上 下
27 / 29
イベントSS

初めてのハロウィン

しおりを挟む
これは二人が付き合い始めて初めてのハロウィンの日の出来事・・・・・・。

現在。十月三十一日、夜の七時。楓は黒のレザーのタンクトップとしっぽ付きのホットパンツ。頭には黒の日本のツノがついたカチューシャ、黒のニーハイソックスはガーターベルト付き、おまけに背中には黒の羽根……そう楓はデビルのコスチューム姿でパンプキンシチューを作っていた。

「こんな格好、本当に喜ぶのかなぁ……?露出激しいし恥ずかしすぎる・・・・・・」

衣装が汚れないようにと着けたエプロンの裾をぎゅっと握りしめながら楓は項垂れた。
そもそもこうなった理由は二週間前の大学の講義まで遡る。
大学一年生になった楓は隣の席のクラスメイト・前田からカップルにおけるハロウィンイベントの重要性について耳にタコができるくらい話を聞いていた。

「そういえば、楓くんって『番』がいるんでしょ!?私はベータだから『番』とか憧れるわぁ!・・・・・・ねえ、相手は社会人なの?」

「あ、うんそうだけど……」

「いいなぁ、大人!もうすぐハロウィンだし、アルファの社会人恋人とはどんなデートするの?セレブな人たちと仮装パーティーとかしたり?」

「えぇ……ハロウィンっていってもなぁ……?」

楓はふふ……と笑いながら首を傾げ次に使う授業の教科書を広げようとしていた。
そんな楓の様子にクラスメイトは「えっ!!」と大きい声を出し楓が広げた教科書の上に勢いよく両手をついた。

「ちょっと!楓くん!ハロウィンっていったら若者にとって大事なイベントでしょ!……もしかしてしたことないの?」

「あー……うん。去年は受験でいっぱいいっぱいだったし。そもそもハロウィンだからって今まで何かしたことはなくて」

そう言いながら人差し指で頬をかきながら苦笑いする楓。
その姿にクラスメイトの女学生は「はぁ~」と大きなため息を付くとポケットからスマホを取り出した。

「ダメよ、楓くん。コスプレが許されるこの日に最高に可愛い格好して番とデートしなきゃ!あなた、とっても可愛いんだから。……ということでこれなんてどう?」

そう言うと女学生は何やらスマホを操作すると楓の目の前に画面を突き出した。

「……!ナ、ナースはさすがに……」

「……ちっ。じゃあこれは?」

「メイドさんもちょっと……。っていうかスカートは恥ずかしすぎるし、そもそもその日は桔梗さん仕事だから」

「桔梗さんって……名前まで格好いいのかよ!ってあらごめん。じゃあスカートはやめとくわ」

「もうやめようよ」と声をかけようとしたが運悪くそのタイミングで教授が授業に現れ、楓のやめようの声は届かずじまいになってしまった。

――それから二週間後の今日。

食堂で昼ご飯を食べる楓の前に前田が現れたのだった。

「やほ。楓くん!ハッピーハロウィン!」

「前田さん、えっと……ハッピーハロウィン」

前田は楓の返事を聴くとにっこり微笑みながら白い紙袋を楓の顔の前に差し出した。

「はい、これ。私からのプレゼント受け取って」

「えっこれは?プレゼントって?」

「忘れたのー?今日はハロウィンだよ?」

前田の言葉に楓ははっと思い出した。

――これ、コスプレか!!

楓は前田が逃げないよう腕を掴むと前の席に座るよう促した。

「前田さん!これ、受け取れないよ!」

「えーでも、これ楓くんのサイズで注文しちゃったから私は着れないし」

「じゃ、じゃあ代金は払うから……」

「そんなの気にしないで!私はただ『これを着た楓くんを見た番の反応』を知りたいだけだから。あっ私もう次の授業に行かなくちゃ!じゃ、今度感想聞かせてね~」

前田は無理やり紙袋を楓に押し付けると、片手を振りながら颯爽と食堂を出て行った。




ー---




「一応着てみたけどなんかピチピチするし、恥ずかしいし……。前田さんには悪いけど着替えよっかな」

時計の針は七時を指している。桔梗が帰ってくるのはあと三十分ほど。
楓は桔梗が帰ってくる前に着替えようとエプロンを外した。

――パンプキンシチューにパンプキンサラダ。テーブルコーディネートだってジャックオランタンのハロウィン仕様にしたし、十分ハロウィンっぽいよね?

楓はうんうんと自分を納得させるように頷くとキッチンを出て寝室まで向かおうとした。
その時だった。

「ただいま。楓―、今日は早く帰れたよ」
ガチャリとリビングの扉が開く。
そこには仕事終わりの桔梗が土産片手に立っていた。

「え、楓……その恰好」

「あっ!き、桔梗さん……おかえりなさい!こ、これはえっと……着替えてきます!」

楓は恥ずかしさのあまり脱いだエプロンで顔を隠すと桔梗の横をすり抜けようとした。だが、桔梗はすかさず楓の手を取り、行かせないよう壁際に追い込んだ。

「き、桔梗さん……。どいてください、着替えますから……」

「どうして?こんな可愛い小悪魔姿でいてくれたの嬉しいんだけどなぁ」

「こ、これは、ちょっとわけあって……!」

「もっと、見せて。ね、楓……?」

顔を近づけ楓の耳元で囁くと途端に楓の顔が赤く染まりフェロモンが濃く香った。

「桔梗様の意地悪……」

おずおずとエプロンを放すと顔を上げる楓。
桔梗はにやりと笑うとその瞬間を狙っていたかのように楓のピンク色の楓の唇をペロッと舐めた。

「あっ……き、桔梗さん……」

「うん、甘い。それにこの匂い。これは私だけのものだ。……ねえ、小悪魔ちゃん。美味しいパンプキンシチューの前に可愛い小悪魔ちゃんを食べちゃっていいでしょうか?」

「もうっ聞かないで……」

桔梗は、顔を真っ赤にし目をぎゅっと瞑った楓の額に触れるだけのキスを落とすと、そのまま楓の膝裏を抱えると寝室に消えて行った。



――二時間後――

小悪魔の衣装は床に落ち、生まれたままの姿の二人はベッドの中にいた。

「楓、この小悪魔の姿ってもしかしてハロウィンだから?」

「あ、うん……。大学の友達に勧められて。でも似合わなかったでしょ?」

「いや、その友達にはお礼をしたいくらいだ。……ところで楓。ナース服はどうだろう?」

「もう!桔梗さん!」

「ははっ。来年のハロウィンにでも考えておいて。……そうだ、お土産にパンプキンパイ買ってきたんだ。あとで一緒に食べよう、ね?」

楓は頬を膨らましながら桔梗の胸を叩くが、その姿さえ愛しいと思う桔梗は楓の体を抱き寄せると何度も何度も楓の顔じゅうにキスを落とした。



後日……ハロウィンデートはどうだったかと執拗に追いかける前田から逃げる楓の姿が校内中で発見された。





    
しおりを挟む
感想 74

あなたにおすすめの小説

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

中華マフィア若頭の寵愛が重すぎて頭を抱えています

橋本しら子
BL
あの時、あの場所に近づかなければ、変わらない日常の中にいることができたのかもしれない。居酒屋でアルバイトをしながら学費を稼ぐ苦学生の桃瀬朱兎(ももせあやと)は、バイト終わりに自宅近くの裏路地で怪我をしていた一人の男を助けた。その男こそ、朱龍会日本支部を取り仕切っている中華マフィアの若頭【鼬瓏(ゆうろん)】その人。彼に関わったことから事件に巻き込まれてしまい、気づけば闇オークションで人身売買に掛けられていた。偶然居合わせた鼬瓏に買われたことにより普通の日常から一変、非日常へ身を置くことになってしまったが…… 想像していたような酷い扱いなどなく、ただ鼬瓏に甘やかされながら何時も通りの生活を送っていた。 ※付きのお話は18指定になります。ご注意ください。 更新は不定期です。

全寮制の学園に行ったら運命の番に溺愛された話♡

白井由紀
BL
【BL作品】 絶対に溺愛&番たいα×絶対に平穏な日々を過ごしたいΩ 田舎育ちのオメガ、白雪ゆず。東京に憧れを持っており、全寮制私立〇〇学園に入学するために、やっとの思いで上京。しかし、私立〇〇学園にはカースト制度があり、ゆずは一般家庭で育ったため最下位。ただでさえ、いじめられるのに、カースト1位の人が運命の番だなんて…。ゆずは会いたくないのに、運命の番に出会ってしまう…。やはり運命は変えられないのか! 学園生活で繰り広げられる身分差溺愛ストーリー♡ ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承ください🙇‍♂️ ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。