63 / 85
63プロポーズ
しおりを挟む「ショウッ……苦しいよ……」
ジュリはショウの胸を手で叩きながら苦しそうにもがく。
それに気づいたショウは慌てて腕の力を抜きジュリを解放した。
「すまないっ……!ジュリ、大丈夫か?」
「大丈夫だけど……。ねえ、さっきの話本当?本当に元の世界に戻らない?マーリンさんの勘違いなの?」
ショウの顔を見上げ尋ねるジュリは不安そうに眉をほそめた。
白く細い指に力をこめショウの服の裾を掴む。
まるで『ショウが逃げないように』捕まえているようでいじらしいその姿にショウはクスッと笑うとジュリの頭を優しく撫でた。
「この国に来たばかりの頃は帰るつもりでいた。俺は『警察官になって国民を守る』っていう夢もあったし、家族や友人の事……会えなくなることに未練がないっていったら嘘になるからな。ジュリと出会ってから俺はこの国で暮らすことを決めたんだけど……どうやらマーリンさんには伝わってなかったらしい」
そこまで言うとショウは座っていた椅子をどかし片膝を床についた。
服の裾を掴んでいるジュリの指を優しく解きなおし両手で包み込む。
「君と出会って、こんなにも誰かを守りたい、愛したいって思ったことはなかった。だから……どうか今から聞く質問にはイエスで答えてほしい」
「それって……?」
「……もうわかるだろ?……ジュリ。いや、マデエス・ジュリさん。愛しています……俺と結婚してくれませんか?」
片膝をついたままジュリのその白い指先にキスを落とす。
よく見るとジュリの指先は所々あかぎれの跡や、火傷が治ったような跡まである。
――ジュリがこの街で俺の子を守ろうとしていた証だな……。
ショウはその傷一つ一つを慈しむように頬ずりするとズボンのポケットから黒いベルベット素材で出来た小さな箱を取り出した。
中を開けるとそこには一粒のダイヤがきらりと輝く指輪が入っていた。
「これ、この指輪……」
ジュリは驚き指輪を見つめたまま目を見開く。
「嫌なら断ってくれ。断らないなら……もう離してやれない」
「!そんなのっ……断らないに決まってる!」
そう叫ぶとジュリはショウの体に勢いよく飛びついた。
ジュリの瞳からは大粒の涙が零れている。
「よかった……。ジュリ、左手をこっちに」
ショウは抱き着くジュリの頭を撫でた後、そっとジュリの左手を取った。
黒い小箱から指輪を取り、それをジュリの左手薬指に優しくはめる。
サイズぴったりとはまった指輪はジュリの左手をキラキラと輝かせた。
「ジュリ、愛してる」
「僕も……。ショウ、愛してる」
どちらからともなく二人の顔が近づきお互いの唇が触れそうになった時だった。
突然、廊下から何人もの走る音と人の怒鳴るような声が聴こえた。
その瞬間、勢いよく病室の扉が開いた。
「ショウ様!!ここにいることはわかってるんですよ!!」
ジュリは驚き、咄嗟にショウの肩を押し距離を取る。
――この声って、もしかして……。
心臓がバクバクとなり血の気が一気に引く。
その声の主は、ジュリの事をよく思っていなかった王宮の神官・レミウスだった。
0
お気に入りに追加
226
あなたにおすすめの小説
皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ
手塚エマ
BL
テオクウィントス帝国では、
アルファ・べータ・オメガ全階層の女性のみが感染する奇病が蔓延。
特効薬も見つからないまま、
国中の女性が死滅する異常事態に陥った。
未婚の皇帝アルベルトも、皇太子となる世継ぎがいない。
にも関わらず、
子供が産めないオメガの少年に恋をした。
トップアイドルα様は平凡βを運命にする
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。
ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。
翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。
運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

エリートアルファの旦那様は孤独なオメガを手放さない
小鳥遊ゆう
BL
両親を亡くした楓を施設から救ってくれたのは大企業の御曹司・桔梗だった。
出会った時からいつまでも優しい桔梗の事を好きになってしまった楓だが報われない恋だと諦めている。
「せめて僕がαだったら……Ωだったら……。もう少しあなたに近づけたでしょうか」
「使用人としてでいいからここに居たい……」
楓の十八の誕生日の夜、前から体調の悪かった楓の部屋を桔梗が訪れるとそこには発情(ヒート)を起こした楓の姿が。
「やはり君は、私の運命だ」そう呟く桔梗。
スパダリ御曹司αの桔梗×βからΩに変わってしまった天涯孤独の楓が紡ぐ身分差恋愛です。

オメガ転生。
桜
BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。
そして…………
気がつけば、男児の姿に…
双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね!
破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!

孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる