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イベントSS

二人で迎えるクリスマス①

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これは楓が大学のセンター試験を三週間前に控えたクリスマスイブのお話……。


十二月二十四日、二人が番になって迎える初めてのクリスマス。
現在の時刻は夜の六時。
本当は今頃おそろいのネイビーのスーツに身を包み、桔梗が半年前から予約していたレストランで美味しいフレンチ料理を食べているはずだった。

それなのに……。現在楓は自室で一人センター試験の勉強に追われていた。
額に冷却シートをはり眉間に皺を寄せながら問題集と睨めっこをする楓の目の下にはクマができ明らかに疲れた表情をしている。

勉強机には飲みかけの栄養ドリンクと参考書が山積みになっている。
静かな部屋には楓がペンを動かす音と壁に掛けられている時計の秒針の音だけが鳴っていた。

ー-コンコンー-

静かな部屋に突然の扉を叩く音が響いた。

「楓、いいかな?」

ノックの後に聴こえた声は愛しい愛しい番の声。
楓はその声に飛び上がると一目散に扉を開けた。

「桔梗様!」

「勉強、調子はどうだい?進んでる?」

白いタートルネックのセーターとデニムのジーンズ姿の桔梗は柔らかい笑みで楓の頭を優しく撫でる。
その温かくて大きな掌に撫でられるといつもうっとりとしてしまうはずなのに、今日の楓はうっとりするどころか桔梗の顔をみるなり顔を曇らせた。

「あの……。すいません、本当は今日デートする予定だったのに……」

楓はごめんなさい、と小さな声で呟くと肩を落とし両手で自分の顔を覆った。

そもそも、なぜデートの予定が中止になったのか。
それは十一月下旬まで遡る。
番ができると安定すると言われるヒート。それでも風邪やストレスが重なると遅れたり長引いたりすることがある。
楓も例にもれずそうだった。
本来なら十月の中旬にくるはずだったヒート。それがヒートの直前に風邪を引いたからか十一月になってもヒートが来る気配がなかった。

ー-十一月の終わりには模試があるからなんとかそれまでにヒートを終わらせないと……!

焦った楓は桔梗に内緒で購入したヒート誘発剤を風邪薬と一緒に飲んでしまったのだ。
飲んだ瞬間から始まる発情。
しかしそれはいつものヒートと明らかに違いがあるものだった。

ー-なにこれ、体が熱い……。桔梗様が欲しい、欲しい……!

体の内側から燃えるような熱がこみ上げる。
その熱は自分で何度も慰めても治まらず、苦しくなった楓はぼんやりする意識の中、仕事中の桔梗に電話で助けを求めたのだった。



ー---



電話を受けた桔梗が急いで自宅に帰ると家の中はそれはもう悲惨だった。
ドアノブを握る前から、むせかえるほどのフェロモンが玄関の外まで漂ってきていた。

ー-これは……。この匂いはが俺にしかわからなくて良かった。番になっていなかったら危なかったぞ。

漂ってくる匂いにあてられないよう、ハンカチで口元全体を覆う。
靴を脱ぎ一番濃い匂いを放っている寝室へ進むと、部屋の中から小さく呻く声が聞こえてきた。

「楓、いるのかい?中に入るよ」

ゆっくりとドアノブを回し部屋の中に入る。

「楓……?」

「き、きょう、様……。苦しいよぉ……」

真っ暗な部屋の中、ベッドの方から聞こえる楓の声。
その声に急いで電気をつけるとベッドの上にはたくさんの桔梗の服が積まれていて楓はその中心にいた。

「大丈夫か?なんで誘発剤を飲んだんだ……」

「だって、だって……。試験もうすぐなのになかなかヒートこないし。巣作りも上手く出来ないし……。桔梗さま、苦しいよ」

ベッドの中央、裸のまま桔梗のシャツを握りしめぽろぽろ涙を零す楓。
その姿はなんとも官能的で桔梗の理性を崩すには十分だった。

「辛かったな。今からはずっと一緒にいるから大丈夫だよ。それに巣作りも上手だ。ありがとう、楓」

「本当?初めて作ったけどほめてくれる……?」

「もちろんだよ、可愛い楓」

楓をゆっくりと押し倒しながらキスをする。
甘いフェロモンが充満する部屋で二人はお互いを求めあったのだった。


楓のヒートが終わったのはそれから一週間後のことだった。
いつもは桔梗と交われば一日でヒートが治まっていたのに、こんなにも時間がかかったのは誘発剤を飲んだからだろう。

ヒートが終わってからも熱っぽさがなかなか取れず、結果十一月の模擬試験の結果はぼろぼろでいつも合格圏内A判定だったのがC判定まで落ちてしまった。
このままでは希望する大学に受からないと焦りだした楓は、桔梗に頭を下げクリスマスイブのデートをキャンセルしたのだった。


ー---


そして今にいたる。

「楓、謝らないでよ。レストランはいつでも行けるんだから。勉強頑張ってる楓を応援するのも番として当たり前のことだよ」

「桔梗様……ありがとうございます。僕、絶対受かりますから!」

落ち込んでいた顔をあげ、両方の拳を胸の前で構える。
その姿に桔梗もクスリと笑う。

「よし!その意気だ、楓。でもさ、その前にお腹すかない……?」

「え、お腹……い、今何時ですか!?」

桔梗の言葉に目を丸くし壁に掛けてある時計を見る。
時計の針は六時半を指している。

「嘘!もう六時半!?す、すいません、夕飯の用意しないと……!」

ー-デートもキャンセルした上に、最低限の家事も出来てないなんて!

顔面が真っ青になり狼狽える楓。
額に貼った冷却シートを取りキッチンに向かおうとする楓の手を桔梗は掴んだ。

「あー!大丈夫。楓、慌てない慌てない。……今から目を瞑って私と一緒に来て?」

優しく楓を見つめ、そっと手を握りなおす。
まるで王子様がお姫様をエスコートするかのように連れてきたのはダイニングテーブルだった。

「ほら、楓目を開けて」

「わ、わかりました……」

桔梗の合図で目を開けるとテーブルの上には色とりどりの御馳走が並べられていた。
ローストビーフに人参のポタージュ、キッシュに、フリッタータ、おまけにホールのケーキまである。

「うわぁ……!桔梗様、これ、どうしたんですか!?」

「……作ってみたんだ。私からのクリスマスプレゼント。といってもプロではないからそこまで期待しないでほしいけど。今から二時間……私と一緒に食事をしてくれませんか?」

「……!もちろんです!」

はにかみながら笑う桔梗の頬に楓はそっとキスをした。









(明日に続きます……!)
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