20 / 29
番外編
書籍化記念SS デート④
しおりを挟む
前菜から始まりー-スープ、新鮮な魚料理、ジューシーな肉料理、それに焼き立てのパン。
味もさることながら見た目も美しい料理を食べながら過ごす時間はあっという間で、気が付けば残りはデザートのみとなっていた。
「桔梗さん、ほっぺが落っこちそうなくらいどれも美味しかったです! もうお腹いっぱい……」
「え、本当? まだデザートあるけど食べられない?」
「あっ! デザートは別腹ですよ!」
「だと思った。デザート楽しみにしてて」
桔梗はそう言うと「待ってて」と言いながら席を立った。
楓は不思議そうに、そして寂しそうに首を傾げている。
ー-あぁ、そんな顔をしないでくれ……!
本当はすぐに抱きしめてあげたい。
そう思ったが唇を噛みしめ堪えた。
桔梗はこれから「サプライズその一」を決行しなければならないのだ。
ぐっと拳に力をいれ精一杯の笑顔で楓の方を向いた。
「すぐ帰ってくるから」
「あの、どこに? お手洗いなら僕も一緒に……」
「や、違うんだ! すぐ、すぐ帰ってくるから待ってて!」
楓の返答も待たず部屋を飛び出す桔梗。
そのまま廊下でスタンバイしていた乗務員に案内され辿り着いたのは船内にあるキッチン。
扉を開けると料理長の男性が待っていたかのように満面の笑みで「おめでとうございます」と桔梗に声を掛けた。
「無理なお願いを聞いてくださりありがとうございます」
「いえ、いいんですよ。それより喜んでくださるといいですね」
料理長はそう言うと厨房内にある冷蔵庫から一台のケーキを取り出した。
生クリームとスポンジで出来た小ぶりのホールケーキ。
上にはラスベリー味のバタークリームで作られたバラの花がブーケのようにデコレーションされている。
桔梗は落とさないよう慎重にケーキの皿を手にした。
「きっと、いや、絶対に喜びます」
これを見た楓の顔を想像すると、桔梗までにやけてしまう。
早く渡したい。きっと驚くだろう、どんな表情で喜んでくれるだろうかー-
桔梗は焦る気持ちを何とか抑えつつ深くお辞儀をすると再び楓のいる部屋まで戻った。
ー--ー
ドアの前まで来ると一度大きく深呼吸し、声をかけた。
「楓、入ってもいいかい?」
「は、はい! どうぞ!」
楓の返事が聞こえると桔梗の後ろで待っていた乗務員が部屋の扉を開けた。
背筋を伸ばし楓が待つ席まで歩く。
「桔梗さん! 一体どこに……って、え?」
「楓、遅くなっちゃったけど……結婚記念日おめでとう」
すっかり片付けられているテーブルにケーキを置くと桔梗は自分の席に座った。
皿に書かれた「Happy wedding Anniversary」の文字は楓に向けられている。
「え! あ、あの……」
「あれ? もしかして結婚記念日忘れてた?」
「ちがっ! えっと……びっくり、して……」
言葉に詰まりながら話す楓の目には大粒の涙が浮かんでいる。
焦った桔梗はズボンのポケットからハンカチを取り出すと楓の傍に寄るとそっと涙を拭き取った。
「楓、どうした? ケーキ、ダメだったかな?」
「違う!違うんです! 嬉しくて……結婚記念日、小梅のことで必死で僕たいしたことしてあげれてないのにっ。桔梗さん、忘れずにいてくれた……!」
「忘れるはずないよ。待ちに待って、待ち焦がれて入籍した日なんだ。……もう泣かないで?君の笑顔が見たい……」
「うん……。桔梗さん、ありがとう」
やっと顔を上げた楓はもう泣いていなかった。
にっこりと笑う楓に桔梗も微笑みを返す。
「一つ目のサプライズ成功だ」
「一つ目……?」
「楓。目を瞑ってて」
「は、はい……」
楓がぎゅっと目を瞑ったのを合図に桔梗はもう一度ドアに向かって歩き出す。
そしてドアの外で待っていた乗務員から花束を受け取ると楓の待つ場所まで歩いた。
「目を開けて」
「はい……」
目を開けた楓の前に片膝をつくと花束を差し出した。
「わぁ……! バラの、花束……」
「受け取ってくれますか?」
「も、もちろん……! ありがとうございます!」
桔梗が渡したのは真紅のバラの花束。
楓は抱えきれないほどの大きさのバラを落とさないように両腕で抱きしめている。
「すごい大きさ……! 僕の卒業式の日……あの時もバラの花束でしたね」
「あの時は百八本。……今日は何本だと思う?」
「え、っと……、百本?」
「正解! じゃあ百本のバラの花言葉って知ってる?」
「なんだろう? 桔梗さん、教えてください」
桔梗から答えを知りたいのだろう、楓はいたずらっ子のように笑っている。
その意図を汲み取った桔梗は、楓の腕を取ると唇と唇があたりそうなほどまでに顔を寄せた。
「正解は『百パーセントの愛』だよ。……楓、愛してる」
「僕も。僕も桔梗さんのこと百パーセント愛してます」
どちらともなく近づくと、柔らかい唇がちゅっ、と音を立てながら触れ合う。
「桔梗さん、今日はありがとう。幸せな一日だった……。また、デートしましょうね?」
「もちろん! 毎日でもデートしたいくらいだ!」
お互い顔を見合わせるとくすくすと笑いあう。
なんて幸せな時間なんだろう。
楓と過ごす時間は十年前から変わらない、甘くて穏やかな陽だまりに包まれているようだ。
こんな日々が永遠に続くようにー-
そう願いながら楓の薬指に光る指輪にそっと口づけた。
end
味もさることながら見た目も美しい料理を食べながら過ごす時間はあっという間で、気が付けば残りはデザートのみとなっていた。
「桔梗さん、ほっぺが落っこちそうなくらいどれも美味しかったです! もうお腹いっぱい……」
「え、本当? まだデザートあるけど食べられない?」
「あっ! デザートは別腹ですよ!」
「だと思った。デザート楽しみにしてて」
桔梗はそう言うと「待ってて」と言いながら席を立った。
楓は不思議そうに、そして寂しそうに首を傾げている。
ー-あぁ、そんな顔をしないでくれ……!
本当はすぐに抱きしめてあげたい。
そう思ったが唇を噛みしめ堪えた。
桔梗はこれから「サプライズその一」を決行しなければならないのだ。
ぐっと拳に力をいれ精一杯の笑顔で楓の方を向いた。
「すぐ帰ってくるから」
「あの、どこに? お手洗いなら僕も一緒に……」
「や、違うんだ! すぐ、すぐ帰ってくるから待ってて!」
楓の返答も待たず部屋を飛び出す桔梗。
そのまま廊下でスタンバイしていた乗務員に案内され辿り着いたのは船内にあるキッチン。
扉を開けると料理長の男性が待っていたかのように満面の笑みで「おめでとうございます」と桔梗に声を掛けた。
「無理なお願いを聞いてくださりありがとうございます」
「いえ、いいんですよ。それより喜んでくださるといいですね」
料理長はそう言うと厨房内にある冷蔵庫から一台のケーキを取り出した。
生クリームとスポンジで出来た小ぶりのホールケーキ。
上にはラスベリー味のバタークリームで作られたバラの花がブーケのようにデコレーションされている。
桔梗は落とさないよう慎重にケーキの皿を手にした。
「きっと、いや、絶対に喜びます」
これを見た楓の顔を想像すると、桔梗までにやけてしまう。
早く渡したい。きっと驚くだろう、どんな表情で喜んでくれるだろうかー-
桔梗は焦る気持ちを何とか抑えつつ深くお辞儀をすると再び楓のいる部屋まで戻った。
ー--ー
ドアの前まで来ると一度大きく深呼吸し、声をかけた。
「楓、入ってもいいかい?」
「は、はい! どうぞ!」
楓の返事が聞こえると桔梗の後ろで待っていた乗務員が部屋の扉を開けた。
背筋を伸ばし楓が待つ席まで歩く。
「桔梗さん! 一体どこに……って、え?」
「楓、遅くなっちゃったけど……結婚記念日おめでとう」
すっかり片付けられているテーブルにケーキを置くと桔梗は自分の席に座った。
皿に書かれた「Happy wedding Anniversary」の文字は楓に向けられている。
「え! あ、あの……」
「あれ? もしかして結婚記念日忘れてた?」
「ちがっ! えっと……びっくり、して……」
言葉に詰まりながら話す楓の目には大粒の涙が浮かんでいる。
焦った桔梗はズボンのポケットからハンカチを取り出すと楓の傍に寄るとそっと涙を拭き取った。
「楓、どうした? ケーキ、ダメだったかな?」
「違う!違うんです! 嬉しくて……結婚記念日、小梅のことで必死で僕たいしたことしてあげれてないのにっ。桔梗さん、忘れずにいてくれた……!」
「忘れるはずないよ。待ちに待って、待ち焦がれて入籍した日なんだ。……もう泣かないで?君の笑顔が見たい……」
「うん……。桔梗さん、ありがとう」
やっと顔を上げた楓はもう泣いていなかった。
にっこりと笑う楓に桔梗も微笑みを返す。
「一つ目のサプライズ成功だ」
「一つ目……?」
「楓。目を瞑ってて」
「は、はい……」
楓がぎゅっと目を瞑ったのを合図に桔梗はもう一度ドアに向かって歩き出す。
そしてドアの外で待っていた乗務員から花束を受け取ると楓の待つ場所まで歩いた。
「目を開けて」
「はい……」
目を開けた楓の前に片膝をつくと花束を差し出した。
「わぁ……! バラの、花束……」
「受け取ってくれますか?」
「も、もちろん……! ありがとうございます!」
桔梗が渡したのは真紅のバラの花束。
楓は抱えきれないほどの大きさのバラを落とさないように両腕で抱きしめている。
「すごい大きさ……! 僕の卒業式の日……あの時もバラの花束でしたね」
「あの時は百八本。……今日は何本だと思う?」
「え、っと……、百本?」
「正解! じゃあ百本のバラの花言葉って知ってる?」
「なんだろう? 桔梗さん、教えてください」
桔梗から答えを知りたいのだろう、楓はいたずらっ子のように笑っている。
その意図を汲み取った桔梗は、楓の腕を取ると唇と唇があたりそうなほどまでに顔を寄せた。
「正解は『百パーセントの愛』だよ。……楓、愛してる」
「僕も。僕も桔梗さんのこと百パーセント愛してます」
どちらともなく近づくと、柔らかい唇がちゅっ、と音を立てながら触れ合う。
「桔梗さん、今日はありがとう。幸せな一日だった……。また、デートしましょうね?」
「もちろん! 毎日でもデートしたいくらいだ!」
お互い顔を見合わせるとくすくすと笑いあう。
なんて幸せな時間なんだろう。
楓と過ごす時間は十年前から変わらない、甘くて穏やかな陽だまりに包まれているようだ。
こんな日々が永遠に続くようにー-
そう願いながら楓の薬指に光る指輪にそっと口づけた。
end
13
お気に入りに追加
2,737
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
全寮制の学園に行ったら運命の番に溺愛された話♡
白井由紀
BL
【BL作品】
絶対に溺愛&番たいα×絶対に平穏な日々を過ごしたいΩ
田舎育ちのオメガ、白雪ゆず。東京に憧れを持っており、全寮制私立〇〇学園に入学するために、やっとの思いで上京。しかし、私立〇〇学園にはカースト制度があり、ゆずは一般家庭で育ったため最下位。ただでさえ、いじめられるのに、カースト1位の人が運命の番だなんて…。ゆずは会いたくないのに、運命の番に出会ってしまう…。やはり運命は変えられないのか!
学園生活で繰り広げられる身分差溺愛ストーリー♡
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承ください🙇♂️
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
風俗店で働いていたら運命の番が来ちゃいました!
白井由紀
BL
【BL作品】(20時毎日投稿)
絶対に自分のものにしたい社長α×1度も行為をしたことない風俗店のΩ
アルファ専用風俗店で働くオメガの優。
働いているが1度も客と夜の行為をしたことが無い。そのため店長や従業員から使えない認定されていた。日々の従業員からのいじめで仕事を辞めようとしていた最中、客として来てしまった運命の番に溺愛されるが、身分差が大きいのと自分はアルファに不釣り合いだと番ことを諦めてしまう。
それでも、アルファは番たいらしい
なぜ、ここまでアルファは番たいのか……
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
※長編になるか短編になるかは未定です
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。