嫁ぎ先は青髭鬼元帥といわれた大公って、なぜに?

猫桜

文字の大きさ
上 下
10 / 50

淡雪の友、王都より来たる

しおりを挟む
 倉庫に続々と積み上がる備蓄物資を前に目を見開く光顕を余所に、晴と都築は回収した金銭の預け先を相談していた。

「やはりここは手堅く、何行かの両替商に分散して預けましょう」

「ええっ~、そんなことじゃ、儲かりませんよ~ここは~、ハイリスクハイリターン覚悟の超アクティブ運用で~新興産業に~ガッツリ投資ですよ、都築さん~」

「そこまでの余裕はない。投資するにしても安定性重視、70%は元本保証のパッシブ運用だな」

「みみっちいです~、危険を冒さないと~大金は転がり込んできません~」

「しかしだな・・・」

 都築と晴の攻防戦を背後に僕は千秋に問い詰められていた。
 長い付き合いから、一見、にこやかにしている千秋が実はもの凄く不機嫌なことがわかる。

「こらこら、淡雪。ちょっと私が商談で隣国に行っている間に結婚って、どういうことよ」

 と中和泉 千秋なかいずみ ちあきが僕の首に腕を回しながらいう。
 きっちりと化粧をし、いつもながらの華やかな美女振りだ。
 濃紺のタイトな服は身体のラインに沿い、千秋の身体を細く見せている。
 周囲で働いていた男たちが、寸の間手を止めて千秋を盗み見て、中には、ぽっと朱くなっている者もいた。
 知らないとは恐ろしいな。
 中和泉 千秋と今は名乗っているが、本名は智秋ともあき、読み方を変えれば“ちあき”ともよめるけどさ。
 この千秋はどこから見ても美女だが、見惚れている奴らに実は、僕と一緒で男だぞ~といったらどうなるんだろう。
 きっと人間不信に陥る奴が一人や二人はいる筈だ。
 千秋に初めて出逢った時は、僕が13歳の夏だった。
 父上に連れられて行った夏宵の宴で、当時19歳の千秋と会った。
 その頃は智秋と名乗っていて、端正な顔立ちで気品にあるれた姿とは裏腹に悩みを抱える暗い男子で、有体ありていにいえば、今にも投身自殺か服毒自殺寸前の悩める文学美青年という雰囲気だった。
 そんな人間を紹介されてみろ。
 ドン底の人間を引き上げることに異様な執着を持っている人間以外、フツーは引くだろ。
 僕もどうしていいか解らず、ただ、とんでもない状況になったことに脚をガクガクブルブルと震えさせてた。
 たかが13歳の子供にどうしろというんだと、紹介した人物を呪ったよ。
 千秋の何が怖かったかというと、ちょっと目を離した瞬間に死なれそうなことだ。もしそうなったら、本当、一生重い十字架を背負うことになる。
 それを避けるためには、もう、ここはひとつ、男気を出し、 

「どうかした?何かありました?」

 と、声をかけるのが得策だろうと、引き攣る笑顔を浮かべて頑張った。
 何を話したかなんて、ここで失敗したら暗黒の十字架を背負う、失敗はできないという極度の緊張感の中では、覚えているはずもない。
 そのうち何が気に入ったのか、よく話すようになり、遊びに行ったりして、年は離れていたけど親友となった。
 そんなある時、最近見ないな~なんて思ってたら、女装趣味に開眼したとか、なんの冗談だよと思ったもん。 
 本人いわく、“淡雪と話してたら、いろいろ吹っ切れた”らしい。
 何を吹っ切たのかは知らないが、吹っ切れすぎだろう。
 そんな変な趣味に前向きになった千秋とは反対に、帝国の経済界を牛耳っている商会の跡取りの異変が僕のせいだと本人の口から聞かされた身になって欲しい。
 いつ、商会から報復に流通を停められるか、提携を破棄されるか、そのせいで来栖家一族郎党が路頭に迷う羽目になるのを想像し、毎日戦々恐々とした挙げ句に、ついには寝込んだほどだ。
 現在、流通も提携も今まで通りで、ともすれば、前より繫がりが強固になったのは不思議だ。
 まあ、千秋は何だかんだといっても面倒を見てくれるし、優しいいい奴で親友といえる。

「やんごとなき賢所かしこどころからのムチャ振りに我が家は逆らえませんでした」

「どうして、相談してくれなかった。淡雪の結婚話聞いた時には、思わず、手にした億単位の契約書を引き裂くところだったよ。で、相手の青髭鬼元帥様はどこだ?私、淡雪の結婚相手を直に見たくて、二つほど商談を放ったらかしにしたのだが」

「億・・・それはごめん。けどさ、千秋いなかったじゃん、そのとき」

「ぐっ、確かに国外にいたけど、それでもさ。で、相手の青髭鬼元帥は何処だよ」

「どっかにはいるんじゃないかな?いなくてもいいけど」

「はぁっ?何、その離婚寸前の夫婦みたいな投げやり感」

 僕のその無関心口調に不信感を持った千秋は目を眇めた。

「淡雪、何か変だよね」

 ぶんぶんと首を横に振り、隠し事などしてませんよ~と体で訴えた。
 商会のトップに立つだけあって人を見る目や隠し事を暴く感は尋常じゃない。
 ポロッと洩らした一言で核心をついてくるから気が抜けない。

「まだ、婚礼を挙げてないからかな?・・・まぁ、挙げるつもりもないし・・・」

 尻つぼみに声が小さくなった。
 どうにかして、逃げ出す算段をしているなんて、千秋相手でもいえない。そのせいでモゴモゴいってしまうのも仕方ない。

「婚礼上げてない?」

「うん」と力強く頷いた。

 千秋がふっと黙った。
 えっ、何、この沈黙。怖いんですけど。

「いや、いろいろとあったし、こっちの都合というか、つまり、その・・・」

 話が妙な方向にいきそうだ。
 なぜ、と追求される前に話をそらしたいと考えてる僕を余所に、千秋の目が微かに光ったような気がした。

「・・・まだ、チャンスはあるわけか・・・」

 千秋の目が光り、聞こえるか聞こえないかの小声を発した。

「何か言った?」

「別に~気にしなくていいよ。それより、淡雪が食べたがってた蘭西ランス国の栗の糖蜜漬けマロン・グラッセを手に入れたから持ってきた」

「千秋、大好き。やっぱり、持つべきものは友だよね」

 栗の糖蜜漬けときき、いやが上にもテンションがあがり、千秋に抱きついた。
 蘭西国のは風味付けに洋酒が使われていて、国内の物より味わい深い。
 一度食べて、大好物になったけど、国外のお菓子ということでなかなか手に入らなかった。
 その大好物を持ってきてくれたとは、千秋に後光がさして見えた。
 千秋は、何故か僕が欲しがっているものを手に入れて、気前よくくれる。
 ありがたいよね、親友ってさ。

「こんな時だけ、好きと言われてもね・・・淡雪は私を何だと思ってるのか・・・」

「えっ、千秋は千秋じゃん。1番の親友」

「はぁ~、そうだった。親友ずっともだったよね・・・まぁ、奪還するまではそれで我慢しとくか・・・」

 千秋が呟き、苦笑いを浮かべた。

「?」

 変なヤツ・・・自分で昔、親友だと言っておいてさ。ズッ友の上はないのに。

「ここにいたのか」

 不意に背後から直江の声がした・・・




     
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

処理中です...