に受け入れられ、王にも愛され、五人も子を成し、それぞれすこやかに育っている。何不自由ない生活、そして人生」

 俺はおもむろに王妃の前へ出、ひざまずく。王妃が頭を傾ける。

 「不思議ですね。貴方は、別の世界から来た人なのに、懐かしい故国を思い出させます。今日は一段と」

 「姫」

 卑怯な真似だと、十分に理解していた。

 あと数年待てば、王妃は故国へ赴き、初恋の人と再会することになる。

 その時に生まれる筈の、深い感情を、俺が先んじてかすめ取ろうとしていた。
 だが、俺の欲しいものは、まさにそれだった。だからこそ、暗黒神と契約して、魂を召喚したつもりだったのだ。

 召喚が失敗したと確信した後は、今日のような機会があることを期待して、ひたすら闇魔法を極めた。まさか、その機会が、夜伽教育とは思いもよらなかった。

 「一度だけ」

 王妃の手が前へ出る。俺も跪いたまま、手を伸ばす。

 「気持ちを受け止めてもらえたら、思い出を抱いて満足すると思うのです」

 指先が触れ合う。弾かれたように離れたのは一瞬で、すぐに指同士が求め合った。
 手を握りしめた勢いで立ち上がりつつ、体を前へ押し出し、姫を抱き取った。もろとも、ベッドへ倒れ込む。

 たかぶる気持ちを抑えつつ、意志の力を最大限にして、優しく唇に触れる。
 躊躇った後、柔らかな唇が、俺に押し付けられてきた。強引に押し入りたいのを、更に堪えて唇を攻める。手が体をまさぐり、本能的に下半身の一点を目指した。

 姫の外見は、前世の妻に似ていた。
 実際に触れてみると、あちこちの匂いが記憶と違ったり、産毛があったり、と異なる点ばかりに意識が向いてしまう。何よりも、他の男に抱かれた跡が、癖として体に刻み込まれていた。

 それでも、いや、それ故に、子供を産んだ女としての体つきや、特に膣の具合などは、妻を思い出させる程度には似ているのであった。

 そういえば、ダークエルフも処女ではなかった筈なのに、最初から違和感なく抱くことができた。何故だろう。
 他の女のことは、忘れる。今は、目の前の姫に集中しよう。

 息が上がり、姫の唇が開いた。呼吸を合わせて舌を差し入れる。自然な流れで迎えられた。にゅるにゅると絡ませる舌の間から、涎が溢れ出す。

 「んぐっ」

 互いに吸い合った。

 服の脱がせ方がわからない。力任せに、どうにか胸元を緩めて豊満な乳房を引き出し、スカート部分をまくり上げる。下履きを剥ぎ取ると、下半身があられも無い姿をさらけ出した。

 既に蜜が溢れんばかりに満たされ、俺を待つ。急いでゴムをつけ、一気に挿入した。全く抵抗がない。じゅぶじゅぶと、愛液を掻き分け奥まで進む。押し除けられた粘液が、周りから内腿へ垂れた。

 「ああっ」

 切なくも歓喜を帯びた声が、俺をあおる。両脚を上へ折り曲げ、激しく突きながら唇をむさぼる。

 「あっ、あっ。いいっ」

 姫の腰も揺れ動く。目が半ば無意識を彷徨さまよう。その口から出たのは、初恋の人の名前だ。
 腰が止まりそうになる。姫が正気を取り戻しかけるのに気付き、急いで突きを再開した。

 「ああ、もっと、もっと」

 「姫っ」

 時間の流れが止まった部屋で、俺たちは幾度も交わった。姫はの名前を叫ぶように呼び、俺も途中から妻の名前を何度か口にした。

 余裕を持って用意した筈のゴムが切れ、ベッドにあった代用さやも使い果たし、ようやく俺たちは、二つに離れた。

 キスマークがついていないか全身を確認しがてら、体液で汚れた体や、乱れた髪を魔法で元通りにする。二周にわたる寮生活での経験が、役に立った。

 「これで、終わりですのね」

 服の乱れを俺と共に直しながら、王妃が念を押す。激しく体力を消耗した後の掠れた声にも、色気がにじんだ。

 「ゴムなしでするなら、続けられますよ」

 陥落させられなかった。俺は、僅かな望みを抱いて、提案する。

 「それは、できません」

 即答だった。落胆と安堵が俺を包む。
 これを機に、密かな逢瀬を続けたいと王妃が願うならば、俺はいずれバレて国を追われようとも、応じるつもりだった。
 同時に、一度は俺の罠にはまっても、それ以上夫を裏切るつもりはない、と断言する王妃を好ましく思った。

 そう、罠である。いきなり密室に犯人と閉じ込められたら、ひとまず従うしかあるまい。犯人が、逆上して命を奪う危険がある。まして連れてこられた場所は地上のどこでもない異空間で、王妃は魔法を使えない。

 俺は王妃が嫌だと言うならヤるつもりはなかったし、王妃も仕方なく、というよりは、もう少し積極的に応じてくれたと感じたけれど、この場限りのことである。時間が経って、見方が変わることもある。

 俺は、王妃の手に口付けた。

 「お互い、良い思い出になることを願います」

 「ええ。胸にしまっておきます」

 俺の気持ちは通じただろうか。答えからは、何も読み取れなかった。

 王妃から距離をとり、俺は闇魔法で空間を消し去った。
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