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黒幕の真っ只中で
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悠理はカラカラと音がするのを遠くに聞いていた。
音が止まると誰かに担がれて運ばれているのが解るのだが、薄っすらと霞がかった頭と重い身体では身動することすらできなかった。
悠理はドサリと降ろされた。
ふわりと香る匂い。
あの時と緋沙子の部屋とで嗅いだ匂いだった。
“・・・まさかあの侍女が・・・”
冷たい床の感触で徐々に朦朧とした意識が鮮明になってきた。
悠理の手足は腰紐のようなもので縛られていた。
縛られている手を床に付き苦労して悠理は起き上がる。
壁に身体を預けて座った。
部屋を見回すと飾られている調度品は上品で、華美をわざと抑え、清涼な雰囲気をつくっていた。
窓の外は暗く、既に夜になっていることが解る。
緋沙子の部屋から攫われた事を知る。
緋沙子嬢の醜聞を知った自分はこのままだと絶対に無事では済まない。
“そうだよ・・・沙也加様を殺害し、鞠子様を瀕死の状態に陥れ、緋沙子様をあんな風にたした犯人として殺されるかも・・・違うと反論しようにも死人に口無しだし”
最悪、自分の命が危ないと悠理は血の気が引いた。
小説だと、ここで主人公は、犯人に対峙して懲らしめるとか、ヒ―ロ―が来て助け出すなんだろうけど、情けないかな悠理は荒事向きではない。
ロン毛の神様の加護で支援や癒しの魔力はあるが、攻撃魔力は皆無だ。
そうなるとパンチパーマの神様の加護、悠理が窮地に陥ったり、不幸になりそうな時には、必ず救われるようにしとくからという言葉を信じるしかないが、寿命を書き漏れする神様の言葉を信じていいのか今ひとつ不安だ。
“ヒーローだってヘタれ東宮に付いているだろうハルミヤが助けに来く確率は低いし、父上は絶対に当てにならないし・・・”
となると、自分でどうにかしてここから逃げるしかないんじゃないかと悠理は思う。
“どうする?どうしたらいい?”
誰かがこちらに来る気配がした。
悠理は焦りと緊張で身体中がじっとりと汗ばむ。
“手足を縛っている紐が何らかの拍子に緩むなんてそんな都合のいいことあるはずないよね”
とわかっていても手足を動かすのは危機に陥った人間の性で、悠理もご多分に漏れず動かした。
何回か動かしていると、手を縛っている紐が緩んできた。
しかももうちょっとで外れそうである。
“えっ、ウソ。マジラッキー。これってパンチパ―マの神様の加護?!だとしたら、パンチパ―マの神様、信じなくってごめんなさい。こちらの神様よりありがたいですだよ”
紐が解け、自由になった手で悠理は足を縛っていた紐を外した。
そっとドアノブを回すとドアには鍵がかかっていなかった。
隙間程度にドアを開き、廊下の様子を窺う。
見張りはなく、廊下に人気はなかった。
今のうちにと悠理は部屋の外に出て逃げ出した。
突き当りを右に折れ、足音を忍ばせて歩いていると、こちらに向かってくる人の気配がした。
咄嗟に近くの部屋に身を隠した。
続きの間のある広い部屋の奥から話し声が聞こえた。
「そろそろ目覚める頃合いか」
と以前に聞いた事のある若くはない男の声が言った。
「目が覚めて騒がれると面倒ですわね」
声に聞き覚えがある。
今ならあの侍女が誰だか悠理にもわかった。
若くはない男の声はきっと小早川公爵、侍女の声は緋沙子の侍女、花野だ。
“もしかして、悪巧みしてる首謀者のところに逃げ込んだ?・・・引きが良すぎるよ・・・”
こんなところで愚図愚図していたら捕まるのは目に見えている。
「藤原侯爵家の令嬢に見られたとは・・・東宮御所で妖しげな呪符とともに死んで頂く予定でしたのに」
さっさと逃げようとしたが、自分の名前が出てきたので悠理は足を止めた。
「些少の狂いは致し方あるまい。ここにあの令嬢を運んできた奴がな、あの令嬢の身体を好きにしたいと言っておってな。確かに、ただ死なすのには惜しい美貌の持ち主よ。抱いてから殺めるもの一興」
「よろしいのでは。高貴なご令嬢が恥辱にまみれ屈辱的な姿を晒すなど最高の演物ですわ」
「演物とは・・・フフフ、恐ろしい女じゃな、そなたは」
「公爵様ほどではございませんわ。ああ、あの女に使った薬を使われますか。まだ残っておりますわよ」
「それは良いの」
会話を聞いた悠理は真っ青になった。
“何が、それは良いのだよ、この助平ジジイ!年寄りは膝関節のためのグルコサミンかボケ防止に青魚由来のDHAでも飲んどけよ。けど、あのまま居たら最低最悪なことになってたよ。もう逃げるしかないわ、これは”
悠理が逃げ出そうとした瞬間、
「誰かいるか!捕えていた女が逃げたぞ!!」
という野太い怒鳴り声が屋敷中に響き渡ったのだった・・・
音が止まると誰かに担がれて運ばれているのが解るのだが、薄っすらと霞がかった頭と重い身体では身動することすらできなかった。
悠理はドサリと降ろされた。
ふわりと香る匂い。
あの時と緋沙子の部屋とで嗅いだ匂いだった。
“・・・まさかあの侍女が・・・”
冷たい床の感触で徐々に朦朧とした意識が鮮明になってきた。
悠理の手足は腰紐のようなもので縛られていた。
縛られている手を床に付き苦労して悠理は起き上がる。
壁に身体を預けて座った。
部屋を見回すと飾られている調度品は上品で、華美をわざと抑え、清涼な雰囲気をつくっていた。
窓の外は暗く、既に夜になっていることが解る。
緋沙子の部屋から攫われた事を知る。
緋沙子嬢の醜聞を知った自分はこのままだと絶対に無事では済まない。
“そうだよ・・・沙也加様を殺害し、鞠子様を瀕死の状態に陥れ、緋沙子様をあんな風にたした犯人として殺されるかも・・・違うと反論しようにも死人に口無しだし”
最悪、自分の命が危ないと悠理は血の気が引いた。
小説だと、ここで主人公は、犯人に対峙して懲らしめるとか、ヒ―ロ―が来て助け出すなんだろうけど、情けないかな悠理は荒事向きではない。
ロン毛の神様の加護で支援や癒しの魔力はあるが、攻撃魔力は皆無だ。
そうなるとパンチパーマの神様の加護、悠理が窮地に陥ったり、不幸になりそうな時には、必ず救われるようにしとくからという言葉を信じるしかないが、寿命を書き漏れする神様の言葉を信じていいのか今ひとつ不安だ。
“ヒーローだってヘタれ東宮に付いているだろうハルミヤが助けに来く確率は低いし、父上は絶対に当てにならないし・・・”
となると、自分でどうにかしてここから逃げるしかないんじゃないかと悠理は思う。
“どうする?どうしたらいい?”
誰かがこちらに来る気配がした。
悠理は焦りと緊張で身体中がじっとりと汗ばむ。
“手足を縛っている紐が何らかの拍子に緩むなんてそんな都合のいいことあるはずないよね”
とわかっていても手足を動かすのは危機に陥った人間の性で、悠理もご多分に漏れず動かした。
何回か動かしていると、手を縛っている紐が緩んできた。
しかももうちょっとで外れそうである。
“えっ、ウソ。マジラッキー。これってパンチパ―マの神様の加護?!だとしたら、パンチパ―マの神様、信じなくってごめんなさい。こちらの神様よりありがたいですだよ”
紐が解け、自由になった手で悠理は足を縛っていた紐を外した。
そっとドアノブを回すとドアには鍵がかかっていなかった。
隙間程度にドアを開き、廊下の様子を窺う。
見張りはなく、廊下に人気はなかった。
今のうちにと悠理は部屋の外に出て逃げ出した。
突き当りを右に折れ、足音を忍ばせて歩いていると、こちらに向かってくる人の気配がした。
咄嗟に近くの部屋に身を隠した。
続きの間のある広い部屋の奥から話し声が聞こえた。
「そろそろ目覚める頃合いか」
と以前に聞いた事のある若くはない男の声が言った。
「目が覚めて騒がれると面倒ですわね」
声に聞き覚えがある。
今ならあの侍女が誰だか悠理にもわかった。
若くはない男の声はきっと小早川公爵、侍女の声は緋沙子の侍女、花野だ。
“もしかして、悪巧みしてる首謀者のところに逃げ込んだ?・・・引きが良すぎるよ・・・”
こんなところで愚図愚図していたら捕まるのは目に見えている。
「藤原侯爵家の令嬢に見られたとは・・・東宮御所で妖しげな呪符とともに死んで頂く予定でしたのに」
さっさと逃げようとしたが、自分の名前が出てきたので悠理は足を止めた。
「些少の狂いは致し方あるまい。ここにあの令嬢を運んできた奴がな、あの令嬢の身体を好きにしたいと言っておってな。確かに、ただ死なすのには惜しい美貌の持ち主よ。抱いてから殺めるもの一興」
「よろしいのでは。高貴なご令嬢が恥辱にまみれ屈辱的な姿を晒すなど最高の演物ですわ」
「演物とは・・・フフフ、恐ろしい女じゃな、そなたは」
「公爵様ほどではございませんわ。ああ、あの女に使った薬を使われますか。まだ残っておりますわよ」
「それは良いの」
会話を聞いた悠理は真っ青になった。
“何が、それは良いのだよ、この助平ジジイ!年寄りは膝関節のためのグルコサミンかボケ防止に青魚由来のDHAでも飲んどけよ。けど、あのまま居たら最低最悪なことになってたよ。もう逃げるしかないわ、これは”
悠理が逃げ出そうとした瞬間、
「誰かいるか!捕えていた女が逃げたぞ!!」
という野太い怒鳴り声が屋敷中に響き渡ったのだった・・・
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