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79戦い③
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ジュリはしばらくその場で立ち上がれないでいた。
泣いて赤くなった目でぼんやりとショウが行った先を眺めていると、突然両肩にずしりと重みが圧し掛かった。
はっと振り返る。
そこには心配そうに眉を八の字にしたクリスが立っていた。
「ジュリ。ここにいるのは危ない。ひとまず病院に行くぞ、顔色が悪い」
クリスは地面に片膝をつくとジュリの顔をまじまじと見つめた。
ジュリは顔色は青白く額や頬にいくつもの小さな傷跡が残っている。
「ほら、掴まれ」
「ありがとう、ごめんね……」
弱弱しい力でクリスの腕にしがみつく。
そのままジュリはクリスに支えられながら馬に乗り、山を下りた。
急いで病院に向かっている途中、何度も何度も山のほうを向いては勝手に涙が零れる。
もう会えなくなってしまうかもしれない、その不安と恐怖にこらえきれず嗚咽を漏らしてしまう。
すると、黙っていたクリスが馬の手綱を思いっきり引き急停止させた。
その突然の出来事に慌ててクリスのほうに振り向いた。
「ジュリ、泣くな!お前ができることは勇者様を信じてやることだけだろう!お前が信じなくて誰が信じるんだ!」
真っ赤な顔をしておこるクリスの言葉にハッと我にかえった。
ー-そうだよ。僕がショウたちを信じてあげなくちゃいけないのに。大丈夫、ショウたちは絶対生きて帰ってくる。
手の甲でごしごしと乱暴に目をこする。赤くなった目を何度か瞬きするとジュリはキッと前を見据えた。
「クリス、ありがと。僕は大丈夫、ショウを信じてるから」
ー---
クリスがジュリを担ぎながら運び込んだ病院はジュリがいつも検診に通っている産婦人科だった。
診察室で顔見知りの医師と看護師の顔を見た途端、ジュリは緊張の糸が切れたのかそこでジュリの意識は飛んでしまった。
次に目が覚めた時、ジュリは病院のベッドの上だった。
ー-眩しい……。
病室の蛍光灯の光が眩しくてうっすらとしか開けられない。
手のひらを天井に向けたまま顔を横に向けると隣には椅子に座ったクリスがジュリを心配そうに覗き込んでいた。
「ジュリ、大丈夫か……?」
「……クリス?」
「よかった。一時間ぐらい眠ってたんだよ」
「一時間……?」
その言葉に一気に頭が目覚める。
「ショウはどうなったの!?今どんな状況なの!?」
「おいおい、ちょっと待て……話を聞け」
勢いよく飛び起きベッドから出ようとするのをクリスが止める。
今にも病室から出ていきそうなジュリを半ば強制的にベッドに連れ戻すとじっとジュリの瞳を見つめた。
「先生が言うには。……まず、お腹の子は大丈夫。ジュリも貧血の症状はあるけど他は何も問題ないって。倒れたのは疲労とストレスが原因だろうってことだった」
「よかった……。怖い思いさせてごめんね……」
手のひらでそっとお腹をなでる。
お腹の子が無事だったことに安心したジュリは微笑みながらふうーっと大きく息を吐く。
そして、今度はクリスのほうを見つめた。
「ショウは……?今どうなってるの?騎士団はもうついた?」
「えっと……それは」
ジュリの言葉にクリスは目をそらし、困ったように顔を曇らせた。
その反応に、急激に体が冷えていく。
「ねえ、何かあったの!?」
ジュリはベッドの上に膝立ちになると眉間に皺をよせながらクリスの襟元を掴んだ。
自分にもこんな力があったのか。
ぎゅっと指先が白くなるほど力を込めると、クリスは慌てたようにジュリの腕を掴んだ。
「落ち着けって。……何もないんだ。騎士団も着くのはまだかかるってライアンから連絡がきた。……山のほうもずっと見てたけど何も起きていない。……怖いくらい普通なんだ」
「そんな……」
「とりあえず、騎士団がくるまで休んでいたほうがいい。先生がここで一晩入院するか帰るか決めてくれって言ってた。……どうする?」
「……ここにいても何もわからないなら、BINGOに帰るよ」
ようやくクリスの襟を掴んでいた手の力が抜けた。
「わかった。俺もそのほうがいいと思う。……ジュリは着替えて待ってな」
クリスは力の抜けたジュリの頭をポンと優しく撫でると「先生のとこ行ってくる」といい病室から去っていった。
ー---
もうすっかり日が暮れる中、二人は病院からBINGOに戻ろうとしていた。
マルシャン村は夜の市場でだんだんと人が集まってきていた。
「これ以上人が混む前に帰るぞ」
「うん……」
小声で呟き、ぼんやりしたまま頷く。
それを合図にクリスは前に座るジュリの腰を支えると優しく馬の腹を蹴り進みだした。
その時だった。
山から眩しいほどの赤い光と「ドンッ」という爆発音が響いた。
泣いて赤くなった目でぼんやりとショウが行った先を眺めていると、突然両肩にずしりと重みが圧し掛かった。
はっと振り返る。
そこには心配そうに眉を八の字にしたクリスが立っていた。
「ジュリ。ここにいるのは危ない。ひとまず病院に行くぞ、顔色が悪い」
クリスは地面に片膝をつくとジュリの顔をまじまじと見つめた。
ジュリは顔色は青白く額や頬にいくつもの小さな傷跡が残っている。
「ほら、掴まれ」
「ありがとう、ごめんね……」
弱弱しい力でクリスの腕にしがみつく。
そのままジュリはクリスに支えられながら馬に乗り、山を下りた。
急いで病院に向かっている途中、何度も何度も山のほうを向いては勝手に涙が零れる。
もう会えなくなってしまうかもしれない、その不安と恐怖にこらえきれず嗚咽を漏らしてしまう。
すると、黙っていたクリスが馬の手綱を思いっきり引き急停止させた。
その突然の出来事に慌ててクリスのほうに振り向いた。
「ジュリ、泣くな!お前ができることは勇者様を信じてやることだけだろう!お前が信じなくて誰が信じるんだ!」
真っ赤な顔をしておこるクリスの言葉にハッと我にかえった。
ー-そうだよ。僕がショウたちを信じてあげなくちゃいけないのに。大丈夫、ショウたちは絶対生きて帰ってくる。
手の甲でごしごしと乱暴に目をこする。赤くなった目を何度か瞬きするとジュリはキッと前を見据えた。
「クリス、ありがと。僕は大丈夫、ショウを信じてるから」
ー---
クリスがジュリを担ぎながら運び込んだ病院はジュリがいつも検診に通っている産婦人科だった。
診察室で顔見知りの医師と看護師の顔を見た途端、ジュリは緊張の糸が切れたのかそこでジュリの意識は飛んでしまった。
次に目が覚めた時、ジュリは病院のベッドの上だった。
ー-眩しい……。
病室の蛍光灯の光が眩しくてうっすらとしか開けられない。
手のひらを天井に向けたまま顔を横に向けると隣には椅子に座ったクリスがジュリを心配そうに覗き込んでいた。
「ジュリ、大丈夫か……?」
「……クリス?」
「よかった。一時間ぐらい眠ってたんだよ」
「一時間……?」
その言葉に一気に頭が目覚める。
「ショウはどうなったの!?今どんな状況なの!?」
「おいおい、ちょっと待て……話を聞け」
勢いよく飛び起きベッドから出ようとするのをクリスが止める。
今にも病室から出ていきそうなジュリを半ば強制的にベッドに連れ戻すとじっとジュリの瞳を見つめた。
「先生が言うには。……まず、お腹の子は大丈夫。ジュリも貧血の症状はあるけど他は何も問題ないって。倒れたのは疲労とストレスが原因だろうってことだった」
「よかった……。怖い思いさせてごめんね……」
手のひらでそっとお腹をなでる。
お腹の子が無事だったことに安心したジュリは微笑みながらふうーっと大きく息を吐く。
そして、今度はクリスのほうを見つめた。
「ショウは……?今どうなってるの?騎士団はもうついた?」
「えっと……それは」
ジュリの言葉にクリスは目をそらし、困ったように顔を曇らせた。
その反応に、急激に体が冷えていく。
「ねえ、何かあったの!?」
ジュリはベッドの上に膝立ちになると眉間に皺をよせながらクリスの襟元を掴んだ。
自分にもこんな力があったのか。
ぎゅっと指先が白くなるほど力を込めると、クリスは慌てたようにジュリの腕を掴んだ。
「落ち着けって。……何もないんだ。騎士団も着くのはまだかかるってライアンから連絡がきた。……山のほうもずっと見てたけど何も起きていない。……怖いくらい普通なんだ」
「そんな……」
「とりあえず、騎士団がくるまで休んでいたほうがいい。先生がここで一晩入院するか帰るか決めてくれって言ってた。……どうする?」
「……ここにいても何もわからないなら、BINGOに帰るよ」
ようやくクリスの襟を掴んでいた手の力が抜けた。
「わかった。俺もそのほうがいいと思う。……ジュリは着替えて待ってな」
クリスは力の抜けたジュリの頭をポンと優しく撫でると「先生のとこ行ってくる」といい病室から去っていった。
ー---
もうすっかり日が暮れる中、二人は病院からBINGOに戻ろうとしていた。
マルシャン村は夜の市場でだんだんと人が集まってきていた。
「これ以上人が混む前に帰るぞ」
「うん……」
小声で呟き、ぼんやりしたまま頷く。
それを合図にクリスは前に座るジュリの腰を支えると優しく馬の腹を蹴り進みだした。
その時だった。
山から眩しいほどの赤い光と「ドンッ」という爆発音が響いた。
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