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95 日常 (山に行く 捜査協力)
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仕事の昼休み。
ハルの電話が鳴った。ディスプレイを見ると『○△警察署』と表示されていたので、ハルはすぐ電話に出た。
ハル「はい、佐藤です。」
○△警察署『こんにちは、○△警察署のAと言います。突然のお電話失礼します。
先日、B山登山口から山に登られた入山届を見て電話をしています。佐藤さんとは直接関係ない話かもしれませんが、いくつかお伺いしても宜しいですか?』
ハル「はい、大丈夫です。」
警察官の話によると、ハルが入山届を出したのと同時期から、同じ登山口に車が停まったままであると、付近の住民から通報があったそうだ。しかもそれらしき入山届が無く、ハルと同郷のナンバーだったことから電話を掛けてきたのだという。
○△警察署『佐藤さんらしき人が一人で来られて、車を停めたとき地元の方とお話されてから登られたことを聞いています。もちろん車のナンバーは書かれていたのですが、もしかして一緒に登山された友人の可能性はないかと。またお知り合いがいらっしゃらないですか?』
ハル「その日は、一人で登りました。たしかに、おじ様3人が喋っていらしたので、挨拶してから登りました。
予定では山中で一泊するつもりでしたが、悪天候だったのでその日のうちに下山しました。山の中では誰とも会いませんでしたし、下山したときも他の人の車はなかったと思います。」
○△警察署『そうですか。因みに、その登山口からだとどの山に登ることができますか?』
ハル「そこから南へ舗装路を歩けば、Cというバス停からC山に登ることができます。私もC山から登り、B山まで登山道を歩いてぐるっと周回するようにして車に戻りました。そこからまだ先の方へ行く人も多くて…私も天気が良ければそうするつもりでした。」
ハルは警察官に聞かれるままに、自分の知り得る事は全て話した。
…その日は、天気予報では朝だけ雨で晴れると言っていたが、一日中あられが降る悪天候だったこと。
…あまり人気のない登山道であり、その理由はアプローチが悪く道迷いしやすいこと。
…水場が少ないこと。
…携帯の電波が届きづらい山域であることなどなど…。
○△警察署『ご協力ありがとうございました。』
ハル「いいえ、何事もありませんように。」
そんなやり取りを最後に、電話は切れた。
登山をするとき、どんな里山であってもハルは入山計画書と入山届を書く。一枚は提出し、家に一枚コピーを残し、自分もコピーを持つ。
また、提出先となる最寄りの警察署の電話番号を必ず登録することにしている。だから、今回も知らない番号ではなく警察署からの番号だと知り、すぐ電話に出ることができた。
警察署とのやり取りで、少なくとも、放置されていた車は、ハルが下山した後に置かれたことがわかった。
入山届は自分のためだけでなく、こういったときにも役に立つのだ。
それでも、ハルはモヤモヤした気分になってしまった。
通報された車の持ち主は、入山届を出さないで
山に入ったということだ。
今も元気に縦走しているかもしれない。
しかし、地元の人に心配と迷惑をかけている。
ましてやハルと同郷の人(知らない人ではある)が、である。
申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
山に登るには、リスクと責任が付きまとう。
少しでもリスクを減らす意識が大切である。
『まあ、なんとかなるだろう。』
とか、
『自分だけは大丈夫』
とか、思えないし、絶対はない。
今回車の持ち主がもし本当に遭難していても、気づくのは遅れることになる。気がかりが車しかないからだ。
万が一家族に行き先を知らせていたら、捜索願が出されるかもしれない。
本来なら、それから初めて警察が動く。
山中を捜索する事になっても探す範囲が絞れない為、山岳会や警察の手に負えなければ、自衛隊の派遣もあり得る。
少しの手間や感謝の気持を忘れて、優しい誰かや忙しいあの人達に迷惑や心配をかけるなんて、無責任だと思う。
ハル「今度タカさんに話を聞いてもらおう。」
きっとタカさんなら、真剣に話を聞いて、一緒に考えてくれるだろう。
そして、自分達も気をつけようね、と言ってくれるに違いない。
ハルの電話が鳴った。ディスプレイを見ると『○△警察署』と表示されていたので、ハルはすぐ電話に出た。
ハル「はい、佐藤です。」
○△警察署『こんにちは、○△警察署のAと言います。突然のお電話失礼します。
先日、B山登山口から山に登られた入山届を見て電話をしています。佐藤さんとは直接関係ない話かもしれませんが、いくつかお伺いしても宜しいですか?』
ハル「はい、大丈夫です。」
警察官の話によると、ハルが入山届を出したのと同時期から、同じ登山口に車が停まったままであると、付近の住民から通報があったそうだ。しかもそれらしき入山届が無く、ハルと同郷のナンバーだったことから電話を掛けてきたのだという。
○△警察署『佐藤さんらしき人が一人で来られて、車を停めたとき地元の方とお話されてから登られたことを聞いています。もちろん車のナンバーは書かれていたのですが、もしかして一緒に登山された友人の可能性はないかと。またお知り合いがいらっしゃらないですか?』
ハル「その日は、一人で登りました。たしかに、おじ様3人が喋っていらしたので、挨拶してから登りました。
予定では山中で一泊するつもりでしたが、悪天候だったのでその日のうちに下山しました。山の中では誰とも会いませんでしたし、下山したときも他の人の車はなかったと思います。」
○△警察署『そうですか。因みに、その登山口からだとどの山に登ることができますか?』
ハル「そこから南へ舗装路を歩けば、Cというバス停からC山に登ることができます。私もC山から登り、B山まで登山道を歩いてぐるっと周回するようにして車に戻りました。そこからまだ先の方へ行く人も多くて…私も天気が良ければそうするつもりでした。」
ハルは警察官に聞かれるままに、自分の知り得る事は全て話した。
…その日は、天気予報では朝だけ雨で晴れると言っていたが、一日中あられが降る悪天候だったこと。
…あまり人気のない登山道であり、その理由はアプローチが悪く道迷いしやすいこと。
…水場が少ないこと。
…携帯の電波が届きづらい山域であることなどなど…。
○△警察署『ご協力ありがとうございました。』
ハル「いいえ、何事もありませんように。」
そんなやり取りを最後に、電話は切れた。
登山をするとき、どんな里山であってもハルは入山計画書と入山届を書く。一枚は提出し、家に一枚コピーを残し、自分もコピーを持つ。
また、提出先となる最寄りの警察署の電話番号を必ず登録することにしている。だから、今回も知らない番号ではなく警察署からの番号だと知り、すぐ電話に出ることができた。
警察署とのやり取りで、少なくとも、放置されていた車は、ハルが下山した後に置かれたことがわかった。
入山届は自分のためだけでなく、こういったときにも役に立つのだ。
それでも、ハルはモヤモヤした気分になってしまった。
通報された車の持ち主は、入山届を出さないで
山に入ったということだ。
今も元気に縦走しているかもしれない。
しかし、地元の人に心配と迷惑をかけている。
ましてやハルと同郷の人(知らない人ではある)が、である。
申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
山に登るには、リスクと責任が付きまとう。
少しでもリスクを減らす意識が大切である。
『まあ、なんとかなるだろう。』
とか、
『自分だけは大丈夫』
とか、思えないし、絶対はない。
今回車の持ち主がもし本当に遭難していても、気づくのは遅れることになる。気がかりが車しかないからだ。
万が一家族に行き先を知らせていたら、捜索願が出されるかもしれない。
本来なら、それから初めて警察が動く。
山中を捜索する事になっても探す範囲が絞れない為、山岳会や警察の手に負えなければ、自衛隊の派遣もあり得る。
少しの手間や感謝の気持を忘れて、優しい誰かや忙しいあの人達に迷惑や心配をかけるなんて、無責任だと思う。
ハル「今度タカさんに話を聞いてもらおう。」
きっとタカさんなら、真剣に話を聞いて、一緒に考えてくれるだろう。
そして、自分達も気をつけようね、と言ってくれるに違いない。
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