7 / 50
淡雪と都筑の大公家ビフォーアフター1
しおりを挟む
晴と共に滑りそうなほど磨き抜かれた廊下を走り、都築が籠もっている部屋へと向かった。
くっ、広い屋敷も考えもんだよ。
迷路か、ここは。
後方で光顕が目を見開きながら小走りで付いてきる。良家の子息が屋敷を走りまわるなんてこと、行儀に厳しい貴族社会に於いては、前代未聞だから驚いているのだろうが、そんなことはどうでもいい。
「光顕、どっち!」
「はっ、次の角を左です」
「淡雪様~わ、私もう走れません~」
「無駄に広すぎる。光顕、部屋はどこ?」
「突き当たりです」
滑り込むように部屋の前で立ち止まる。
ここか・・・
僕はドアに顔を近づけ様子を探った。
部屋の中の異様な静けさにもの恐ろしさを感じる。
どうしよう、赤黒く染まった床に見るも無惨な斬り刻まれた都筑の遺体があったら。
僕は恐る恐るドアノブに手を掛け、そっとドアを開いた。
ドアを開けたそこには・・・
薄暗い執務室の一角で机の上に書類の束を広げ、ブツブツと一心不乱に呟いている都筑の姿があった。
目を凝らして見ると、髪が乱れ、目は血走り、元々インドア派だから日に焼けていない白い肌が今や幽霊のように青白い。昨日から休むことなく書類を見ていたせいか顔も窶れていて、不気味なんてもんじゃない。その姿で呟きながら、時々ニタリと気味の悪い笑いを浮かべるのだ。
死体も怖いが、薄暗い部屋で窶れ乱れた姿でブツブツと独り言をいい、意味なくニタリ~っと笑う姿を想像して欲しい。
本当に背筋が凍るほど恐い。
死体にはなってないけど、もはや人外魔境の住人、いや、幽鬼と呼んでも誰も反論しないんじゃないか。
晴など僕の背後に隠れ、ぶるぶる震えながら都筑を伺っている。
そういう僕も恐怖で足が小刻みに震えているし。
いま、都筑に叱られたら、もう、一も二もなく、“ごめんなさい、僕が悪かったです。謝りますから許してください、お願いします”と、土下座せんばかりに許しを請うな。
まさか、仁王立ちする近江より恐い人間がいるとは。
光顕が“異変あり”といったけど、これは異変ありすぎでしょうが。
声なんぞかけたが最後、飛びかかってきて、襲われて幽鬼の仲間にされそうだから、おちおち声もかけられない。
何処からか勇者が来て、都筑の頭を引っぱたいて失神させてくれないかなと、チラッと光顕を盗み見たが、ドン引きして固まり近寄ってもこない。武将の根性見せんかい。
「あ、淡雪様~こ、恐いです~都筑さん、死霊のはらわたです~」
晴は震えながら僕に訴える。
「う、うん、古井戸から這いずって出てきそうだよ」
「淡雪様~、どうしますか~」
「どうって・・・」
僕はちらりと光顕を見た。
「なんでしょうか?」
光顕は些か引き気味だ。
「都筑を失神させてきてくれないかな」
「嫌です」
キッパリと断られた。
「怪しげな人物を取り押さえたり、捕まえるのは仕事だと思うんだけど」
「幽鬼については範疇外です。幽鬼対応は教会のエクソシストか寺の僧侶へどうぞ」
武将の光顕からも幽鬼認定された都筑って一体・・・
「凄いです~遂に都筑さん、人外に認定されましたよ~」
晴、そこは感心してないで否定してあげようよ。
まぁ、同意はするけどさ。
「私より主である淡雪様が対応なさるべきでは」
「深窓の令息はか弱いので、荒事向きじゃないから」
「淡雪様が、か弱い深窓の令息ですか~どっちかというと、世間知らずのじゃじゃ馬ですよ~」
光顕がプッと吹き出した。
「晴っ!」
都筑に気づかれたら、取り憑かれそうなので大声で叱るわけにもいかず、ひそひそ声で叱ったのに気づかれ、
「何をごちゃごちゃいっているんですか、貴方がたは」
と、地獄の底からの湧き出るような声が降ってくる。
あわわわ・・・
思わず晴と抱き合った。
フリーズする僕達に、おいで~おいで~と都筑が手招きをする。
「ひいっ」
ついに、地獄の釜の蓋が開いた・・・
くっ、広い屋敷も考えもんだよ。
迷路か、ここは。
後方で光顕が目を見開きながら小走りで付いてきる。良家の子息が屋敷を走りまわるなんてこと、行儀に厳しい貴族社会に於いては、前代未聞だから驚いているのだろうが、そんなことはどうでもいい。
「光顕、どっち!」
「はっ、次の角を左です」
「淡雪様~わ、私もう走れません~」
「無駄に広すぎる。光顕、部屋はどこ?」
「突き当たりです」
滑り込むように部屋の前で立ち止まる。
ここか・・・
僕はドアに顔を近づけ様子を探った。
部屋の中の異様な静けさにもの恐ろしさを感じる。
どうしよう、赤黒く染まった床に見るも無惨な斬り刻まれた都筑の遺体があったら。
僕は恐る恐るドアノブに手を掛け、そっとドアを開いた。
ドアを開けたそこには・・・
薄暗い執務室の一角で机の上に書類の束を広げ、ブツブツと一心不乱に呟いている都筑の姿があった。
目を凝らして見ると、髪が乱れ、目は血走り、元々インドア派だから日に焼けていない白い肌が今や幽霊のように青白い。昨日から休むことなく書類を見ていたせいか顔も窶れていて、不気味なんてもんじゃない。その姿で呟きながら、時々ニタリと気味の悪い笑いを浮かべるのだ。
死体も怖いが、薄暗い部屋で窶れ乱れた姿でブツブツと独り言をいい、意味なくニタリ~っと笑う姿を想像して欲しい。
本当に背筋が凍るほど恐い。
死体にはなってないけど、もはや人外魔境の住人、いや、幽鬼と呼んでも誰も反論しないんじゃないか。
晴など僕の背後に隠れ、ぶるぶる震えながら都筑を伺っている。
そういう僕も恐怖で足が小刻みに震えているし。
いま、都筑に叱られたら、もう、一も二もなく、“ごめんなさい、僕が悪かったです。謝りますから許してください、お願いします”と、土下座せんばかりに許しを請うな。
まさか、仁王立ちする近江より恐い人間がいるとは。
光顕が“異変あり”といったけど、これは異変ありすぎでしょうが。
声なんぞかけたが最後、飛びかかってきて、襲われて幽鬼の仲間にされそうだから、おちおち声もかけられない。
何処からか勇者が来て、都筑の頭を引っぱたいて失神させてくれないかなと、チラッと光顕を盗み見たが、ドン引きして固まり近寄ってもこない。武将の根性見せんかい。
「あ、淡雪様~こ、恐いです~都筑さん、死霊のはらわたです~」
晴は震えながら僕に訴える。
「う、うん、古井戸から這いずって出てきそうだよ」
「淡雪様~、どうしますか~」
「どうって・・・」
僕はちらりと光顕を見た。
「なんでしょうか?」
光顕は些か引き気味だ。
「都筑を失神させてきてくれないかな」
「嫌です」
キッパリと断られた。
「怪しげな人物を取り押さえたり、捕まえるのは仕事だと思うんだけど」
「幽鬼については範疇外です。幽鬼対応は教会のエクソシストか寺の僧侶へどうぞ」
武将の光顕からも幽鬼認定された都筑って一体・・・
「凄いです~遂に都筑さん、人外に認定されましたよ~」
晴、そこは感心してないで否定してあげようよ。
まぁ、同意はするけどさ。
「私より主である淡雪様が対応なさるべきでは」
「深窓の令息はか弱いので、荒事向きじゃないから」
「淡雪様が、か弱い深窓の令息ですか~どっちかというと、世間知らずのじゃじゃ馬ですよ~」
光顕がプッと吹き出した。
「晴っ!」
都筑に気づかれたら、取り憑かれそうなので大声で叱るわけにもいかず、ひそひそ声で叱ったのに気づかれ、
「何をごちゃごちゃいっているんですか、貴方がたは」
と、地獄の底からの湧き出るような声が降ってくる。
あわわわ・・・
思わず晴と抱き合った。
フリーズする僕達に、おいで~おいで~と都筑が手招きをする。
「ひいっ」
ついに、地獄の釜の蓋が開いた・・・
37
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる