異世界から来た勇者様は男娼オメガに恋をする

小鳥遊ゆう

文字の大きさ
上 下
61 / 85

61再会

しおりを挟む

後ろを振り向く。
数メートル後ろに見えたのは馬に乗った体の大きい男だった。
街灯がなくてはっきり姿がみえなくてもわかる。
そのシルエット、声、匂い……そこにいたのは紛れもないショウの姿だった。

「うそ……どうして」

ジュリが座り込んだまま呆然としていると、ショウは馬から降りマントをなびかせながらあっという間にジュリの元に駆け寄り力強く抱きしめた。
ショウの逞しい腕がジュリの体を包み込む。
ジュリのフェロモンもショウを待っていたかのように濃く辺りに広がった。

「話したいことはたくさんある……。だけど、まず言わせてくれ『ずっと会いたかった』」

「……なんで?ショウは元の世界に帰ったんじゃ……」

「帰るわけないだろう、ここにジュリがいるのに」

優しい声でそう囁くとショウはジュリの両頬に手を添えながら微笑んだ。
ジュリもほっとしたように目をつむるとショウの手に身を預け擦り寄る。
しばらくそうしていると、ショウが不思議そうにたずねた。

「この街に着いてすぐに君の香りがした。きっとこの街のどこかにいるんだろうとは思って探していたが……。でもどうしてこんな夜に一人でいるんだ?」

「あ、ケイ……弟が、体調悪くて……。隣町の病院しか開いてなくて、それでっ……!」

「双子の弟か……。わかった。俺の馬に乗っていこう」

眉間に皺を寄せながら狼狽えるジュリを安心させようとそっと肩を寄せる。
ジュリはショウの顔を見上げると何度も頷いた。
そのまま一人で立ち上がろうとするが、足首は血が滲んでうまく立ち上がることが出来ない。

「ショウ、ごめん。足が痛くて歩けない……」

「大丈夫。腕を俺の肩に手を回して。抱きかかえるから」

ジュリのひざ下に腕をまわすとジュリの体を持ち上げる。
その瞬間、膨らんだお腹がショウの視界に入った。

「このお腹……やっぱり妊娠してるんだな」

「それは……」

「とりあえず病院に行くぞ。話はそれからだ」

ぴしゃりと言い放つとジュリを抱きかかえたまま歩き出す。
温かい腕とは反対にその表情は冷たく無表情でジュリは抱きかかえられたまま何も言えないままでいた。




馬で走る事二十分。
ジュリは病院のベッドの上にいた。

清潔なシーツの上で横になっていると、仕切りのカーテンの外から看護師の声が聞こえてきた。

「ジュリさん、お体どうですか?」

「あ、大丈夫です」

ジュリが答えると看護師はカーテンを開け顔を出した。
看護師は横になっているジュリの横に立つと点滴の速度を調節しながらにこにこと微笑んでいる。

「今連絡きてね、こっちから向かった医師がBINGOに着いたって。弟さん、炎症が酷くて高熱が出てたけど抗生剤も処方したし、一週間くらいで良くなるそうよ。あなたもお腹の赤ちゃんも無事だったし良かったわね」

「良かった……本当にありがとうございました。……あの、ショウ……『勇者様』は今どこに?」

「あぁ~あなたを颯爽と抱えて現れた勇者様ねー。今院長先生と話してるけど……。終わったらここに来るよう伝えとこうか?」

「すいません、お願いしていいですか?」

看護師は「伝えておくね」と言うと、病室を出て行った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

愛すべき『蟲』と迷宮での日常

熟練紳士
ファンタジー
 生まれ落ちた世界は、剣と魔法のファンタジー溢れる世界。だが、現実は非情で夢や希望など存在しないシビアな世界だった。そんな世界で第二の人生を楽しむ転生者レイアは、長い年月をかけて超一流の冒険者にまで上り詰める事に成功した。  冒険者として成功した影には、レイアの扱う魔法が大きく関係している。成功の秘訣は、世界でも4つしか確認されていない特別な属性の1つである『蟲』と冒険者である紳士淑女達との絆。そんな一流の紳士に仲間入りを果たしたレイアが迷宮と呼ばれるモンスターの巣窟で過ごす物語。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...