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44 アリンのそれから①

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あの日、フェアンが僕の前から消え去ってからどうやって帰ってきたんだっけ?
気がついたら家に帰ってきていて、ベッドの中で一晩中泣き続けていた。
覚えてるのは汗でベタつく体と左手の薬指に残る指輪の感触、それとフェアンはもうここにいないっていう事実だけだった。

だけどそれでも朝はやってくる。アリンは泣き続けたせいか腫れぼったくなった瞼を冷やしたタオルで押さえながら服を着替え出勤の準備をしていた。

「なんだか実感がわかないな……。フェアンが王子様だったなんて。……もう会えないなんて……。」

少しでも思い出すとまた涙が出てくるのを必死に抑え込むように自分の頬を叩いて背筋を伸ばした。

「仕事に行かないと。」


ーーー


「おはようございます、ロバートさん」

「おはよう!……アリン、その顔どうした?フェアンと喧嘩でもしたのか?」

「あっ……え、と…その」

できるだけの笑顔で挨拶したつもりだったが瞼が腫れ、寝てないせいで目の下にクマが出来ているからか何かあったのかばればれだった。

「ロバートさん、今日お店終わった後時間ありますか?ちょっと話したいことが……。」

「なんか深刻そうだな。……わかった、今日はランチの時間で店じまいだ!アリンは今日は厨房で手伝ってくれ。そんな泣きそうな顔じゃ人前には出れないだろ?」


「うっ…う、ごめ、なさ……」

にっと笑い頭を撫でてくれるロバートさんの優しさに泣き出してしまった僕を、泣き声を聞いて慌てて出てきたナタリアさんは支えるようにして厨房の奥へ連れて行ってくれた。
ナタリアさんは僕の顔と左手の薬指を交互に見た後、座ってていいからと優しく声をかけてくれたが「何かしていないと落ち着かないから」と厨房の掃除を始めた。箒を握るたびに指輪がカチカチと鳴ってその音に胸がぎゅうっと苦しくなった。


ーーー


「はぁ!?……フェアンがルシュテン王国の王子!?……それで王宮の人が来て連れて帰った!?」

ランチの時間で店じまいをしてくれたロバートさんとナタリアさんに昨日の顛末を話すとロバートさんは驚いて椅子から転げ落ちた。

「ロバートさん大丈夫ですか……!……えっと、はい、しかも記憶喪失でもなかったらしくて……。」

「…それ、その指輪をもらったの?」

ナタリアさんが俺の薬指の指輪を指差しながら俺に尋ねた。

「はい……。」

指輪を優しく撫でるとナタリアさんはにっこり微笑んだ。

「アリンはフェアンが好きなのね。そしてフェアンもあなたを愛しているのね。……だって王子っていう身分を隠してでもそばに居たいってそう簡単に出来ることじゃないもの。」

「……っ!好き……です。初めての、恋でした……!でも、もう会いたくても会えない……」

ナタリアさんは涙ぐむ俺の頭を優しく撫でてくれた。その心地良さに今はいないお母さんを思い出してまた涙がポロポロとこぼれ落ちた。

しばらくするとロバートさんが空気を変えるように頭を掻きながら言った。

「あー……言いにくいんだがよ、この事村長に言ったか?」












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