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78戦い②
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地面に座ったままのジュリの両肩厚い手が包む。
ジュリの視線に合わせるように片膝をついたショウはいつになく真剣な表情をしている。
「ジュリ……。あの化け物は魔族の長『デビアス』だ。俺はあれを抹殺するために……この国を平和にするためにこの世界に呼ばれたんだ。だから俺とネイサンはあれを殺すために今から追う」
「……そんなの、ダメ!ショウが殺されちゃう!せめて、せめて騎士団のみんなが来るまでは」
ショウの団服の裾を両手で力強く握る。
あの恐ろしい化け物に行くことがどれだけ危ないことか、近くで見たジュリはそれが命がけだということがわかっていた。
ジュリは眉を八の字にし、下唇を噛みながら何度も首を横に振った。
「一刻を争う事態なんだ。デビアスが現れた以上放っておくことはできない。俺たちの子が狙われているのならなおさら。……大丈夫、絶対生きて帰るから」
「やめて……、行かないでよ……」
か細い声で何度も首を横に振り続けるジュリの瞳には大粒の雫が浮かんでいる。
「さっきネイサンが放った矢には俺の血が塗られているんだ。デビアスは俺の血が弱点だから少しは弱っているはず。……約束する。ジュリ、君を一人になんてしない」
首を振り続けるジュリの頬を両手で包むと、柔らかい頬に触れるだけのキスをした。
頬、瞼、額……ショウの温もりがジュリの顔中に降り注ぐ。
「ショウッ……!」
ジュリは両腕を伸ばすとショウに抱き着いた。
いったいいつまでそうしていただろう。
一向に離れる気配がしないジュリにショウたちが困り果てていると、遠くの方から“パカッパカッ”と馬の足音が聞こえてきた。
「おーい!」
森の奥から姿を現したのは馬に乗ったクリスだった。
三人の元に駆け寄ったクリスはジュリの顔を見た途端「はぁ~」と盛大なため息を吐いた。
「よかったぁ……!ジュリ無事だったんだな……心配したぞ」
「クリス、ごめん。ありがとう……」
「ジュリが無事ならいいんだよ」
クリスは安心したような笑みで、申し訳なさそうに謝るジュリの頭を強く撫でまわした。
そして最後にポンと肩を優しく叩くとショウの方を顔を向けた。
「騎士団の方とはなんとか連絡とれたぞ。何人かの騎士団員は勇者様の後を追って既に出発していたらしい。早くて今日の夜には着くんじゃないかって」
「そうか、ありがとう。……すまない。クリスさん、頼みがあるんだ」
「……なんだ?」
「ジュリを連れて今すぐ下山してほしい。実は、デビアス……魔族が現れたんだ」
「魔族……っておい!それ本当か!?」
約一年前、この国を襲った悲劇の元凶……その魔族が再びこの地に現れた。
クリスは信じられず「嘘だろ……」と呟きながら片手で目を覆った。
「ネイサンが打った矢のおかげで傷を負っているからやつは結界一つも作れないだろう。やつが弱っている間に早くここから逃げてくれ。……俺たちはデビアスを追う」
「ショウッ……!行かないで!」
縋りつくようにショウの首に腕を回し強く抱き着く。
ぽろぽろと零れる涙は頬に伝いショウの首筋を濡らした。
ショウは泣きじゃくるジュリの体を優しく引き離すと今度は柔らかな唇にかぶりついた。
「んっ、んぅ……っ」
ぬるりと入ってくる舌に呼吸が出来ず、苦しそうな吐息がもれる。
息を吸おうと少しでも口を開けばその間を狙うかのようにショウの舌が追った。
自然に二人の唇が離れるころには、ジュリの頬は真っ赤に染まっていた。
――こんなキス、久しぶりだ……。
ぼんやりする頭で見上げると、そこには慈しむような、愛しい宝物を見つめるような顔をしたショウがいた。
「ジュリ、愛してる」
ただ一言。だけどそれが全てだった。
ジュリはまた泣いてしまいそうになるのを堪えながら何度もうんうんと頷いた。
「クリスさん、頼む」
立ち上がりネイサンと共に馬に乗るショウ。
最後にジュリが「ショウッ……!絶対生きて帰ってきて!」と叫ぶ。
ショウは一度だけ振り返りジュリに手を振ると颯爽と森の中へ走っていった。
ジュリの視線に合わせるように片膝をついたショウはいつになく真剣な表情をしている。
「ジュリ……。あの化け物は魔族の長『デビアス』だ。俺はあれを抹殺するために……この国を平和にするためにこの世界に呼ばれたんだ。だから俺とネイサンはあれを殺すために今から追う」
「……そんなの、ダメ!ショウが殺されちゃう!せめて、せめて騎士団のみんなが来るまでは」
ショウの団服の裾を両手で力強く握る。
あの恐ろしい化け物に行くことがどれだけ危ないことか、近くで見たジュリはそれが命がけだということがわかっていた。
ジュリは眉を八の字にし、下唇を噛みながら何度も首を横に振った。
「一刻を争う事態なんだ。デビアスが現れた以上放っておくことはできない。俺たちの子が狙われているのならなおさら。……大丈夫、絶対生きて帰るから」
「やめて……、行かないでよ……」
か細い声で何度も首を横に振り続けるジュリの瞳には大粒の雫が浮かんでいる。
「さっきネイサンが放った矢には俺の血が塗られているんだ。デビアスは俺の血が弱点だから少しは弱っているはず。……約束する。ジュリ、君を一人になんてしない」
首を振り続けるジュリの頬を両手で包むと、柔らかい頬に触れるだけのキスをした。
頬、瞼、額……ショウの温もりがジュリの顔中に降り注ぐ。
「ショウッ……!」
ジュリは両腕を伸ばすとショウに抱き着いた。
いったいいつまでそうしていただろう。
一向に離れる気配がしないジュリにショウたちが困り果てていると、遠くの方から“パカッパカッ”と馬の足音が聞こえてきた。
「おーい!」
森の奥から姿を現したのは馬に乗ったクリスだった。
三人の元に駆け寄ったクリスはジュリの顔を見た途端「はぁ~」と盛大なため息を吐いた。
「よかったぁ……!ジュリ無事だったんだな……心配したぞ」
「クリス、ごめん。ありがとう……」
「ジュリが無事ならいいんだよ」
クリスは安心したような笑みで、申し訳なさそうに謝るジュリの頭を強く撫でまわした。
そして最後にポンと肩を優しく叩くとショウの方を顔を向けた。
「騎士団の方とはなんとか連絡とれたぞ。何人かの騎士団員は勇者様の後を追って既に出発していたらしい。早くて今日の夜には着くんじゃないかって」
「そうか、ありがとう。……すまない。クリスさん、頼みがあるんだ」
「……なんだ?」
「ジュリを連れて今すぐ下山してほしい。実は、デビアス……魔族が現れたんだ」
「魔族……っておい!それ本当か!?」
約一年前、この国を襲った悲劇の元凶……その魔族が再びこの地に現れた。
クリスは信じられず「嘘だろ……」と呟きながら片手で目を覆った。
「ネイサンが打った矢のおかげで傷を負っているからやつは結界一つも作れないだろう。やつが弱っている間に早くここから逃げてくれ。……俺たちはデビアスを追う」
「ショウッ……!行かないで!」
縋りつくようにショウの首に腕を回し強く抱き着く。
ぽろぽろと零れる涙は頬に伝いショウの首筋を濡らした。
ショウは泣きじゃくるジュリの体を優しく引き離すと今度は柔らかな唇にかぶりついた。
「んっ、んぅ……っ」
ぬるりと入ってくる舌に呼吸が出来ず、苦しそうな吐息がもれる。
息を吸おうと少しでも口を開けばその間を狙うかのようにショウの舌が追った。
自然に二人の唇が離れるころには、ジュリの頬は真っ赤に染まっていた。
――こんなキス、久しぶりだ……。
ぼんやりする頭で見上げると、そこには慈しむような、愛しい宝物を見つめるような顔をしたショウがいた。
「ジュリ、愛してる」
ただ一言。だけどそれが全てだった。
ジュリはまた泣いてしまいそうになるのを堪えながら何度もうんうんと頷いた。
「クリスさん、頼む」
立ち上がりネイサンと共に馬に乗るショウ。
最後にジュリが「ショウッ……!絶対生きて帰ってきて!」と叫ぶ。
ショウは一度だけ振り返りジュリに手を振ると颯爽と森の中へ走っていった。
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