7 / 70
7 2人で過ごす夜 後編
しおりを挟む「おお! 戻りやがったか皇子」
黄金の鬣をなびかせた獅子の男が、千騎長の鎧に身を包んだ勇壮な姿でこちらへ大股に歩いてくるところだった。背中にはもちろん、愛用の大剣をかついでいる。
「レオ!」
「おお、黒坊主。見てたぜ~。かっけえ狼になれるようになったじゃねえかよ~。しかも自分ですぐに戻れたみてえだし。やりやがったな!」
「あうっ……。あ、ありがとうございます」
にかにかと意味深な顔で笑うのもいつも通り。そのままがしがしと頭を撫でられると、ぎゅんっと勝手に体温があがり、バカみたいに嬉しくなってしまう。
この男はいつでもどんな場面でも「いつも通り」を崩さない。軍のリーダーという立場の人として、これほど頼もしい男もいないだろう。
と、インテス様がシディの頭から男の手をぺいっと払った。
「……馴れなれしく触るんじゃない。大体だれが『黒坊主』だ失礼な。撤回しろ」
「なんだよー。男の嫉妬はみっともねえぜ~?」
「ふん」
(えっ……。嫉妬?)
嫉妬と言ったのだろうか、この男。
まさかインテス様が自分ごときにそんな風に思われるわけがないのに。そう思ったがレオが登場したとたんに口を差しはさめる空気でなくなるのはいつものこと。
「さあさあ、こっちだ。まずは落ち着こうぜ」とどんどん執務室へと案内され、茶菓など出されて座らされるまで、ひたすらレオとインテス様だけの会話で満たされてしまう。この男のペースに逆らえる者なんてまずいない。
「で? あれからどうなんだ」
「特にどうもしてねえ。神殿の魔導士どもは時々攻撃しちゃあくるが、こっちの魔導士にとっちゃへでもねえ。やっぱり《白》と《黒》を認めてるかそうじゃねえかってことは大きいらしいな」
「そうか」
「特にあのマルガリテのおばちゃんな。ありゃあとんでもねえ曲者だ」
「えっ? どういうことですか」
びっくりして腰を浮かせかかったシディに、レオはやっぱり意味深な笑みを返した。
「イタチの爺さんの前じゃ盛大に猫かぶってやがったのよ、あのおばちゃん。ま、猫じゃなくてワニなんだけどよー」
「はい?」
きょとんとしたシディに、レオはそのままの顔で肩をすくめて見せた。
「まあ、とにかくすんげえ攻撃魔法でやんの。物理な俺らの出番なんてありゃしねえわ。あのおばちゃんがちょちょいと水魔法で攻撃するだけで、みーんな尻をからげて逃げだしちまう」
「ふわあ……そうなんですね」
「そーなんだよー。お陰でこちとら運動不足だっつーの。けどまあ、やつらが逃げるのも無理はねえ。あんなえぐい水死なんてしたくねえわな、誰だってよ」
(ううん……すごそう)
前にも少し見たけれど、あの大瀑布よりも凄い攻撃が連続してやってきたら、どんな猛者でもひとたまりもないだろう。つくづく魔塔を敵に回さなくてよかったと思ってしまう。
「魔塔に入りこんでやがった間者だの暗殺者だのも、ほぼ潰せたしな。今じゃここ以上に安全な場所はねえ。各地に散って地下にもぐってた反皇太子派の連中も、うわさを聞きつけて集まりはじめてんぜー」
「そうなんですか」
「大丈夫なのか? 味方が多いほうがいいとはいえ、身元もわからぬ者らをあまり増やしても──」
言いかけたインテス様に、レオはぱちんと片目をつぶって見せた。
「問題ねえ。ちゃあんと魔導士どもが高位魔法で心を読んだり、身元調査もしてから入れてる。そこは安心していい。あれをかいくぐれるのはサクライエ本人ぐれえだかんな」
「なるほど」
「もともと反皇帝派だったやつらも多い。あの皇帝、自分は贅沢三昧やらかしといて庶民のこたあそこらのゴミ以下の扱いしかしてこなかったかんな。それがあのボンクラ皇太子になったところで、自分たちの状況がひとつも好転するわけじゃねえ。それどころか、ずっと悪くなるってよーくわかってんだよ、学のねえ庶民だってな」
「あの」
シディはそこでやっと口を挟めた。
「魔塔に来た人の中には、神殿でスピリタス教を信仰してた人たちもいるんでしょうか」
「おお、けっこういるんだわこれが」
レオがにかっと笑って説明してくれた。
黄金の鬣をなびかせた獅子の男が、千騎長の鎧に身を包んだ勇壮な姿でこちらへ大股に歩いてくるところだった。背中にはもちろん、愛用の大剣をかついでいる。
「レオ!」
「おお、黒坊主。見てたぜ~。かっけえ狼になれるようになったじゃねえかよ~。しかも自分ですぐに戻れたみてえだし。やりやがったな!」
「あうっ……。あ、ありがとうございます」
にかにかと意味深な顔で笑うのもいつも通り。そのままがしがしと頭を撫でられると、ぎゅんっと勝手に体温があがり、バカみたいに嬉しくなってしまう。
この男はいつでもどんな場面でも「いつも通り」を崩さない。軍のリーダーという立場の人として、これほど頼もしい男もいないだろう。
と、インテス様がシディの頭から男の手をぺいっと払った。
「……馴れなれしく触るんじゃない。大体だれが『黒坊主』だ失礼な。撤回しろ」
「なんだよー。男の嫉妬はみっともねえぜ~?」
「ふん」
(えっ……。嫉妬?)
嫉妬と言ったのだろうか、この男。
まさかインテス様が自分ごときにそんな風に思われるわけがないのに。そう思ったがレオが登場したとたんに口を差しはさめる空気でなくなるのはいつものこと。
「さあさあ、こっちだ。まずは落ち着こうぜ」とどんどん執務室へと案内され、茶菓など出されて座らされるまで、ひたすらレオとインテス様だけの会話で満たされてしまう。この男のペースに逆らえる者なんてまずいない。
「で? あれからどうなんだ」
「特にどうもしてねえ。神殿の魔導士どもは時々攻撃しちゃあくるが、こっちの魔導士にとっちゃへでもねえ。やっぱり《白》と《黒》を認めてるかそうじゃねえかってことは大きいらしいな」
「そうか」
「特にあのマルガリテのおばちゃんな。ありゃあとんでもねえ曲者だ」
「えっ? どういうことですか」
びっくりして腰を浮かせかかったシディに、レオはやっぱり意味深な笑みを返した。
「イタチの爺さんの前じゃ盛大に猫かぶってやがったのよ、あのおばちゃん。ま、猫じゃなくてワニなんだけどよー」
「はい?」
きょとんとしたシディに、レオはそのままの顔で肩をすくめて見せた。
「まあ、とにかくすんげえ攻撃魔法でやんの。物理な俺らの出番なんてありゃしねえわ。あのおばちゃんがちょちょいと水魔法で攻撃するだけで、みーんな尻をからげて逃げだしちまう」
「ふわあ……そうなんですね」
「そーなんだよー。お陰でこちとら運動不足だっつーの。けどまあ、やつらが逃げるのも無理はねえ。あんなえぐい水死なんてしたくねえわな、誰だってよ」
(ううん……すごそう)
前にも少し見たけれど、あの大瀑布よりも凄い攻撃が連続してやってきたら、どんな猛者でもひとたまりもないだろう。つくづく魔塔を敵に回さなくてよかったと思ってしまう。
「魔塔に入りこんでやがった間者だの暗殺者だのも、ほぼ潰せたしな。今じゃここ以上に安全な場所はねえ。各地に散って地下にもぐってた反皇太子派の連中も、うわさを聞きつけて集まりはじめてんぜー」
「そうなんですか」
「大丈夫なのか? 味方が多いほうがいいとはいえ、身元もわからぬ者らをあまり増やしても──」
言いかけたインテス様に、レオはぱちんと片目をつぶって見せた。
「問題ねえ。ちゃあんと魔導士どもが高位魔法で心を読んだり、身元調査もしてから入れてる。そこは安心していい。あれをかいくぐれるのはサクライエ本人ぐれえだかんな」
「なるほど」
「もともと反皇帝派だったやつらも多い。あの皇帝、自分は贅沢三昧やらかしといて庶民のこたあそこらのゴミ以下の扱いしかしてこなかったかんな。それがあのボンクラ皇太子になったところで、自分たちの状況がひとつも好転するわけじゃねえ。それどころか、ずっと悪くなるってよーくわかってんだよ、学のねえ庶民だってな」
「あの」
シディはそこでやっと口を挟めた。
「魔塔に来た人の中には、神殿でスピリタス教を信仰してた人たちもいるんでしょうか」
「おお、けっこういるんだわこれが」
レオがにかっと笑って説明してくれた。
10
お気に入りに追加
427
あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い


男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

雪を溶かすように
春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。
和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。
溺愛・甘々です。
*物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる