嫁ぎ先は青髭鬼元帥といわれた大公って、なぜに?

猫桜

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淡雪と侍従達の勘違い

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 夏の強い陽射しに庭の遣水の水面をキラキラと反射させる昼下がり。
 低く掛けられた石橋の向こうから家人らが声高に忙しく立ち動いていた。

「おい、この品はどこに置くんだ?」

「ああ、それは新居の方だ」

「絹のリネンがこんなにも」

「まぁ、この衣装、見事な刺繍ですわね」

「こちらのレースも繊細で、まるで透き通る糸でできているようですわ。それにこの宝石類の数々。まるで御降下される皇女様並のお支度ですわ」

 屋敷中がすっかりはしゃいでいる様子を見れば見るほど頭痛が激しくなった。
 都筑も苦虫を五匹位噛み潰したような苦い表情をしてむっつりと黙り込んでいる。

「陛下からの下賜された婚礼品聞いているだけでも凄そうです~陛下もすっごい力のいれようですね~」

 ひとり場の空気を読まない晴が感心したように言う。
 そうなのだ。
 今日、前触れもなく王都より婚礼祝いが届いた。しかも、皇族並みに馬車8台分も!
 直々に画策したからか?何、税金の無駄遣いしてるんだよ。
 西園寺家家人が押せ押せの態勢のこの時期にタイミングを見計らったように届けるんだよ。 
 僕はとりあえず、大公家に来たというだけで、正式な婚礼も挙げていないどころか、どうにかして逃げ出す算段をしているとこだぞ。
 それなのに外堀どころか内堀まで埋めてくるな~っ。
 一体、僕が何の悪行三昧をしたというのだ。
 頭痛でいまにも引きつけを起こして倒れそうな僕に晴が

「これはもう、天命ですかね~」

「天命・・・」

 晴の空気を読まない性格を心底恨んだ。
 フラグたてるな~っとばかりに、じとりと晴を見やる。

「なんですか~淡雪様~」

「あちらの様子を見てきてっ!」

 ノーテンキな晴を見ていたら、むらむりと怒りが込み上げてきて、カッとなった僕は思わず怒鳴っていたのだった。



 清楚な中に上品さを加えた部屋の中を僕は足音も荒くドスドスと動き回っていた。
 いつもなら落ち着かせてくれる微かな白檀の薫香もうっとおしい。
 目の前の都筑は微動だにせず、無の表情で空を見据えている様子も腹立たしく映る。
 偵察に行かせた晴がまだ帰って来ない。
 あれからもう二刻も過ぎている。 
 どうせ、晴のことだ。
 あちらの女性達と
 “やはり~婚礼衣装は力入ります~”
 ”結婚は女性の集大成です~華やかに豪華にしたいですよね~“
 “着るときより~衣装並べて選んでいるときの方が気合い入りまくると思います~”
 ”この衣装なら~こっちの宝飾品で~髪飾りは~“
 なんていいながら、盛り上がっているに違いないんだ。
 大体、男の僕が婚礼衣装で盛り上がるはずない。どっちかというと、好き好んで嫁ぐわけじゃないから気分はだだ下がり、超低空飛行だよ。
 一歩間違えば、死と隣合わせ。
 そんな中でキャッキャウフフとしてられますかっての。
 荒々しく椅子に腰を下ろすと無意識にため息ともつかない音を立てた。
 幾分かは落ち着いたとき、

「陛下からのお品が届いたとなれば、早晩、婚礼が行われます。というか、行わなければなりません」

 レイムダックだった都筑がぽつりという。

「早ければ、明日にでもともなりかねない状況と見ます」

「そんな急に。絶対、嫌だ」

「イヤでもイカでも避けられません」

 なら、タコなら避けられるんかいと反論しかけようとしたとき、

「最早、ここに至っては成すすべもなく・・・淡雪様、ここは断腸の思いで婚礼を挙げましょう」

 と爆弾を落としてきた。

「な、何を・・・都筑、本気で言ってる!?」

 素っ頓狂な声が思わずでた。

「徒や疎かではいいません。けれど、淡雪様、ご心配には及びません。形式的に挙げるだけです」

「どういうことよ」

「四面楚歌のこの状況を打開するために、一先ずは婚礼を挙げ、態勢を建て直す時間を稼ぐのです。婚礼を挙げたとなると向こうも気が緩み、何かしらの好機が掴めるはず」

「都筑、流石は我が来栖家一の腹黒執事だよ」

「腹黒?」

 都筑の眉間にシワが寄る。
 あっ、つい、本音が・・・マズい誤魔化さないと。

「それなら、婚礼の一つや二つ、連チャンでどど~んと挙げてやろうじゃないか!」

 僕は力を込めできっぱりと宣言した。

「連チャンで挙げる物ではありませんがね。ところで淡雪様、婚礼の後のことですが」

「婚礼の後?・・・ああ、祝宴のことなら大丈夫。猫を総動員して直江の横でにこやかに座ってるから」

「いえ、そちらではなく・・・」

 都筑が若干、言い辛そうに口籠る。
 そちらじゃなきゃどちらだよ?

「・・・あーっ、夜の方です」

「夜?夜は寝るに決まってるじゃん」

「わかっていらっしゃるんですね?」

「そりゃ、わかってるよ」

 都筑は何となくホッとした様子をみせた。
 ぼそっと、
「何も知らないわけではないらしいな」と呟き

「では、少し踏み込みますが、夜のことですが・・・コツといいますか、心構えといいますか・・・」

「都筑、何を心配してるのかしらないけど、僕だって子供じゃないんだからさ」

「そこまで覚悟を決めていらっしゃったのですね」

 なぜか都筑が感動してるみたいだ。
 大袈裟だな。

「まぁ、当日は祝宴があるからいつもよりは寝るのが遅くなるだろうけど、祝宴の最中に居眠りはしない位の分別はあるよ」

「えっ?!」

 都筑が豆鉄砲を食らったような表情を浮かべた。
 なにやら額に汗を掻いているように見える。
 都筑が震える声で

「あ、淡雪様、そうではなく・・・床入りといいますか、初夜といいますか・・・子づくりといいますか・・・」

「都筑、主従関係とはいえ、そういうこはあからさま聞くべきじゃないよ」

「ですよね」

 都筑に安堵の色が浮かぶ。

「子どもは神殿から頂いた子の実を体に入れて、婚礼を挙げたふたりが一緒に寝たら程よい時に生まれてくるんじゃないか」

「そ、そうです。実を体に入れて、一緒に寝たら・・・って、まさか、淡雪様、おやすみなさい、睡眠を取るの寝るですか?!」

「寝るといったらそれしかないだろう。他になにがあるんだよ」

 僕の返しに都筑はがばりっと立ち上がるとドアを開け放ち、喉も裂けよとばかりに叫んだ

「晴ーっ!」





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