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番外編
書籍化記念SS 花言葉①
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クルージングデートからしばらくたったある日のこと……。
夜の八時。
小梅の寝かしつけを終えた楓は決して起こさないようにと慎重に歩きながらリビングに向かっていた。
階段を降り、リビングの扉を開ける。
閉めるときが何より重要だ。
小梅は耳がいいのか勢いよく閉めたその音で起きてしまうことがある。
そっとドアノブを下げながら慎重に扉を閉める。
ここまで来たらミッションコンプリート!寝かしつけ大成功だ。
楓は鼻歌を歌いながらキッチンに向かう。
キッチン棚から取り出したのは紅茶の茶葉が入った缶とプレス式のティーポッド。
茶葉は山之内から出産祝いで貰った「ルイボスティー」の詰め合わせだ。
「今日はピーチフレーバーにしよっと。お湯を沸かして置く間に刺繍の準備もしなくちゃ」
電気ケトルのスイッチを押し、向かいにある棚の奥から刺繍セットを取り出した。
小梅が絶対に触らないようにと木製の刺繍箱にはロックが付いている。
リビングのテーブルに刺繍箱を置き、中から作りかけの刺繍を取り出す。
小さい刺繍枠にはめこんであるハンカチには赤や薄紫、黄色の小花が施されている。
「ん……もう少しで出来上がりそう! ……あ、そろそろお湯湧いたかな?」
キッチンに戻りティーポッドの中に茶葉と沸騰したばかりのお湯を注ぐ。
本来は紅茶の淹れ方はもっと工程があるのだが、時間のない今は省くのもしょうがない。
お気に入りのマグカップとティーポッドをリビングのテーブルに運んだら楓の自由時間の始まりだ。
「あ~いい香り……。このホッとする時間、最高だなぁ」
ソファに座り紅茶の甘い香りをくんと嗅ぐ。
そのまま一口飲み「ふぅ~……」と全身の力が抜けたところで、大好きな刺繍に手をつけた。
「うーん……色のバランスが難しいなぁ……。でも黄色もいれたいし。そもそも花の色多いかなぁ……」
右手に刺繍糸、左手に花の図鑑を何度も見比べながら色の確認をする。
疲れた体で細かい作業をするのは正直大変だが、楓にとってこの刺繍は絶対に妥協したくない理由があった。
ー-桔梗さんに喜んでもらうためにも頑張らないと……!
今作っている刺繍はクルージングでサプライズをしてくれた桔梗へのお礼のプレゼントなのだ。ちょうど桔梗は会食に行っていて夜遅くに帰宅予定。つまり刺繍をする時間は今しかない。
ー-僕にはこれくらいしかできないけど……。プレゼント喜んでくれるかな。
桔梗の喜ぶ顔を想像しながら選んだ糸でひと針ひと針丁寧に集中しながら塗っていく。
没頭している楓には何の物音も聞こえないほど。
……だから気付かなかったのだ。玄関の扉が開いた音に。
「ただいま、楓」
「き、桔梗さん!? おかえりなさい! ごめんね、気が付かなくて……」
振り返るとスーツ姿の桔梗がソファの背もたれに寄りかかりながら楓を見つめていた。
「いいよいいよ、それよりずいぶん集中してたね。……刺繍?」
「……あっ! 桔梗さん見ないで!」
慌てて隠そうとするも、時すでに遅し。
サプライズにしようと思っていた刺繍は桔梗の手の中だった。
夜の八時。
小梅の寝かしつけを終えた楓は決して起こさないようにと慎重に歩きながらリビングに向かっていた。
階段を降り、リビングの扉を開ける。
閉めるときが何より重要だ。
小梅は耳がいいのか勢いよく閉めたその音で起きてしまうことがある。
そっとドアノブを下げながら慎重に扉を閉める。
ここまで来たらミッションコンプリート!寝かしつけ大成功だ。
楓は鼻歌を歌いながらキッチンに向かう。
キッチン棚から取り出したのは紅茶の茶葉が入った缶とプレス式のティーポッド。
茶葉は山之内から出産祝いで貰った「ルイボスティー」の詰め合わせだ。
「今日はピーチフレーバーにしよっと。お湯を沸かして置く間に刺繍の準備もしなくちゃ」
電気ケトルのスイッチを押し、向かいにある棚の奥から刺繍セットを取り出した。
小梅が絶対に触らないようにと木製の刺繍箱にはロックが付いている。
リビングのテーブルに刺繍箱を置き、中から作りかけの刺繍を取り出す。
小さい刺繍枠にはめこんであるハンカチには赤や薄紫、黄色の小花が施されている。
「ん……もう少しで出来上がりそう! ……あ、そろそろお湯湧いたかな?」
キッチンに戻りティーポッドの中に茶葉と沸騰したばかりのお湯を注ぐ。
本来は紅茶の淹れ方はもっと工程があるのだが、時間のない今は省くのもしょうがない。
お気に入りのマグカップとティーポッドをリビングのテーブルに運んだら楓の自由時間の始まりだ。
「あ~いい香り……。このホッとする時間、最高だなぁ」
ソファに座り紅茶の甘い香りをくんと嗅ぐ。
そのまま一口飲み「ふぅ~……」と全身の力が抜けたところで、大好きな刺繍に手をつけた。
「うーん……色のバランスが難しいなぁ……。でも黄色もいれたいし。そもそも花の色多いかなぁ……」
右手に刺繍糸、左手に花の図鑑を何度も見比べながら色の確認をする。
疲れた体で細かい作業をするのは正直大変だが、楓にとってこの刺繍は絶対に妥協したくない理由があった。
ー-桔梗さんに喜んでもらうためにも頑張らないと……!
今作っている刺繍はクルージングでサプライズをしてくれた桔梗へのお礼のプレゼントなのだ。ちょうど桔梗は会食に行っていて夜遅くに帰宅予定。つまり刺繍をする時間は今しかない。
ー-僕にはこれくらいしかできないけど……。プレゼント喜んでくれるかな。
桔梗の喜ぶ顔を想像しながら選んだ糸でひと針ひと針丁寧に集中しながら塗っていく。
没頭している楓には何の物音も聞こえないほど。
……だから気付かなかったのだ。玄関の扉が開いた音に。
「ただいま、楓」
「き、桔梗さん!? おかえりなさい! ごめんね、気が付かなくて……」
振り返るとスーツ姿の桔梗がソファの背もたれに寄りかかりながら楓を見つめていた。
「いいよいいよ、それよりずいぶん集中してたね。……刺繍?」
「……あっ! 桔梗さん見ないで!」
慌てて隠そうとするも、時すでに遅し。
サプライズにしようと思っていた刺繍は桔梗の手の中だった。
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