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侍女細雪の煩悶

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「父上も可哀想に。魔が悪かったというか、運がなかったというか、なんだか哀れだよね」
悠理は身軽な服に着替え、フード付きのマントを羽織る。
「悠理様、お出かけですか?最近は頻繁にお出かけになられるので、誤魔化すのが大変なんですよ」
悠理付きの侍女細雪が困惑気味に聞いてきた。
「行く。このところ鬱憤が溜まって溜まってしかたないんだ。こういう時こそ気分転換しなきゃ変な方向に走りそうでさ」
嬉々として出かける準備をしている悠理を見ながら、
“ここまで成長できたのだから、虚弱体質も改善されたわよね。もう姫として暮らさなくてもいいわよねぇ・・・”
細雪はひっそりとため息を吐いた。
悠理はどこから見ても嫋やかで綺麗でこの国でも1、2を争うといわれているほどの美人だ。
美人に付き物の驕り高ぶりもなく、性格もいい。
母が悠理の乳母をしていたので幼い頃から悠理を知ってるいる細雪にとっては、ある時までは憧れでもあった。
だからこそ、悠理が実は男の子だったと知ったときは軽く高熱を出して寝込んだ。
「憧れの悠理様が実は女装癖持ちの変態さんだったなんてあんまりよ」
と母に縋って泣いた。
我が子の酷い落ち込み具合いに細雪の母親は悠理がなぜ女の子として育てられているかを話した。
悠理が成長するためには女の子と育てるしかないと。
”なら、私の全身全霊をかけて立派な姫にお育てしてみせましょう“
悠理誕生の経緯を知っているからこそ、どこの姫よりも姫らしくお育てすると誓ったという。
まさか自分の母親が片棒を担いでいるなんて思いもしなかった。
人間自分のキャパを超える事があると思考が停止し、涙も熱も引っ込んでしまうらしい。
えっ、マジで?
それってヤバくない?
いや、絶対ヤバいでしょ!
何やってんの、お母さん!
それよりこのままでいいのか、侯爵家?!
と細雪は幼心にあの日から侯爵家、ひいては自分の行末心配をしていた。
なにせ、細雪達母娘は母子家庭である。
安定した職場で定年退職まで努め、功労金を貰って老後はのんびりと暮らしたい。
なのに、侯爵家嫡男が女装癖持ちの変態さんなんて世間に知られたら悪くすれば侯爵家はお取り潰し、自分たち親子は路頭に迷うではないか。
それだけは避けたい。
いい解決策はないかと幼い頭を日々頭を悩ませるが、時間は無常にも流れていったのである。
そうこうするうちに悠理が突然自我に目覚めた。
侯爵夫人や母の厳しい監視の目を掻い潜り、こっそりと抜け出すようになったではないか。
いち早くそのことに気がついた細雪は、安定した老後計画が破綻するのではと強迫性障害に陥りそうになった。
“まさか、屋敷内では飽き足らず、外の怪しげな店にでも出入りしてるの?マジヤバじゃない”
真っ青になった細雪は、抜け出そうとする悠理を捕まえ、
「あたし達親子を露頭に迷わす気ですか」
と半狂乱になって問いただした。
あまりの迫力に一瞬、固まった悠理だが、味方がいないよりはいたほうが今後のためになると思い、細雪に秘密を話した。
いわく、息が詰まる女装生活のストレス解消に冒険者ギルドで身分を隠し、魔法使いをしているという。
戦うわけでもなく、後方で魔法支援をしているだけなので安全だから大丈夫だと。
「黙ってて、この通り」
手を合わせる悠理を見て、
“確かに普通ならストレス溜まるわよね•••ここで下手に止たらストレスが溜まった挙げ句、本当に怪しげな店に出入りされるかもしれないわ。それだけは避けるのよ、細雪。安定した侍女生活からの老後をのんびりよ”
細雪には細雪の密かな思惑。
魚心あれば水心あり。
こうしてこのことはふたりのだけの秘密となった。

「どうやって誤魔化しましょう」

「う~ん、そこはそれ、低血圧で倒れたとか」

「先程までピンピンしててそれは、ちょっと・・・」
 
「滝行してるとか」

「侯爵家に滝行に適した滝はありません」

「なら、誰にも会わず、一人部屋に籠もってるってことで」

「ちょっと精神病んでそうですね、それ」

「半ば病んでるよ、もう」

「それもそうですね」

「そこは否定するところだよね」

「いささか否定しづらいですわ」

あっさりと肯定する細雪にこの子こんな性格だったっけと思わないでもない悠理

「もういいよ、あとよろしく」

そう言って悠理は魔法陣を組む。体が揺ら揺らと消えていく。
細雪は慌てて悠理に声をかけた。

「あっ、明日の朝までには帰って来てくださいね、絶対ですからね」

「解ってるよ」

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