嫁ぎ先は青髭鬼元帥といわれた大公って、なぜに?

猫桜

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淡雪、メンタルがヘロヘロになった晴を休ませる

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 「平和だぁ・・・」

 巨大台風冬星が西蓮寺家を一過してかれこれ一週間が過ぎた。
 今のところ何事も無く、直江からのお誘いも躱しつつ平穏無事に日々が流れ、僕の操も安泰だった。
 冬星の寄越した侍女二人も波風を立てることなく、晴と一緒によく仕えてくれている。
 本音をいうと、晴と侍女二人か一悶着起こすのではないかとビクついていたのだ。それが杞憂に終わった今日この頃。
 ああ、平和っていいなぁ・・・としみじみ思うのだった。
 もうさ、いろいろとありすぎて気の休まる暇なんて無かったよね。
 ここらで命の洗濯をしても罰は当たらないと思うんだ、うん。
 僕はカウチに持たれて窓の外を眺めた。午後の陽射しに庭の緑が色濃く映え、どこからか小鳥の囀りが聞こえてくる。微睡むにはもってこいの日和だ。
 こっちの気分も和んでくるな。

「ねえ、晴」

「はぁ~なんでしょうか」

 晴の声に元気がない。
 最近、晴もいろいろとありすぎてお疲れなのかな?

「天気もいいし、散歩にでも行こうと思うんだけど、一緒にどう?」

「・・・散歩ですか~それは・・・」

 気乗りしないといった体で口籠る。無駄に元気な晴がどうしたんだろう。
 下がらせて休ませた方がいいかなと思案していると晴がおずおずと

「淡雪様~私より~大公様とご一緒に散策なされたほうが~」

「晴、なんでここに直江が出てくるんだよ」

 僕は晴を睥睨した。
     晴は首を竦めたが、言葉を噤むどころかここぞとばかりに言い募った。

「一応は~華燭の宴を挙げられたわけで~お互いにご挨拶もないというのは~」

「ふん」

「ふ、ふんって・・・」

「挙げたのがどうしたんだよ。あれは、事態に進展がないから挙げただけっていうのは、晴も知ってるよね」

「そうですけど~言祝ぎの儀も終わられましたし~やはり~」

「うるさいな!なに?晴、光顕あたりに買収でもされた?それとも直江から何か言われた?それで僕と直江の間を取持とうとしてるの?」

「あ、淡雪様~、なんてことを!」

 見る見るうちに晴の目に涙が溜まり、わぁっと床に突っ伏して泣き出した。

「わ、私が、いつ、淡雪のご意思を~無下にしたと~」

「わ、悪かったよ、ちょっと言ってみただけで本気じゃないから」

「思ってもいないなら~出ないはずです~」

 晴は恨めしげに僕を見ながら突っ掛るようにいった。

「淡雪様は~わかっていらっしゃらないです~私が~冬星から毎日のように文でどんなに責められているかが~」

 えっ、それってどういうことだよ。冬星、何勝手なことしてるんだよ。

「淡雪様が~直江様を拒まれるのは~傍に付いている私の~手腕がないからだとか~侍女としての職務怠慢だとか~それはもう周防さんの如くネチネチと文に書いてこられて~」

「えっ?うそっ⁉」

「何が~うそですか~このまま~淡雪様が~直江様と何もないとなると~私は役立たずということで~お役御免にするからと~わっ~」

 晴がまた泣き出した。
 冬星~っ、お前っ~!
 チッと舌打ちをしたい気分だった。
 大人しく帰ったかと思えば、あいつ晴になんという指示を出していやがった。
 兄の貞操を守るために発破をかけるならまだしも、強行突破のお膳立てを計画させるなんて血も涙もない弟ではないか。

「は、晴。ごめん。晴がそんなに責められていたなんて知らなかったんだ」

「お、おわかりいただけたのなら~ひっく」

「もう泣かないでよ」

 必死で慰めたかいもあり、晴は少し落ちついたが、それでも涙が止まらず、幾度もハンカチで目元を拭っていた。
 どうも少しメンタルが疲弊しているようだ。
 ちょっと休ませた方がいいかな。

「晴、今日はもういいから部屋に下がって休みなよ」

「けど、淡雪様~」

「晴さん、淡雪様も仰っているんですから、今日はお休みさせて貰って、気分を変えた方がいいですよ」

それまで黙って事を見ていた安芸が晴に下がることを勧めた。

「そうですよね、淡雪様」

「そうだよ、晴。僕の腹心の侍女は晴なんだから」

「淡雪様~」

「淡雪様、私が晴さんに付いていってもいいですか?」

「ああ、そうしてくれるかな」

「はい。さあ、晴さんいきましょう、ね」

安芸が宥めながら晴を部屋から連れ出した。
僕は知らず知らずのうちにため息を吐いた。
ひと息つけるかと思ったんだけどな。

「差し出がましいようですが、淡雪様。晴さんを少し宿下りさせては如何でしょうか」

ベテランの風格を纏った九重が眉を微かに顰めて晴達が出ていった方を見ていた。

「九重、何か気になることでも」

「侍女が晴さんおひとりでしたから、こちらに来られてからも心休まる日も無かったかと推察します」

「そうだね」

「日々恙無く勤めるためにも、休むことも勤めのうちでございますから」

「・・・わかった。晴が落ち着くまで暫く休ませよう」

「では、そのように」

九重が頭を下げた。
この時の僕は、まさかあんな事件が起きるなんて思っても見なかったのだ・・・



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