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40 王宮②

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「声が大きいぞ。もう少し静かにしろ。」

「す、すいません!驚いてしまって…」

リヒテルは床に転げたタイラーの腕を引っぱり上げ椅子に座らせた。

「リヒテル様、このこと陛下にはお伝えしましたか?」

「いや、プロポーズまでは言わなかった。会わせたいとは伝えたが門前払いだ。」

「リヒテル様が本気ならば、まだ誰にも言ってはなりません!……そもそも猫獣人が迫害されていた理由は王宮に深い関わりがあるからです。タイミングはよく考えるべきかと…」

ーーー


もう大昔の事だ。
猫獣人は人数が多い割に犬獣人や牛獣人に比べ特質した物があまりなかった。そのかわりに猫獣人は見目麗しい者が多くそのせいで愛玩に使われてしまう事も少なくなかった。ある時、そんな扱いをされたくなくて懸命に働く1人の猫獣人の少年がいた。茶色の髪をしたその少年は家族のために王宮で下働きをしていて、その日も城の庭掃除をしていた。何度箒ではいても風で落ち葉が舞ってしまいほとほと困っていた所を1人の青年が声をかけた。

「大丈夫?今日は風が強いね。」

その青年は当時の第一王子だった。バチっと視線が交わりお互い目が離せなくなった。そんな2人が恋に落ちるのはあっという間のことだった。初めは話しかけられるたびに緊張し逃げ回っていた少年だったが、王子の優しさにだんだんと心を開くようになっていった。
恋人となった2人は暫しの逢瀬を楽しんでいたが、相手は第一王子。結婚の話が出るようになった。もちろん王子は反発した。結婚はしない、王位は第二王子に譲ると。だがこれを王は許さなかった。

「私には心に決めた人がいるのです!」

そして言ってしまったのだ。相手が王宮で働いている猫獣人だと言うことを。
すぐに少年だという事がバレてしまい、王の逆鱗に触れた少年はその日のうちに王宮を追い出されることになってしまった。王子を誑かしたという罪で…。
それを知った王子は嘆き悲しみ、結局誰とも結婚することはなく生涯一人きりの人生を送ることになった。

そして猫獣人の少年が2度と王宮には戻れないよう家族もろとも追放された場所が今のノスティアにあたる。

この出来事から猫獣人に対する差別が始まったのだ。だがそれも次第に風化していき表面上では猫獣人も他の種族同様自由になった。だがやはり、人間を怖がる猫獣人もいるし猫獣人を嫌がる人間もいる。王宮は特にそれが顕著に表れていた。


「それはわかっている。父上を説得するのは時間がかかるだろうな…」

ここまで話をしてタイラーはひょっとすると、と思いリヒテルに尋ねた。

「あの…リヒテル様。そのプロポーズした猫獣人というのはあの時の…?」

「……そうだ。だがもう嫌われてしまったかもしれないな。」

目を伏せ今にも泣き出しそうな顔をしたリヒテルにタイラーは焦った。

ーーあのいつも凛々しく堂々としているリヒテル様がこんなにもっ!

座っていた椅子を降り、床に片膝をついて頭を下げた。

「リヒテル様、申し訳ございません!そうとは気付かず……。」

「いや、そもそも隠し事をしていた自分のせいだ。それに簡単に諦めるつもりもない。」

タイラーの視線に合わせるようにリヒテルもまた床に片膝をついた。

「ここまで話をしたんだ。協力してくれるだろう?タイラー。」
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