嫁ぎ先は青髭鬼元帥といわれた大公って、なぜに?

猫桜

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淡雪、家人に禍転じて嫁と認められる!?

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おかしい・・・ 
成り行きとはいえ、正式な伴侶でもない僕が西蓮寺家の家宰よろしくあれこれと好きにしたら、てっきり使用人や役人に疎んじられ、直江からは呆れ果てられて離縁されるか、はたまたメッチャ不興を買い放逐されると思っていたんだけど・・・
蓋を開けると、現実は波風も立たず、未だにこの屋敷で平穏に過ごしている。
いや、平穏どころか、あれほど直江に右に習えで冷淡だった家人も愛想が良くなり、話しかけるとにこやかに接してくる。
それに伴い、待遇も良くなっているし。
食事のお菜の数も増えた、おやつの量も増した、部屋には花が毎日のように飾られ、掃除も比べものにならないほど気合いが入っていて、どこもかしこもピッカピカだ。
ご飯やおやつがふえるのは嬉しいし、毎日干されるからお布団もふっかふかでぐっすり安眠は喜ぶことなんだが、なぜだかもやもやしてすっきりしない。
それに付随するかたちで困った問題も発生した・・・
ちらりと時計を見る。
そろそろ来るなと僕は身構えた。

「淡雪様、淡雪様はこちらにいらっしゃいますか」

光顕が扉の外から声をかけてきた。
晴が対応に出る。
きたーっ、今日は何だよ。
困った問題、それは直江の側近が何かと直江との仲を推してくることだった。
“ダレた淡雪様の姿を決して見せるではない”と古参の侍女頭にきつく言い含められた晴が、慌てて僕を衝立で隠した。

「ご用向きをお伺いします~」

「直江様とお昼をご一緒にいかがですか?」

「はぁっ、お昼をですかぁ~」

晴が僕に目配せする。
返事を促しているな、あれは。
だけど、返事をといわれてもねえ。
何回か食事を伴にしたけど、お通夜じゃあるまいし一言の会話もなく、カトラリーの音しかしない食事って、どうよ。
マシンガンのように喋り倒すのはマナーがなってないが、シーンと静まり返るのもどうかと思う。
気詰まりで手の込んだ料理の数々を食べても何の味もしない。
まるでセンブリか粉の塊を食べているようで食欲も失せる。
直江との食事は最早苦行、無言の行だ。
ご飯くらい気楽に楽しく食べたい。
うん、断ろう。
口元に✖と指で作った。
晴が小さく頷く。

「ありがたいお誘いですが・・・」

断りの返事を遮るように光顕が言葉を被せてきた。

「その後にお二人で乗馬散策など如何でしょう」

えっ、乗馬?馬に乗れるの?
一度体験して、楽しくて楽しくて病みつきになりそうなほど乗馬を気に入っている。
光顕め、僕が乗馬好きなのを見越して断られる前に搦め手できたな。
お前は策士か!
食事は気詰まりだけど、乗馬には惹かれる・・・
さっさと食べて馬に乗りに行くか・・・よし、そうしよう。
急いで晴に承諾のサインを送る。

「良しなにお取り計らいください~」

「では、そのように」

乗馬なら話が弾まなくとも楽しいからいいか。
直江と普通に散策とかマジでツライしね。
普通は庭を散策してたら某かの会話はあると思うんだが、まず、それがない。
ただ会話もなく、歩くだけ。
「良い天気だな」くらい言えばいいのにそれすらない。
こちらから話を振ろうにも何を話しかけていいものかわからない。
まさか、
「青髭鬼元帥と呼ばれているんですね。何人手にかけました?」
なんて聞けないよね。聞いたが最後、その日が僕の命日になること間違いないし、命が惜しい。
その上、直江は背が高く脚が長いから当然歩幅も大きい上に武人だから歩く速度が早い。一緒に歩こうとすると僕など早歩きしなきゃ置いていかれる。あれは、散策とは名ばかりの競歩の特訓だ。
競歩競技の特訓と化した散策に毎回、ぜぇーはぁーと息切れし、散歩が終わるときには、僕は酸欠でふらふらとなり動くことすらままならない状態だ。そんな僕を眉間に皺を寄せた直江が抱き上げて、荷物のように部屋まで運ぶというのが、散策のお約束となっている。
いや、もう、絶対楽しくないよね、これ。
なのになぜ?
晴と光顕のやりとりを見ながら僕はもやもやの根源、何故そこまでするのかを確認しようと決心した。
立ち去ろうとする光顕に僕は声をかけたのだった。








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