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番外編
書籍化感謝編 出会った頃の二人①
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楓が望月の屋敷に引き取られてから一か月後のお話。
楓……十三歳
桔梗……二十二歳
「これで宿題終わり、っと」
教科書を閉じると通学用リュックに教科書とノートを詰め込んだ。
壁に掛けてある時計を見ると時刻は夜の九時。
学校の宿題、予習復習も終えた楓は「ふぅー……」
と大きなため息をついた。
学校が終わり、帰宅したあとは望月の屋敷の手伝いをしている。
といってもまだ中学生。出来ることは少なく、今は倉庫の整理や、トイレ掃除など雑用をこなしている。
そして、そのあとは田浦が作ったまかないを食べ、自室に戻るという生活だ。
「今日のお風呂の順番は三番目だから……えーっと一時間くらい待たないと」
望月の屋敷では男性用と女性用、それぞれのシャワー室がある。
男性用で使っているのは楓を含め三人。
順番は予約制だが最後の人が掃除をすることになっているため基本は輪番制になっている。
そして、今日の掃除当番は楓。まだ当分待たなければならない。
ーーコンコンーー
ドアをノックする音が聴こえる。
窓から見える月を見ながらぼんやりしていた楓はハッと我に返った。
「はいっ!今開けます」
シャワーの時間にしては早すぎる。
「どうしたんだろう?」そう思いながらドアを開けた。
「こんばんは、楓。今、大丈夫?」
そこには片手に大きな紙袋、もう片方に藍色のマグカップを持ったスーツ姿の桔梗が立っていた。
「望月様……!あっ、こんばんわ。あの、どうしましたか……?」
「楓にね、プレゼントがあって……。中入ってもいい?」
「は、はい!もちろんです!」
楓の返事に桔梗はにこりと微笑んだ。
「これジンジャー入りのホットミルク。体が温まるから飲んでね」
桔梗は部屋に入るとすぐ持っていたマグカップを楓に差し出した。
持つと温かいそれは、ほんのり甘くてジンジャーの香りがする。
「あ、ありがとうございます!」
嬉しくて頬が緩む。
ー-望月様は身寄りがいなくて施設でも上手くいかない僕の為にホットミルクを作ってくれる。
優しい……。いや優しいだけじゃない。
かっこよくて、思いやりがあって、どんな時でも温かい笑顔を向けてくれる。
ー-あなたには感謝しかありません。
嬉しくて涙ぐんでしまうのを隠すように、ホットミルクを一口飲んだ。
ー---
「あの、それでプレゼント、って……?」
楓が尋ねると、桔梗は子どものようにニッと笑いながら楓の腕を掴んだ。
そのまま引っ張られるようにベッドに連れて行かれ横並びに座ると、いそいそと紙袋に入っていたものをベッドに並べだした。
「これ、喜んでくれると嬉しいんだけど……」
「え、っとこれは……?」
ベッドの上には、裁ちばさみ、裁縫セット、刺繍枠、刺繍糸、布、初心者用の刺繍セット、チャコペン……がずらりと並んでいる。
楓があまりの量に目をまん丸にして驚いていると、桔梗が恥ずかしそうに話し出した。
「実は、小さいころ母に刺繍を教わっていたんだ。大の男がずいぶん可愛らしい趣味で変かもしれないが、やり始めると楽しいんだよ。……楓、一緒にやってみないか?」
「刺繍……?」
「気が利かなくてすまない。この一か月、せっかくこの家に来てくれたのに一人にさせてしまって……。こんなことしか思いつかなくて申し訳ない……」
「楓がよければだが……」困ったように微笑みながら呟く桔梗。
桔梗は知っていたのだ。
施設の時のようにいじめられるわけじゃなくても、使用人仲間が優しくしてくれても感じる寂しさ、孤独を。
ー-お仕事で忙しいのに、僕のことを気にかけてくれてたんだ。
胸がじんわりと熱くなる。
「はい、望月様!刺繍、教えてください!」
もう寂しくない、あなたがいれば。
楓……十三歳
桔梗……二十二歳
「これで宿題終わり、っと」
教科書を閉じると通学用リュックに教科書とノートを詰め込んだ。
壁に掛けてある時計を見ると時刻は夜の九時。
学校の宿題、予習復習も終えた楓は「ふぅー……」
と大きなため息をついた。
学校が終わり、帰宅したあとは望月の屋敷の手伝いをしている。
といってもまだ中学生。出来ることは少なく、今は倉庫の整理や、トイレ掃除など雑用をこなしている。
そして、そのあとは田浦が作ったまかないを食べ、自室に戻るという生活だ。
「今日のお風呂の順番は三番目だから……えーっと一時間くらい待たないと」
望月の屋敷では男性用と女性用、それぞれのシャワー室がある。
男性用で使っているのは楓を含め三人。
順番は予約制だが最後の人が掃除をすることになっているため基本は輪番制になっている。
そして、今日の掃除当番は楓。まだ当分待たなければならない。
ーーコンコンーー
ドアをノックする音が聴こえる。
窓から見える月を見ながらぼんやりしていた楓はハッと我に返った。
「はいっ!今開けます」
シャワーの時間にしては早すぎる。
「どうしたんだろう?」そう思いながらドアを開けた。
「こんばんは、楓。今、大丈夫?」
そこには片手に大きな紙袋、もう片方に藍色のマグカップを持ったスーツ姿の桔梗が立っていた。
「望月様……!あっ、こんばんわ。あの、どうしましたか……?」
「楓にね、プレゼントがあって……。中入ってもいい?」
「は、はい!もちろんです!」
楓の返事に桔梗はにこりと微笑んだ。
「これジンジャー入りのホットミルク。体が温まるから飲んでね」
桔梗は部屋に入るとすぐ持っていたマグカップを楓に差し出した。
持つと温かいそれは、ほんのり甘くてジンジャーの香りがする。
「あ、ありがとうございます!」
嬉しくて頬が緩む。
ー-望月様は身寄りがいなくて施設でも上手くいかない僕の為にホットミルクを作ってくれる。
優しい……。いや優しいだけじゃない。
かっこよくて、思いやりがあって、どんな時でも温かい笑顔を向けてくれる。
ー-あなたには感謝しかありません。
嬉しくて涙ぐんでしまうのを隠すように、ホットミルクを一口飲んだ。
ー---
「あの、それでプレゼント、って……?」
楓が尋ねると、桔梗は子どものようにニッと笑いながら楓の腕を掴んだ。
そのまま引っ張られるようにベッドに連れて行かれ横並びに座ると、いそいそと紙袋に入っていたものをベッドに並べだした。
「これ、喜んでくれると嬉しいんだけど……」
「え、っとこれは……?」
ベッドの上には、裁ちばさみ、裁縫セット、刺繍枠、刺繍糸、布、初心者用の刺繍セット、チャコペン……がずらりと並んでいる。
楓があまりの量に目をまん丸にして驚いていると、桔梗が恥ずかしそうに話し出した。
「実は、小さいころ母に刺繍を教わっていたんだ。大の男がずいぶん可愛らしい趣味で変かもしれないが、やり始めると楽しいんだよ。……楓、一緒にやってみないか?」
「刺繍……?」
「気が利かなくてすまない。この一か月、せっかくこの家に来てくれたのに一人にさせてしまって……。こんなことしか思いつかなくて申し訳ない……」
「楓がよければだが……」困ったように微笑みながら呟く桔梗。
桔梗は知っていたのだ。
施設の時のようにいじめられるわけじゃなくても、使用人仲間が優しくしてくれても感じる寂しさ、孤独を。
ー-お仕事で忙しいのに、僕のことを気にかけてくれてたんだ。
胸がじんわりと熱くなる。
「はい、望月様!刺繍、教えてください!」
もう寂しくない、あなたがいれば。
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