嫁ぎ先は青髭鬼元帥といわれた大公って、なぜに?

猫桜

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夜のお務め、どうする淡雪

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 冬星の言葉に不気味なほど部屋の中が静まりかえった。
 視線を逸らす僕に冬星は難しい顔つきになり、

「・・・言い方が悪かったかな。夫婦の夜の営み、繁殖活動または、子づくり、性交渉、性行為、まぐわい。ここまでいえば解るよね」

 と顔色一つ変えず、真面目くさってきびきびといった。なにせ、無表情で教師が生徒に説明をするような感じだったので、すぐにはピンとこなかった。
 が、徐々に内容を理解するにつれ、羞恥にかっと顔が赤くなった。

「と、冬星、お、お前・・・」

 僕は口をぱくぱくさせるのが精一杯で二の句が継げられなかった。
 弟から面と向かって子作りとか性行為とか言われると恥ずかしさが半端ない。

「で、どうなんだよ。ヤッてるの?ヤッてないの?」

 淡々と事務的に聞いてくるが、こいつには羞恥心というものがないのだろうか。
 こっちは恥ずかしさで憤死しそうだというのにどういうメンタルしてるんだよ。
 例え兄弟といえど、重大な問題を抱えての相談ならまだしもフツーそんなことは聞かないだろう。
 こいつ、人として何かが絶対欠落してんじゃないだろうか

「これは好奇心や出歯亀根性からではなく、これからの生存確率のための確認だから」

 いや、冬星よ。
 どう考えても好奇心からだろう。

「噂で婚儀初日以降、宴席に出られないほどの可愛がられかたをされ、足腰が立たず、ついには熱を出し寝込んだとか聞いたんだけど?まさか、あまりの激しさに拒んでるとか?」

 ・・・確かに驚愕のあまり腰が抜けたし、知恵熱だして寝込んだよ。

「そうなら、それはいかがなものかと思うよ。命の瀬戸際に好き嫌いをいえる選択肢はないんだからね。多少、身体が辛かろうがヤらないと助からる命も助からないし」

 ・・・どっちに転ぼうが命にかかわると思うぞ、僕は。なら、体力温存で避けるを一択じゃ。

「兄さん、ここは男気を見せて正直に。ヤッてるの?ヤッてないの?」

 男気で答えるもんじゃないだろうが、バカモノ!

「兄さん、さあ、さあ、どうなんだよ」

 あまりにも冬星がしつこく聞いてくるもんだからつい、

「僕と直江は何もしてないよ!僕はキレイなままだし、まだお婿にもイケる清い身体だよ!」

 と半キレ気味に言い返した。

「はぁっ?!」

 部屋に冬星の頓狂な声が響いた。
 何時も冷静な冬星の愕然とした表情など滅多にお目にかかれない。
 そのうちに天井を見上げたり、首を横に振ったりしてため息を吐いたかと思うと信じられないとでもいうように僕を見だした。

「ほ、本当にヤッてないの?冗談でも嘘でもなく・・・」

 冬星の声が震えている。
 僕は当然と頷いた。

「兄さんは婚礼初夜に花婿と閨に入って一体何をしてたんだよ!2日目の宴席にも出席できなかったと聞いて、流石は青髭大公、閨の激しさが尋常じゃない。やはり違うなと感心してたのに、何もしてないだって!?兄さんは初夜で何をしてたんだよっ!」

「性教育の講義的な・・・もの?」

「はぁっ?ヤることやらないで大公に性教育の講義させるなんて言語道断、よくその場で斬り捨てられなかったね、奇跡だよ、奇跡!僕なら速攻で首チョンパだよ」

 冬星は興奮のあまり息切れをし、肩口でゼェゼェいっていた。
 あまり興奮しないほうがいいぞ、冬星。
 父上の年代なら間違いなく心臓か血圧にきて人事不省、下手すればぽっくりだ。
 興奮のあまりにぽっくりって間抜けだからな。
 そこうするうちに冬星は落ち着き、

「兄さん。早々に大公とヤろう」

 その言い草が、ちょっと今夜は外食しようかみたいな軽い物言いだったので、「そうだね、ヤろうか」と返事をしそうになったじゃないか。
 あぶねー

「ヤらない。僕のおしりは一方通行、駐停車禁止。不法投棄もお断り」

「何をいっているんだか。賽はもう投げられたんだ」

 冬星が僕の耳元でまくしたて始めた。

「いいかい、兄さん。それじゃぁダメだ。体格差から兄さんがおののくのは分かるよ。けどね、兄さん。男というものは、いつまでもお預けが続くともう脈はないなと諦めて次にいくのが大多数なんだよ。相手の気を引いていてこそ、生きる術もあるんだ。ヤれない相手にいつまでも構っていられない、ヤれないなら次なんだよ。早速、今夜にでも初夜の仕切り直しをしてだね・・・」

「はぁっ!?なに言ってるんだよ!僕の話聞いてた、お前?」

「一方通行?駐停車禁止?そんなのはヤってからいいな。身体が保たないというなら口でも手でも使いなよ。素股という手もあるだろう。頭は使うためにあるんだから工夫しないと」

 口?手?素股?工夫?・・・何、それっ⁉
 いや、それより、僕が知らないことをなんで弟の冬星が知ってるんだ?知恵熱がぶり返しそうだよ、僕は。

「兄さんのことだからその手の知識は皆無で、男と女の駆引き、恋愛ごとや性知識には疎いだろうし」

「そ、そりゃ、そうだけど・・・」

 確かにその通りで言い返す言葉がでない。
 冬星はここぞとばかり、

「いいかい、男は大概わがままなんだよ。そこを上手くツイてこそが主導権を握れるというもの。恋愛や夫婦関係なんて主導権を握ったもん勝ちなんだ」

 とか、

「いかに自分のもとに相手を引き付けておくか」

 とかを微に入り際に入りと事細かに説明され、ドン引いた。
 確かに、いかに円満離縁を目指すかと画策していたけどさ、こうも世間の世知辛さを知らされると恋愛や夫婦関係は駆け引きしかないと知ったようでロマンも夢もない。
 成人前にこれってどうなんだろう。
 なんかもう、冬星と直江とヤるヤらないでのグズっているよりこいつの病んだ恋愛の方が問題なんじゃないだろうか。
 冬星よ、僕の事よりお前のその恋愛感が兄としては心配だよ。
 まさか、弟の最早枯れた恋愛感に悩まされるとは思ってもいなかった。

「冬星、僕のことより自分の方を気にしなよね」

と冬星にしみじみといったのはいうまでもない。




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