41 / 85
41捜索 ショウ視点
しおりを挟む「ここがアエレ村・・・・・・?なんの気配もしないな」
「おかしいですね。魔族どころか荒らされている様子もないようです・・・・・・」
王宮を出て約三日、ショウ率いる魔族討伐部隊はアエラ村に辿り着いていた。
森の奥の小さな村。若者の多くは出稼ぎに行き人口は少ないが、小川では子どもたちが魚採りをしていたり、農作業をしている老人たちが笑顔で出迎えてくれるような優しい村だ。
ショウは馬を降り、辺りをぐるりと見渡す。
不気味に感じるほど静かで、耳をすましても木々が風に揺れる音しか聞こえなかった。
魔族が現れたとなると土地は荒らされているはずだが、それも一切なく、ただ『人が消えた』ように見える。
「二手に分かれよう。ラスティさん、ミケ、ヒイロ、レイ、ロビンはここから西に向かって捜索してくれ。他は俺と一緒に東から回る。もし魔族が出るようなことがあったら笛を鳴らしてくれ」
首元に下げた木の笛を指さす。
全員が首を縦に振ると一斉に捜索を始めた。
ー---
「ほんと、誰もいないっすねー。こんなこといっちゃあれですけど『村が血の海』は覚悟してたし、なんなら俺も死んじゃうのかなって思ってましたもん。なんか拍子抜けって感じ」
「気を抜くなよ、ネイサン。いつ魔族が出てくるかわからないからな」
ショウを先頭にネイサン、アーロン、ジン、ガイルの五人は深い森の中を馬に乗り捜索していた。
管理されていないそこは鬱蒼としていて魔族がいつ現れてもおかしくない雰囲気だ。
辺りを警戒しながら捜索を続け三十分ほど経った頃だった。
「ショウ様!あと少し、ここまっすぐ進めば東側の集落になります!」
ネイサンの後ろにいたアーロンが声をあげた。ネイサンはアエレ村の隣町出身で、子供のころは自然の多いこの村でよく遊んでいた。今回の魔族討伐部隊も仲の良い友人がこの村出身という事がきっかけで自ら志願した。
アーロンは隊列を抜けると先頭にいるショウの隣に並んだ。
「ショウ様、ここから先はわたしが案内します」
「わかった、アーロン頼んだ」
アーロンは力強く頷くと馬を走らせショウの前に進む。
そこから五分ほど馬を走らせると、目の前には目的地の集落。
集落は西と東それぞれ一つずつあり、それぞれに小さな家がいくつも立ち並んでいる。
ショウたちは馬を近くの木で待機させ、一軒ずつ家の中を入って見回った。
「すいませーん、誰かいませんかー?」
「誰もいないな。部屋の中も綺麗なままだ・・・・・・。一体住人はどこにいるんだ」
ネイサンがふざけながら「神隠しだったり」と笑っている。それもそうだ。この調子で家の中を見て回って十軒目、どの家も綺麗なまま人がいないだけで魔族がいた形跡はなかった。
ー-ラスティさんからの連絡を待つしかないのか……。
ショウはそっと扉を閉め、誰もいない民家の壁に凭れる。一旦、王宮に帰るかそれとも住人を探し出すか……。陽はだんだん沈み、オレンジ色になっていく空を見上げ考え込んでいると、突然集落に響き渡るような声がショウの耳に届いた。
「いました!!村人です!!」
アーロンの声だ。
ショウとネイサンは急いで声がする方へ走る?
集落の一番端にある民家。その家の中、子供部屋のクローゼットの中からうさぎのぬいぐるみを抱いたまま蹲っている少年が一人。
少年の膝は小刻みに震え、アーロンが触ろうとすると今度は目に涙を溢れさせた。
「ご、ご、ごめんなさい!!もう戻るから、ゆ、許してください」
「謝らないで。君は一人なの?お家の人は?」
「じいちゃんたちは、ちゃんと用意してもらった家にいる。い、妹が・・・・・・ぬいぐるみないと寝れないっていうから、取りに来ただけなんだ。もう戻るから許して・・・・・・」
少年はぬいぐるみを抱えながら、がくがく体を震わせている。
ショウは安心させようと少年の前で片膝をつくと、優しく頭を撫でる。
「大丈夫、なにも怒ってない。俺たちは王宮の騎士団だ。ここに魔族が出たと聞いて駆け付けたんだ。……用意してもらった家とはどういう事だ?」
少年はショウの優しい声にやっと落ち着き、泣きはらした目を手の甲で擦り上げた。
「え?ここ立ち入り禁止になるんでしょ?昨日、隣町の町長さんが来て僕たち移動したんだけど……」
キョトンとした顔でショウたちを見上げる。
少年が嘘をついているとは思えなかった。
0
お気に入りに追加
226
あなたにおすすめの小説
トップアイドルα様は平凡βを運命にする
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。
ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。
翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。
運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
「トリプルSの極上アルファと契約結婚、なぜか猫可愛がりされる話」
悠里
BL
Ωの凛太。オレには夢がある。その為に勉強しなきゃ。お金が必要。でもムカつく父のお金はできるだけ使いたくない。そういう店、もありだろうか……。父のお金を使うより、どんな方法だろうと自分で稼いだ方がマシ、でもなぁ、と悩んでいたΩ凛太の前に、何やらめちゃくちゃイケメンなαが現れた。
凛太はΩの要素が弱い。ヒートはあるけど不定期だし、三日こもればなんとかなる。αのフェロモンも感じないし、自身も弱い。
なんだろうこのイケメン、と思っていたら、何やら話している間に、変な話になってきた。
契約結婚? 期間三年? その間は好きに勉強していい。その後も、生活の面倒は見る。デメリットは、戸籍にバツイチがつくこと。え、全然いいかも……。お願いします!
トリプルエスランク、紫の瞳を持つスーパーαのエリートの瑛士さんの、超高級マンション。最上階の隣の部屋を貰う。もし番になりたい人が居たら一緒に暮らしてもいいよとか言うけど、一番勉強がしたいので! 恋とか分からないしと断る。たまに一緒にパーティーに出たり、表に夫夫アピールはするけど、それ以外は絡む必要もない、はずだったのに、なぜか瑛士さんは、オレの部屋を訪ねてくる。そんな豪華でもない普通のオレのご飯を一緒に食べるようになる。勉強してる横で、瑛士さんも仕事してる。「何でここに」「居心地よくて」「いいですけど」そんな日々が続く。いろいろ距離がちかくなってきたある時、久しぶりにヒート。三日間こもるんで来ないでください。この期間だけは一応Ωなんで、と言ったオレに、一緒に居る、と、意味の分からない瑛士さん。一応抑制剤はお互い打つけど、さすがにヒートは、無理。出てってと言ったら、一人でそんな辛そうにさせてたくない、という。もうヒートも相まって、血が上って、頭、良く分からなくなる。まあ二人とも、微かな理性で頑張って、本番まではいかなかったんだけど。――ヒートを乗り越えてから、瑛士さん、なんかやたら、距離が近い。そんな風に見つめるの、なんかよくないと思いますけど。というと、おかしそうに笑われる。そんな時、色んなツテで、薬を作る夢の話が盛り上がってくる。Ωの対応や治験に向けて活動を開始するようになる。夢に少しずつ近づくような。そんな中、従来の抑制剤の治験の闇やΩたちへの許されない行為を耳にする。少しずつ証拠をそろえていくと、それを良く思わない連中が居て――。瑛士さんは、契約結婚をしてでも身辺に煩わしいことをなくしたかったはずなのに、なぜかオレに関わってくる。仕事も忙しいのに、時間を見つけては、側に居る。なんだか初の感覚。でもオレ、勉強しなきゃ!瑛士さんと結婚できるわけないし勘違いはしないように! なのに……? と、αに翻弄されまくる話です。ぜひ✨
表紙:クボキリツ(@kbk_Ritsu)さま
素敵なイラストをありがとう…🩷✨
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ
手塚エマ
BL
テオクウィントス帝国では、
アルファ・べータ・オメガ全階層の女性のみが感染する奇病が蔓延。
特効薬も見つからないまま、
国中の女性が死滅する異常事態に陥った。
未婚の皇帝アルベルトも、皇太子となる世継ぎがいない。
にも関わらず、
子供が産めないオメガの少年に恋をした。
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる