嫁ぎ先は青髭鬼元帥といわれた大公って、なぜに?

猫桜

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淡雪と都筑の大公家ビフォーアフター1

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 晴と共に滑りそうなほど磨き抜かれた廊下を走り、都築が籠もっている部屋へと向かった。
 くっ、広い屋敷も考えもんだよ。
 迷路か、ここは。
 後方で光顕が目を見開きながら小走りで付いてきる。良家の子息が屋敷を走りまわるなんてこと、行儀に厳しい貴族社会に於いては、前代未聞だから驚いているのだろうが、そんなことはどうでもいい。

「光顕、どっち!」

「はっ、次の角を左です」

「淡雪様~わ、私もう走れません~」

「無駄に広すぎる。光顕、部屋はどこ?」

「突き当たりです」

 滑り込むように部屋の前で立ち止まる。
 ここか・・・
 僕はドアに顔を近づけ様子を探った。
 部屋の中の異様な静けさにもの恐ろしさを感じる。
 どうしよう、赤黒く染まった床に見るも無惨な斬り刻まれた都筑の遺体があったら。
 僕は恐る恐るドアノブに手を掛け、そっとドアを開いた。
 ドアを開けたそこには・・・
 薄暗い執務室の一角で机の上に書類の束を広げ、ブツブツと一心不乱に呟いている都筑の姿があった。
 目を凝らして見ると、髪が乱れ、目は血走り、元々インドア派だから日に焼けていない白い肌が今や幽霊のように青白い。昨日から休むことなく書類を見ていたせいか顔もやつれていて、不気味なんてもんじゃない。その姿で呟きながら、時々ニタリと気味の悪い笑いを浮かべるのだ。
 死体も怖いが、薄暗い部屋で窶れ乱れた姿でブツブツと独り言をいい、意味なくニタリ~っと笑う姿を想像して欲しい。
 本当に背筋が凍るほど恐い。
 死体にはなってないけど、もはや人外魔境の住人、いや、幽鬼と呼んでも誰も反論しないんじゃないか。
 晴など僕の背後に隠れ、ぶるぶる震えながら都筑を伺っている。
 そういう僕も恐怖で足が小刻みに震えているし。
 いま、都筑に叱られたら、もう、一も二もなく、“ごめんなさい、僕が悪かったです。謝りますから許してください、お願いします”と、土下座せんばかりに許しを請うな。
まさか、仁王立ちする近江より恐い人間がいるとは。
 光顕が“異変あり”といったけど、これは異変ありすぎでしょうが。
 声なんぞかけたが最後、飛びかかってきて、襲われて幽鬼の仲間にされそうだから、おちおち声もかけられない。
 何処からか勇者が来て、都筑の頭を引っぱたいて失神させてくれないかなと、チラッと光顕を盗み見たが、ドン引きして固まり近寄ってもこない。武将の根性見せんかい。

「あ、淡雪様~こ、恐いです~都筑さん、死霊のはらわたです~」

 晴は震えながら僕に訴える。

「う、うん、古井戸から這いずって出てきそうだよ」

「淡雪様~、どうしますか~」

「どうって・・・」

 僕はちらりと光顕を見た。

「なんでしょうか?」 

 光顕は些か引き気味だ。

「都筑を失神させてきてくれないかな」

「嫌です」

 キッパリと断られた。

「怪しげな人物を取り押さえたり、捕まえるのは仕事だと思うんだけど」

「幽鬼については範疇外です。幽鬼対応は教会のエクソシストか寺の僧侶へどうぞ」

 武将の光顕からも幽鬼認定された都筑って一体・・・

「凄いです~遂に都筑さん、人外に認定されましたよ~」

 晴、そこは感心してないで否定してあげようよ。
 まぁ、同意はするけどさ。

「私より主である淡雪様が対応なさるべきでは」

「深窓の令息はか弱いので、荒事向きじゃないから」

「淡雪様が、か弱い深窓の令息ですか~どっちかというと、世間知らずのじゃじゃ馬ですよ~」

 光顕がプッと吹き出した。

「晴っ!」

 都筑に気づかれたら、取り憑かれそうなので大声で叱るわけにもいかず、ひそひそ声で叱ったのに気づかれ、

「何をごちゃごちゃいっているんですか、貴方がたは」
 と、地獄の底からの湧き出るような声が降ってくる。
 あわわわ・・・
 思わず晴と抱き合った。
 フリーズする僕達に、おいで~おいで~と都筑が手招きをする。

「ひいっ」

 ついに、地獄の釜の蓋が開いた・・・







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