金瞳の王子は黒猫少年を溺愛する

小鳥遊ゆう

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「うぅー…やっぱり1月も終わりになると寒いね。」

アリンはもこもこの上着にニット帽、雪道も歩けるブーツを履き今日もデリアのマーケットにむかっていた。荷車の持ち手を持つのはレイで後ろを押すのはアリンと決まったのはもう何か月も前のことだ。

「来週には雪も積もるらしいからな。春が来るまで一旦休んだ方がいいな。」

「えっ!そんな……。」

レイの提案に見るからにしょんぼりしたアリン。アリンの気持ちをあらわすかのように尻尾も垂れ下がったままだ。
荷車を押す力が弱まったのを感じたレイは少し困った顔をしながらアリンに声をかけた。

「きっと王宮のやつらもこんな寒い中来やしないって。……それよりさ、ちょっと前から思ってたんだけど、マーケットにくる獣人多くねえか?」

「確かにそうだね……。獣人だけじゃなくて人間もたくさん来てるよね。なんでだろう……?」

「さあ、わかんね。それよりもう着くぞ。」

二人は荷車を置いたあと、マーケットの入り口に向かった。

「わあ、すごい人混み!頼まれてたもの全部買えるかな……。」

マーケットには普段見たことない犬や牛などの獣人が大勢いた。もちろん人間もいつもより多くマーケットはいつにもまして賑わっている。

「売り切れる前に早く買いに行かないとな。アリン、手分けしようぜ。」

レイはそう言うとアリンに買う予定の物が書いてあるメモを渡しそそくさとマーケットの人混みに向かって行ってしまった。

「えっ!レイ、ちょっと待ってよ……。」

猫獣人だとわかるときつく当たる店員もいるせいでアリンは一人で行動するのが怖かったが、レイはもう行ってしまったからどうしようもない。

――ちょっと怖いけど、やるしかないよね。それに、他の獣人もいるから大丈夫なはず!

アリンは大きな深呼吸を一つすると覚悟を決めてマーケットに入って行った。


―――

ーーおかしい……。なんでこんなにも親切にしてくれるの?

アリンは買い物をしていくうちにだんだんそんな疑問が頭に浮かんできた。今までは肩がぶつかっただけで舌打ちをされる事なんてしょっちゅうで、買い物をする際も売ってもらえないこともあった。
それがだ、今日にいたっては、体がぶつかったら心配され、買い物ではおまけもしてくれる。

――おまけなんて、今までされたことないよ。凄く笑顔で対応されるし……。

「はい、これおつりね。あんたノスティアから来たのかい?こんな寒い中よく来たね。これ店の残り物だけど良かったら食べてな。」

店のおばさんは人間の食べるクッキーを笑顔でアリンに手渡した。

――今なら聞けるかな……。

アリンはこの人混と急に獣人が増えた理由を店のおばさんにたずねた。

「あ、あの……ありがとうございます!少しお聞きしたいんですけど。なんか今日いつにも増して人多くないですか?獣人がこんなにいるのも見たことないし。」

「ああ!ノスティアにはまだ知らせが届いてないんだね!先週ルシュテン王国の新しい王様が就任したんだよ!新しい王様はね、人種で差別することを何よりも嫌がる人だからここにも色んな獣人が来れるようになったのさ。」

「えっ、その王様って……。」

アリンは新しい王様の名前を聞こうとしたが後ろから次々と客が流れてきて聞くことが出来なかった。

――もしかして新しい王様って……。でもフェアンは第二王子だったはずだよね?

そうやってぼんやり考えて歩いていたからか、アリンは知らない間にマーケットから出て荷馬車が行き交う所まで来てしまっていた。

「おい!危ないぞ!」

すれ違う人に何度も言われたが両手にたくさんの荷物を持ったままだと馬を避けるのに精一杯だった。
そうして必死に避けているうちに山の斜面まで来ていることにアリンは気づかないままだった。

――あれ?なんで地面がないの?

アリンが気づいた時には既に片足が滑り落ちかけていた。

――このままじゃ、落ちるっ……!

アリンは痛みを覚悟しぎゅっと目を瞑った。
……だがその痛みは一向にくる気配がなかった。変わりに腕を誰かにつかまれている。

「間に合ってよかった。……アリン大丈夫かい?」

その声にアリンは目を見開きアリンは息をのんだ。

「……フェアン?」

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