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淡雪、後宮に上がる・・・その前に
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清涼でいてモダンな部屋。来客用の応接セットは年代物だが古めかしさはなく、一見して古美術品といっても過言ではない。座るのにちょっと勇気がいる代物だが。
重厚な執務机の上には玻璃でできた繊細なランプが設置され、その向うに千秋が座っていた。
千秋に後宮への手土産を相談しに来たわけだが、何やら雲行き怪しいような気がする。
「で、ここに来た理由がそれなんだ」
「そう」
部屋の主、千秋の何やら不機嫌表情に戸惑う。
月末月初、年度末じゃないよな。
まぁ、その時期でもいつもならにこにこして歓待してくれるが、今日に限って何かあったのか?
けど、不機嫌な千秋って何だろう、ちょっとこう構ってしまいたくなるのような可愛さがあるよね。
「困ったらすぐに助けるからと言ったのは、私だけどね、淡雪」
「あっ、急には無理だった?」
「珍かな品の10品や20品くらいものの5分で用意できるよ」
「えっ、そうなの?中和泉商会、凄すぎ」
「当たり前じゃない。じゃなきゃ、この国の経済を牛耳ることなんかできないよ」
なんか中和泉商会の底しれない影響力を感じる。
「品物は晴殿と九重殿に渡すよう申し付けているから安心して。あといろいろとね」
「ありがとう、千秋。大好き」
「・・・ねぇ淡雪、大公と婚礼を挙げたのは仕方ないとして、帝都に宝珠を授かりにきたってどういうことかな?」
穏やかに言っているが、千秋の目が笑ってない。
相当機嫌が悪いな、これはと思いつつ、僕は経緯を話した。
侍女に化けた暗殺者に襲われ間一髪のところを毒に侵されながらも直江が助けてけれたこと、それにより直江が生死を彷徨い、命を取り止めた後に求婚されたことを話していると千秋の表情が更に不機嫌になり、話し終えても何も言わない。
そんな千秋の態度に焦れた僕は
「千秋、なに怒ってるの?」
「淡雪」
千秋が執務机を回り、僕の隣に腰を降ろした。
あれ?今日の服装・・・
いつもは女装している千秋が普通に男性の洋装を身に纏っていた。
立襟の首元には絹の白紐で孔雀を模した飾釦が付けられ、それ以外の留具は濃紺の前立てに隠された洋装は凛とした千秋に良く似合っていた。
その姿はどこからみても優秀さ垣間見える青年実業家で、いつもの”しごでき女子“では見せない威容があった。
十何年ぶりだろう?
千秋いや、この場合、智秋かな。
ちょっと見惚れたわ。
その智秋がじっと僕を見ている。
「智秋?」
えっ、僕なんかしたっけ?と首を傾げる間もなく、智秋に抱きしめられた。
ふわりと智秋が好んで使っている香りに包まれた。
茉莉花、月下香白檀をかけ合わせた香りが優しく薫る。
「淡雪、もう遅いのかな?」
「遅いって・・・なにが・・・」
「私では淡雪の隣に立つことはできない?」
智秋が僕を見下ろす瞳には切なげで優しい色が滲んでいた。
僕と会うときはいつも優しげで、ちょっと誂うような瞳だった。
抱きしめる智秋の身体は武人の直江とは違い、細身だが靭やかな身体をしているの知った。
「淡雪、好きなんだ。淡雪が僕を救ってくれたあの日からずっと君を想ってた・・・」
重厚な執務机の上には玻璃でできた繊細なランプが設置され、その向うに千秋が座っていた。
千秋に後宮への手土産を相談しに来たわけだが、何やら雲行き怪しいような気がする。
「で、ここに来た理由がそれなんだ」
「そう」
部屋の主、千秋の何やら不機嫌表情に戸惑う。
月末月初、年度末じゃないよな。
まぁ、その時期でもいつもならにこにこして歓待してくれるが、今日に限って何かあったのか?
けど、不機嫌な千秋って何だろう、ちょっとこう構ってしまいたくなるのような可愛さがあるよね。
「困ったらすぐに助けるからと言ったのは、私だけどね、淡雪」
「あっ、急には無理だった?」
「珍かな品の10品や20品くらいものの5分で用意できるよ」
「えっ、そうなの?中和泉商会、凄すぎ」
「当たり前じゃない。じゃなきゃ、この国の経済を牛耳ることなんかできないよ」
なんか中和泉商会の底しれない影響力を感じる。
「品物は晴殿と九重殿に渡すよう申し付けているから安心して。あといろいろとね」
「ありがとう、千秋。大好き」
「・・・ねぇ淡雪、大公と婚礼を挙げたのは仕方ないとして、帝都に宝珠を授かりにきたってどういうことかな?」
穏やかに言っているが、千秋の目が笑ってない。
相当機嫌が悪いな、これはと思いつつ、僕は経緯を話した。
侍女に化けた暗殺者に襲われ間一髪のところを毒に侵されながらも直江が助けてけれたこと、それにより直江が生死を彷徨い、命を取り止めた後に求婚されたことを話していると千秋の表情が更に不機嫌になり、話し終えても何も言わない。
そんな千秋の態度に焦れた僕は
「千秋、なに怒ってるの?」
「淡雪」
千秋が執務机を回り、僕の隣に腰を降ろした。
あれ?今日の服装・・・
いつもは女装している千秋が普通に男性の洋装を身に纏っていた。
立襟の首元には絹の白紐で孔雀を模した飾釦が付けられ、それ以外の留具は濃紺の前立てに隠された洋装は凛とした千秋に良く似合っていた。
その姿はどこからみても優秀さ垣間見える青年実業家で、いつもの”しごでき女子“では見せない威容があった。
十何年ぶりだろう?
千秋いや、この場合、智秋かな。
ちょっと見惚れたわ。
その智秋がじっと僕を見ている。
「智秋?」
えっ、僕なんかしたっけ?と首を傾げる間もなく、智秋に抱きしめられた。
ふわりと智秋が好んで使っている香りに包まれた。
茉莉花、月下香白檀をかけ合わせた香りが優しく薫る。
「淡雪、もう遅いのかな?」
「遅いって・・・なにが・・・」
「私では淡雪の隣に立つことはできない?」
智秋が僕を見下ろす瞳には切なげで優しい色が滲んでいた。
僕と会うときはいつも優しげで、ちょっと誂うような瞳だった。
抱きしめる智秋の身体は武人の直江とは違い、細身だが靭やかな身体をしているの知った。
「淡雪、好きなんだ。淡雪が僕を救ってくれたあの日からずっと君を想ってた・・・」
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