人生前のめり♪

ナンシー

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111 日常 先週末(私をスキーに連れてって)

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よく晴れた、冬の休日。
晴和ハルと美希は、スキー場に来ていた。
美希は家族の影響で、スノーボード派なのだが、一度はスキーもしてみたいと思っていた。
友人のハルにその話をしたら、スキー板やスキー靴も貸してくれたのだ。

ハル「美希、もう少し身体起こしてー♪そう、いい感じ!」

美希「腰が退ける~(@_@;)あああ~!!」

プルークボーゲンの姿勢をなんとかキープしながら斜面を滑る美希。
その後ろでゆっくり滑りながら美希にアドバイスするハル。

ハル「大丈夫、大丈夫!両手下げないで、もっと前に。大きなテディベア抱っこする感じにもふっと丸くー♪」

美希「曲がるときは~谷に向かって~」

ハル・美希「「命!」」

美希は、順調に滑ることができていたので、中級のロングコースで休み休み特訓中。

ハルの独特なアドバイスの表現も可笑しくて、転んでも何しても楽しい♪
『命』という、あるコメディアンの決めポーズは、スキーのとき安定するポーズなのだよ!なんて説明されるとインパクトが強すぎて忘れることもできない。

美希「晴和、物足りないでしょう?滑ってきてもいいよ?」

ハル「え~、美希と一緒で楽しいよ!」

美希「私も楽しい♪でも遠慮しないでね。」

ハル「うん、もちろん!あ、ちょっと気をつけて滑っててね!」

美希の視界の端に、スキー板が一本フラ~っと滑っていった。どうやら転んだスキーヤーの板が外れてしまったようで、ハルはそれを追いかけていった。

さすがは私の心の友よ~なんて考える余裕はないので集中して滑らなきゃ…と思った美希の後ろからジャジャッ!と大きく雪を削る音がした瞬間、足元を掬われる衝撃があった。

美希「あぁ~っ!」

止まりもせずかっ飛んでいったボーダーが美希のスキー板に接触したようで、前につんのめる形で転んでしまった。
幸い、スピードは出ていなかったから転がるだけで済んだようだが、板はクロスしてるし手をついても体は持ち上がらない。
美希はまだスキーで立ち上がるのに慣れない。
つい、ボードのときと同じ感覚で立とうとしてしまうのだ。

あわあわしていると、すぐ下から声が掛かった。

男性「怪我はありませんか?」

美希「あ、はい、何ともないです。」

美希より谷側にいるにも関わらず、背の高い男性が美希を見下ろしていた。
転んだのを心配して止まってくれたスキーヤーのようだ。申し訳なくて慌てて体を起こそうとするが、スキー板がズルズル滑り落ちていくのを止められず、尻餅をついたままで、更に慌てる。

男性「落ち着いて。まずは無理に起きなくていいので身体を山側に横になるように倒して。」

低めだが、凛と響き、一言一言はっきり話す男性の声に、思わず従う美希。

美希「え、は、はい。」

男性「そう、それから板を揃えて…難しいなら一度外すか?」

美希「いえ、なんとかなるかと…あ、転んだときも『命!』だったっけ。」

その男性の声を聞いているうちに何故か安心した美希は、ようやく落ち着いてコロンと雪の上に身体を倒し、スキー板を水平に揃えると、ふぅっと息を吐いた。

美希「命!」

男性「ぶはっ!」

思わず吹き出した男性は、肩を震わせ、声を上げて笑っている。

しまった!晴和ハルと言い合ってたからつい声に出ちゃった!

美希「は、恥ずかし~(ノД`)シ」

立ち上がろうとするが、恥ずかしさのあまり立てない…というかこのまま雪に埋もれてしまいたい(。>﹏<。)
ふとストックに負荷がかかり、体がふわっと浮く。

美希「あ、きゃ!」

いとも簡単に引き起こされた…と、眼の前で陽射しを遮るスキーウェアの影。美希の真上から…しかもすぐ近くから声が掛かった。

男性「笑って済まない。どこも痛まないか?」

美希「は、はい。」

男性「よし。」

ようやくバランスの取れた美希を確認して、男性がストックから手を離す。
そして、美希が顔を上げると眼の前には、ゴーグルと笑みの形の口元…その時、二人のスキー板が、かちゃりと当たった。

美希が、ハッとして足元のスキー板を見る。
とその瞬間、男性のスキー板がするっと離れて行った。

美希「あ…」

そこにハルが戻ってきた。

ハル「いや~一人にしてごめん。ちっちゃい子の板が滑って行っちゃったみたいで…美希も転んでなかった?大丈夫?今の人がぶつかったの?」

美希「大丈夫…今の人は、関係ないのに助けてくれたの。」

ハル「おお!ジェントルマン!」

ハルが、雪だらけのウェアをパタパタ払ってくれるが、美希はぼーっとされるがままだ。

ハル「ん?美希ちょっと休む?」

美希「あ…私…私…お礼言ってない!」

美希は、我に返って慌てだした。それを見たハルは、いつもの美希との違いに押され気味だ。

ハル「え?あ、そうなの?えと、また滑ってくるかな?どんな人か特徴わかる?ウェアの色とか青っぽくなかった?」

美希「白いの!」

ハル「あれ?白かったっけ?」

美希「スキーが!スキー板が白かったの!」

ハル「おお?!」

美希は、理由はわからないが、ドキドキうるさい鼓動と泣きそうになっていることに、混乱する。

その後は集中力も切れ、転びまくったが、ハルに助けてもらってなんとか下まで降りた。
そして、リフト乗り場の近くにあるレストハウスに席を取り、リフトに乗る人の中から男性の姿を探したが、見つけることはできなかった。
ハルも、一人で何度か滑りながら探してくれたが、白いスキー板の人はいなかったとのことだった。


帰り道、しょんぼりする美希を、ハルは励ますように告げる。

ハル「私、白いスキー板というだけなら、何となく思い当たることがあるんだけどな~。」

美希「え?ホント?」

ハル「確定はできないけど、ちょっと知り合いに聞いてみるね。」

美希「ありがとう!わ、私もまたスキーしに…あ、今度はボードしに来る!」

ハル「おおぅ~本気モード♪白馬ならぬ、白いスキーの王子様~♪あ、ここは、ガラスの靴のシンデレラを探すってことで、白いスキー板のお姫様?」

ハルが何やらによによしているが、美希にはそんなことも気にならない。
ただ、ちゃんとお礼を伝えて、もう一度あの声を聞きたかった。
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