上 下
9 / 65
1章スローライフ準備編

9 出会(アセナ視点)

しおりを挟む
(アセナ視点が三話続きます)

遠出から拠点の村に帰る。
村にはオレより強いやつもいねぇし、オレに勝とうという根性や気合のあるやつもいねぇ。腐り切った温室の村だ。

だから今回もこうやって少し難易度が高いぐらいで面倒扱いされていたクエストをオレに押しつけてきやがった。もちろん終わらしたから帰ってきたのだが。

村に入るといつも通りチラホラと村人も見かけるが、コソコソと話すものや、明らかに発情色気付いた目でオレを見る女もいるが誰一人として話しかけてこない。

クエストを終わらせてまず向かうのはギルドだ。

扉を開ける。

いつものギルドの匂い、と、新入りでもいるのか?
狼獣人なりに鼻は効く。

そして五感では感じ取れないなにか、浮かれた空気のようなものを感じた。

受付嬢に言ってクエストを正確に終わらせて報酬を受け取る。そしてこのギルド内に残る謎の違和感を調べる。ただでさえ腐り切った冒険者しかいない中でさらに腐る浮かれるなんてあり得ない。

「おい、ラルゴ、とオスカラン」

「ひっアセナさん、、、?俺はラルフですよ、、、」
ごにゃごにゃ言うから睨む。

「ひっ」

オスカーの方は見苦しくも逃げ出そうとして、アセナに首根っこ掴まれる。

「逃げてんじゃねぇ」
ドスの効いた不機嫌な声がなる。

「お前ら何浮かれていやがる」

「浮かれてなんかいないっすよ、、、最近、新しく旅人がこの村にきて、定住するって言って暫く冒険者するって言うから。俺たち、みんなでその子のために頼りになる先輩になろうって決めて」

何が頼りになるだ。村の周りの魔物を村に近づかないようにするのが精一杯の癖に。

「何が頼られるだ。雑魚のくせに。まぁ雑魚が雑魚の世話をするのは定石か?」

ラルフとオスカーが黙ってしまう。
そこでアセナはふとあることが引っかかる。

「ならお前らなんのクエストを受けていやがる?」

「受けてないよ今は」
その言葉でだいたい予想ができた。
その旅人か冒険者かしらねぇけど、ギルドぐるみでそいつを甘やかしていると。下手すりゃそいつがそうさせている可能性すらある。お高くとまりやがって。

どちらにせよ、そいつもやっぱり腐っていくのだろう。いや旅人の時点で既にいい予感はしない。










昨日はそいつのことを詳しく聞いて家に帰った。
そして今日、そいつに話をつけにいく。下手すりゃ追い出してやる。

ギルドに入るとそいつはいた。
周りが浮かれるのがわかる美貌だ。
だが、コイツが自分がカワイイことを理由にギルドにまでクエストを優遇させて、さらにはこの村のただでさえ雑魚な冒険者たちをさらに雑魚にしていくと考えるとすごく腹が立った。

ちなみにだがコイツは陰で天使やら女神の使者やらなんやらと呼ばれているとか。いい加減にしてほしい。


「おい、そこの旅人風情。いや冒険者風情が今は?」

予想と違い、ピクリとして申し訳なさそうに「はい、、、」と返事してきた。

「お前、最近この村に来て、低ランクのクエストばかり優遇してもらって。調子乗ってんのか?あ?」

「ひっ、すみません、すみません。、、、誰かに迷惑をかけていたなら謝ります」

「あ?」
なんか予想と違う。旅人ならもっとこう、人付き合いをもっと疑いながら話す奴が多い。コイツはすぐ謝罪した。旅人の経験なんてないのではないか。

「この村にきたばかりで、冒険者なんて今までやったこともなくて。ギルドのお姉さんには優しくしていただいてたのですが、、、迷惑をかけるわけにいかないと思って、誰にも右左を聞けなくて、、、その本当に申し訳ないです」
つまりコイツは思い上がっていたわけではない。コイツがこの村の冒険者のように腐っているかはわからないが、何を考えたのかオレはまだ成長段階にあるコイツに戦い方のイロハを教えてやろうと思った。
それに、コイツは俺に一言「教えろ」なんて言葉を跳ね返してくるぐらいの度胸があるようだ。

決して、コイツの顔に、謙虚な姿に、庇護欲を掻き立てる姿に魅了された訳ではない。

「チッ、こいよ」

そいつの細い剣も握れるか怪しい腕を掴み引っ張りだす。

「天使ちゃん可哀想に、、、」
どこかで雑魚冒険者が呟く。獣人の耳だからこそ聞こえてしまう。

可哀想と思うなら助けろよと思うがそれすらしないこの雑魚たちにさらに苛立ちを覚えた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

烏木の使いと守護騎士の誓いを破るなんてとんでもない

時雨
BL
いつもの通勤中に猫を助ける為に車道に飛び出し車に轢かれて死んでしまったオレは、気が付けば見知らぬ異世界の道の真ん中に大の字で寝ていた。 通りがかりの騎士風のコスプレをしたお兄さんに偶然助けてもらうが、言葉は全く通じない様子。 黒い髪も瞳もこの世界では珍しいらしいが、なんとか目立たず安心して暮らせる場所を探しつつ、助けてくれた騎士へ恩返しもしたい。 騎士が失踪した大切な女性を捜している道中と知り、手伝いたい……けど、この”恩返し”という名の”人捜し”結構ハードモードじゃない? ◇ブロマンス寄りのふんわりBLです。メインCPは騎士×転移主人公です。 ◇異世界転移・騎士・西洋風ファンタジーと好きな物を詰め込んでいます。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される

ぶんぐ
BL
社畜リーマンは、階段から落ちたと思ったら…なんと異世界に転移していた!みんな魔法が使える世界で、俺だけ全く魔法が使えず、おまけにみんなには避けられてしまう。それでも頑張るぞ!って思ってたら、なぜか冷徹王子から口説かれてるんだけど?── 嫌われ→愛され 不憫受け 美形×平凡 要素があります。 ※溺愛までが長いです。 ※総愛され気味の描写が出てきますが、CPは1つだけです。

麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!

勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました

BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」 え?勇者って誰のこと? 突如勇者として召喚された俺。 いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう? 俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?

処理中です...