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星見の宴の夜と東宮御所での事件※ミステリーにつきものの場面あります
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東宮御所のその一室には月あかりだけが射し込み、空気はいやが上にも緊張の色を孕んでいた。
絶対に会いたくない人物が目の前にいる悠理にとってこの状況は居たたまれない。
ハルミヤが見たこともない酷く真剣な顔で悠理を見ている。
「姿が見えなくなったと思ったら、意外なところで会うものだな、ユーリ」
「そ、そうだね」
悠理は緊急措置とはいえ、疼く身体を宥めてもらった相手にどんな顔をして、何を話せばいいのかわからず、へどもどしてしまう。
紺色に金のモールが付いた侍衛の制服のハルミヤは、ラフな格好だった冒険者のときと違い、ストイックな雰囲気を纏いこれはこれでモテるだろう思わせた。
「何故、あの場所に?しかも、その姿は?」
ハルミヤの表情は厳しく、抜き差しならない目で悠理に問いかける。
一切の誤魔化しは通用しないぞといわれているかのようだ。
嘘や誤魔化しを言ったり、黙っていたらますます立場が悪くなり、酷い目に遭いそうで悠理は素直に経緯を喋った。
「死にかけていた我が子を救うために姫として育ててられ、男子に戻ることもできないそのストレス発散に冒険者ギルドに通っていて、今回の東宮妃候補に選ばれ、藤原侯爵令嬢としてここにいると・・・」
ハルミヤの声は半ば呆れたといわんばかりだった。
「現実は小説より奇なりだよ」
と悠理はむっつりといった。
「ハルミヤだって、ちゃんとした侍衛なのに何で冒険者してるんだよ」
「しがらみが多くてね。息を抜くところがないとな」
「私だってこのまま姫として生きていくなんて嫌だし、ましてや、東宮妃になんてなる気はさらさらないし」
「東宮妃、なる気はないのか?」
「あのね、どこをどうしたら男の子の私が東宮妃になれるだよ。しかも、いつもびくびくして、ちょっとの音でも腰を抜かすヘタれ東宮なんて嫌だし」
「・・・いや、あの方にも色々と・・・譲位に絡み東宮御所での異変などあってだ、そう、少しお心が乱れているのではないかと・・・」
ハルミヤは仕えていることもあるのか東宮を庇った。
秘密がなくなった悠理は意趣返しもかね、
「そのうち母上にみたいに変なご宣託信じるようにならないといいね」
といい、ニコりと微笑った。
「嫌なことを。東宮に限ってそんなことはない」
不機嫌な顔でハルミヤが返した。
「そう?大体、ヘタれじゃなければ、こんな東宮妃選定なんて開かれず、変なことを盗み聞く羽目になんてからなかったし。今頃は自室でゆっくりできてたはずだよ」
「盗み聞く・・ユーリは何を聞いた」
ハルミヤの目が鋭く光った。
「え、ええっと、あ~何だか怪しげな?」
「まさか、東宮の」
ハルミヤの口調が誰何するものとなった。
冷や汗とも脂汗ともつかない汗が悠理の額から一筋流れた。
なにか喋ったら襤褸が出そうで何も言えない。
「その様子だ聞いてしまったな」
「そ、そうかな・・・ははは」
ハルミヤはため息を零した。
「どこまで聞いた」
「何処かの侍女が誰かに何かを渡してて、それで東宮を廃嫡するとかなんとか」
「・・・」
「でもさ、東宮を廃嫡して誰を新東宮に立てるんだろう。第二皇子は後見が弱かったはずだし、第三皇子はまだ幼かったよね」
「聡いのも考えものだな」
ハルミヤは悠理を見て、膝を進め、声を顰めた。
「仮東宮というのを知ってるか?」
「正式な東宮が決まるまでの繋ぎで、次代の東宮が何らかの理由で決まってないときに陛下に何かあった時には期限付きで陛下にもなれるだっけ」
「そうだ。現在の東宮は後見もしっかりしていて、既に成人もしている。余程のことがない限り東宮が陛下に即位する。しかし、東宮が廃嫡されるとなれば、後見が弱い第二皇子や7つにもなっていない第三皇子ではいざという時には不安がある。そこで仮東宮が立つことになる」
“生臭いよなぁ・・・跡目争いとか政治ってそういうもんだと思っても汚いわ~”
「仮東宮擁立って・・・」
「仮東宮候補は3名。1名は既に仏門に入られ還俗される気はない。もう1名は女性ですが、降嫁されておられるのでこちらも除外。残った1名は陛下の叔父にあたられる小早川公爵だ」
「小早川公爵って、アラフィフどころか還暦近いのおじいさんじゃない」
「大人しく隠居されていれば良かったんだか」
「渡した相手って、まさか」
「察しがいい」
話が段々と大きくなり、もはや国家レベルでの陰謀になったではないか。
ことの重大さに悠理は呆然となった。
悠理の父、貴成はまがりなりにも宰相である。
貴成に相談するべきではないか。
悠理の考えを読んだのか、ハルミヤが眼光鋭く睨みつけた。
「ユーリ、ことは内密に」
「・・・」
“いやいや、ダメでしょ。一介の侍衛風情で片づく問題じゃない。失敗したら終わりじゃないか“
やはり、父上に・・・
「ユーリ」
悠理が顔を向けるとハルミヤの顔が間近にあった。
「このまま帰すのは危険だな・・・」
優しく言ってはいるが、目も表情も鋭い。
ふっと黙り込んだ。
ハルミヤの長い節張った指が悠理の頬を撫でた。
「ねぇ、ユーリ、秘密を守ってもらうためにはどうしたらいいと思う」
「へっ?」
何だか妖しげな雰囲気になってきたなと悠理は思った。
ハルミヤの男としての色気がただ漏れている。
「ハ、ハルミヤ・・・さん?」
悠理の腰に手が回り、顔が一層近づく。
「あの時、浴室から出たらユーリはいなかった。その気にさせといて酷いよな・・・」
悠理は思い出すと一気に赤面した。
その悠理の顎を撫でていた指が持ち上げ、端正なハルミヤの顔が近づき口づけらた。
腰を抱かれ、身を反らせるたまま口づけられる。
優しい触れ方だったのが、徐々に深くなり、舌を絡ませてくる。
肩を叩いていた悠理の手から次第に力が抜けていく。
蒸気した頬はうす紅くなり、唾液で濡れた唇が官能の誘った。
悠理を床に横たえ覆いかぶさるハルミヤ
背中に手を回し、止め金に触れドレスを脱がそうとしたその刹那、
「キャーっ、だ、誰か!」
切り裂くような悲鳴が響き渡った。
一気に正気に戻った悠理とハルミヤは素早く身体を起した。
ドアを開け、駆け出す。
わらわらと人が集まりだした。
廊下で腰を抜かした真っ青な顔の侍女が震える指で部屋の中を差していた。
部屋の中では沙也加が倒れていた。
沙也加の首から流れた血はドレスを染めただけでなく、絨毯をも染めあげていた。
倒れた沙也加の横には精巧に作られた髪飾りが照明を浴び、光っていたのだった・・・
絶対に会いたくない人物が目の前にいる悠理にとってこの状況は居たたまれない。
ハルミヤが見たこともない酷く真剣な顔で悠理を見ている。
「姿が見えなくなったと思ったら、意外なところで会うものだな、ユーリ」
「そ、そうだね」
悠理は緊急措置とはいえ、疼く身体を宥めてもらった相手にどんな顔をして、何を話せばいいのかわからず、へどもどしてしまう。
紺色に金のモールが付いた侍衛の制服のハルミヤは、ラフな格好だった冒険者のときと違い、ストイックな雰囲気を纏いこれはこれでモテるだろう思わせた。
「何故、あの場所に?しかも、その姿は?」
ハルミヤの表情は厳しく、抜き差しならない目で悠理に問いかける。
一切の誤魔化しは通用しないぞといわれているかのようだ。
嘘や誤魔化しを言ったり、黙っていたらますます立場が悪くなり、酷い目に遭いそうで悠理は素直に経緯を喋った。
「死にかけていた我が子を救うために姫として育ててられ、男子に戻ることもできないそのストレス発散に冒険者ギルドに通っていて、今回の東宮妃候補に選ばれ、藤原侯爵令嬢としてここにいると・・・」
ハルミヤの声は半ば呆れたといわんばかりだった。
「現実は小説より奇なりだよ」
と悠理はむっつりといった。
「ハルミヤだって、ちゃんとした侍衛なのに何で冒険者してるんだよ」
「しがらみが多くてね。息を抜くところがないとな」
「私だってこのまま姫として生きていくなんて嫌だし、ましてや、東宮妃になんてなる気はさらさらないし」
「東宮妃、なる気はないのか?」
「あのね、どこをどうしたら男の子の私が東宮妃になれるだよ。しかも、いつもびくびくして、ちょっとの音でも腰を抜かすヘタれ東宮なんて嫌だし」
「・・・いや、あの方にも色々と・・・譲位に絡み東宮御所での異変などあってだ、そう、少しお心が乱れているのではないかと・・・」
ハルミヤは仕えていることもあるのか東宮を庇った。
秘密がなくなった悠理は意趣返しもかね、
「そのうち母上にみたいに変なご宣託信じるようにならないといいね」
といい、ニコりと微笑った。
「嫌なことを。東宮に限ってそんなことはない」
不機嫌な顔でハルミヤが返した。
「そう?大体、ヘタれじゃなければ、こんな東宮妃選定なんて開かれず、変なことを盗み聞く羽目になんてからなかったし。今頃は自室でゆっくりできてたはずだよ」
「盗み聞く・・ユーリは何を聞いた」
ハルミヤの目が鋭く光った。
「え、ええっと、あ~何だか怪しげな?」
「まさか、東宮の」
ハルミヤの口調が誰何するものとなった。
冷や汗とも脂汗ともつかない汗が悠理の額から一筋流れた。
なにか喋ったら襤褸が出そうで何も言えない。
「その様子だ聞いてしまったな」
「そ、そうかな・・・ははは」
ハルミヤはため息を零した。
「どこまで聞いた」
「何処かの侍女が誰かに何かを渡してて、それで東宮を廃嫡するとかなんとか」
「・・・」
「でもさ、東宮を廃嫡して誰を新東宮に立てるんだろう。第二皇子は後見が弱かったはずだし、第三皇子はまだ幼かったよね」
「聡いのも考えものだな」
ハルミヤは悠理を見て、膝を進め、声を顰めた。
「仮東宮というのを知ってるか?」
「正式な東宮が決まるまでの繋ぎで、次代の東宮が何らかの理由で決まってないときに陛下に何かあった時には期限付きで陛下にもなれるだっけ」
「そうだ。現在の東宮は後見もしっかりしていて、既に成人もしている。余程のことがない限り東宮が陛下に即位する。しかし、東宮が廃嫡されるとなれば、後見が弱い第二皇子や7つにもなっていない第三皇子ではいざという時には不安がある。そこで仮東宮が立つことになる」
“生臭いよなぁ・・・跡目争いとか政治ってそういうもんだと思っても汚いわ~”
「仮東宮擁立って・・・」
「仮東宮候補は3名。1名は既に仏門に入られ還俗される気はない。もう1名は女性ですが、降嫁されておられるのでこちらも除外。残った1名は陛下の叔父にあたられる小早川公爵だ」
「小早川公爵って、アラフィフどころか還暦近いのおじいさんじゃない」
「大人しく隠居されていれば良かったんだか」
「渡した相手って、まさか」
「察しがいい」
話が段々と大きくなり、もはや国家レベルでの陰謀になったではないか。
ことの重大さに悠理は呆然となった。
悠理の父、貴成はまがりなりにも宰相である。
貴成に相談するべきではないか。
悠理の考えを読んだのか、ハルミヤが眼光鋭く睨みつけた。
「ユーリ、ことは内密に」
「・・・」
“いやいや、ダメでしょ。一介の侍衛風情で片づく問題じゃない。失敗したら終わりじゃないか“
やはり、父上に・・・
「ユーリ」
悠理が顔を向けるとハルミヤの顔が間近にあった。
「このまま帰すのは危険だな・・・」
優しく言ってはいるが、目も表情も鋭い。
ふっと黙り込んだ。
ハルミヤの長い節張った指が悠理の頬を撫でた。
「ねぇ、ユーリ、秘密を守ってもらうためにはどうしたらいいと思う」
「へっ?」
何だか妖しげな雰囲気になってきたなと悠理は思った。
ハルミヤの男としての色気がただ漏れている。
「ハ、ハルミヤ・・・さん?」
悠理の腰に手が回り、顔が一層近づく。
「あの時、浴室から出たらユーリはいなかった。その気にさせといて酷いよな・・・」
悠理は思い出すと一気に赤面した。
その悠理の顎を撫でていた指が持ち上げ、端正なハルミヤの顔が近づき口づけらた。
腰を抱かれ、身を反らせるたまま口づけられる。
優しい触れ方だったのが、徐々に深くなり、舌を絡ませてくる。
肩を叩いていた悠理の手から次第に力が抜けていく。
蒸気した頬はうす紅くなり、唾液で濡れた唇が官能の誘った。
悠理を床に横たえ覆いかぶさるハルミヤ
背中に手を回し、止め金に触れドレスを脱がそうとしたその刹那、
「キャーっ、だ、誰か!」
切り裂くような悲鳴が響き渡った。
一気に正気に戻った悠理とハルミヤは素早く身体を起した。
ドアを開け、駆け出す。
わらわらと人が集まりだした。
廊下で腰を抜かした真っ青な顔の侍女が震える指で部屋の中を差していた。
部屋の中では沙也加が倒れていた。
沙也加の首から流れた血はドレスを染めただけでなく、絨毯をも染めあげていた。
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