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釣書という名の廃品回収リスト

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「しかし、これ全部で何通あるんだ?」

「79通。下は6歳から上は32歳まで。しかも、3/4は修正してあると踏んでる。美形が売れ残ってる筈はない。野菜と一緒で綺麗な形から直ぐに売れるのが常だしね」

「成る程、一理あるな」

クラウスは納得したように頷いた。

「兄さんが帰って来る前に・・・」

その時、不意に物音がした。
兄さんが帰ってきたのか?
見られたらヤバいな、この釣書の山。
どうするか・・・

「クラウス、来てたのか。ただいま、レナーテ」

兄さんは応接間のドアを開けるなり、穏やかに言った。

「ふたりで何の相談かな?」

「ああ、何と言われても・・・」

クラウスは立ち上がり、最高の表情で兄さんに向き合った。
兄さんが馬鹿な発言したせいで廃棄物以外何物でもない釣書を闇に葬る相談をしてたとは言えないよな。
クラウスは兄さんをエスコートするようにソファーに座らせ、自分はちゃっかりとその隣に腰を降ろした。
けっ、隣に座ってどうする!
男らしくここは一発襲わんかい。
そういう弱腰だからこういう結果を招くんだよ。

「お見合い宣言したんだって?まだ、早いんじゃないかと言ってたんだよ」

「そうですよ、兄上。まだ18歳じゃないですか」

「そうかな・・・けどここで見つけておかないと大変な事になりそうだし」

兄さんは肩をすくめた。
兄さんの杞憂する気持ちと判らないではない。
それというのも、目の前のヘタれクラウスの先祖、建国の祖といわれた王が艶福家で、二言目には
”英雄色を好む・・・英雄、傑物となるなら若いうちから適度に遊ばなければならない。早めに結婚し、浮名を流してこそだ。子孫も繁栄し、万々歳“
といい、法律で20歳で未婚の国民は国が斡旋した相手と結婚しなければならないという決まりを作りやがったのだ。
結婚相談所と化す国がどこにあるんだよ。
ありがた迷惑ここに極まれりだ。 
もし、僕がその場にいたら、頭をズパーンと叩き、
「寝言は寝てから言え、このスカタン!」
と教育的指導をしていたと思う。
で、結婚しないとどうなるか。
恐ろしいことに税金が爆上りになる。
税率を聞いた瞬間、僕は一瞬、昇天したね。
ふざけるな!と真っ青な顔で叫んだ。
周りからは身体のどこかに人には言えない欠陥があるんじゃないか、危ない性癖があるんじゃないとあらぬ噂を流され、冷たい視線に晒される。
家族は家族で、結婚しないなんて世間に顔向けができない。まだ犯罪者と成ってくれたほうが良かったなんぞといい責めたてる。
たかが結婚で、ここまで言われなければならないなんて他の国では考えられないぞ。
クラウスの先祖はロクでもないな。

「ところで、ユリウス、どういう相手がいいんだ?」

クラウスがさり気なく探りをいれた。
上手いじゃないか。
そこは聞いて押さえておきたい。
送られてきたら即座に送り返すためにもな。

「そうだね・・・容姿や地位は二の次で、一緒にいて安らげるひとかな。家柄も高くない方が付き合いに気を使わなくてもいいからね」

「・・・」

あーっ、一気に凹んでるな、クラウスのヤツは。
ドヨ~ンという効果音が背後に見えた。
王族なんて気を使う代表だもんな。

「楽天的であまり細かい事を気にせずに大らかな性格だといいね」

「・・・」

はぁっ?なんですと!?
そんな人物、一歩間違えば、どんぶり勘定、明日は野となれ山となれで、財産喰い潰すこと請け合いじゃないか。
兄さんが配偶者にそんな人物を選んだと考えただけで血の気が引き、貧血で倒れそうになった。

「まあ、惚れてしまえば痘痕もえくぼかな」
 
はにかむように笑う兄さんに対し、ドツボに陥った僕たち・・・
そんな僕たちを余所にテーブルの釣書を見つけた兄さんが

「ねえ、これって・・・お見合いの・・・」

「廃品回収リストです。お気になさらないでください。では、クラウス様、失礼しますね」

と、僕は顔面を引き攣らせながら、きっぱりと言い切った。
これ以上突っ込まれたらマズいからと僕は、重さでよろめきながらもそれら全てを詰め込んだ袋を両手に持って自分の部屋へともどった。
部屋に入るなり、

「着払い伝票はどこだっっ!!」

と叫びながら袋の中身をぶち撒けたのは言うまでもない・・・














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