同性愛者楽園

雪だるま

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病み系男子の一途な想い6

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「空音。行くわよ」

母さんの声が聞こえた。

「うん、分かった」

これまでの日常が日常じゃなくなる。
これまでの非日常が日常になる。

「荷物まとめたわね?忘れ物は?」
「大丈夫。無いよ」

「携帯、解約しちゃって、本当に良かったの?」
「うん。良いんだ、もう。ごめんね」
「空音が良いなら良いのよ」

母さんに、引っ越しのついでとして。
携帯を変えたいと頼んだ。
今までの関係を、壊すために。
先生には、
『諸事情により、携帯を解約します。
今まで本当にありがとうございました』
そう伝えた。

「母さん。今まで、ごめん」
「良いのよ」

もう、先生には会えないのだろう。

好きって言えて、好きだって言われて。

嬉しかった。

でも、先生の先のことを考えたら怖くて。

だから僕は、逃げたんだ。

先生。

貴方は今、何を想っていますか。
貴方は今、何をしていますか。
貴方は今、………。

なんて。

僕から、関係を絶ったのに。

こんなこと、考えていたらダメだ。






「青木 空音です。よろしくお願いします」

転校初日。
この日はすごくドキドキする。
母さんの元の苗字も、青木。
だから変わらないんだ。

「青木くんは。そうだなぁ、あそこの席に座って」
「はい」

窓側の、1番後ろ。
端っこだ。

「よろしく」

席に座って言う。

「ん。俺、裕人(ひろと)。よろしく」

隣の子、何だろう。
仲間感がある…。

「あの。いきなりでごめん。右利き?左利き?」
「え?左、だけど?」
「そっか。じゃあ、右手首もしくは右腕見せて?」
「……」

少し気まずそうに。
それでも、ちゃんと応えて右手首を見せてくれた。

「やっぱり。キミも、リストカッターなんだね」

予想通り、お仲間さんだった。

「も?何?お前もなの?」

向こうは、信じ難いようだった。

「うん。僕は、アームカッター?って言うのかな?まあ、アムカをしているんだけど…」
「普通、アームカッターは言わないだろ。アムカしてる奴。それだけじゃね?」
「そっか…」


「なあ。何でお前、自傷行為してんの?」
「ーーーーーえ?」

昼休み、1人でいた僕にヒロトが話しかけてくれた。

「いや。俺が言える立場じゃないけどさ。少なくともお前は…その、あんまそういう経験ない方だと思っていたからよ」

「見た目で判断しないでよ」

少しおかしくて、笑ってしまった。

「僕がアムカしている理由、か…。ん~…何で、だろうねぇ
逆にさ、ヒロトくんがしている理由は?」
「俺?俺は、幼い時からの癖。リスカが日常になっててさ」
「へえ…」

色んな理由があるんだろうなぁ…。

先生、今何をしているんだろう…?





それから月日が経ち、卒業式。

「ヒロ」
「お、空音。今来たんか?遅くねお前」
「ヒロが悪いんだろ…」
「はいはい(笑)」

ヒロ改め、ヒロトと僕は普通に友達だ。

いつからか。
先生のことは思い出さなくなった。
いや…正確には、思い出せなくなった、か。
もう面影すら分からない。
声も、思い出せない。
名前すら……覚えていない。
それでももう、構わない。

「なあ、空音。今更だけど高校、どこ行くんだ?」
「今更過ぎ(笑)。 僕は普通に〇高。ヒロ、もう受験終わったよ?」
「知ってる(笑)」

ーーーーードンッ

「あっ、すみません…」

前を見ていなかったため、人にぶつかってしまった。

「いえ。こちらこ、そ…?」
「?」
 
ぶつかった人は、僕を見て目を丸くした。

「空音?どしたの」
「ううん、何でもない。行こ」

「ーーーー空音?お前、青木 空音?」

「「!??」」

何故かヒロも驚いたみたい。

「何で、僕の名前…」

「忘れた、のか…。そうだよな、もうだいぶ経ってるしな…」

「あんた誰?まずはそれを名乗れ」
「ひ、ヒロ…」

「ああそうか。樋野ーーーーー」
「樋野、先生?」

「はあ?先生?何?どんな関係?」
「あっえっと、前の塾の先生」

「そうだなぁ。ただの『先生と生徒』だったなぁ」

「ッ…先生、何でここに?」
「いや。ただ何となく来ただけ。まさか元教え子(?)に会うなんてな」
「あはは…」
「久しぶり。元気だったか?」
「ーーーーー…うん。先生は?」
「元気さ。ほら、お友達が待っているぞ?」
「………うん。先生、ありがとう…」
「ん?別に」
「先生、今日。卒業式なんだ。来てくれる?」
「ああ。もちろん」

「おい…俺忘れてねぇ?」
「ごめん」
「ほら、今信号青だからいくぞ」
「うん」

ヒロが先頭で信号を渡る。

横目でトラックがヒロのいるカーブ目掛けて猛スピードで走る。

「危ないーーーーー!」

ヒロを前に押した次の瞬間。

トラックが止まった。




「……」
「…あの、大丈夫でしたか」

初めて知り合ったかのように(事実上では初対面ですが)。
ヒロと先生は話している。

「あ、はい。さっきのとこ見ていました?」
「え、ええ」
『何で二人共、ぎこちなく話しているの?』

「俺、誰かに押されませんでしたか?」
「はい。そう思いますけど…」
『え?僕だよ?ヒロ、注意しよ(笑)』

「あの…」
「はい…」
『え?ねえ?待って?何で?僕見えてないの?待って。暗い。ここ暗い』

「「誰かが助けてくれたんでしょうかね?」」

『ーーーーーーーーーー!』

一筋の明かりが見え、意識はそこで途切れた。
                            終わり
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