嫁ぎ先は青髭鬼元帥といわれた大公って、なぜに?

猫桜

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青髭大公 想定外の嫁候補に対応策なし

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 王都より紅色の書状が届いた。
 またか・・・
 良くも懲りずに次々と“ねずみ”を送り込んでくるものだ。
 余程、私が邪魔だということはわかってはいるが、ねずみ退治もいい加減に厭きてきたところなんだ。
 あの女狐どもにとって、私がいる限り枕を高くして眠れないのだろうからな。
 私はため息と共に遠くを見た。
 幼い頃より聞かせられていた大公家の成立ち。
 祖父、直嗣の謂れなき誹謗を、父、直彰は教訓とした。
 汚名を注がれ、大公位を叙爵されるも決して中枢に出なかった。
 武力に秀でていた祖父とは違い、父は長年の幽閉により体力を失い武芸には疎かったが、代わりに知略に富んでいたと。
 世情や中枢の勢力を読み、足元が固まらない現状を念頭に一歩引くことで潰されることのない自力をつけることとしたらしい。
 流罪とされ身を崩した臣を受入れ、再興を果たすためには王都より距離を置いたここは絶好の地だった。
 険峻の地は天然の防壁になり、背後の海は海流が早く処々に浅瀬があり、熟練の漁師でさえも時に座礁することもある港は密かに軍港としての役割を持たせ、領地から産出される鉱石も公にしているものとは別にし、その存在を知るものは限られた者のみとした。また、情報網を王都はもとより、各国、各地に広げた。
 その甲斐あってか、父の一代で飛躍的に力をつけたが、その力は隠匿された。
 全ては悲劇を繰り返さないためにと王都とは一線を画していた。
 それもあったが、父も対応が面倒くさいので放おっておいたというのが本当のところだ。
 こちが大人しくしているのを良いことに貴妃風情が策略を用いてくるなど、若いと思って侮られている証拠以外に何者でもない。
 父には悪いが、そろそろ我慢も限界に達したのも事実。
 いっその事潰してしまうかとも考えたが、それには色々としなければならないと思いつた。
 ああ、それはそれで面倒くさい。
 現状維持が1番手間がないか。
 ねずみは駆除すればいい。
 と考えていたが・・・
 今度のねずみは来栖家か。
 来栖家当主の顔を思い出す。温和な顔をして飄々とし、掴みどころがなかったが、あちら側に従いたか。
 中立を保ち、争い事から常に一歩引いていると思っていたが・・・
 現在、右大臣家出身の皇后には皇子がおられず、皇子を設けているのは、隣国より来た朱夏貴妃のみ。病床の陛下が崩御すれば、御年3歳の皇子を東宮に立坊し、朱夏貴妃が後宮より垂簾聴政すいれんちょうせいを敷き、この国を隣国の属国とすることは目に見えている。
 病床の陛下は、それを防ぐために隣国の血を引く皇子より皇家の純粋なる血を引く私を後継にと考えているらしい。
 これを面白くなく思ったのが、朱夏貴妃と隣国の王家か。
 私を色と欲で籠絡し、あわよくば亡き者にしようと老若男女色々と送り込んでくる。
 まあ、全て返り討ちにしたが。
 ・・・来栖家か・・・ああ、面倒くさい。
 ねずみが増えるのか。
 猫でも飼って退治させたい気分だ。

「直江様、面倒だからと追い返さないでくださいよ。あちらに良い口実をあたえてしまいますからね」

 表情に出ていたのか、光顕の台詞に思わず、眉を顰めた。

「善処はしよう」

「武勇、知略共に優れていらっしゃるが、そこが欠点でもありますな。いやはや、面倒くさがりる癖は治りませんですな」

 忠勝が面白そうに口角を上げる。
 実のところ私は人一倍の面倒くさがり屋であり、人見知りだということの自覚はある。
 送り込まれた奴らを見た途端、一言も発せず、即座に部屋へと帰った。その態度で歓迎されてないのはわかりそうなものなのだが。
 知らない奴にベタベタと人の迷惑も考えず、張り付かれ、我が物顔でやれ、あれが欲しい、これを買えと毎日聞かされ、日々、フラストレーションが溜まる。それをどうしろいうんのだ。
 夜になったらなったで寝所に遠慮なく潜り込み、寝るだけだというのに化粧の匂いをプンプンさせ、着ても着なくても一緒だろうという寝間着でくっつかれ、耳元でぐちゃぐちゃ言われてみろ。
 臭いは、鬱陶しいは、うるさいはで安眠もできない。だから、つい、苛ついて振り払うと、その勢いで寝具から転げ落ちて家具にぶつかり、打ち身や青あざができても不可抗力で。そもそも人の睡眠を妨害したのだから自業自得だろう。
 なのに、暴力をふるわれた、殺されそうになったなどどの口が言っているんだ。
 私の酒や食事に毒を混ぜたり、安眠妨害するのは許されるのか?
 世の中不公平だろう。
 本当に世の中、面倒くさいことばかりだ。
 きっと来栖家の令息も同じだろうとこちらへ来た日も泳がせて、怪しげなことをすれば、いくら侯爵家といえど排除するつもりだったのだが・・・
 現れた令息は想定外以外の何者でもなかった。
 深窓の令息として育てられた筈なのに、塀を乗り越え我が屋敷内へ入り込み、私を家令と勘違いし、忠勝を私と間違え、本人を前にドヤ顔で罵詈雑言を浴びせた。
 かと思えば、いままでの者達と正反対でベタベタするどころか、充てがった部屋から出てこない。来栖家から連れてきた侍女と侍従が出入りしているので部屋に居ることはわかるが静か過ぎる。それはもう不気味なほどだった。
 華やかな事はせず、商人を呼び付けあれこれと買い漁り散財することも夜ごと酒宴を催しては騒ぐこともない。それどころか反対に帳簿から不適正価格での買取りや横領を見出し、役人は摘発、罷免をし、出入りの商人との取引を中止しただけではなく、代わりにこの国一番の中和泉商会とパイプを結び、財政面の見直しをしてしまった。
 しかも中和泉商会のトップを呼びつけてだ。
 中和泉商会のトップといえば、気が向かなければ例え皇族といえど会うことはなく、利がなければ鼻にもかけないことで有名だ。陛下以外で呼びつけるなどできず、あのように従わせるなど論外だ。
 中和泉商会トップの中和泉智秋が来栖家の令息に並々ならぬ執着を見せているのは話のやりとりや私を射竦める視線ですぐにわかった。
 確かに来栖家の令息、来栖 淡雪はその名のとおり、淡い雪の如く触れなば落ちんといったたおやかな風情をしている。白皙の美貌は今世3大佳人と呼ばれているのも頷ける。
 が、しかし、それは容姿のみのことで、性格ともなるとちょっと・・・中和泉はその風変わりなところが気に入ったのだろうか。
 私の周りにもいない。
 だから気になるのは仕方ないことだと思う。
 光顕ら家人も今では彼等を歓迎し、何かと私と一緒に過ごさせようとする。
 そしてそれが当たり前のようになってきて、自分でも何故か気にかかる。
 ままならない感情に戸惑いと苛立ちを覚えるのはなぜだろう
 ああ、想定外の嫁候補は面倒くさい。










     
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