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75その匂いの正体
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――自分が甘かった。
そう後悔してももう遅い。
手綱を強く握り馬を全速力で走らせながらショウはくそっ……!と吐き出した。
――人さらいか?いや、ジュリが俺と一緒にいるところを見られていたとしたら身代金目的か?ジュリがオメガだから狙われた?
頭の中でぐるぐると嫌な想像ばかりが駆け巡る。
その嫌な思いを打ち消そうと歯を食いしばりながら馬をもっと走らせようと上体を前に傾けようとした時だった。
「おい!待ってって!」
怒っているような慌てるような声がショウの後方から聞こえてきた。
振り向くとクリスとネイサンが息を切らせながらショウに向かって馬を走らせている。
二人はショウのすぐ後ろまで近付くと手綱を体全体で引いて止めた。
「勇者様よお、凄い勢いで走ってくけど……当てはあるのか?」
クリスが首を傾げながら尋ねた。
「いや、……当てはないがとりあえず町に……」
口を濁して答えるショウにクリスは呆れたようにため息をつく。
「ジュリは俺の店に行こうとしてたんだ。だからここから俺の店まで行きましょう。もしかしたらジュリを見たって人がいるかもしれない」
クリスがそう言いショウの前まで馬を誘導させる。
ネイサンとショウがお互いの顔を見合わせ深く頷いた。
「あぁ……よろしく頼む」
その言葉を皮切りに三人は勢いよく走り出した。
――――
違和感を感じたのは市場に繋がる大通りに入ってすぐの事だった。
町の人も店もいつもと何も変わらないのに全身の表面がざわざわと痺れるような不思議な感覚が襲った。
平日といえどもうすぐ夕方になるこの時間、市場は大勢の客で賑っていた。
「くそっ……!このままじゃ身動きが取れないっ」
ショウは馬に乗りながら自分の太ももを拳で強く殴った。
ただでさえ混んできている市場にショウの姿を見た一部の客がこちらを見てこそこそ噂をしていたのだ。
――どうしたらいい、このままだと人だかりができてしまう……。
この状況をどうにかしようと焦りと苛立ちで思わずぎりぎりと歯を噛んでいると隣にいたクリスが二人に向かって声を上げた。
「勇者様、ネイサンさん!そこに馬を繋げる場所があります!馬はそこに……あと上着脱いでください。ここじゃその制服は目立ちすぎる」
「確かにそうだな……」
クリスが指を差した先は靴屋の隣にある、市場に来た客が使える簡易の馬のつなぎ場だった。
クリス先導の元、三人はいったん馬から降りつなぎ場まで馬を引っ張りながら進んだ。
つなぎ場で急いで馬を繋ぎ上着を脱いだ時だった。
ショウの足元でコツンと何かが当たった。
「……何か蹴ったか?」
地面を覗き込むとキラキラ輝く“なにかが”靴屋とつなぎ場の間にコロコロ転がっていった。
慌ててそれを追いかけ拾いその“なにか”を手にした瞬間、ショウは驚き目を見開いた。
「これはっ……!」
一粒のダイヤがきらりと光るその指輪。それは間違いなくショウがジュリに渡したあの指輪だった。
指輪に繋がれているチェーンの部分は誰かに踏まれたのか千切られたのか留め具が外れボロボロになっていた。
――なんでここに指輪だけが……!
指輪をぎゅうと握りしめると微かにジュリの匂いが僅かに漂いショウの鼻腔を擽った。
「ジュリの匂いだ……」
いなくなってしまったジュリが心配で、その不安を消すように胸元で宝物を扱う様に握りしめると、ジュリの匂い以外の匂いがショウを包み込んだ。
身の毛もよだつ邪悪な匂い。ショウはその匂いの正体を知っていた。
「この匂い……デビアスだ……」
そう後悔してももう遅い。
手綱を強く握り馬を全速力で走らせながらショウはくそっ……!と吐き出した。
――人さらいか?いや、ジュリが俺と一緒にいるところを見られていたとしたら身代金目的か?ジュリがオメガだから狙われた?
頭の中でぐるぐると嫌な想像ばかりが駆け巡る。
その嫌な思いを打ち消そうと歯を食いしばりながら馬をもっと走らせようと上体を前に傾けようとした時だった。
「おい!待ってって!」
怒っているような慌てるような声がショウの後方から聞こえてきた。
振り向くとクリスとネイサンが息を切らせながらショウに向かって馬を走らせている。
二人はショウのすぐ後ろまで近付くと手綱を体全体で引いて止めた。
「勇者様よお、凄い勢いで走ってくけど……当てはあるのか?」
クリスが首を傾げながら尋ねた。
「いや、……当てはないがとりあえず町に……」
口を濁して答えるショウにクリスは呆れたようにため息をつく。
「ジュリは俺の店に行こうとしてたんだ。だからここから俺の店まで行きましょう。もしかしたらジュリを見たって人がいるかもしれない」
クリスがそう言いショウの前まで馬を誘導させる。
ネイサンとショウがお互いの顔を見合わせ深く頷いた。
「あぁ……よろしく頼む」
その言葉を皮切りに三人は勢いよく走り出した。
――――
違和感を感じたのは市場に繋がる大通りに入ってすぐの事だった。
町の人も店もいつもと何も変わらないのに全身の表面がざわざわと痺れるような不思議な感覚が襲った。
平日といえどもうすぐ夕方になるこの時間、市場は大勢の客で賑っていた。
「くそっ……!このままじゃ身動きが取れないっ」
ショウは馬に乗りながら自分の太ももを拳で強く殴った。
ただでさえ混んできている市場にショウの姿を見た一部の客がこちらを見てこそこそ噂をしていたのだ。
――どうしたらいい、このままだと人だかりができてしまう……。
この状況をどうにかしようと焦りと苛立ちで思わずぎりぎりと歯を噛んでいると隣にいたクリスが二人に向かって声を上げた。
「勇者様、ネイサンさん!そこに馬を繋げる場所があります!馬はそこに……あと上着脱いでください。ここじゃその制服は目立ちすぎる」
「確かにそうだな……」
クリスが指を差した先は靴屋の隣にある、市場に来た客が使える簡易の馬のつなぎ場だった。
クリス先導の元、三人はいったん馬から降りつなぎ場まで馬を引っ張りながら進んだ。
つなぎ場で急いで馬を繋ぎ上着を脱いだ時だった。
ショウの足元でコツンと何かが当たった。
「……何か蹴ったか?」
地面を覗き込むとキラキラ輝く“なにかが”靴屋とつなぎ場の間にコロコロ転がっていった。
慌ててそれを追いかけ拾いその“なにか”を手にした瞬間、ショウは驚き目を見開いた。
「これはっ……!」
一粒のダイヤがきらりと光るその指輪。それは間違いなくショウがジュリに渡したあの指輪だった。
指輪に繋がれているチェーンの部分は誰かに踏まれたのか千切られたのか留め具が外れボロボロになっていた。
――なんでここに指輪だけが……!
指輪をぎゅうと握りしめると微かにジュリの匂いが僅かに漂いショウの鼻腔を擽った。
「ジュリの匂いだ……」
いなくなってしまったジュリが心配で、その不安を消すように胸元で宝物を扱う様に握りしめると、ジュリの匂い以外の匂いがショウを包み込んだ。
身の毛もよだつ邪悪な匂い。ショウはその匂いの正体を知っていた。
「この匂い……デビアスだ……」
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