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淡雪、大公と婚礼をあげる
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僕は居住まいを正して、部屋に光顕を迎い入れた。
入ってきた光顕は普段の兵服とは違い、肩から金のモールが下がった群青色の式服を身に纏っていた。
白い手袋をしたその手には一通の封書を捧げ持つようにしている。
これはただ事ではない。
目茶苦茶嫌な予感がする。
部屋に控えている都筑は兎も角、あの晴でさえもいつもと違い、真剣な面持ちをしているのが証拠だ。
空気の異様さに何だか胃のあたりがキリキリと痛みだした。
気のせいか、目の前がくらくらし、星がチカチカしてきたぞ。
「当主、西蓮寺 直江様におかれましては、来栖家御令息淡雪様とのご成婚の儀の日程をお決めになられ、明後日に執り行われます」
光顕が恭しく爆弾宣言を投下した。
僕は息を呑んだ。
都筑も一瞬、息を止めた。
奪うように届けられた書状を取り、書かれた内容を読むと、僕はぶるぶると震えながらそれを握りしめた。
いま、口を開いたら怒りと羞恥と絶望で何を言いだすかわからないため、晴に目配せをする。
「あまりにも急なことで、心が落ちつかず、言葉もありません。何のご相談もなく、このような突然のなさりよう。大公様のお心が情けなく、とても耐えがたきことにございます」
「陛下からのご下賜されたお品が届けられた以上、引き伸ばせば、陛下からの御不興を買うのは必定。良きご判断かと・・・」
と、晴渾身の抗議を都筑はあっさりと受け流し、光顕に
「幾久しく、お受けいたします」
と頭を下げた。
光顕が「こちらこそ、幾久しくお願いいたします」と返答をする。
「よき日、良き時、万事つつがなく執り行われますようお計らいください」
こら、都筑、お前なにいってんの?
引き延ばせよ。
「それでは、御前を失礼いたします」
光顕が踵を返し、部屋を出ていった。
光顕の姿を見送り、ドアが閉まったのを確認するやいなや、僕は都合に食って掛かった。
「都筑!なに承諾しちゃってるんだよ、お前は‼」
僕は目を見開いて、都筑を睨みつけた。
「お前は、こ、この僕を、この僕をあの殺人鬼に・・・」
怒髪天を衝く怒りに頭に血が上り、言葉がうまいことでない。頭に血が上りすぎて、今にも脳の血管が2、3本ブチギレそうだった。
怒れる僕に都筑は眼鏡のフレームを押し上げながら諭すように
「淡雪様、先日も申し上げましたが、お忘れですか?」
ああ?!・・・そういえば、都筑が何かいってたような・・・
都筑がため息をついた。
「説明しましたよね。陛下からの推しもあり、膠着状態で非常に不利な現状を打開するためにも形式だけでも結婚式をあげて、油断させ、敵の穴をさぐると」
「あっ・・・そ、そういえば・・・」
僕は口ごもった
思い出した。
確かにそんな話したわ。
「思い出されたようで何よりです」
嫌味たらしく都筑が言った。
ちょっと忘れてただけじゃん。
「いやさ、あまりにも急だったから、ちょっとテンパっただけだよ」
「本当に~急でしたから~」
「だよな」
晴の援護射撃に相槌を打つ。
「日を調べ、吉日を選び、障りがない日が明後日だったんでしょうね」
実は、婚儀は三日三晩に渡り行われ、一日でも忌日があってはいけない。
昔から大切な事柄は暦にある六曜十二直二十八宿を基にした暦により決められた日に行う。それを無視して行なうと障りがあるとか上手くいかないといわれている。迷信深い老人達が多いせいか、いまもってお祝事に忌日があれば家が衰退するとか、当主が悲惨な事になるとかこじつけて万事が暦を中心に考えられていた。
皇族や貴族の正式な婚姻ともなるば、一日たりとも凶や瑕疵があってはならず、三日三晩連日で吉日でなければならないため、日の選定ともなると専門家を集め、吟味に吟味を重ねて日を決めるのだ。
日が決まれば、それが例え明日であろうとも行うのが習わしになっている。
嫁ぐ都合も考えず、ホント、迷惑な習わしだよな。
「確かに~途切れ途切れの婚儀って~テンション下がりますよね~相手のイヤなとこが見えたり~なんでこんな人と結婚したんだろうとか~まぁ、所詮、結婚なんて勢いとカン違いからなりたってるんですもんね~婚儀、カン違いで起こす奇跡。それを生む悪夢の三日三晩です~」
晴がなんか哲学的なこと言ってる。
びっくりし過ぎて呼吸が止まったじゃないか。
都筑なんて眼鏡がズリ落ちてるし。
「どうしたんですか~ふたり共~」
「い、いや・・・晴にしては含蓄のある言葉だなと」
都筑の台詞に僕はこくこくと頷いた。
「ああ、これは~先日、離婚して帰ってきたときに姉がいってたんです~」
なんだか婚儀を挙げたら、取り返しのつかないことになりそうな予感が・・・けど、挙げないことに現状を打破できそうにもない。
しかも、まだイマイチ閨で何が起こるのかがわからない。本当にマグロの解体ショーをするのか?
僕は眉間に皺を寄せて考え込む。
考え込んだところで、話はすでに決まっている。
結局、僕の取る道は一つしかなく、急な婚儀を挙げる羽目になった・・・
入ってきた光顕は普段の兵服とは違い、肩から金のモールが下がった群青色の式服を身に纏っていた。
白い手袋をしたその手には一通の封書を捧げ持つようにしている。
これはただ事ではない。
目茶苦茶嫌な予感がする。
部屋に控えている都筑は兎も角、あの晴でさえもいつもと違い、真剣な面持ちをしているのが証拠だ。
空気の異様さに何だか胃のあたりがキリキリと痛みだした。
気のせいか、目の前がくらくらし、星がチカチカしてきたぞ。
「当主、西蓮寺 直江様におかれましては、来栖家御令息淡雪様とのご成婚の儀の日程をお決めになられ、明後日に執り行われます」
光顕が恭しく爆弾宣言を投下した。
僕は息を呑んだ。
都筑も一瞬、息を止めた。
奪うように届けられた書状を取り、書かれた内容を読むと、僕はぶるぶると震えながらそれを握りしめた。
いま、口を開いたら怒りと羞恥と絶望で何を言いだすかわからないため、晴に目配せをする。
「あまりにも急なことで、心が落ちつかず、言葉もありません。何のご相談もなく、このような突然のなさりよう。大公様のお心が情けなく、とても耐えがたきことにございます」
「陛下からのご下賜されたお品が届けられた以上、引き伸ばせば、陛下からの御不興を買うのは必定。良きご判断かと・・・」
と、晴渾身の抗議を都筑はあっさりと受け流し、光顕に
「幾久しく、お受けいたします」
と頭を下げた。
光顕が「こちらこそ、幾久しくお願いいたします」と返答をする。
「よき日、良き時、万事つつがなく執り行われますようお計らいください」
こら、都筑、お前なにいってんの?
引き延ばせよ。
「それでは、御前を失礼いたします」
光顕が踵を返し、部屋を出ていった。
光顕の姿を見送り、ドアが閉まったのを確認するやいなや、僕は都合に食って掛かった。
「都筑!なに承諾しちゃってるんだよ、お前は‼」
僕は目を見開いて、都筑を睨みつけた。
「お前は、こ、この僕を、この僕をあの殺人鬼に・・・」
怒髪天を衝く怒りに頭に血が上り、言葉がうまいことでない。頭に血が上りすぎて、今にも脳の血管が2、3本ブチギレそうだった。
怒れる僕に都筑は眼鏡のフレームを押し上げながら諭すように
「淡雪様、先日も申し上げましたが、お忘れですか?」
ああ?!・・・そういえば、都筑が何かいってたような・・・
都筑がため息をついた。
「説明しましたよね。陛下からの推しもあり、膠着状態で非常に不利な現状を打開するためにも形式だけでも結婚式をあげて、油断させ、敵の穴をさぐると」
「あっ・・・そ、そういえば・・・」
僕は口ごもった
思い出した。
確かにそんな話したわ。
「思い出されたようで何よりです」
嫌味たらしく都筑が言った。
ちょっと忘れてただけじゃん。
「いやさ、あまりにも急だったから、ちょっとテンパっただけだよ」
「本当に~急でしたから~」
「だよな」
晴の援護射撃に相槌を打つ。
「日を調べ、吉日を選び、障りがない日が明後日だったんでしょうね」
実は、婚儀は三日三晩に渡り行われ、一日でも忌日があってはいけない。
昔から大切な事柄は暦にある六曜十二直二十八宿を基にした暦により決められた日に行う。それを無視して行なうと障りがあるとか上手くいかないといわれている。迷信深い老人達が多いせいか、いまもってお祝事に忌日があれば家が衰退するとか、当主が悲惨な事になるとかこじつけて万事が暦を中心に考えられていた。
皇族や貴族の正式な婚姻ともなるば、一日たりとも凶や瑕疵があってはならず、三日三晩連日で吉日でなければならないため、日の選定ともなると専門家を集め、吟味に吟味を重ねて日を決めるのだ。
日が決まれば、それが例え明日であろうとも行うのが習わしになっている。
嫁ぐ都合も考えず、ホント、迷惑な習わしだよな。
「確かに~途切れ途切れの婚儀って~テンション下がりますよね~相手のイヤなとこが見えたり~なんでこんな人と結婚したんだろうとか~まぁ、所詮、結婚なんて勢いとカン違いからなりたってるんですもんね~婚儀、カン違いで起こす奇跡。それを生む悪夢の三日三晩です~」
晴がなんか哲学的なこと言ってる。
びっくりし過ぎて呼吸が止まったじゃないか。
都筑なんて眼鏡がズリ落ちてるし。
「どうしたんですか~ふたり共~」
「い、いや・・・晴にしては含蓄のある言葉だなと」
都筑の台詞に僕はこくこくと頷いた。
「ああ、これは~先日、離婚して帰ってきたときに姉がいってたんです~」
なんだか婚儀を挙げたら、取り返しのつかないことになりそうな予感が・・・けど、挙げないことに現状を打破できそうにもない。
しかも、まだイマイチ閨で何が起こるのかがわからない。本当にマグロの解体ショーをするのか?
僕は眉間に皺を寄せて考え込む。
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