上 下
3 / 70

3 お誘いと自覚

しおりを挟む
アリンと名乗った少年は、焚火の近くに干してあった自分の服を手に取ると濡れていないか確認し、俺に渡した。

「あ、あの、まだ少し湿っているけど僕のポンチョよりはマシだと思います。まだこの辺は日が落ちると寒いし…」

確かに少し湿っぽかったが、俺の身体をチラッと見ては慌てて目を逸らす様子に気付き、渡された服を着て肩に羽織っていたポンチョを返した。

そして、ホッとした顔を見せたアリンに尋ねた。

「あぁ、すまない。ありがとう助かった。…ところでここは、一体どこなんだ…?」

「ここはノスティアの北部です。…あの…あなたは人間ですよね?…お名前、聞いてもいいですか?」

「ノスティア…猫獣人の町か…。それと俺は人間だ。名前は…」

名前を言いかけたが咄嗟に口を噤んだ。
相手は猫獣人だし、自分がルシュテン王国の王子だと知ったら引かれると思ったからだ。

ーーアリンには嫌われたくない

そう思ったらもう嘘をつくしかなかった。

「…名前を思い出せないんだ。名前だけじゃなく他のことも…」

「えっ…!?そんなっ…!」

徐に立ち上がり両手で口を押さえたアリン。
そんな慌てる姿さえも可愛いと思ってしまうなぁ…と見惚れていた。すると、

「あのっ、僕の家で良かったら今夜はうちで泊まりませんか?その…お家もわからないんでしょう…?なので、あの、…これから寒くなりますし。良かったら……ですけど。」

「良いのか!?助かる、ぜひお願いしたい!」
驚いたが即答していた。正直、記憶がないと嘘をついているし罪悪感があると言えばある。だがアリンの事を知りたい俺にとって、これは神様がくれたチャンスにしか思えなかった。
立ち上がりアリンのその華奢な白い手を両手でぎゅっと握り、頭を下げた。

アリンは勢いに押され一瞬目を瞠り猫耳をピンと立てたが次の瞬間、黒目がちの大きな目が細められフニャ~と笑顔になった。

「ふふっあなたとっても面白い人ですね。」

その笑顔を見た瞬間、身体中の熱がブワァッと顔に集まった。多分顔は真っ赤っかだろう。少し湿っている服を着てさっきまで体は冷たかったはずなのに心なしか汗をかいている。

ーーあぁこれは、もう……



認めよう。
これは一目惚れだ。
俺はこの小さな猫獣人に恋をしたのだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います

たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか? そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。 ほのぼのまったり進行です。 他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

バッドエンドの異世界に悪役転生した僕は、全力でハッピーエンドを目指します!

BL
 16才の初川終(はつかわ しゅう)は先天性の心臓の病気だった。一縷の望みで、成功率が低い手術に挑む終だったが……。    僕は気付くと両親の泣いている風景を空から眺めていた。それから、遠くで光り輝くなにかにすごい力で引き寄せられて。    目覚めれば、そこは子どもの頃に毎日読んでいた大好きなファンタジー小説の世界だったんだ。でも、僕は呪いの悪役の10才の公爵三男エディに転生しちゃったみたい!  しかも、この世界ってバッドエンドじゃなかったっけ?  バッドエンドをハッピーエンドにする為に、僕は頑張る!  でも、本の世界と少しずつ変わってきた異世界は……ひみつが多くて?  嫌われ悪役の子どもが、愛されに変わる物語。ほのぼの日常が多いです。 ◎体格差、年の差カップル ※てんぱる様の表紙をお借りしました。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

処理中です...