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52 クリスの兄
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「うわぁ……。人気なんですね、行列作ってる……」
「そりゃそうだ。BINGOはこの市場が出来た当初からある老舗の店で見ての通り人気店。……それでな最近料理人が辞めたらしくて、バアさんが困ってんだよ」
クリスは腕を組み困ったように眉を下げた。
『洋食屋BINGO』・・・・・・赤レンガの外壁に緑の蔦の枝が付いているなんともレトロな外観の店だ。両開きの扉の外には十人ほどが並んでいてここがいかに人気なのかを示しているようだった。
「この行列に並んでいたら中に入るの時間かかりそう……」
「何言ってんだ?ジュリは面接に来たんだから裏口から入るに決まってるだろ。さあ、着いてきて」
「あ、うんっ・・・・・!」
先を歩くクリスに置いて行かれないよう早足で着いていく。
ちょうど正面の入り口と反対にある裏口はすぐ厨房に繋がっていて店員が忙しくする声や料理のいい香りが漂ってくる。
その香りに釣られて今すぐ裏口を開けてしまいたくなるが、厨房から聞こえてくるあわただしそうな様子にジュリは裏口を開けるのをためらっていた。
『これ二番テーブルに運んで!急いで!』
『A定食二つ入りました!」
「……クリスさん、忙しそうだけど本当に入っていいの?」
「当たり前さ。ほら早く行くぞ」
そう言いながらクリスはジュリが握っていたドアノブを上から手を重ねドアノブを回す。
ギギッ……。ときしむ音をさせながら開いたドアの先は戦場のような光景が広がっていた。
「ちょっと!三番テーブルのお客さんがA定食まだかってクレーム来たんだけど!」
「そんなこと言っても一人で回してんだよ、無理言うなって。・・・・・・ってクリスじゃねえか!どうしたんだ?」
コック帽をかぶった、濃い茶色の髪を一つに束ねた男性が鍋を片手に驚いた顔でこちらを振り向いた。
料理人らしきその男はクリスとジュリの顔を交互に見ると急に破顔し、鍋を洗い場にに放り投げるとクリスに抱き着いた。
「おぉっ・・・・・・!愛しい弟よ!お前もついに結婚するんだな。可愛い子じゃないか!今はちょっとバタついてるけどお祝いさせてくれ!誰か席を用意してくれないか」
「違うから!何勘違いしてんだよ!俺はこの子が働き先を探してたからここ紹介しようと思って連れてきただけだ。人、足りてないんだろ?」
クリスは抱き着いてきた腕を乱暴に引き離し、怒った口調で言い放つ。
すると料理人の男は見るからに残念そうな顔をし、その場でしゃがみこみ項垂れた。
「なぁんだ。色恋の話一つも聞いたことない弟がこんなに可愛いオメガちゃん連れてくるなんて、結婚だと思っちゃうじゃん……。でも人手も確かに必要なんだよー。調理補助してくれてた子が二人も辞めちゃって芋を剥くのも俺一人でしてるんだよ。……ねぇ、君、料理できる?」
突然顔をあげるとキラキラした瞳でジュリを見つめた。
急に話を振られたジュリは慌てて首を縦に振る。
すると、男は今度は嬉しそうな顔で立ち上がるとジュリの方へ駆け寄った。
ぎゅっと力強くジュリの両手を握りしめる。
「君、芋剥いたり野菜切ったり炒めたりするの好き?……あっ、俺はこの店の料理長のライアン、そんでこいつのお兄ちゃんです。よろしくね」
「えっと、ジュリです。あの、働かせてもらえるんですか……?」
手を握りしめられたままジュリは首を傾ける。
小柄なジュリ。必然的に上目遣いでライアンを見つめているとだんだんとライアンの顔がだんだん赤くなっていった。
握られた手にさらに力が加わる。
その力強さにジュリが顔を歪めた時だった。
「おい、ライアンそこまで。ベータのくせになに発情してんだ。……俺はジュリをバアさんとこ連れてくからちゃんと仕事しろよ」
クリスが間に入りライアンの腕を掴む。クリスの言葉にはっと我に返ったライアンは手を放すと何度もジュリに頭を下げた。
「ごめんね、ジュリちゃん。痛かっただろう?」
「あの、大丈夫です……」
「それならよかった。じゃあ面接行っておいで。今ならホールにいるんじゃないかな?……クリスよろしくね」
ライアンは申し訳なさそうにそう言うとクリスとジュリを見送った。
忙しそうな厨房を邪魔しないように歩いているとクリスがぼそっとジュリの耳元で囁いた。
「ごめんなジュリ。兄貴の事・・・・・・。あいつはベータだしアルファみたいに発情はしないから大丈夫だと思うけど……なんかあったら言ってくれ」
見るといつになく真剣な表情をしている。
ー-僕の事、ここまで助けてくれてるのに……。
「僕は大丈夫。それより面接!頑張らなくちゃ」
心配してくれていることは嬉しかったがこれ以上気にさせてはいけない。ジュリはニッと笑いながら拳を上に突き上げた。
「そりゃそうだ。BINGOはこの市場が出来た当初からある老舗の店で見ての通り人気店。……それでな最近料理人が辞めたらしくて、バアさんが困ってんだよ」
クリスは腕を組み困ったように眉を下げた。
『洋食屋BINGO』・・・・・・赤レンガの外壁に緑の蔦の枝が付いているなんともレトロな外観の店だ。両開きの扉の外には十人ほどが並んでいてここがいかに人気なのかを示しているようだった。
「この行列に並んでいたら中に入るの時間かかりそう……」
「何言ってんだ?ジュリは面接に来たんだから裏口から入るに決まってるだろ。さあ、着いてきて」
「あ、うんっ・・・・・!」
先を歩くクリスに置いて行かれないよう早足で着いていく。
ちょうど正面の入り口と反対にある裏口はすぐ厨房に繋がっていて店員が忙しくする声や料理のいい香りが漂ってくる。
その香りに釣られて今すぐ裏口を開けてしまいたくなるが、厨房から聞こえてくるあわただしそうな様子にジュリは裏口を開けるのをためらっていた。
『これ二番テーブルに運んで!急いで!』
『A定食二つ入りました!」
「……クリスさん、忙しそうだけど本当に入っていいの?」
「当たり前さ。ほら早く行くぞ」
そう言いながらクリスはジュリが握っていたドアノブを上から手を重ねドアノブを回す。
ギギッ……。ときしむ音をさせながら開いたドアの先は戦場のような光景が広がっていた。
「ちょっと!三番テーブルのお客さんがA定食まだかってクレーム来たんだけど!」
「そんなこと言っても一人で回してんだよ、無理言うなって。・・・・・・ってクリスじゃねえか!どうしたんだ?」
コック帽をかぶった、濃い茶色の髪を一つに束ねた男性が鍋を片手に驚いた顔でこちらを振り向いた。
料理人らしきその男はクリスとジュリの顔を交互に見ると急に破顔し、鍋を洗い場にに放り投げるとクリスに抱き着いた。
「おぉっ・・・・・・!愛しい弟よ!お前もついに結婚するんだな。可愛い子じゃないか!今はちょっとバタついてるけどお祝いさせてくれ!誰か席を用意してくれないか」
「違うから!何勘違いしてんだよ!俺はこの子が働き先を探してたからここ紹介しようと思って連れてきただけだ。人、足りてないんだろ?」
クリスは抱き着いてきた腕を乱暴に引き離し、怒った口調で言い放つ。
すると料理人の男は見るからに残念そうな顔をし、その場でしゃがみこみ項垂れた。
「なぁんだ。色恋の話一つも聞いたことない弟がこんなに可愛いオメガちゃん連れてくるなんて、結婚だと思っちゃうじゃん……。でも人手も確かに必要なんだよー。調理補助してくれてた子が二人も辞めちゃって芋を剥くのも俺一人でしてるんだよ。……ねぇ、君、料理できる?」
突然顔をあげるとキラキラした瞳でジュリを見つめた。
急に話を振られたジュリは慌てて首を縦に振る。
すると、男は今度は嬉しそうな顔で立ち上がるとジュリの方へ駆け寄った。
ぎゅっと力強くジュリの両手を握りしめる。
「君、芋剥いたり野菜切ったり炒めたりするの好き?……あっ、俺はこの店の料理長のライアン、そんでこいつのお兄ちゃんです。よろしくね」
「えっと、ジュリです。あの、働かせてもらえるんですか……?」
手を握りしめられたままジュリは首を傾ける。
小柄なジュリ。必然的に上目遣いでライアンを見つめているとだんだんとライアンの顔がだんだん赤くなっていった。
握られた手にさらに力が加わる。
その力強さにジュリが顔を歪めた時だった。
「おい、ライアンそこまで。ベータのくせになに発情してんだ。……俺はジュリをバアさんとこ連れてくからちゃんと仕事しろよ」
クリスが間に入りライアンの腕を掴む。クリスの言葉にはっと我に返ったライアンは手を放すと何度もジュリに頭を下げた。
「ごめんね、ジュリちゃん。痛かっただろう?」
「あの、大丈夫です……」
「それならよかった。じゃあ面接行っておいで。今ならホールにいるんじゃないかな?……クリスよろしくね」
ライアンは申し訳なさそうにそう言うとクリスとジュリを見送った。
忙しそうな厨房を邪魔しないように歩いているとクリスがぼそっとジュリの耳元で囁いた。
「ごめんなジュリ。兄貴の事・・・・・・。あいつはベータだしアルファみたいに発情はしないから大丈夫だと思うけど……なんかあったら言ってくれ」
見るといつになく真剣な表情をしている。
ー-僕の事、ここまで助けてくれてるのに……。
「僕は大丈夫。それより面接!頑張らなくちゃ」
心配してくれていることは嬉しかったがこれ以上気にさせてはいけない。ジュリはニッと笑いながら拳を上に突き上げた。
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