27 / 38
第2部
14 | 召喚術と結界 - ベルスタ②
しおりを挟む
「言ったが?」
「セルシウスが話せることも知っているんだな」
「まあな」
「魔術師殿が生きていることは? 爺さんや夫人は知っているのか」
「ああ」
「それならなにかあっても安心、かな。俺じゃ役に立てそうもない」
「羊飼いはおとなしく羊の番をしていればいいさ」
「まったくだ」
もっと簡単に魔術を使えるようになるのかと思っていたが道のりは長そうだった。もし昨日の魔術師たちがノクトを見つけてしまっていたら、シュルッセル様の存在に気付いていたら、俺になにができただろう。
「キュウ」
ノクトが翼をひろげる。ふわりと浮かび上がって戸口へ向かった。なにごとかと思えば、爺さんが帰ってきたところだった。
「おっと、出迎えがあるとは」
「キュ」
「爺さん、すまないな」
「起きたか。いやいや、ドラゴンを召還するなんて常人のやることじゃないからな。どこぞの馬鹿が無茶言ったんだろう」
「だれかはやらないといけなかったんだ」と言ったのはセルシウス。爺さんはそれに溜め息で応え、「そうだとしても、まず相談するとかだな。いくらでもやり方はあったはずだぞ」と続けた。まるでセルシウスを責めているようだった。
「俺の力が足りなかったんだ。それにもう平気だ、このとおり」
ベッドから起き上がる。だるさは残っているが今朝は話すこともできなかったことを考えるとずいぶん回復している。
「ベルスタ、よぉく覚えておけ」と爺さんが脅す口調でこちらを指さす。「魔術師なんてろくな奴がおらん、信用なんぞしたら命がいくらあっても足りんからな」
セルシウスがふんっと鼻を鳴らす。
「ははっ、忠告ありがとう。でも俺の腕はこのとおり魔術師殿のおかげで元に戻った。悪いことばかりじゃない」
「腕一本で命まで預けるのか、まったく」
やれやれと爺さんは勝手知ったる室内を歩き、かまどへ火を入れた。
「勝手に作らせてもらうが、食欲はあるか」
「ああ、腹は減っている。悪いな」
「そこの犬も食うんだろ」
「当たり前だ」
「キュウ」
「このドラゴンはなにを食うんだ」
「昨日の夜は俺たちと同じスープを飲んだ」
「なら、二人と二匹分だな! 突っ立たれても邪魔だ、できるまで寝とけ」
俺はベッドへ戻り、でも寝転ぶ気分にもなれず手持ち無沙汰なのでセルシウスの背を撫でていた。ノクトは爺さんが料理をつくるのを観察している。
「ノクトはこれからどうするんだ」
セルシウスは閉じていた目蓋をあげ、上目遣いでこちらを見る。
「なにかが足りないんだ…」
「なにか?」
「魔導書に書いてあることと違う点がある。ラザフォード家の魔導書が王宮に渡っていたことも気になる」
「足りないままだとどうなるんだ」
「さあな、このまま山小屋で成長するのを見守る、か」
「ドラゴンを育てられるかなあ。いつまでも羊飼いのスープじゃだめだろう」
自分の話をしているとわかったのか、ノクトがこちらへ飛んでくる。
「大きくなったら山小屋に入れないしなあ」
ノクトは「キュ」と鳴くと、空中でくるりと前転をした。目の錯覚かもしれないが体が小さくなった気がする。いや、両手にのる大きさだった体が、片手にのる大きさに変わっている。
俺が思考の整理をしている間に、セルシウスは冷静に「なるほど、大きさは自分の意思で変えられるのか」と言った。そうか、炎の中に姿を隠せるくらいだから肉体は変幻自在なのか。
「…便利だな」
「本来の大きさはどれくらいなんだ」
「キュウウ」
今度は後転をしようとするノクトを、反射的にがっしりと捕まえた。
「待ってくれ、だめだ。山小屋よりでかくなったらどうするんだ」
「まさか」
「キュ!」
俺の手から逃れたノクトは小さな胸をはる。自称ではあるが山小屋より大きそうだ。
「気を付けろよ、危うく山小屋を壊すところだ」
セルシウスは反省のいろもなく、「成長してもここで暮らせそうだな」とのたまう。
「キュキュ」
「楽しそうね」
さすがに突然の登場にも慣れてきた。リリスは挨拶もなしに、「ちょっと、これってドラゴン?」とノクトを抱き上げる。闖入者に驚いたオンス爺さんが「急になんだ」と声をあげた。
「あら、山小屋にも使用人がいるの?」
「リリス失礼だぞ。彼は元羊飼いだ。今日は俺が体調を崩したから来てくれているにすぎない。それから爺さん、彼女は怪しい者では、あるが…ええと…」
つまった言葉のつづきは必要なかった。「知っている顔だから説明は要らん」と爺さんが言ったからだ。
「わかっちゃたアタシ。んもう、キュリー様ったらどうせばれるんだから最初から教えてくれてもいいのに」
リリスはノクトをぬいぐるみのように抱いて、くるくると回る。
「一体なんの用だ」
セルシウスが鬱陶しそう尋ねる。
「キュリー様がお呼びよワンちゃん」
「今朝会ったばかりだが?」
「潮目が変わったの、キュリー様が王宮から呼び出しくらったのよ。結界の補強について会議があるんだって、それがなんでワンちゃん呼んでくることになるのかよくわかんなかったんだけど、結界の綻びの原因ってもしかしなくてもこの仔なのかしら」
セルシウスはもちろん、俺も爺さんもなにも答えなかった。
「ま、アタシはやれと言われたことをするまでよ。ワンちゃんを連れて来いとは言われたけど、ドラゴンについてはなにも命令されてないわ」
連れていかれたあと、セルシウスはどうなるのだろう。魔導書を読み解きはしたが召還したのは俺だ。もし罰があるなら俺も受けるのが筋だろう。
「リリス、俺も連れて行ってくれないか」
「えー?」
セルシウスは「なにを言い出すんだ」と呆れている。「羊飼いは羊の番をしていればいい」
「でも…」
オンスがぱんっと手を打ち鳴らした。
「リリス、こいつも連れてってやれ」
「オンス!」
「仕事をしない牧羊犬がなにを言っても説得力がねえだろ、羊たちなら儂がみててやる。だが、その前に飯にするぞ」
「セルシウスが話せることも知っているんだな」
「まあな」
「魔術師殿が生きていることは? 爺さんや夫人は知っているのか」
「ああ」
「それならなにかあっても安心、かな。俺じゃ役に立てそうもない」
「羊飼いはおとなしく羊の番をしていればいいさ」
「まったくだ」
もっと簡単に魔術を使えるようになるのかと思っていたが道のりは長そうだった。もし昨日の魔術師たちがノクトを見つけてしまっていたら、シュルッセル様の存在に気付いていたら、俺になにができただろう。
「キュウ」
ノクトが翼をひろげる。ふわりと浮かび上がって戸口へ向かった。なにごとかと思えば、爺さんが帰ってきたところだった。
「おっと、出迎えがあるとは」
「キュ」
「爺さん、すまないな」
「起きたか。いやいや、ドラゴンを召還するなんて常人のやることじゃないからな。どこぞの馬鹿が無茶言ったんだろう」
「だれかはやらないといけなかったんだ」と言ったのはセルシウス。爺さんはそれに溜め息で応え、「そうだとしても、まず相談するとかだな。いくらでもやり方はあったはずだぞ」と続けた。まるでセルシウスを責めているようだった。
「俺の力が足りなかったんだ。それにもう平気だ、このとおり」
ベッドから起き上がる。だるさは残っているが今朝は話すこともできなかったことを考えるとずいぶん回復している。
「ベルスタ、よぉく覚えておけ」と爺さんが脅す口調でこちらを指さす。「魔術師なんてろくな奴がおらん、信用なんぞしたら命がいくらあっても足りんからな」
セルシウスがふんっと鼻を鳴らす。
「ははっ、忠告ありがとう。でも俺の腕はこのとおり魔術師殿のおかげで元に戻った。悪いことばかりじゃない」
「腕一本で命まで預けるのか、まったく」
やれやれと爺さんは勝手知ったる室内を歩き、かまどへ火を入れた。
「勝手に作らせてもらうが、食欲はあるか」
「ああ、腹は減っている。悪いな」
「そこの犬も食うんだろ」
「当たり前だ」
「キュウ」
「このドラゴンはなにを食うんだ」
「昨日の夜は俺たちと同じスープを飲んだ」
「なら、二人と二匹分だな! 突っ立たれても邪魔だ、できるまで寝とけ」
俺はベッドへ戻り、でも寝転ぶ気分にもなれず手持ち無沙汰なのでセルシウスの背を撫でていた。ノクトは爺さんが料理をつくるのを観察している。
「ノクトはこれからどうするんだ」
セルシウスは閉じていた目蓋をあげ、上目遣いでこちらを見る。
「なにかが足りないんだ…」
「なにか?」
「魔導書に書いてあることと違う点がある。ラザフォード家の魔導書が王宮に渡っていたことも気になる」
「足りないままだとどうなるんだ」
「さあな、このまま山小屋で成長するのを見守る、か」
「ドラゴンを育てられるかなあ。いつまでも羊飼いのスープじゃだめだろう」
自分の話をしているとわかったのか、ノクトがこちらへ飛んでくる。
「大きくなったら山小屋に入れないしなあ」
ノクトは「キュ」と鳴くと、空中でくるりと前転をした。目の錯覚かもしれないが体が小さくなった気がする。いや、両手にのる大きさだった体が、片手にのる大きさに変わっている。
俺が思考の整理をしている間に、セルシウスは冷静に「なるほど、大きさは自分の意思で変えられるのか」と言った。そうか、炎の中に姿を隠せるくらいだから肉体は変幻自在なのか。
「…便利だな」
「本来の大きさはどれくらいなんだ」
「キュウウ」
今度は後転をしようとするノクトを、反射的にがっしりと捕まえた。
「待ってくれ、だめだ。山小屋よりでかくなったらどうするんだ」
「まさか」
「キュ!」
俺の手から逃れたノクトは小さな胸をはる。自称ではあるが山小屋より大きそうだ。
「気を付けろよ、危うく山小屋を壊すところだ」
セルシウスは反省のいろもなく、「成長してもここで暮らせそうだな」とのたまう。
「キュキュ」
「楽しそうね」
さすがに突然の登場にも慣れてきた。リリスは挨拶もなしに、「ちょっと、これってドラゴン?」とノクトを抱き上げる。闖入者に驚いたオンス爺さんが「急になんだ」と声をあげた。
「あら、山小屋にも使用人がいるの?」
「リリス失礼だぞ。彼は元羊飼いだ。今日は俺が体調を崩したから来てくれているにすぎない。それから爺さん、彼女は怪しい者では、あるが…ええと…」
つまった言葉のつづきは必要なかった。「知っている顔だから説明は要らん」と爺さんが言ったからだ。
「わかっちゃたアタシ。んもう、キュリー様ったらどうせばれるんだから最初から教えてくれてもいいのに」
リリスはノクトをぬいぐるみのように抱いて、くるくると回る。
「一体なんの用だ」
セルシウスが鬱陶しそう尋ねる。
「キュリー様がお呼びよワンちゃん」
「今朝会ったばかりだが?」
「潮目が変わったの、キュリー様が王宮から呼び出しくらったのよ。結界の補強について会議があるんだって、それがなんでワンちゃん呼んでくることになるのかよくわかんなかったんだけど、結界の綻びの原因ってもしかしなくてもこの仔なのかしら」
セルシウスはもちろん、俺も爺さんもなにも答えなかった。
「ま、アタシはやれと言われたことをするまでよ。ワンちゃんを連れて来いとは言われたけど、ドラゴンについてはなにも命令されてないわ」
連れていかれたあと、セルシウスはどうなるのだろう。魔導書を読み解きはしたが召還したのは俺だ。もし罰があるなら俺も受けるのが筋だろう。
「リリス、俺も連れて行ってくれないか」
「えー?」
セルシウスは「なにを言い出すんだ」と呆れている。「羊飼いは羊の番をしていればいい」
「でも…」
オンスがぱんっと手を打ち鳴らした。
「リリス、こいつも連れてってやれ」
「オンス!」
「仕事をしない牧羊犬がなにを言っても説得力がねえだろ、羊たちなら儂がみててやる。だが、その前に飯にするぞ」
0
あなたにおすすめの小説
紳士オークの保護的な溺愛
こむぎこ7g
BL
■ 世界と舞台の概要
ここはオークの国「トールキン」。
魔法、冒険者、ギルド、ダンジョン、獣人やドラゴンが存在する、いわゆる“典型的な異世界”だが、この国の特徴はオークが長命で、理知的な文明社会を築いていることにある。
トールキンのオークたちは、
灰色がかった緑や青の肌
鋭く澄んだ眼差し
鍛え上げられた筋骨隆々の体躯
を持ち、外見こそ威圧的だが、礼節と合理性を重んじる国民性をしている。
異世界から来る存在は非常に珍しい。
しかしオークは千年を生きる種族ゆえ、**長い歴史の中で「時折起こる出来事」**として、記録にも記憶にも残されてきた。
⸻
■ ガスパールというオーク
ガスパールは、この国でも名の知れた貴族家系の三男として生まれた。
薄く灰を帯びた緑の肌、
赤い虹彩に金色の瞳孔という、どこか神話的な目。
分厚い肩と胸板、鍛え抜かれた腹筋は鎧に覆われずとも堅牢で、
銀色に輝く胸当てと腰当てには、代々受け継がれてきた宝石が嵌め込まれている。
ざらついた低音の声だが、語調は穏やかで、
貴族らしい品と、年齢を重ねた余裕がにじむ話し方をする。
● 彼の性格
• 極めて面倒見がよく、観察力が高い
• 感情を声高に表に出さないが、内側は情に厚い
• 責任を引き受けることを当然のように思っている
• 自分が誰かに寄りかかることだけは、少し苦手
どこか「自分は脇役でいい」と思っている節があり、それが彼の誠実さと同時に、不器用さでもあった。
⸻
■ 過去と喪失 ――愛したオーク
ガスパールはかつて、平民出身のオーク男性と結ばれていた。
家柄も立場も違う相手だったが、
彼はその伴侶の、
不器用な優しさ
朝食を焦がしてしまうところ
眠る前に必ず手を探してくる癖
を、何よりも大切にしていた。
しかし、その伴侶はすでにこの世を去っている。
現在ガスパールが暮らしているのは、
貴族街から少し離れた、二階建ての小さな屋敷。
華美ではないが、掃除が行き届き、静かな温もりのある家だ。
彼は今も毎日のように墓参りを欠かさない。
それは悲嘆というより、対話に近い行為だった。
⸻
■ 現在の生活
ガスパールは現在、
街の流通を取り仕切る代表的な役職に就いている。
多忙な職務の合間にも、
洗濯、掃除、料理
帳簿の整理
屋敷の修繕
をすべて自分でこなす。
仕事、家事、墓参り。
規則正しく、静かな日々。
――あなたが現れるまでは。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
魔王の求める白い冬
猫宮乾
BL
僕は交通事故に遭い、別の世界に魔王として転生した。最強の力を貰って。だから何度勇者が訪れても、僕は死なない。その内に、魔王はやはり勇者に倒されるべきだと思うようになる。初めはそうではなかった、僕は現代知識で内政をし、魔族の国を治めていた。けれど皆、今は亡い。早く僕は倒されたい。そう考えていたある日、今回もまた勇者パーティがやってきたのだが、聖剣を抜いたその青年は、同胞に騙されていた。※異世界ファンタジーBLです。全85話、完結まで書いてあるものを、確認しながら投稿します。勇者×魔王です。
神父様に捧げるセレナーデ
石月煤子
BL
「ところで、そろそろ厳重に閉じられたその足を開いてくれるか」
「足を開くのですか?」
「股開かないと始められないだろうが」
「そ、そうですね、その通りです」
「魔物狩りの報酬はお前自身、そうだろう?」
「…………」
■俺様最強旅人×健気美人♂神父■
竜神様の番
田舎
BL
いつかX内で呟いた、
『えーん、えーん…💦
竜人の攻めが長いこと探してた番の人間くんを探して(半強制的)に結婚したのに、ツンデレどころかクーデレが過ぎてたせいで、ある日人間くんが「離縁します」と置き手紙残して失踪…!
後悔とブチギレしてる話がなきゃ掃除と洗濯できない😭😭』
という自分の愚痴から始まったツイノベもどきを、再構成と校正しました。
「番」とは何かも知らされず、
選択肢すら与えられなかった人間リオと、
大切にしている“つもり”だった竜人のナガレ。
ちゃんとハッピーエンドです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる