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49 助けてくれたのは
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「え、誰……?」
そこには小太りの中年男性がジュリの顔をみてニヤニヤと薄笑いを浮かべていた。
背筋にぞわりと冷たいものが走る。ジュリ怖くなり逃げようとするが、悪阻の吐き気で立つことが出来ない。
助けを呼ぼうにも弟たちは市場の中央でやっているピエロのショーに釘付けでまったくこちらを見ていない。
ー-ジュンもケイも遠いし、この休憩所には僕以外誰もいない。どうしたら……。
「おやおや、体調が悪いのかい?こんな甘い匂いさせてるのに一人でいるなんて危ないよ。おいで、おじさんが安全な所に連れて行ってあげるから」
そういいながらジュリの腕を掴むと嫌がるジュリを無理やり立たせ肩を抱いた。
掴まれた場所が気持ち悪くてぞわぞわと肌が粟立つ。
「やだ!触らないで……!」
咄嗟に腕を振り払い男の体を両腕で押しのけ。
その弾みで男は尻もちをつき痛そうに顔を歪めている。
ジュリは今しか逃げるチャンスはないと踵を返しその場から逃げようと不調の体に鞭を打ち必死に走った。
「お前っ……!いい気になりやがって、黙って着いてきてこればいいものをっ……!」
ジュリが振り返ると、男は立ち上がりジュリのすぐ後ろを追いかけていた。
泣きそうになりながら息を切らして走るも急激な吐き気がジュリを襲いふらふらとその場に座り込んでしまう。
市場から少し遠い人通りのない路地裏。男の荒い息づかいがジュリのすぐそばまで迫っていた。
ー-せめてこの子だけは守らないと……!
体を丸めお腹を手で守りながら蹲る。殴られるか、蹴られるか……いつくるかわからない衝撃に体に力が入る。
しかしいつまでたっても衝撃どころか男の声さえもしない。不思議に思い顔を上げるとそこには男の腕をひねり上げ膝で押さえつけるクリスの姿があった。
「クリスさん・・・・・・!」
「ジュリくんさぁ、本当よく変なのに捕まるよねぇ……?」
男はクリスの下で暴れていたが、クリスとジュリが知り合いだと知り「はっ」と鼻で笑った。
「そうか……お前もあのオメガが欲しいのか。確かにあの匂いは絶品だもんなぁ。あんな強烈な匂いぷんぷんさせながら一人でいるなんて襲ってくれって言ってるみたいなもんだろ」
その言葉にクリスの顔から表情が消える。押さえつけていた膝にさらに力が加わると男は「うぅ……」と呻き声をあげ苦しそうに顔をゆがめた。
クリスは男の耳元にそっと顔を寄せ男だけにしか聞こえないほど小さな声で囁いた。
「俺をお前と一緒にすんなよ。ここで殺されたくなかったら今すぐ消えろ」
そのどすの効いた声は男を震え上がらせるには十分で、男は怯えながら何度も頷く。
「わかった、わかったから放してくれっ……!」
「・・・・・・ならすぐ消えろ。今すぐ」
押さえつけていた手を放すと男はふらつきながら慌てるように逃げて行った。
その様子をジュリはあっけにとられながら見ていたが、クリスが振り返ったことでやっと我に返った。
「あの、クリスさん・・・・・・ありがとう。あっジュンとケイ・・・・・・!」
「いやーびっくりしたよ。宿を取って戻ったらジュリくん追いかけられてるしさぁ。弟たちは休憩場にいるから安心して」
「あ、ありがとうっ……」
座り込んだまま頭を下げる。ほっとした安心感からかぽろぽろと涙が溢れ、拭う袖の先はすっかり涙で湿っている。
クリスはジュリに近づきジュリの目線までしゃがむと、大きな手その小さな頭をそっと撫でた。
「もうなんか、ジュリくんの事目が離せないわ。……俺の近くに居ろよ」
そこには小太りの中年男性がジュリの顔をみてニヤニヤと薄笑いを浮かべていた。
背筋にぞわりと冷たいものが走る。ジュリ怖くなり逃げようとするが、悪阻の吐き気で立つことが出来ない。
助けを呼ぼうにも弟たちは市場の中央でやっているピエロのショーに釘付けでまったくこちらを見ていない。
ー-ジュンもケイも遠いし、この休憩所には僕以外誰もいない。どうしたら……。
「おやおや、体調が悪いのかい?こんな甘い匂いさせてるのに一人でいるなんて危ないよ。おいで、おじさんが安全な所に連れて行ってあげるから」
そういいながらジュリの腕を掴むと嫌がるジュリを無理やり立たせ肩を抱いた。
掴まれた場所が気持ち悪くてぞわぞわと肌が粟立つ。
「やだ!触らないで……!」
咄嗟に腕を振り払い男の体を両腕で押しのけ。
その弾みで男は尻もちをつき痛そうに顔を歪めている。
ジュリは今しか逃げるチャンスはないと踵を返しその場から逃げようと不調の体に鞭を打ち必死に走った。
「お前っ……!いい気になりやがって、黙って着いてきてこればいいものをっ……!」
ジュリが振り返ると、男は立ち上がりジュリのすぐ後ろを追いかけていた。
泣きそうになりながら息を切らして走るも急激な吐き気がジュリを襲いふらふらとその場に座り込んでしまう。
市場から少し遠い人通りのない路地裏。男の荒い息づかいがジュリのすぐそばまで迫っていた。
ー-せめてこの子だけは守らないと……!
体を丸めお腹を手で守りながら蹲る。殴られるか、蹴られるか……いつくるかわからない衝撃に体に力が入る。
しかしいつまでたっても衝撃どころか男の声さえもしない。不思議に思い顔を上げるとそこには男の腕をひねり上げ膝で押さえつけるクリスの姿があった。
「クリスさん・・・・・・!」
「ジュリくんさぁ、本当よく変なのに捕まるよねぇ……?」
男はクリスの下で暴れていたが、クリスとジュリが知り合いだと知り「はっ」と鼻で笑った。
「そうか……お前もあのオメガが欲しいのか。確かにあの匂いは絶品だもんなぁ。あんな強烈な匂いぷんぷんさせながら一人でいるなんて襲ってくれって言ってるみたいなもんだろ」
その言葉にクリスの顔から表情が消える。押さえつけていた膝にさらに力が加わると男は「うぅ……」と呻き声をあげ苦しそうに顔をゆがめた。
クリスは男の耳元にそっと顔を寄せ男だけにしか聞こえないほど小さな声で囁いた。
「俺をお前と一緒にすんなよ。ここで殺されたくなかったら今すぐ消えろ」
そのどすの効いた声は男を震え上がらせるには十分で、男は怯えながら何度も頷く。
「わかった、わかったから放してくれっ……!」
「・・・・・・ならすぐ消えろ。今すぐ」
押さえつけていた手を放すと男はふらつきながら慌てるように逃げて行った。
その様子をジュリはあっけにとられながら見ていたが、クリスが振り返ったことでやっと我に返った。
「あの、クリスさん・・・・・・ありがとう。あっジュンとケイ・・・・・・!」
「いやーびっくりしたよ。宿を取って戻ったらジュリくん追いかけられてるしさぁ。弟たちは休憩場にいるから安心して」
「あ、ありがとうっ……」
座り込んだまま頭を下げる。ほっとした安心感からかぽろぽろと涙が溢れ、拭う袖の先はすっかり涙で湿っている。
クリスはジュリに近づきジュリの目線までしゃがむと、大きな手その小さな頭をそっと撫でた。
「もうなんか、ジュリくんの事目が離せないわ。……俺の近くに居ろよ」
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