14 / 19
病み系男子の一途な想い6
しおりを挟む「……ふわぁぁ……」
ここはアミュレット王国王都に三つある冒険者ギルドの中の一つ、比較的貴族街の近くにある通称青のギルド。
通称名の青は、水属性魔法の得意なゲイル侯爵家が近くにあるから……ということではなく、このギルドの建物の屋根が青いから。ただそれだけ。
ちなみに、あと二つあるギルドは、赤と黒であるが、意味はここと一緒、屋根や建物の色からそう呼ばれているだけである。
その青のギルドの一角、入口からすぐに作られている、いわゆる受付席に座っている、「受付嬢」。
その可愛らしい?受付嬢の口から、それなりのボリュウムで聞こえてきたのは、まごう事無き欠伸の声である。
今の時間は、まだ昼食前。
ここ冒険者ギルドの中では一番暇な時間と言えるかもしれないとき。
早朝の依頼受注ラッシュと、夕方、王都の閉門時間前後の依頼確認ラッシュの狭間の時間。
一日中開いている冒険者ギルドの、夜間から早朝シフトについた者にしてみれば、もうすぐ下番前の一番疲れが出てくるときであったりする時間。
閑散としたギルド内を眺めながら、目の端に溜まった涙をぬぐって、もう一つ生まれてきそうだった空気の塊を飲み込むことで意識を覚醒させた彼女は、背後に設置されている時計に目をやって、この苦行の長さを確かめたのだった。
どこの国でも、冒険者ギルドの受付嬢という職を得ることは、なかなか難しい。
受付という性質上、生まれながらの貴族のお嬢さんでは、まず自分よりも身分の低い民人に頭を下げることを良しとしない。
建物の入り口で、人を中に入れることができなければ、どのような業務もできなくなる。
必然的に、どのような者にでも、取り敢えず笑顔で頭を下げることを厭わない人物でなければ受付という仕事はできないのである。
その上、見た目もあえて威圧を与えるという意味が無いのであれば、美しいことに越したことは無く、その上ある程度物騒なことが想像できる場所であるので、肝が据わっていることとある程度腕っぷしが無いと、これもまた勤めることが難しい職場であるのだ。
であるのに、なぜ冒険者ギルドの受付嬢が若い女性(平民の)にとって羨望の仕事であるのか?
それは、ただ一つ、『玉の輿に乗れる確率がどの仕事をするよりも高い』と思われているからである。
何も貴族に嫁ぐことだけが玉の輿ではない。
身分の差を超えた結婚ということについては、夢を見ている者も一定数居るかもしれないが、ほとんどの乙女は結構現実を考えていて、その結婚が物語ほど幸せになれないかもしれないということを、本能で知っていたりするものだ。
では、受付嬢達の言う玉の輿とは?
身分ではなく、はっきり言って『金』である。
どれだけ裕福になれるかと言うこと。これ一点と言っても過言でない。
そこで、手っ取り早くこの世界で金持ちになるには?
男児であれば、身分関係なく冒険者!
女子であれば、その妻!
となるわけで、すでに高ランクの冒険者に近づくにしても、将来有望な高ランク冒険者の卵に近づくにしても、ギルドの受付嬢ほど、その確率の高いところにいる者はいないわけで……。
冒険者ギルドの受付嬢の椅子の奪い合いは、どの国でも厳しいものとなっているのだ。
「……が、どこにもそんな将来有望な男なんて居ないのよね……」
せっかく、この王国の冒険者ギルドの中でも、比較的貴族街に近いこの「青」に、有望な冒険者が多くいると聞いて、何とか「黒」から移動してきたのに、結局どこでも冒険者は品がないむさくるしい男ばかり……。
「ため息と共に欠伸だって出ちゃう」
今この場に居るのはシフトが変わるのを待っている一人だけ、それ以外の受付嬢たちは、今朝受けた依頼や割り振った依頼の確認のため、受付カウンター前のこの場には居なかった。
受付に設けられている衝立の中で、机に肘をついてだらしなく椅子に座っているときに、ギルドの扉のきしむ音がしばらくぶりに聞こえたのだった。
ここはアミュレット王国王都に三つある冒険者ギルドの中の一つ、比較的貴族街の近くにある通称青のギルド。
通称名の青は、水属性魔法の得意なゲイル侯爵家が近くにあるから……ということではなく、このギルドの建物の屋根が青いから。ただそれだけ。
ちなみに、あと二つあるギルドは、赤と黒であるが、意味はここと一緒、屋根や建物の色からそう呼ばれているだけである。
その青のギルドの一角、入口からすぐに作られている、いわゆる受付席に座っている、「受付嬢」。
その可愛らしい?受付嬢の口から、それなりのボリュウムで聞こえてきたのは、まごう事無き欠伸の声である。
今の時間は、まだ昼食前。
ここ冒険者ギルドの中では一番暇な時間と言えるかもしれないとき。
早朝の依頼受注ラッシュと、夕方、王都の閉門時間前後の依頼確認ラッシュの狭間の時間。
一日中開いている冒険者ギルドの、夜間から早朝シフトについた者にしてみれば、もうすぐ下番前の一番疲れが出てくるときであったりする時間。
閑散としたギルド内を眺めながら、目の端に溜まった涙をぬぐって、もう一つ生まれてきそうだった空気の塊を飲み込むことで意識を覚醒させた彼女は、背後に設置されている時計に目をやって、この苦行の長さを確かめたのだった。
どこの国でも、冒険者ギルドの受付嬢という職を得ることは、なかなか難しい。
受付という性質上、生まれながらの貴族のお嬢さんでは、まず自分よりも身分の低い民人に頭を下げることを良しとしない。
建物の入り口で、人を中に入れることができなければ、どのような業務もできなくなる。
必然的に、どのような者にでも、取り敢えず笑顔で頭を下げることを厭わない人物でなければ受付という仕事はできないのである。
その上、見た目もあえて威圧を与えるという意味が無いのであれば、美しいことに越したことは無く、その上ある程度物騒なことが想像できる場所であるので、肝が据わっていることとある程度腕っぷしが無いと、これもまた勤めることが難しい職場であるのだ。
であるのに、なぜ冒険者ギルドの受付嬢が若い女性(平民の)にとって羨望の仕事であるのか?
それは、ただ一つ、『玉の輿に乗れる確率がどの仕事をするよりも高い』と思われているからである。
何も貴族に嫁ぐことだけが玉の輿ではない。
身分の差を超えた結婚ということについては、夢を見ている者も一定数居るかもしれないが、ほとんどの乙女は結構現実を考えていて、その結婚が物語ほど幸せになれないかもしれないということを、本能で知っていたりするものだ。
では、受付嬢達の言う玉の輿とは?
身分ではなく、はっきり言って『金』である。
どれだけ裕福になれるかと言うこと。これ一点と言っても過言でない。
そこで、手っ取り早くこの世界で金持ちになるには?
男児であれば、身分関係なく冒険者!
女子であれば、その妻!
となるわけで、すでに高ランクの冒険者に近づくにしても、将来有望な高ランク冒険者の卵に近づくにしても、ギルドの受付嬢ほど、その確率の高いところにいる者はいないわけで……。
冒険者ギルドの受付嬢の椅子の奪い合いは、どの国でも厳しいものとなっているのだ。
「……が、どこにもそんな将来有望な男なんて居ないのよね……」
せっかく、この王国の冒険者ギルドの中でも、比較的貴族街に近いこの「青」に、有望な冒険者が多くいると聞いて、何とか「黒」から移動してきたのに、結局どこでも冒険者は品がないむさくるしい男ばかり……。
「ため息と共に欠伸だって出ちゃう」
今この場に居るのはシフトが変わるのを待っている一人だけ、それ以外の受付嬢たちは、今朝受けた依頼や割り振った依頼の確認のため、受付カウンター前のこの場には居なかった。
受付に設けられている衝立の中で、机に肘をついてだらしなく椅子に座っているときに、ギルドの扉のきしむ音がしばらくぶりに聞こえたのだった。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした
たっこ
BL
【加筆修正済】
7話完結の短編です。
中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。
二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。
「優、迎えに来たぞ」
でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。
逃げられない罠のように捕まえたい
アキナヌカ
BL
僕は岩崎裕介(いわさき ゆうすけ)には親友がいる、ちょっと特殊な遊びもする親友で西村鈴(にしむら りん)という名前だ。僕はまた鈴が頬を赤く腫らせているので、いつものことだなと思って、そんな鈴から誘われて僕は二人だけで楽しい遊びをする。
★★★このお話はBLです 裕介×鈴です ノンケ攻め 襲い受け リバなし 不定期更新です★★★
小説家になろう、pixiv、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、fujossyにも掲載しています。

王様の恋
うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」
突然王に言われた一言。
王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。
ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。
※エセ王国
※エセファンタジー
※惚れ薬
※異世界トリップ表現が少しあります

幼馴染は僕を選ばない。
佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。
僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。
好きだった。
好きだった。
好きだった。
離れることで断ち切った縁。
気付いた時に断ち切られていた縁。
辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。

僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載

人生2度目に愛した人は奪われた番の息子でした
Q.➽
BL
幼馴染みだったαの村上 陽司と早くに番になっていた南井 義希は、村上に運命の番が現れた事から、自然解除となり呆気なく捨てられた。
そして時が経ち、アラフォー会社員になった南井の前に現れたのは、南井の"運命"の相手・大学生の村上 和志だった。同じビルの別会社のインターン生である彼は、フェロモンの残り香から南井の存在に気づき、探していたのだという。
「僕の全ては運命の人に捧げると決めていた」
と嬉しそうに語る和志。
だが年齢差や、過去の苦い経験の事もあり、"運命"を受け入れられない南井はやんわりと和志を拒否しようと考える。
ところが、意外にも甘え上手な和志の一途さに絆され、つき合う事に。
だが実は、村上は南井にとって、あまりにも因縁のありすぎる相手だった――。
自身のトラウマから"運命"という言葉を憎むアラフォー男性オメガと、まっすぐに"運命"を求め焦がれる20歳の男性アルファが、2人の間にある因縁を越えて結ばれるまで。
◆主人公
南井 義希 (みない よしき) 38 Ω (受)
スーツの似合う細身の美形。 仕事が出来て職場での人望厚し。
番を自然解除になった過去があり、恋愛感情は枯れている。
◆主人公に惹かれ口説き落とす歳下君
村上 和志 (むらかみ かずし)20 α (攻)
高身長 黒髪黒目の清潔感溢れる、素直で一途なイケメン大学生。 " 運命の番"に憧れを抱いている。複雑な事情を抱えており、祖父母を親代わりとして育つ。
◆主人公の元番
村上 陽司 (むらかみ ようじ) 38 α
半端ないほどやらかしている…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる