異世界から来た勇者様は男娼オメガに恋をする

小鳥遊ゆう

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58 弟たちとの絆

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「勇者って・・・・・・?ジュリお兄ちゃん、勇者様に会ったことあるの?」

「兄ちゃんってあの大きな館で、使用人のお仕事してたんでしょ?どうやって勇者に会うんだよ」

不思議そうな表情のジュンと、怪訝そうな表情のケイがジュリの顔を凝視している。
ジュリが娼館に勤めるようになったのは弟たちがまだ九歳のころ。
幼い弟たちに自分の本当の仕事を言うことが出来ず、咄嗟に『屋敷の使用人』と嘘をついていたのだった。

「あの館はね、本当は『娼館』なんだ。どうしてもお金が必要で・・・・・・僕はそこで男娼として働いてた。勇者・・・ショウと出会ったのはその仕事がきっかけ。初めは好きになるはずないって思ってたけどお互いを知っていくうちに好きになってた。ごめん、どうしても言えなくて……」

「はぁ!?どういう事だよ……!もしかして俺たち育てるためにそんな仕事してたのかよ!そんで?お腹の子は勇者との子どもだって?じゃあなんでそいつはここにいないんだよ!」

「ちょ、ちょっとケイ落ち着いて……!」

ケイは怒鳴りながらテーブルに両方の拳を叩きつけた。ケイは唇を噛みしめながらジュリを睨んだが、その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。
落ち着かせようと背中をさするジュンの手を払いのけると、ケイはポツリポツリと話し出した。

「俺すごい悔しい・・・・・・。俺たちがのんきに遊んだり学校行ったりしている間にジュリ兄ちゃんが一人で抱えていたなんて……っ!自分が嫌になる!」

ケイの瞳からは抑えきれず零れだした涙がテーブルに置いた拳にポタポタと落ちている。
ジュリは涙で濡れているケイの拳を両手で包みこむと優しく微笑んだ。

「ケイ、ありがとう。でもそんな風に思わないで。ショウは僕の事愛してくれてたし僕もショウを愛してる。その気持ちは変わらないから、もう会えなくてもせめてお腹の子だけは守りたいんだ」

「お、お兄ちゃん!僕たちにも何かできることはある・・・・・・?」

隣で聞いていたジュンが不安そうに震える声でジュリの手にそっと触れた。

「ジュン・・・・・・。そうだね、二人には産まれてくる子を好きになって欲しいな」

「当たり前だよ!大好きなお兄ちゃんの子だもん!お世話もたくさんするし可愛がるから」

「……兄ちゃん!俺、次は兄ちゃん支えられるように頑張るから!」

三人は互いに顔を見合わせると涙を浮かべながらにっこりと笑った。
その様子をジュリの隣で見ていたクリスは嬉しそうに目を細めるとジュリの髪の毛がボサボサになるほど撫でまわした。

「よかったな、ジュリ。じゃあ俺はこれで行くけど……ジュリもそろそろ行かないとまずいんじゃないか?」

「あっ仕事行かないと!・・・・・・クリス、今日はありがとう」

「いいっていいって。じゃあ、またな。ジュンとケイ、ジュリの事よろしくな」

そう言うとクリスは三人に背中を向け片手をあげながら部屋から出て行った。



ー--ー


「ジュリ、今ホール誰も手が離せないからレジよろしく!」

「あ、はい!」

時刻は夜八時。BINGOはたくさんの人で賑わっていた。
普段は、厨房専門のジュリも人手が足りないときはレジを担当することもある。
だが、実際そんな事は滅多になく近くでお祭りがあったりイベントが重なった時がほとんどだ。今日はなぜかいつもより客が絶えることなくジュリも休憩なしで仕事をこなしていた。

「すいません、お待たせしました。……えっとお会計ですね」

「ジュリちゃん、久しぶりねぇ」

小走りでレジに向かうと、会計を待っていたのは週に一度は必ず来店する中年の女性客だった。
ジュリは女性からお金を受け取ると、レジスターからお釣りを取り出した。

「お久しぶりです、マダム。今日はなぜかいつもより混んでて・・・・・・。お待たせしてしまってすいません」

「あらぁ、しょうがないわよ!だって王宮の人たちが来るんだから!みんな浮足だっちゃうわよ~」

嬉しそうに話すその言葉にジュリの手が止まった。






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