45 / 70
44 アリンのそれから①
しおりを挟む
あの日、フェアンが僕の前から消え去ってからどうやって帰ってきたんだっけ?
気がついたら家に帰ってきていて、ベッドの中で一晩中泣き続けていた。
覚えてるのは汗でベタつく体と左手の薬指に残る指輪の感触、それとフェアンはもうここにいないっていう事実だけだった。
だけどそれでも朝はやってくる。アリンは泣き続けたせいか腫れぼったくなった瞼を冷やしたタオルで押さえながら服を着替え出勤の準備をしていた。
「なんだか実感がわかないな……。フェアンが王子様だったなんて。……もう会えないなんて……。」
少しでも思い出すとまた涙が出てくるのを必死に抑え込むように自分の頬を叩いて背筋を伸ばした。
「仕事に行かないと。」
ーーー
「おはようございます、ロバートさん」
「おはよう!……アリン、その顔どうした?フェアンと喧嘩でもしたのか?」
「あっ……え、と…その」
できるだけの笑顔で挨拶したつもりだったが瞼が腫れ、寝てないせいで目の下にクマが出来ているからか何かあったのかばればれだった。
「ロバートさん、今日お店終わった後時間ありますか?ちょっと話したいことが……。」
「なんか深刻そうだな。……わかった、今日はランチの時間で店じまいだ!アリンは今日は厨房で手伝ってくれ。そんな泣きそうな顔じゃ人前には出れないだろ?」
「うっ…う、ごめ、なさ……」
にっと笑い頭を撫でてくれるロバートさんの優しさに泣き出してしまった僕を、泣き声を聞いて慌てて出てきたナタリアさんは支えるようにして厨房の奥へ連れて行ってくれた。
ナタリアさんは僕の顔と左手の薬指を交互に見た後、座ってていいからと優しく声をかけてくれたが「何かしていないと落ち着かないから」と厨房の掃除を始めた。箒を握るたびに指輪がカチカチと鳴ってその音に胸がぎゅうっと苦しくなった。
ーーー
「はぁ!?……フェアンがルシュテン王国の王子!?……それで王宮の人が来て連れて帰った!?」
ランチの時間で店じまいをしてくれたロバートさんとナタリアさんに昨日の顛末を話すとロバートさんは驚いて椅子から転げ落ちた。
「ロバートさん大丈夫ですか……!……えっと、はい、しかも記憶喪失でもなかったらしくて……。」
「…それ、その指輪をもらったの?」
ナタリアさんが俺の薬指の指輪を指差しながら俺に尋ねた。
「はい……。」
指輪を優しく撫でるとナタリアさんはにっこり微笑んだ。
「アリンはフェアンが好きなのね。そしてフェアンもあなたを愛しているのね。……だって王子っていう身分を隠してでもそばに居たいってそう簡単に出来ることじゃないもの。」
「……っ!好き……です。初めての、恋でした……!でも、もう会いたくても会えない……」
ナタリアさんは涙ぐむ俺の頭を優しく撫でてくれた。その心地良さに今はいないお母さんを思い出してまた涙がポロポロとこぼれ落ちた。
しばらくするとロバートさんが空気を変えるように頭を掻きながら言った。
「あー……言いにくいんだがよ、この事村長に言ったか?」
気がついたら家に帰ってきていて、ベッドの中で一晩中泣き続けていた。
覚えてるのは汗でベタつく体と左手の薬指に残る指輪の感触、それとフェアンはもうここにいないっていう事実だけだった。
だけどそれでも朝はやってくる。アリンは泣き続けたせいか腫れぼったくなった瞼を冷やしたタオルで押さえながら服を着替え出勤の準備をしていた。
「なんだか実感がわかないな……。フェアンが王子様だったなんて。……もう会えないなんて……。」
少しでも思い出すとまた涙が出てくるのを必死に抑え込むように自分の頬を叩いて背筋を伸ばした。
「仕事に行かないと。」
ーーー
「おはようございます、ロバートさん」
「おはよう!……アリン、その顔どうした?フェアンと喧嘩でもしたのか?」
「あっ……え、と…その」
できるだけの笑顔で挨拶したつもりだったが瞼が腫れ、寝てないせいで目の下にクマが出来ているからか何かあったのかばればれだった。
「ロバートさん、今日お店終わった後時間ありますか?ちょっと話したいことが……。」
「なんか深刻そうだな。……わかった、今日はランチの時間で店じまいだ!アリンは今日は厨房で手伝ってくれ。そんな泣きそうな顔じゃ人前には出れないだろ?」
「うっ…う、ごめ、なさ……」
にっと笑い頭を撫でてくれるロバートさんの優しさに泣き出してしまった僕を、泣き声を聞いて慌てて出てきたナタリアさんは支えるようにして厨房の奥へ連れて行ってくれた。
ナタリアさんは僕の顔と左手の薬指を交互に見た後、座ってていいからと優しく声をかけてくれたが「何かしていないと落ち着かないから」と厨房の掃除を始めた。箒を握るたびに指輪がカチカチと鳴ってその音に胸がぎゅうっと苦しくなった。
ーーー
「はぁ!?……フェアンがルシュテン王国の王子!?……それで王宮の人が来て連れて帰った!?」
ランチの時間で店じまいをしてくれたロバートさんとナタリアさんに昨日の顛末を話すとロバートさんは驚いて椅子から転げ落ちた。
「ロバートさん大丈夫ですか……!……えっと、はい、しかも記憶喪失でもなかったらしくて……。」
「…それ、その指輪をもらったの?」
ナタリアさんが俺の薬指の指輪を指差しながら俺に尋ねた。
「はい……。」
指輪を優しく撫でるとナタリアさんはにっこり微笑んだ。
「アリンはフェアンが好きなのね。そしてフェアンもあなたを愛しているのね。……だって王子っていう身分を隠してでもそばに居たいってそう簡単に出来ることじゃないもの。」
「……っ!好き……です。初めての、恋でした……!でも、もう会いたくても会えない……」
ナタリアさんは涙ぐむ俺の頭を優しく撫でてくれた。その心地良さに今はいないお母さんを思い出してまた涙がポロポロとこぼれ落ちた。
しばらくするとロバートさんが空気を変えるように頭を掻きながら言った。
「あー……言いにくいんだがよ、この事村長に言ったか?」
0
お気に入りに追加
422
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる